第19話 クイズ ‐QUIZ‐
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾犯
― 同日 大街道 ―
『第1問。1+1は?』
スマートフォンに搭載されたスピーカーから聞こえるペインの声。
元気でよく言葉の語気が聞き取りやすい、しっかりとした声であり、今の現状、ペインはとても楽しそうにしている事を長は感じ取った。
しかしクイズの内容はどう考えても、大人であり、警察官をからかっているような内容であり、長にとって苛立ちを超えた何かが心の中で発生している。
それを皮肉混じりに回答した。
「2だ。どうした? 小学校に入り直したくなったのか? ならば案内してやるぞ? ん?」
ペインはスピーカーの音割れがする程、笑っている。
『ははは正解。いいねその皮肉。俺、やっぱ長さん好きだわー。なんてね。2問目だよ』
棒読み感たっぷりの反応。
長の勘として、考えているのは、ペインのという男は人をからかうのが大好きな奴であり、何処か、挑戦的な人間ではないか予測する。
スマートフォンを持ちながら周りを見渡しているが、今のところ怪しい人間は見えない。逆にどの人間も怪しく思えてしまうぐらいだった。
クイズは続く。残り4問。
『2問目。パンはパンでも食べれないパンは何だ? 4つ答えろ』
長にとって、この内容は明らかいたずら電話レベルの問題だなと言わざる負えないが、ここは何も言わず答えていく。
「フライパン、短パン、サイパン、ジーパン」
『ははは正解。長さんなら難しそうな単語知ってそうだと思ったのに、ちょっと残念。まぁいいや。次の問題だよ。第3問。今、現在の総理大臣の1つ前の総理大臣の名前は?』
「だいぶクイズらしくなったじゃないか? 答えは吉野健三郎だ」
長は自信満々に答えた。
ペインもこの問題の展開には予想も出来ていたし、リアクションはちょっと低い。
『んー正解。いいね。その調子だよ。さて、4問目はちょっとサービスだね』
「サービスなら、もっと良いものにしてくれ」
『勿論、そのつもりさ。じゃあ、4問目。芸術は爆発だという言葉を残した画家の名前は?』
「岡本太郎」
『素晴らしい。正解だ。流石長さんいいね! その調子だよ』
「お褒めの言葉どうも。だが、お前も次で終わりだ」
『そうだといいね。じゃあ5問目。太陽の寿命年数はいつまでか?』
いきなりの難問に対して、長の脳回路はショートした。
その間にもペインのカウントはスタートし始める。
『10.9.8.7……』
ペインの口から9の声を聞いた時、ショートした脳は復旧し、我に戻る。
だが、カウントは止まらない。
『6.5……』
数字がゆっくりと聞こえる。長はその間に頭の中で大きな紙を広げ、ペンを持つ。
長自身、理系出身である事について良かったと感じるところもあったが、そんな事を言う暇はない。
猛スピード回転させていき、頭の中にある紙にペンの頭をなぞって、太陽の寿命を導く数式を出していくが、このままでは間に合わない。
刻々とスローモーションでペインのカウントが聞こえる。
『4……3……』
長は、数式の仮定を飛ばし、頭の中に出した答えの選択肢を、2つに絞る。
白い紙に大きな数の選択肢。
① 40億 ② 50億
この2つだけ5分5分の確率。どちらに賭けるか? どっちかを選び、答えが合えば、クイズは終了。しかし間違っていれば地獄を見る。
長は慎重に考えていくが、もう残っている時間は約2秒。
ペインのカウントがラストになる。
『2……1……』
長は最後の最後まで考え、賭けに出た。丁度その時、爆弾魔のカウントも終わる。
『0!』
「50億だ!」
長は勝負した。一瞬の解答がペインの耳に響いたことは間違いない。
あとは判定で決まる。
『うーん。正解だけど、残念ながらタイムオーバーだよ。長さんならしっかりと時間前に言ってくれると思ったんだけどなぁ。爆弾は起動するよ』
《正解だけど、タイムオーバー》
長はペインの言葉に納得できなかった。
「おいちょっと待て!」
だが、ペインは長の言葉に対して聞く耳を持たない。
『いや、待てないね。まずは手始めに先生がいるやつからだよ』
「おい!」
ペインの連絡は途絶えた。
そして先生の目の前にある爆弾が再び、起動し始める。
《00:00:10》
《00:00:09》
《00:00:08》
「最悪だ」
他の捜査員達は、今の最悪な状況を目の当たりにして、警官としてできるだけの行動を開始する。一般客の避難確保と安全保障が第一。それは相手の事情なんて知る状態でもなく金っ級の物。一般客の生活事情どころではなかった。
先生の怒声がアーケード街中に響いた。
「急いで避難してください! 早く!」
他の捜査員達が、現在の状況を理解できていない一般市民を避難させていっている間、先生は爆弾をつかみ、走っていく。
タイマーの表示は4秒。
「くそっ!」
先生は力のまま、真上のアーケードの天井に向けて放り投げる。
学生時代にあった、ソフトボール投げと同じ容量だった。爆弾は宙を浮きながら真上の天井に向かう。
一般客に来ないように先生は手と声で合図し近寄らせないようにしていく。爆弾の時間は、刻々とデジタルの数字がお知らせする。
《00:00:03》
《00:00:02》
《00:00:01》
先生は、体を商店街の床に倒し両手を後頭部に押さえ、時を待つ。
《00:00:00》
0は全ての終わり。逆を返せば始まり。
爆弾のタイマーは運命の時間を迎えた。爆弾内にある鉄の玉が動きだし、起動する為の穴へと向かい、丁度いい具合に、入った。その瞬間、大きな衝撃と音が商店街中に響き渡る。
独特な炸裂音を遠くで聞いた長は、配達車のドアに自分の拳を叩きつけた。
「くそっ! なんてことだ!」
だが、不思議な事に爆風とそれによって生じる火炎と煙幕が商店街では起きていなかった。先生は体を直して真上を見つめる。
そこには、一般的なクラッカーの中に入っている特徴的な金色の紙吹雪が舞い降りて先生の頭に柔らかに舞い降りている。
周りにも大きな紙吹雪によって床にはいろんな色の紙が落ちていた。
「あれ?」
先生の脳裏には、疑問と状況の不明さで頭痛を起こしそうな状態。
とにかく、自分の上司に連絡を取る。
トランシーバーから先生の声が聞こえ、長はすぐに対応する。
「先生! 大丈夫か!?」
長の声が先生の耳に響き渡り、安心感を取り戻す。
『爆破されましたが、偽物だったみたいです。紙吹雪がすごい』
通信が取れなかった部下の声を聞いて、長は安堵するが、スマートフォンの振動から、その安堵の時間は終了した。
「良かった。すまない。爆弾好きのお子様から電話だ。あとで合流しよう。今は市民の安全を……避難誘導を頼む」
『了解です』
トランシーバー経由の通信は終わり、次は爆弾魔との通信に入る。
『どうだった? 豪華で華麗な爆弾は?』
「お前を粉々に吹き飛ばしてやりたいくらいだよ」
『そうか。実を言うとね。今、通信を掛けたのは、最後の挨拶なわけ』
長はペインの言葉に裏を感じ、あえて理解できないような素振りをする。
「何を言っているのか、さっぱり理解できないのだが……」
『まだ終わってないんだ。君の車の下の奴見てごらん』
長は配達車の下を見る。自分の過去の記憶を見ると車の下に少々大きめの爆弾が存在している。タイマーはまだ起動していないはず。
長がエンジンの部分を見ると、爆弾はまだ原型のまま存在しているが変化があった。そこに光る部分があった。目を凝らすと長は頭を抱えた。
《00:05:00》
《00:04:59》
《00:04:58》
最悪の展開が訪れている。
ペインの説明が入った。
『タイムリミットは19時って言ったけど。予定は変更になったんだ。悪いね』
「お前を必ず見つけ出して、一生を償わせてやる」
『期待していたんだけどね。お別れだね。最後に顔を見せようと思ってね。そのスマートフォン望遠鏡アプリある? 近くを見渡してご覧?』
長は、望遠鏡アプリを起動し、あたりを見渡してみる。アプリで見えるレンズを拡大させて見ると、長がいる所から200m離れた先の公衆電話の近くで、1人の青年が立っていた。
青年は、茶色を帯びた髪に眼鏡を掛けている。彼は、片手に小型のノートタブレットを持ち、画面を見つめているが、長に気づいており、軽い笑顔で、手を振った。
「やぁ」
『どうだい? 見えたかい? 中々のイケメンだろう?』
犯人とのご対面の刺激は強烈である。長は眉間のしわを寄せるが、心に生じる殺気を押し殺す。
「殺したいほどにな」
長は、望遠鏡アプリとは別に枠を開いてメールアプリを起動し、先生に向けてメッセージを送った。
《200m付近の公衆電話にノートタブレットを持った茶髪の青年がいる確保を頼む》
メールには、《読了!》のマーク。返信が来た。
内容は《了解》。
「今から会うかもしれないから、用意はいいかな? ペイン君?」
『いいやそれは無理だね』
「何故?」
『今、メールで先生に向けて、送ったでしょ? 確保しろって残念だけどそれは無理だね』
「やってくれたな。ハッキングしていたのか?」
そう。ペインは、長のスマートフォンをハッキングし、行動のパターンを把握しており、彼がメールを部下に送っていたことも理解していた。
ペインは、近くの捜査員がこちらに来るまでの時間を計算し、ここからの脱出を図る。
『また会うかもしれないからさよならは言わないよ。一応、長さんが生きている可能性もあるかもしれないから、約4分後にまた連絡するね。じゃあね』
「おい!」
電話は切れた。望遠鏡アプリで公衆電話のところを見つめるともうその青年はいなかった。
残り4分弱。長は、絶体絶命の危機に立たされている。
タイムリミット 残り ―4:00―
第19話です。話は続きます。




