第25話 対峙の時
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾魔
― 数分前 ―
ペインは腕時計で確認し、状況からして、ここに居座るのは危険と判断し、掌握を自動的に行うように仕向ける。スタッフ用のジャンパーを外し、私服に着替える。
外では慌ただしい様子からして警察が大勢で押しかけようとしているのが理解できた。
「急ごう」
ペインは、グロッグと爆弾をカバンに詰めて、部屋を出ていき、カウンターに、福沢諭吉の絵柄のお札を1枚、置き、ネットカフェから出た。
「ちょっと!」
店員の声も気にせず、ペインは一言だけ返した。
「お釣りはいらないよ」
ペインは辺りを見渡して、急いで1階へ降りていく。
次は、ショッピングホールの中にある多目的広場のゴミ箱に置く。
「これで全員を苦しめられるはず……」
ペインは1階に降り、広場へ向かう。
それと行き違いに、先生はエスカレーターで2階へ上がる。
「何処だ!? 何処、何だ!? 奴は!?」
先生は、そのままネットカフェという立て付け看板を2階で見つけ、その方向へ向かう。
ペインは正反対の方向へと歩いていく。
買い物に来ている客の波を忍者の様に掻い潜って、多目的広場へと向かう。広場には巨大なスクリーンとステージが備え付けられており、イベントが開かれているらしく、そこには人だかりができていた。
さすがのペインでも掻い潜ったり、道を開く事はできない。
「よし、吹っ飛ばすか」
背負っていたカバンを、肩から下ろし腕にかけた状態でジッパーを開けて中に入った小包の形をした爆弾を取り出す。
「ゴミ箱、ゴミ箱は―っと、あったあった」
ペインはゆっくりとイベントで集まっている人波をゆっくりと避けながら、ゴミ箱に近づいた。
その中で、長は、ショッピングフロアへと入っていき、辺りを見渡す。
心理上、自分が追いかけている人間を照らし合わせる中で、一般客が発生させる会話の雑音が、自分の両耳をつんざく様に、響くのが分かった。
そこから自分の視線が多目的広場に映る。
「あれは?」
長は、歩き始め、人ごみをゆっくりとかき分けて行き、イベント中の多目的広場へ歩いていく。ペインは長が近づいているのも知らずにゴミ箱へと近づき、中に小包を入れた。
その行動に対して、長は自分の目で確認していた。
「あいつだ!」
それと同時にネットカフェに向かっていた先生の交信が来る。
『警部。奴はネットカフェにいませんでした!』
「ああ、知ってる。奴は下だ。下にいる」
『えっ? 警部!?』
長との交信は途絶えた。
先生は直ぐにネットカフェから出て行き、ショッピングフロアの1階を2階の通路から見ていく。
「どういうことだ? 警部、一体どうしたんだ!?」
先生は、そのまま多目的広場へ、2階のフロアから移動していく。その間にペインはゴミ箱に入れた小包の電源を入れた。
「これでよし」
イベントで集まった客の声がよりうるさく聞こえるが、それももう終わり。もうすぐで吹き飛ばせる様になると考えると楽しみで仕方なかった。踵を返し、ゆっくりとショッピングフロアに向かおうと歩き始めようとした瞬間、ペインは衝撃に駆られてしまう。
遠くからだが、自分に向けて手を振る男がいた。
「ご対面!」
長は手を振り、ペインに挨拶した。
「長宗我部!」
自分の仕掛けた爆弾で死んだ男が、実は生きているという事実に驚きを隠せなかった。ゆっくりと長宗我部が近づいてきている。
ペインの逮捕まで目前となった長は内心、期待と安心が高ぶっている。拳銃は見せないようにまだホルスターにしまっていた。
どうすることもできない状況を打破する為に、ペインは、最悪の一手に移していき、予定とは違ったアドリブでの進行となる。
ペインは小声で呟いた。
「来るか……?」
長はゆっくりと広場の人ごみの中に入り、ゆっくりと近づく。すると、ペインはカバンから1丁のグロッグを取り出し、上に構える。安全装置が外れているのを確認せず、引き金を引いた。
グロッグの銃口とレバーから放たれる炸裂音は、イベントに来ていた客達をパニックに陥れる。2、3発の鋭い炸裂音が響き、一般客の悲鳴は、より強くなっていき、感染症の様に広がっていく。
多くの悲鳴が長とペインの両耳を襲う。だが、そんな事は両者にとってどうでもよかった。
ペインはイベントを楽しんでいた小学生ぐらいの男子の右手を掴み、人質を取る。
「動くな!!」
左片手でグロッグを持ち、自分を取り囲もうとする長達に向ける。人質となった男子は、恐怖に駆られ、泣き喚めく。
長はホルスターにしまっていたグロックをペインに構えるが、男子が壁になり思うように撃てるポイントが見当たらなかった。
「ペイン。貴様は、つくづく最低な男だな」
「お褒めの言葉をどうも。でも残念だけど、君には運命を共にしてもらおう。だけど決断しだいでは、この子を離してあげるよ」
先生は、1階の異様な事態を感じ取り、インカム越しで連絡する。
「シルバーマン。奴は1階の多目的広場にいるぞ!」
『了解。こちらも和尚を搬送させる準備が出来たのでそっちに向かいます』
交信を終わらせて、先生は一階に向かった。
連絡を聞きつけたのか、警備員や捜索にあたっていた署員達が、広場に集まってきている。
それを確認したペインは急いで広場のステージに上がり、大きな声で周囲に叫ぶ。
「それ以上動いたら、コイツの命はないぞ! 動くな!」
爆弾魔の必死さが伺える行動に対して、子供の命を重要だと理解していた警部は、周りの署員や警備員がペインのステージに近づかせるのを止めさせる。
「やめろ! 止まれ!」
長は、籠城をしようとするペインの姿にもはや憎悪の域を忘れ、それが呆れと変化するのを感じた。
「お前、これ以上の罪を増やして楽しいのか? あれか? 今度は、殺人未遂までつけて、今度は建造物破壊か?」
だが、奴の返答は、長の呆れを超えさせるものだった。
「何を言っているんだい。長さん? これはゲームだよ。僕がマスター。長さんが、プレイヤーさ」
ペインの罪の意識は皆無に等しい。それは、これまでのやっている事からして感じ取れるものでもあった。
彼は続ける。
「長さん。爆弾は2つある。この施設のどこかに隠した。早く解除しないと爆破する! タイムリミットは午後7時にセットしているよ。残り時間は60分だ!」
ペインはリモコンをズボンから取り出して力強く押した。小包のタイマーが起動し、デジタルの数字版が動き出す。
タイムリミットまで ― 59:00 ―
第25話となります。 ペインと長の再会ですね。今後の展開はどうなっていくのか!? お楽しみに!!
話は続きます。




