第018話 社畜、魔王軍の実体を思わぬところから知ってしまう
オレとヴェラの二人は魔王様の部屋にきていた。
進捗報告ってやつだな。
一応、オレの雇い主……?
はう! 大事なことを忘れてた。
オレ、報酬もらってないじゃん。
いや、あれ?
ヴェラももらってないのか?
どうなっているんだ、魔王軍。
まさかの、ノーお賃金!
ブラックよりもブラック!
さすが魔王軍ってか!
笑えるか、ボケ。
『ハルト、ちょっとうるさいですわよ』
『大事な、とても大事なことに気づいたんだよ、ヴェラ!』
『はいはい。ちょっと待ってなさい』
軽くあしらわれてしまった。
まぁ仕方ない。
念話をしながら、ヴェラは魔王様に報告をあげているからな。
一応、この執務室の中には文官たちもいるんだ。
魔族の。
なんつう種族か知らんけど、まぁ頭は良さそうだ。
そういう訳で建前として、オレはヴェラの後ろで突っ立っている。
そんなオレに対して、なんだか嫌な目でちらちら見てくるんだ。
この文官さんたち。
「……ということですわ」
「うむ。ではエルフとサラマンデルの方は解決できた、と。しかし、鍛冶場の問題は継続して問題が残っている」
メスガキ魔王様が椅子にふんぞり返って腕組みをした。
少しだけ沈黙した後、文官たちにむかって手を振る。
出て行けということだ。
「畏まりました。では、外で控えておりますので、いつでもお声がけを」
三人いた文官さんたちが出て行く。
「ふぅ……やれやれ。ヴェラ、遮音の結界を」
「承知しましたわ」
と、ヴェラが魔法を使った……んだと思う。
なにをしたのか、オレにはよくわからなかったから。
しかし、ここぞとばかりにオレは口を開いた。
「ま、ままま、魔王様!」
「なんじゃい?」
「オレさ、けっこう頑張ってるよね?」
「まぁそれは否定せんぞ。厨房も問題を解決し、スターバの新料理という美味なる料理まで開発した。で、鍛冶場の問題については途中だとしても、だ」
と、魔王様が指を一本立てる。
「あのエルフとサラマンデルを仲裁した。まぁ実績としてはかなりのものだと言えるな」
くふふ。
言質はとったぞ。
魔王。
「あ、あのさ。お賃金、お賃金はどうなってるのよ! いや、これマジで大事なことだから!」
そうだ。
これ、超大事!
社畜のオレとしたことがうっかりしてた。
そりゃあ色々とあったからな。
つい忘れちゃっても仕方ないかもしれない。
だが、気づいた今、ここはちゃんと確認しておかないとな。
「ふむ……時にな、ハルト。お賃金とはいったいなんなのだ!」
どーんと言い放つ魔王様だ。
ま、まさか。
ひょっとして……いや、そんなまさか。
ここは勇気をだして聞くしかない。
「魔王様、それにヴェラにも聞きたいんだけどさ。ま、魔族ってお金を使ってなかったり?」
こくん、と頷く魔王様。
ヴェラにも目を向けると、こっちも頷いていた。
うーん。
お金は使ってないけど、概念は知っている?
ああ、たぶんあれだ。
ニンゲンと一部では取引があったのかもしれない。
まさかの物々交換でか!
じゃ、じゃあお賃金は、お賃金はどうなっているのさ!
「つかぬことをお伺いしますけどね、ヴェラさん。あなた魔王軍で働いている報酬は?」
「報酬? 特にいただいていませんわね。住むところは提供してもらっていますし、特に不自由はありませんので」
これはいかん、いかんですよ!
無報酬で人を働かせるなど言語道断の極み。
社畜たるものわずかでもお賃金はいただかね……ば?
いや、お賃金の原資となる貨幣が流通してない。
ということは……現物支給という道があるのか。
「ハルトよ、いったい何が言いたいのだ!」
「いや、働くなら報酬が必要でしょうってこと!」
「住むところと食事を提供し、必要なら武器や防具も支給しておるぞ」
「ええと……魔王城で使う食料とか、鉱石とか、その辺りの消耗品ってどうやって手に入れてるの?」
「まぁ自分たちで収穫や採取をしたり……あとは寄付ですわね。これも魔王様のお陰ですわ!」
まさかの物々交換でもなかった!
寄付によって成り立つのか。
待てよ……。
そもそもの話。
魔族は種族や氏族なんかの単位で暮らしてたんだよな。
ってことは国っていう概念がないのか。
極めて狭い範囲でのみの交流となれば、物々交換でも成り立つ。
そして――ニンゲンが攻めてきたことで戦える者が集まったのが魔王軍。
魔王様というチートを御輿に担ぎ上げて、軍という体裁をとった。
さらに言えば、だ。
ヴェラみたいな高位の魔族は食事をしなくてもいいときた。
「なぁヴェラ、その服とかはどうしてるの?」
「服? わたくしたち高位魔族になれば魔力で服を作ることができます」
ぱちん、と指を弾くヴェラだ。
ぺかーと光ってボンテージ風の衣装から、村娘っぽい服になっている。
「ま、魔王様!」
「ん? こんなの当たり前だろ?」
魔王様がぱちんと指を弾くと、衣装がゴスロリ風に変わった。
うん、似合っている。
かわいい。
じゃなくて!
待て待て。
ということは……これで経済が成り立つのか。
そりゃあニートは許さないって言うわな。
だって寄付されたりしてるんだもの。
「なんかもう思ってたのとちがいすぎるんだけど!」
思わず、ガクッときた。
社畜だと思ってたけど、社畜でもなかったのか。
このやり場のない気持ち。
「ま、なれろ。そうそう、ハルト。お前の部屋を用意しておいたからな。今日からはそちらを使っていいぞ」
魔王様の優しさが心にくる。
くそ、なんかこれは先が思いやられる気がするぞ。
「ハルト、お金がどうのこうのと言われても、ですわ!」
そうだね。
うん。
オレが悪かった。
いや、うん。
本当に勝手に期待しただけだから。
ちくしょう。
異世界は世知辛いぜ。




