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第23話 追跡の代償

《登場人物》


 長宗我部 博貴 警部   (長さん)

 入船  宗次郎 警部補  (ボウラー)

 河瀬 憲仁   巡査部長 (和尚)

 古村 俊    巡査部長 (シルバーマン)

 夏目 真彦   巡査長  (先生)

 田中 悠    巡査長  (アンジェリーナ)

 佐藤 蒼太   巡査長  (ブラッド)


    ペイン  爆弾魔


  ― クイーンアイランド  午後5時40分 ―



 和尚とシルバーマンは先にクイーンアイランドに到着し、数名の所轄警察官と共に、犯人確保の打ち合わせを行う。

「ペインは現在、クイーンアイランド中に潜伏している。相手が何をしでかすか分かりません。十分注意してください!」

 捜査員達は、シルバーマンの一声に反応する。

「はい」

 和尚はシルバーマンの言葉に続けて。説明する。

「犯人に対する拳銃の発砲許可は出ていますが、なるだけ使用しない様に……ゴム弾か、空砲にしておいてください」

『了解!』

 それぞれ署員達は自分の拳銃を言われた通りに確認していく。

 シルバーマンと和尚はそれぞれ、電子警察の武器係の落語家から渡されていたグロッグの弾を確認する。

 ゴム弾と実弾。和尚は、ゴム弾を装填し、自身のホルスターに仕舞う。

「では行きましょう」

 数名の警官達が移動し始める。

 移動中に和尚のズボンからバイブレーション振動が発生した。電話を取りだして通話ボタンを押す。相手は、長宗我部だった。

「長警部! 大丈夫ですか?」

 長の声は苦しそうだった。

『今は苦しいな。奴の捜索を開始したのか?』

「はい。今現在、クイーンアイランドの全域を捜索開始させたところです」

『俺も到着次第、奴を見つけ出して捕まえる。今からの連絡はなしだ。ブラッド経由から交信させる。くれぐれも注意してかかれよ』

「了解です。長警部」

『何だ?』

「御無事でよかったです」

『その言葉は後だ。ペインを捕まえてから』

「はい」

 通話を終了させて電話を元のポケットにしまった。

「シルバーマン。携帯の電源を切れ。交信はこれからブラッド経由で行う」

「分かった」

 歩きながら、ペインらしき姿を探していくが、現状見つかっていない。奴も必死なのだろう。大学の情報とは違う姿をしている可能性は大いにある。

 おそらく変装している可能性が高い事は捜査のプロとして、百も承知だった。ブラッドの特定した情報を頼るしかない。あとはアナログながらの方法だった。

 そんな中で、ペインは、台車を操作しながら、移動していく。捜査員達が自分を探しているとなると、焦りと同時に心臓の鼓動が凄く動いているのを感じる。

「ばれないようにしなくては……」

 台車を動かしながら歩く。ぎこちなく足の動きになってしまうのはしょうがない。捕まるか……犯罪を達成させる事ができるか……それで、精一杯だった。

 ペインは移動させて、広場のごみ箱前で足を止める。

 台車に入っている鞄のチャックを開けて、中から小包を1つ取り出す。小包の先には、ON/OFFのスイッチがあり、それを押した。



     《ON》



小包をゴミ箱に入れ、第一段階を完了させる。

「次はショッピングフロアだな」

 ペインは再び、動き始め、今度はショッピングフロアへと向けて歩き出す。

 その中でシルバーマンは、不穏な動きをしているスタッフの行動を遠巻きで見つけ、首をかしげている。

 シルバーマンは和尚に訊いた。

「なぁ、あのスタッフ。ゴミ箱に物を入れたぞ」

「そりゃそうでしょうよ。スタッフなんだから清掃しているんじゃないか?」

「でも待ってくれ。台車にゴミを入れずにゴミ箱にゴミを入れたんだぞ? おかしくないか?」

 和尚はシルバーマンの言うスタッフを見つけて、動きを観察している。

「行こう。あいつをつけてみよう」

 2人はゆっくりと台車を持ったスタッフのあとについて歩く。バレない様に、ゆっくりと近づいていった。その気配をペインは気づいていないらしい。

 ペインは次のフロアに向かう為に、台車を運ぶ。残り2つの爆弾を隠す絶好のポイントへと向かって歩いていく。時間は刻々と過ぎていく。

 和尚とシルバーマンは、ゆっくりとペインの後を追い、事情聴取の準備をしていた。あとは、タイミングだけ。

 ゆっくりと近づいていく。

 しかし、ペインはそれに気付いた。

「やれやれ……」

 静かに息を深く吐いて、台車を押しながら移動し、関係者以外立ち入り禁止と書かれている場所へ向かう。

 和尚はシルバーマンに静かに声をかける。

「おい。関係者立ち入り禁止に向かっていくぞ」

「チャンスだ。その場所で声をかけよう」

「ああ」

 2人の刑事は打ち合わせを即興で行い、ペインを関係者立ち入り禁止のエリアで取り押さえる算段を作り上げた。

 ゆっくりと近づいて向かう。

 ペインは、少し足を早め、立ち入り禁止エリアに向かった。

「足を早めたな」

「気づかれたかも……」

 和尚とシルバーマンは足を早めて、後を追う。

 ペインは、立ち入り禁止エリアのドアの前に辿り着き、ドアを開いてエリア内に足を踏み入れる。

「あっ、中に入ったぞ!」

「急ごう!」

 足を急がせ、立ち入り禁止エリアのドアを続けて中に入った。立ち入り禁止エリアは、倉庫らしく、色々な商品が棚に置かれており、家具や電化製品、日用品が綺麗に並んでいる。

「倉庫か」

「ああ、そうらしいな。ここは広すぎる。手分けして行こう」

「了解」

 2人の刑事は手分けして、倉庫を探し回り始めていく。和尚はゆっくりと棚と棚の間にできた通路を歩きながら、先に入って行ったスタッフコスチュームを着た爆弾魔の行方を探す。シルバーマンは先回りして奥の通路から1つずつ調べていく。

 ペインは物陰に潜んだ後で、和尚の後ろに回っていた。両手で鉄パイプを持ち、背後から和尚に気付かれない様にゆっくりと近づく。

 和尚は背後の気配に全く気付かないまま棚の間から隙間からとなりの通路の様子を伺おうとするが、依然としてペインの気配を感じなかった。

 ペインは、思い切って早足で近づき、力強く握り締めたパイプを和尚の後頭部に目掛けて振り上げた。

「何っ!?」

 背後から感じた殺気に気付いた時にはもう遅かった。和尚の右こめかみから激痛が生じ、思わず勢いと共に和尚の体は、倉庫の床に倒れていく。

 同時に鮮血がゆっくりと床や棚の商品に飛び散っていった。

「どうした!?」

 シルバーマンは、和尚の声から彼の身に何かあった事を感じ、ホルスターのグロッグを抜き、構えながら和尚の元へと走って向かう。

 一瞬の出来事のあまりに分からず、和尚は目を閉じた。

「悪いねぇ。ここで捕まるわけにはいかないからさ」

 ペインは倒れている和尚の体を物色し、グロッグに目をつける。

「これ本物? スゴイや」

 ホルスターの止め具を外し、グロッグを取り出し、左手持ちながら、構えてみる。

「へぇ。やっぱ本物の重量ってすごいな」

「動くな!!」

 シルバーマンは、ペインに銃口を向けた。

「お前がペインか」

 ペインは声の方に振り向き、シルバーマンに挨拶する。

「やぁ。君も電子警察のメンバーかい? グロッグを持っているという事は……」

 シルバーマンは声を荒げ、ペインの耳に響かせる。

「何故、それが言えるんだ!?」

 ペインは笑いながら、グロッグの銃口をシルバーマンの方向に向けた。

「何でって? それはコイツが教えてくれるからさ」

 いきなりの事だった。ペインはシルバーマンの方向に、奪い取ったグロッグの引き金を引いた。

 シルバーマンは物陰の方に隠れ、グロッグの弾から避けようとする。3、4発の炸裂音が鳴った後、数十秒の沈黙が起きた。

 沈黙をかき消す様に、シルバーマンは1発の威嚇射撃をするが、既にペインの姿は無かった。

「何!?」

 急いで気絶している和尚の元へ駆け寄り、状態を確認する。和尚のこめかみからは血が流れ出ている。

 シルバーマンはトランシーバーで、他の捜査員達に連絡した。

「捜査員が一名ペインの急襲を受け、重傷! 意識も確認できない。急いで救急車を! 早く! ショッピングフロアの立ち入り禁止エリアだ!」

『了解!』

 トランシーバーを置き、シルバーマンは持っていたハンカチで、和尚のこめかみを軽く押さえていた。


第23話です。 遅れました申し訳ございませんでした。さて、ペインを止める事ができるのか!? 次回をお楽しみに!

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