第034話 社畜、龍人族の里でお別れ会をする
さらに二週間が経過した。
オレは今、最後の診断を受けている。
「うーん。まぁこんなもんじゃろうな」
アヴィタさんも納得の回復具合だったか。
「ハルトよ、今やおぬしの体内にある器にも魔力がたまった。しばらくは問題ないじゃろう。ただ、里の外ではどうしても回復が遅い」
アヴィタさんがオレの目を見る。
「だから、いつでも帰っておいで。我ら龍人族はハルトと、その従者であるヴェラの二人をいつでも歓迎しよう。家族としてな!」
ありがとう。
ちょっとじんときちまったわ。
素直に頭を下げる。
そんなオレの頭をアヴィタさんの手が優しくなでてくれた。
まぁ社畜のオレだけど、アヴィタさんからしたらまだまだガキなんだろう。
「それとな、これはワシらからじゃ」
爺様が代表して、オレに二つの腕輪をくれた。
どっちもなんか格好いい感じのバングルだ。
オープンバングルってやつだな。
きれこみが入っているから。
ひとつは金属っぽい光沢がある。
もうひとつはなんだろう? 自然素材のかな?
鑑定先生! おなしゃーす!
氏名:ハルトの腕輪(右)
種族:魔晶石
性別:なし
状態:魔力が充填されている
備考:貴重な魔晶石で作られた腕輪。永続的に魔力の補充を助けてくれる効果がある。
氏名:ハルトの腕輪(左)
種族:龍人鱗
性別:なし
状態:正常
備考:龍人族の鱗を加工して作られた腕輪。龍人族に家族と認められた証。尋常ではない魔力がこめられている。
おおう。
なんかとんでもアイテムだ!
いいのか、こんなのもらっちゃっても。
いいんだろうな。
ってか、名前がハルトの腕輪だし。
ありがてぇ、ありがてぇ。
「爺様、アヴィタさん、オヤジ殿、ママさん、ドルド! 大事にする!」
「よかったですわね。ハルト」
ヴェラもニコニコ微笑んでいる。
ついでに言うと、ヴェラも贈り物をもらったらしい。
首にかけているうっすらと緑がかった宝石がついたネックレスだ。
氏名:なし
種族:亜次元倉庫
性別:なし
状態:正常
備考:高位魔族でも一部の者しか扱えない希少アイテム。物品を収納できるが、空間魔法を使えることが最低条件。ソフトタイプの干し肉がたくさん入っている。
なるほど。
アイテムボックスのバージョンちがいか。
いいものをもらったな。
そりゃニコニコしているわけだ。
大盤振る舞いだな。
これもたぶん古き神の影響かな。
恐らく龍人族って古い神に仕える人たちだろうし。
「ありがとう。マジ感謝!」
「まぁ名残惜しいが今日は宴席として、明日にでも帰ればよかろう。帰りは多少の無茶がきくはずだからな」
アヴィタさんの言葉に龍人族の皆がさっと動いた。
獲物を獲りにいく者たちだ。
なんとなく思う。
たぶん、オレは今日ずっと料理を作ってるんだろうな。
まぁそれでもいい。
こんないいものをくれたんだからな。
それに……家族だしな。
……ふふ。
ちょっと笑ってしまう。
「どうしたのです?」
ヴェラがオレの顔を覗きこんでくる。
くりっくりの目だな。
「いや、ちょっと嬉しくてな」
「贈り物をいただいことですか?」
うんにゃと首を横に振る。
家族ができたことさ。
オレは天涯孤独だったからな。
前の世界じゃ。
でも、こっちにきて家族ができちまった。
なんか尻がむずがゆいけど、嬉しいんだよ。
そんだけ。
「……バカですわね。わたくしもとっくの昔に家族ですわよ」
ちょっと頬を赤らめているヴェラ。
こんちくしょう。
泣かせることを言うんじゃねえよ。
「あらあら。ハルトったら……」
ママさんがぎゅっとしてくれた。
優しく頭をなでてくれる。
圧倒的バブみを感じてしまうだろ。
あーもう。
オレはちょっとだけ泣いた。
声だしてないもんね。
えぐっえぐっとか絶対に言ってないからな!
「嘘つきですわね」
「こらー! バラすな!」
その日。
オレは料理を作るマシーンと化した。
色々と作ったんだ。
日持ちするものもいくつか。
でもな、おかしんだ。
干し肉ができあがったと思うだろ。
次の干し肉を仕込んでいる間になくなるんだ。
ついでに言うと、酒もしこんだんだよ。
魔法でちょちょいとな。
龍人族が。
さっき二樽作ったはずなんだ。
でも一樽しかないんだよ。
どこを見ても。
「うぃい。ひっく」
爺様だ。
はむりと干し肉をかじっている。
「なははは。美味いのう」
アヴィタさんもだ。
手にでっかい杯を持っている。
「明日からどうなってもしらんぞ」
まったく。
オレはオレで目が離せない。
なぜなら、今日は豚バラの煮込みを作っているからだ。
正確にはイノシシのバラ肉だけど。
むふふ。
魚醤ができたからな。
最初に作るのはこれだと決めていたんだ。
「さ、これはオレがいただきましょうかね」
にひひひ。
できあがったイノシシの煮込みは、つやつやだ。
しっかり照りがでている。
うっすらと茶色に染まったお肉様。
脂肪の層がぷるぷると揺れている。
おほほほ。
辛子がないのが残念だけどいいだろう。
ちょいと味見を。
むほう! 美味い。
歯が要らないんじゃないかってくらいやわらかい。
ぷつっと歯が肉をかみ切る感触が嬉しい。
じゅわりと広がる脂の旨み。
そして少しクセがあるが肉の濃厚な味が追い打ちをかけてくる。
甘塩っぱいタレがよく合う。
完璧だ。
うん、こんなに美味くできるなんて。
さすが鑑定先生の助言つき。
さて、お次は薄パンに挟みまし――。
「んあ?」
気配を感じて、オレは振り返った。
ひぃと声が漏れる。
「……ハルト、なにをしているのですか」
ヴェラがゆらりと踏み出した。
「ハルトや……」
アヴィタさんもだ。
「どういうことかの?」
爺様。
「ハルトくん?」
ママさん。
「ハルト、それはないぞ」
ドルドだ。
「ハルトおおろろろろろ」
オヤジ殿。
ナイス・レインボー!
わはははは。
え? 笑って誤魔化せない?
ご、ごめんなさーい!




