表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

脇役がいたなら攻略対象も。

今は、私は先生の小間使いになっている。首の当たりまである上半身だけの人体模型を運んでいた。本当は脇に抱えて持って行きたいのだが、中の臓器の模型が固定されていないのだ。小腸や内臓がぽろぼろこぼれてしまう。


これは小学校で使うらしく、私は高校から中学に続く渡り廊下を渡り、それから中学から小学校に続く渡り廊下を今は歩いている。


今は授業中なのであまり視線が気にならないが、水飲み場にある鏡を見て思わず立ち止まってしまう‥この人体模型、鏡越しに見るとなんだか目があっているような気がする。‥‥。


「ハイ、君の名前はなんだい?」


『ハァーイ、僕な名前はジェームズ、チャームポイントは綺麗な色の肺だよ!』


「まぁ!煙草をがばがば吸っていない証拠ね、すてき!」


『ハハッ、よせよ、照れるだろう?』



アハハハ‥ウフフフフ‥‥


私の頭の中では花園で追いかけっこをする人体模型(ジェームズ)となぜか白いワンピースを着て追いかけられる側の私がいた。


‥こんな馬鹿なことやってないでさっさと持って行ってしまおう。時々、頭の中から常識というものが抜け落ちてしまうから困る。


くるり、と鏡の前からきびすを返すと、そこには見覚えのある顔があった。


似合わないスーツを着た、明るい色の髪色は今や真っ黒になっている。髪の色は違えども、顔立ちや周りから出ているけだるそうな感じは変わっていない。


奴は今にも吹き出しそうな顔で、いや、すでにぷぷふ、と声を漏らしている。


「‥ぷっ、よぉ、祝咲(いわさき)。なにやってんだよ?」


「‥チャ、皐月くん‥何でここに。」


危うくチャラ男と呼びそうになったが、寸前で堪えた。よかった、呼んでたら睨まれるに違いないよ。

チャラ男はこっちに寄ってきて、私の持っていた人体模型を奪い取る。それを後ろのベンチにおくと、どかりと座った。


「なぁ、お前さ、松田と仲いいの?」


こちらに顔を向けて、この頃よく会う松田君のことをきいてくる。そういえば松田君っていつも幼稚園行く度にいるんだよね、もしかしたらもう働いてんじゃないかと思ってるんだけど。


「うーん、妹たちが幼稚園にいて、その幼稚園に体験に来てるのが松田君だから、会うことが多いんだよね。」


誠ちゃんの事を妹と言ったのはそういえば初めてなので、なんとなくテンションがあがる。私ってば、妹も弟もいるってすごく贅沢だよね‥私誠ちゃんと鷹司くんに反抗期来てほしくないな‥でも来た方が正しいって言ってるしなぁ‥‥


私が悩んでる間にチャラ男が爆弾をぶっこんで来た。やたら私の胸を見てくるので、セクハラしようとでもしてるのかと身構えていると、チャラ男は何かを言いにくそうにしていたが、やっと口を開いた。


「‥松田がさ、お前の、その‥し、下乳が、良いって‥‥見せたのか?」


‥‥え、松田君嘘ついたの?私見せてないよね、むしろ伸ばしてきた手を叩いたよね‥‥?


あの後に松田君は私の後ろにつきまといおっぱいおっぱいうるさかったが、ついにはみーせて、と言いながらわきわきと動かした手を近付けてきたので結構良い音を出して叩いたはずだ。


‥このままでは松田君は純黒から、ただの下乳好きな変態生徒会長になってしまうのではないかと、私は危惧していたりする。


だが、このチラチラと見てくる、顔を赤くしたチャラ男はどう見ても純情少年にしか見えない‥‥くっ、こんな視覚的な攻撃も加えてくるのか‥こんな手で彩乃ちゃんを籠絡させるなんて、なかなかの手練れ‥いや、チャラ男だから当たり前なのか?


「見せてないよ、妄想だよ、間違いなく被害妄想だよ?」


「‥‥ふーん。」


まだ疑ってるみたいだけど、本当に違うのでこれ以上の弁解のしようがない。あまり必死になるとかえって怪しまれそうだし。

人体模型を引き取ってくれたので、そろそろ帰ろうと思ったら、ぐいっと裾を掴まれて、後ろに倒れ込む。


座った所はチャラ男の膝の上だった。‥これは、間違いなく狙ったに違いない。なぜならチャラ男だからだ。‥申し訳ないがこんなチャラ男に彩乃ちゃんをあげるわけにはいかない。


少しでもダメージを与えるためにグリグリと体に体重をかける。ふふ、どうだ重いだろう。しばらくグリグリし続けていても反応がないので立ってチャラ男の方に振り返る。


チャラ男は顔を赤くしていて、私が振り返ると同時に股の間を隠した。‥もしかして話さなかったのは、股間にくる痛みを我慢するためではなかろうか!そうだとしたら私はとても悪いことしたじゃないか!


前世の私は前に誤って兄の股間を蹴ったことがある。その時の兄の悶絶っぷりったら‥‥目を向けられるものではなかった。このとき私は、兄と全国の男子諸君に金的をしないことを誓った。


思わず顔が青ざめる。急いで土下座しようとしたらそれよりも早くチャラ男は早口で言った。


「‥‥‥‥あ、ご、ごめ、俺、そんなつもりじゃなくて、いやちょっとは下心あったけど、わ、悪かった!」


ちゃらお は そそくさ と にげて いった!


なにがなんだかわからないが、人体模型忘れてるんだけどなぁ‥仕方ない、教室の前に置いておくかな。



その後、ひとりでに動く人体模型として小学校では噂されたらしいが、私は知らないことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ