第037話 社畜、魔王様にも確認をとる
クックック。
オレは魔王城の離宮にいた。
魔王様の鶴の一声だ。
ちびっ子魔王様でもその影響力は絶大だ。
反対した人たちもいたが、強引に押し切ったんだもん。
で、オレは今。
ベッドの上に寝転がっている。
いい、ベッドだ。
素材はスライムがどうたらと聞いたけどな。
ウォーターベッドみたいな感じだ。
チクチクする草の寝台とはわけがちがう。
これはいいぞ。
むっふっふ。
「ハルト! 笑い声が気持ち悪いですわよ」
にゅふふ。
げーらげら。
きょーきょっきょっきょ。
気持ち悪い笑い声はこういうもんじゃろがい!
まったく。
高位魔族ってのはあれだな。
こういう日常の些細なことへの感謝が薄い。
「まったく。寄りによって離宮への引っ越しなんて」
聞いてませんわ、みたいな感じだな。
だって言ってなかったもの。
オレだって離宮に移るまでは予想してなかった。
ただまぁ良かったと思う。
魔王様と話をするときは人払いしなくちゃいけないことも多い。
古き神がどうたらとか。
ここで一緒に住めば、そういう問題は解決できる。
オレたち魔王様直下の遊撃部隊みたいなもんだからな。
連絡・報告・相談。
これ、マジ大事。
社畜の心得だからね。
「いいんだよ。あんまり気にすんな。オレたちはあれだろ? 出自的にどうしても魔王様とは近くならざるを得ないんだから」
「……わたくしにはわかりませんわ」
そんな暗い顔をすんなって。
「さて、そろそろメシにするか」
「今日はなにを作りますの!」
パッと表情を変えるヴェラさん。
いいね。
そっちの方がいいよ。
「そうだな。龍人族の里で色々と食材は確保してきたからな」
ヴェラの首飾りの中には食材がたくさん入っている。
どんだけ入るんだってくらいの量を確保してきた。
今日からは食いしん坊が二人もいるからな。
「ヴェラは食べたいものがあるか?」
「そうですわね。わたくし……」
ハルトが食べたいですわ!
とかは絶対に言わないだろうな。
まぁ言われても困るけど。
「言うわけないでしょう! まったく元気になったらなったで困ったものです」
そんなに怒らなくてもいいじゃない。
ちょっとした冗談だよ。
「ハルト、わたくし、お魚のスープが食べたいですわ」
ああ、あれね。
龍人族の里で何度か作ったやつだ。
鱈に似た白身の魚がいたんだよね。
その魚を使って鍋にしたんだ。
芋と野菜とキノコを入れて。
出汁がでて、美味かったな。
あれ。
「いいね。じゃあ、鍋をだしてくれるか?」
「お安い御用ですわ」
でっかい土鍋だ。
アヴィタさんに作ってもらったやつ。
直径が一メートルくらいある。
ちゃちゃっと具材の用意をして煮こんでいく。
今回は魚醤を使った醤油味。
美味いぞー。
「ハルトー!」
ちびっ子魔王様が帰ってきた。
それはもうすごい勢いで。
で、食後である。
「あのさ、ちょっといいかな」
「ん? 仕事の話ならせんぞ」
長椅子に腹を丸出しで寝そべっている魔王様。
お行儀が悪いぞ。
ってか、ヴェラもだけどな。
「いや、仕事の話っつうか確認なんだけど」
オレはお茶をずずっと飲む。
「言ってみよ」
「あのさ、魔王様ってニンゲンを殲滅だーって考えてないよな?」
「当たり前だろう。なぜ、わらわがそんな面倒なことをする?」
でしょうね。
そうだとは思ってたけど、ホッと一安心。
「その気があれば、わらわがニンゲン領にひとっ飛びしておるよ」
うわぁ。
そこまで自信があるのか。
「そもそもニンゲンが攻めこんできたのが原因だからな。撃退できればそれでいい」
ふむ。
そういうもんか。
結局、魔族って領土を拡張したいとか考えてなさそうだもんな。
そもそも魔王軍って寄せ集めだし。
「よかったよ、それが聞けて満足だ」
「まぁ……ハルトが言わんとすることもわかる。おぬしは、まだニンゲンであろうからな」
「ちょっと引っかかる言い方するね」
「おぬし……自分のことは鑑定しておらんだろう?」
なかなかの慧眼だな。
そう、怖くてできない。
ニンゲンではない。
そういう鑑定結果がでたらと思うと……。
「まぁいい。それよりハルトよ」
「ん?」
「明日は肉がいいぞ、肉! おっきいのがいい!」
ニカッと笑う魔王様。
はいはい、御所望どおりに。
「ちょっと、お待ちください!」
ヴェラが割って入ってきた。
「わたくし、朝はあれときめておりますので」
指示には従えないというヴェラ。
バチバチと魔王様と視線を交わしている。
「ああん? あるのか、肉以上のものが!」
「ありますわ!」
二人がオレを見た。
ガンギマリの目で。
……怖いって。




