蘇我鞍作、とにかく大化の改新のフラグを折りまくる
船と兵を揃えた俺であったが、そろそろ気になる時期になってきていた。
そう、いわゆる大化の改新が近いのだ。
できれば大化の改新…というか俺が殺される乙巳の変は起きないほうがいいので、俺はここまでフラグつぶしに全力を上げてきた。
その1,一番鞍作の評判にとどめを刺して殺されても仕方ない、と思わせた山背大兄王誅殺(本人というより蘇我氏全体や他の皇族の石も大きかったようだが。)
これは山背大兄王を出家させて通称斑鳩法皇に。本人仏法広めるのにノリノリでやたらに寺の作事などしたがって今でも金がかかってヤバいが命は助けた。
その2,そもそも乙巳の変を計画した中臣鎌子&中大兄皇子とサッカー友達に。多分球は友達だから裏切らない…と思いたい。『唐にもサッカー広めて世界的にしようぜ!』という俺の熱い思いを受け取ってくれていると信じている。中大兄皇子にも俺と宝女王の仲は認めてもらった、と思うし。
その3,父から勝手に冠位と大臣を譲られて専横した。これは時間かけて正式に朝廷から任命してもらって大義を得た。
その4,覇気溢れていた祖父(馬子)と違って調整型で皇族とか石川麻呂の様な親族の顔を伺い権力者ではあるもののおっかなびっくり政治をやっていた父毛人がいきなりでかい邸宅を建てて宮殿と呼ばせようとしたり子どもたち(つまり俺たち)を「みこ」とか呼ばせようとしたり、はてには自分のでかい墓を、「父の墳墓(石舞台古墳だ)を上回ってみせる!」と建造しようとし始めたので…全部やめさせた。
なにとつぜんはっちゃけているのだ>父。
そこで俺は全部
「父が歳とって耄碌してきました!すみません!」
と各所に土下座し、邸宅は取り壊して元の屋敷を修繕し、新しい邸宅の材料は宝女王に献上して宮殿の改築に使わせ、『皇子』とか言いかけたやつは絶対次言わせない次行ったら厳罰、と脅してやめさせた。父には侍引き連れて
「老いたな…父上。」
と言い放ち、南紀白浜に別荘を建ててそちらに退いていただいたのであった。
そのうち唐からパンダでも手に入れて送るから許せ、父上。
ちなみに畝傍山に武器庫と要塞作ろうとしたのだけは続行し、ついでだから障子堀と丸馬出しを備え、多聞櫓(流石に漆喰は塗れないが)を土塁上に並べたどこの後北条氏か甲州流縄張りか松永久秀じゃ、という城にしてみた。
色々フラグ折りには勤めてきたけど、俺が国政のトップで羨まれるもしくは煙たがれる立場なのは変わりがない。むしろ石川麻呂はじめ一族の意思はかなりスルーしているし(代わりに巨勢や東漢、大伴氏、阿倍比羅夫や安曇比羅夫などの軍部と仲良くしている)それに伴って親百済の立場はかなり後退して新羅とイーブン的な扱いをしているから百済に与する勢力には白い目で見られていたりする。
宝女王には
「百済にしたがって文化や技術を分けてもらうのではなく、我々が発展して大泊瀬の大王(雄略天皇)や神功皇后の様に海北を我々が上回るのです。」
と話してたぶん納得してもらっていると思う。多分。今のところ夜
「いう事きかないとこの大事なものを捻り上げるぞ!」
と迫ってくることがないので。別件ではあったのだ。思い出すだけでも痛い。
というわけでフラグを折っても折っても次のフラグが出現してきている気はする。
そこで俺は次に古人大兄皇子様のところに行った。
「古人大兄皇子様、申し訳ありませんがこの鞍作、皇子様を大王にすることは難しいのです。」
「それはどういうことだ?」
「この世の中は悪意と暴力に溢れております。恐れながら我が力が足りず、この国はまもなく血と暴力が力を振るうでしょう。」
「それを何とかするのが大臣の役目では?」
「仰るとおりです。しかし恥ずかしながらこの大臣一人の力でそれを抑えきることがデキないのです。優しい皇子様ではその様な時代に投げ込まれたらすぐに殺されてしまいます。」
「では臣はわたしにどうせよ、と。」
「太宰府に向かってください。そこで太宰帥となって筑紫の諸族をまとめ、海北(朝鮮や唐)に備えてくだされば。」
そう、古人大兄皇子を九州に逃して中央の政争から離そうという作戦だ。すべてが上手く言ったら後でやってもらうこともあるし。
しばらく説得して、皇子の警備に虎の子の侍からも兵をつけるということで納得してもらった。大王目指して殺されるよりはいいよね。侍付けたのは筑紫の兵の装備の更新のモデルにもなってもらう為だ。船も宝丸級の新造艦、大江丸を付けた。
こうして俺は古人大兄皇子を太宰に送った。これで畿内の政争から逃げ延びられればいいよな、と俺は窓辺の月をみながら考え事をしていた。
すると背後に寝ていた宝女王が起き上がり、後ろ抱きにするようにくっついてきて俺に声をかけてきた。
「古人大兄はあれでよかったのか?鞍作や毛人は古人大兄を大王にする気であったろう?」
「あの方は大王をするにはやさしすぎます。あれでは海北や諸族とやりあうのは辛いかと。」
「…諸族、には皇族もはいっているのだろ?」
と言って宝女王は笑う。さすが一国の天皇、甘くはないわ。
「…仰るとおりです。大王にはもっと毅然とした人のほうがふさわしい。中大兄皇子のような。」
「有能な大王ならそちの様な権臣はいらないかもしれないな。」
と言って宝女王は笑う。
「う。それを言われると。」
「まぁそう落ち込むな。そちのせいで目が覚めてしまった。付き合え。」
と俺は宝女王ともう一戦勤しむことになった。
翌朝、雀が朝チュンするのを聴きながら目を覚ますと、宝女王は先に起きて身繕いをしていた。
「そういえば鞍作、来月三韓(百済、新羅、高句麗)の使者が来るぞ。」
「へ?」
「お主が作り上げた兵や船の話が伝わってな、倭は海北に攻めてくる気か、と話を聞きに来たらしい。」
三韓の使者ともなるとぞんざいには扱えない。俺は慌てて準備をすることになった。
…と儀礼の手配などをしていて、俺は思い出した。俺抜きで進む三韓の使者の話、
これって乙巳の変で蘇我鞍作をおびき寄せたあの話なんじゃないか。
ヤバい。ついに来た。これは最初からクライマックスだぜ。




