第033話 社畜、龍人族を変容させてしまう
翌日のことだ。
少し早いが昼食の準備をしているときに、ドルドが帰ってきた。
なんだかとっても疲れた顔をしている。
ちびっ子魔王様に振り回されたんだろうな。
しらんけど。
「おお、ハルト。体調はどうだ?」
「お陰様で良くなってるよ。アヴィタさんの話だと、まだこの里にいた方がいいらしいけど」
ニカッと笑みを見せるドルドだ。
喜んでくれるのは嬉しいな。
「あなたの方が疲れた顔をしていますわよ?」
混ぜっ返すヴェラである。
それに苦笑しか漏らせないドルド。
いったいなにをやらかしたんだ、あの魔王様は。
「ちょうどいい。ララゼヴィンクからの伝言だ。鍛冶場の問題も無事に解決した。武具の品質も元通りになった」
おお、よかった。
ちょっと気になってたんだよね。
鑑定先生を疑うわけじゃないけどな。
でも、ちゃんと報告を聞くと安心できる。
「ただ、御用商人から聞いたところ、魔鉱石の仕入れ先が変わったという話だな。ニンゲンとの戦争の影響らしいぞ」
ふむぅ。
そういうことか。
まぁ問題はなさそうだけど……戦争か。
集団転移で喚ばれた連中も戦っているのかもしれん。
同胞と争うのはイヤだな。
なんとか穏便にすませたいけど……。
今から少しずつ対応策を考えておかないとな。
龍人族やギーガ親方みたいないい魔族もいる。
他のヤツらだって話せば、きっとわかってくれるはずだ。
まぁわかってくれないのもいるだろうけど。
それでもオレは魔族を全部敵視する気にはなれない。
会社だって同じだからな。
気に入らないヤツ、反りが合わないヤツだっている。
そんなヤツらだって敵じゃない。
社畜の心得だな。
「ところでハルト」
ガシッとオレの両肩に手を置くドルドだ。
「なんだよ?」
「さっきからいい匂いがしているんだが、これはなんだ?」
「ああ、ちょっと早いが昼飯を作っててな。最近はオレが料理番を任されているんだよ。で、色々と……」
痛い、痛い。
ぎゅっと握るなって。
「ズルいぞ! ハルトの料理は美味いと知っている! まさかずっと食べていたとはな!」
うるせえよ、大きな声だすなって。
今、この場に龍人族はアヴィタさんとママさんだけ。
その二人も天幕の中にいる。
さっきだいたいの調理は終えたからな。
「爺様とかオヤジ殿にも好評だぜ」
ちょっと煽ってやる。
今のオレはきっと悪い顔をしているだろう。
「むしゃむしゃ」
見れば、ヴェラがソフトタイプの干し肉を食べている。
「ヴェラ! それは干し肉か?」
「ええ、ハルトが作ってくれた柔らかい干し肉ですのよ」
笑顔で干し肉を食べるヴェラだ。
朝から大量に作ったんだよ。
事務所総出でな!
「くれ!」
オレの肩からパッと手を放して、ヴェラに突きだすドルドだ。
だが、ヴェラは顔をしかめている。
「お断りしますわ! 明日、ハルトに作ってもらうといいのです!」
いやいや。
煽るだけ煽って、それは酷い。
なんか気の毒になってくる掌返しだ。
「ぬぐぐ……なんとかならんのか、ハルト」
「って言われても、肉がねえんだわ」
そう。
朝から大量に作ったんだよ。
一人、イノシシ一頭ずつだ。
どんだけだよって話。
もちろん龍人族も手伝ってくれたよ?
魔法とか色々な。
「わかった。肉だな、イノシシでいいのか? とってくる!」
どひゅんと飛び立っていくドルドだ。
その背を見送りながら思う。
なんか食いしん坊に火をつけてしまった。
オレはひょっとしてものすごく罪深いことをしたんじゃないのか。
だって高位の魔族は食が嗜好品だったわけだ。
魔力の消耗という緊急事態以外は、好んで食事をしなかった。
それがオレのせいで……とんでもないことになってねえか。
このままだと下手をしたら、食料問題が勃発するかも。
かなりヤバい?
『大丈夫ですわよ、ハルト』
『む。久しぶりの念話だな』
『まぁ今ははっきり心が読めましたので』
『食料が足りなくならない?』
『ええ。あのイノシシみたいな魔獣ってすぐに増えるのですわ』
『え? そうなの?』
驚いてヴェラの方を見る。
ヴェラがしっかりと頷いた。
『だから龍人族が毎日増えた魔獣を狩っていたのです。今までは食べずにいた魔獣を、今は食べているだけですから』
『なるほどな。摩訶不思議なり、ファンタジー』
「なんですの、それ」
ケラケラと笑うヴェラであった。
その日の昼食は実に賑やか。
ドルドが帰ってきたこと加えて、干し肉の件で揉めたからだ。
あれ? 龍人族が鷹揚だっていうのは嘘だったか。
こいつら全然、強者の余裕なんてねえじゃん。
「ハルト!」
怖いって。
全員でオレの名前を呼ぶなよ。
「夕食前に狩ってくるから、干し肉を!」
爺様が言う。
全員で干し肉を、と唱和してやがる。
「作ってください!」
ヴェラまで混じって頭を下げていた。
こいつら本当にダメだ。
オレはやっぱりやからしちまったんだろうな。




