ひろいもの。
今は大体夜の八時ぐらい。私は比較的街灯の多い道を、少し濡れた髪が冷たいなぁと思いながら、とぼとぼとひとりでコンビニからの帰り道を歩いていた。
‥‥誠ちゃん、本当に誠ちゃんだったなぁ‥‥誠ちゃんは中学とか高校とかでも僕とか言うのかなぁ‥‥でもその時には私かなり年上になってるよね、さすがに高校とか中学とかにはお尻とかほっぺとか触らせてくれないよなぁ‥‥
はっ、よく考えたら私犯罪者じゃないか!鷹司くんは‥男の子だし、まだ大丈夫だよね!誠ちゃんは女の子だし‥やっぱりそういうのに敏感なのかな‥でもお風呂入ったときも結構抱きついてきたりとかしてくれてたし、でも!
YESロリータ!NOタッチ!
鉄の掟をやぶってしまったぁぁぁあ!だめじゃんよ私、完全におまわりさん呼ばれちゃうよ!‥うわぁ、私女の子と男の子のほっぺとお尻を両手いっぱいに撫で回してたんだよなぁ‥‥幸せだったなぁ‥‥
ハァアッ!こんな事考えるからだめなんだよ‥‥!まったく、これだからロリコンは。嫌になっちゃう‥でもやめられない、ちっちゃい子は大好物なの‥‥
私がロリコンのことを全面的に受け入れていたとき、横に路地があった。あぁ、嫌だなぁこういうとこ、大体ヒロインが連れ込まれてそんで乱暴されそうになって、嫌々してるところにヒーローがしゅばっ!と登場して、助ける。これ王道だよなぁ‥‥
ぼーっと路地を眺めていたら、なにやらぼんやり黒い固まりがあった。なんだろう、ゴミ袋か?‥ゴミ捨て場が近くにあるから、ちゃんと捨てればいいのに‥‥
やれやれと思いゴミ袋に近付くと、ピクリと動いた。
‥‥あれ、これゴミ袋ちゃいますやん、人間じゃないですかやだー、面倒事はごめんです、見ない振りをして帰ってしまいたい‥でもこの人死んじゃって後から祟られるのも困るしなぁ‥警察とかに連絡したって、なんか事情聴取とかされたら帰り遅くなるのやだし‥‥この人さっきから顔ぺちぺち叩いてるのに起きないし‥
仕方ない。持って帰るか‥正直女子供だけの家に連れて行くのは不安だが、このまま放っておいても後味が悪い。
しゃがみ込んでいる人の両手を持って、ぐいっと引っ張る。若干体が浮いたところで、手を太ももに移してガシッと掴む。それから少し前屈みになって、体重をこっちにかけさせる。
ここから家はそんなに離れていないから、それぐらいなら耐えられるはず‥くそ、意識のない人間重い。だがしかし、十キロの米袋を八個背中で持って歩いたという伝説(自分の中で)を残した私には容易いこと‥!だと思いたい!
鼻息荒く、ふーふー言いながら家についた頃には、もう三十分ぐらいたっていた。‥結構頑張ったな、私。これで新たな伝説が生まれるに違いない。
一旦背負ってきた人を入り口の前に置いて、鍵を取り出して開ける。靴を脱がせて、家の中に入ったら後は引きずってリビングに連れて行く。‥リビングには誰もいなくて、二階からも大きな物音はしない。‥二人はもう寝たようだ。
その事にほっとしながら、引きずってきた人をソファにのせる。少し血っぽいのがこびりついているが‥もしかしてこやつは不良なのだろうか‥そうだったら面倒くさいな、私はチキンだから怖い人苦手なのに。柚希ちゃんは事前に情報を持っていたから怖いとは思わなかったが、この人は知らない人だ。
とりあえず見えるところだけでも体を拭こうと蒸しタオルを作る。少し熱いかもしれないが我慢してもらって、顔や手など、耳とか首を拭った。
靴下が少し滲んでいるのに気がついて、脱がせてみると爪が割れていた。‥‥うわぁ。
靴下は洗濯機に放り込み、足はまた蒸しタオルで拭って、消毒して絆創膏をはる。‥これで大丈夫だよなぁ‥‥
気がつくともう九時半ぐらいになっていて、随分この人にかまってたんだなぁと思う。後は、朝早く起きて、この人におにぎり持たせて追い出して、それから二人のご飯作って‥それでいつも通りだ。
自分の部屋から使っていない薄い布団とタオルケットをかけて、私も自分の部屋で、夢も見ないぐらいに眠った。
ピリリリリ、ピリリリリリ‥‥うるさいそれをばしんっと止める。
‥この無理やり起こされる感じがなんとも言えない不快感を生むのは私だけなのかな‥いや、起こしてもらって助かるんだけどさ‥でも人に起こしてもらうのと目覚まし時計に起こしてもらうのとって全然違うと思うんだ。
寝間着のままリビングに下りて、ソファを見ると、まだすぅすぅ寝息を立てている。昨日みた寝顔はやけに厳しい顔をしていたが、今は穏やかに見える。よく眠れてるといいなぁ
キッチンの近くにかけてあるエプロンを着て、ジャーの中からご飯を取り出して、しそ昆布とごま油とネギとしらすと、それからおかかに醤油を混ぜたものを具にする。あとは塩で味を付けて、それから海苔を巻いてラップでつつんで、さらにバンダナで持ちやすい用にして‥‥完璧だ。
ここまで見ず知らずの人に優しくしてあげる私は絶対に優しい。もう変人だなんて言わせない!
見るともう七時頃で、もうすぐ二人が起きてくる。それでご飯を食べさせないといけないからー‥気持ちよさそうに寝てるところ申し訳ないが、さっさと出て行ってもらわねば。
寝てる人の肩を揺すって、声をかける。なかなか起きないが、まぁ想定内だ。次は布団をはぎ取って、肩を揺すって声をかける。ようやく動き始めて、むくりと上半身を起きあがらせて眠たそうに目をこすっている。
「やっと起きましたね、おはようございます。申し訳ないですが水を飲んでおにぎりを持って家を出てください。」
「‥‥おれ、いつ結婚したっけ‥?」
いや、結婚してませんけども。
コップ一杯の水を飲ませて、黄緑色のバンダナに包んだおにぎりを渡して、ぐいぐい背中を押して玄関の方へ押し出す。
相手はまだ寝ぼけているようだが私には二人がいるし、いつまでもここにおいておくのは出来ない、少しばかり良心が痛むが、靴をはいてもらった。
「はいはい、ではいってらっしゃい。」
「‥‥行ってきます?」
首を傾げて行ってきますという青年を見送って、急いで朝ご飯の支度をする。
結局、遅刻はしなかったが、かなりギリギリの時間帯には学校につくことができた。
‥ありがとうとか、お礼を一つぐらい言わせてやればよかった‥‥。




