第029話 社畜、目をさます
ふわぁ……。
なんかよく寝た気がする。
ぐっすりって感じ。
前のときよりもしっかり寝れたという実感がある。
おめめぱっちり。
快調だ。
んむ? 天幕の中か。
ヴェラがいる。
オレが寝てる隣に。
看病でもしてくれたんかな。
起こさないように、ゆっくりと天幕の外へ。
煙草はしっかり持っていく。
天幕の外は夜だった。
不思議だな。
ここ地下なのに。
なんで昼と夜があるんだ?
意味がわからん。
天上には星はないけど月はある。
いや、たぶん。
あれは……太陽だったものなのかな。
よくわからんけど。
「ハルトか……」
アヴィタさんだ。
月に照らされている。
ってか薄着すぎて目のやり場に困るだろ。
見ちゃうけど。
かかかっとアヴィタさんが笑う。
「男じゃのう……」
ニヤニヤとしながら、くねっとシナを作るアヴィタさん。
おい、全年齢じゃなくなっちまう。
いいぞ、もっとやれ。
「ま、まったく。からかいが過ぎるぜ」
……ふぅ。
眼福、眼福。
「香り草、吸ってもいいかな?」
「かまわん。というか、少し分けておくれ」
自分のキセルに葉っぱを詰めた後で、アヴィタさんに投げ渡した。
谷間からキセルをだすのは反則だろう。
「ほう! いい葉っぱじゃな」
「アヴィタさん、オレのも火をつけて」
おなしゃーすと頭を下げる。
苦笑しながら火をつけてくれるアヴィタさん。
優しい。
並んで座って、二人して煙を夜空にむかって吐きだす。
「ふむぅ。ハルトも生活魔法くらいは使えるようになった方がいいのう」
「生活魔法! オレも使えるの?」
「まぁ生活魔法くらいなら問題ないじゃろう」
なんだって。
オレも魔法が使えるのか!
マジで?
ちくしょう。
マジで嬉しい。
「ちといいか?」
アヴィタさんがピタッとオレの額に手をあててくる。
ひんやりとして冷たい手だ。
ちょっと気持ちいい。
「んむぅ。魔力そのものはあるが……ハルト。おぬしなにか特別な能力を持っておるじゃろう」
黄金の瞳でアヴィタさんが見つめてくる。
んー正直に言っちゃってもいいかな。
たぶん、この人はオレに害意持ってないと思うし。
「鑑定眼ってやつっすね」
「それでその緋色の目か」
そう。
オレの目は黒目から緋色に変わっているもんね。
中二病臭いけど。
「まぁその鑑定眼にほとんどの魔力を持っていかれておるな。なるほどのう。魂魄と肉体が安定せんのも無理はない」
え?
ちょっと待って。
どういうこと。
魂魄って魂のことでしょ?
それが肉体とあってない?
いや、マジで。
おかしくない?
「ねぇねぇ、アヴィタさん。オレ、大丈夫なの?」
「そのことじゃが、少しこの里で休んでいくといい」
「……休む?」
オレを見て、コクンと頷くアヴィタさん。
「ここは霊地と呼ばれるだけあって魔力が濃い。おぬしの身体も魔族と同じくらいには魔力を吸収できるようじゃからな。少しはマシになるじゃろう」
ふぅと紫煙をはきだすアヴィタさん。
オレも煙草を吸う。
「どのくらいかかりますかね?」
ちょっと気になる。
だってお仕事の途中だから。
例え、ドクターストップがかかろうとも、だ。
責任を果たすのが社畜根性。
「ああ――炎晶石ことなら気にせんでもいい」
「は?」
どういうこと?
「ハルト、おぬしが寝ておったのは丸七日と少し。昨日、魔力を吸い終わった炎晶石をドルドが魔王城に持っていった」
なるほど。
納得だ。
ってことはヴェラも了承ずみってことだな。
「ええと……オレってそんなに状態が悪いのかな?」
七日も寝てたの?
睡眠最長記録の大幅更新じゃん。
ってか、そんなに寝てたら臭くなってそうだけど……。
いちおう脇の下を嗅いでみる。
うん。
……臭い。
「アヴィタさん、オレ風呂に入りたいんだけど」
ついでに腹の虫も鳴る。
かっかっかと豪快な笑い声が夜空に響いた。
「よかろう。湯のでる場所に連れて行ってやろうかの。でも、その前に食事にするか」
なぬ!
湯の出る場所!
それってもしかして天然温泉ですか!
「待ってました!」
温泉もいいけど、まずはメシだ。
龍人族の里の料理。
期待してもいいですか!
ドルドの豪快料理、いやあれは料理以前のものだったけど。
あれじゃないよね?
「ハルト!」
ヴェラだ。
キョロキョロとしている。
「ここだ、ここ」
「もう! 姿が見えないから心配したじゃありませんか!」
ぷりぷり怒りながら、ヴェラが隣に座る。
アヴィタさん、オレ、ヴェラの並びだな。
「もう大丈夫ですの?」
「さぁ? でも事情はアヴィタさんに聞いたから」
「そうですか。あまり無茶はいけませんわよ。魔王様にも手紙を書いておきましたので、しばらくは休んでいきましょう」
悪いな。
なんか色々と迷惑をかけたみたいだ。
「ヴェラよ、ちとそこらで獲物をとってきてくれんか」
「……むぅ。わかりました。なにが御所望ですか?」
アヴィタさんがちらりとオレを見た。
オレはなんでもいい。
「そうだな。ウサギでいいじゃろう」
「承知しました。少し待っていてくださいませ」
ヴェラが月にむかって飛んで行く。
「うーん。基本的にあれなんですかね。丸焼き?」
オレの疑問にアヴィタさんは笑う。
「それが料理じゃろう?」
うーん。
ま、この辺りが大きな文化のちがいなんだろうな。
べつにバカにしてるわけじゃない。
丸焼きだって美味しいからな!




