新羅と百済
感想ありがとうございます!がんばります。この話比較的サクサク進めて全体的にもあまり長く引っ張らずまとめるつもりです。どうかお付き合いください。
俺は歴史上では攻め殺してしまった山背大兄王を殺さずに出家させた。
そもそも人気の高い聖徳太子(厩戸皇子)の嫡男を殺したことで俺(蘇我鞍作)の評判が悪くなり、誅殺やむなしとの雰囲気になったのだからこれは大きな点数稼ぎのはずだ。
と喜んだのもつかの間、すっかり坊主生活に馴染んだらしい山背大兄王は自らを仏教の庇護者と位置づけてやたらに斑鳩寺を拡張したいとか、あちこちに寺を建てたいとか言い出して今度は俺がそれをほどほどに抑えるのに苦労するはめになった。
俺は大化の改新(乙巳の変)の最大の首謀者と目される中臣鎌子(のちの藤原鎌足)と中大兄皇子(のちの天智天皇)と仲良くなることに全力を注ぎ、サッカーの後に一杯引っ掛けて天下を論ずるのを常としていた。
3人は豪族のパワーバランスの上になんとなく大王=天皇が乗っかっている今の形態ではなく、律令制=法に基づいた秩序による政体を目指し、また近代化をすすめることで唐に対する立場を高める、という点で大いに一致して盛り上がったのだった。
「鞍作よ、最近大王(=中大兄皇子の母の宝女王)のところに参上していないようだが。」
と中大兄皇子が言い出す。
「いえ、この間も百済からの使者の件で伺いましたが。」
「いや、日中の話ではない。」
…確かに夜のお相手はちょっとご無沙汰だ。だって息子さんと仲良くさせていただいて母親いただきますじゃちょっと気がひけるだろ。
「…よいのですか?」
「母もそれなりに歳なのだが、鞍作が相手してくれないと機嫌が悪くてな…」
「…すみません。皇子の目につかないように伺います…」
こうして俺は時々宝女王様の寝所に伺うようにしたのであった。これも天下泰平のためだ。
そんなある日、新羅からの使者が来た。聞けば王族の金春秋だという。俺は飛んでいって金春秋に挨拶した。
「武烈王様!蘇我鞍作と申します!新羅、いや朝鮮史上最大の英雄にお目にかかれて光栄です!どうかこれに署名いただけましたら…」
と俺はサインのつもりで絹を差し出す。ぐふふ。サインのつもりだ。
「俺は王ではなくてただの王族なのだが…」
と戸惑う金春秋。あ、たしかにまだ即位してないや。けどこの金春秋、百済や高句麗を相手に唐をうまくみかたにつけつつ渡り合い、朝鮮半島統一をもたらしたガチで半島史上最大の英傑なのだ。(まぁ跡継ぎが有能だったからこその統一ではあるのだが。)しかもこの人、なぜか非常に身軽で史実で高句麗だの唐だのこの日本だのに気軽に現れている。
本来だと俺が殺されてからの政情混乱を見極めるために来日だった気がするが、山背大兄王の件などで倭(日本)の政情に変化があったとの見極める偵察なのだろう。
それはともかく、俺はこの朝鮮史上最大の英雄のファンなので、熱烈歓迎してしまった。
そしてはてには金春秋殿を兄、俺を弟として義兄弟の契りまで結び、新羅からの朝貢(という形を倭の五王以来取っている)以上に色々お土産を持たせて難波津まで出向いて熱烈に手を降ってお別れをした。
ふぅ、歴史上の英雄と親しく語れるなんてこのゲーム最高だぜ、とか悦に入って飛鳥に帰ったら後が色々大変だった。蘇我石川麻呂たちが待ち構えている。
「えー。鞍作殿。当家(蘇我家)はそもそも百済と親しくしており、その百済と敵対する新羅の王族とのあの熱烈歓迎ぶり、扶余豊璋王子様を始め百済の方々がひどく立腹でありますが、蘇我の宗家としてはどういう考えなんでしょうか?」
えー。だって百済の人々どうせ負けちゃうじゃん、とか言ったらヤバいので口ごもる。確かに蘇我家は代々百済と親しかったのだ。でも百済鬼室福信とか黒歯常之とかすごい有能な将軍居るけど全体的にはグダグダじゃん。とかとても言えない。
「…そこは伽倻を取り戻すためには百済の言うことを聞くだけでは先に進まぬ。ここは新羅と両面的に天秤にかけることで両国ともに倭の存在価値を高めるのだ。」
「そうは言っても偉くあの金春秋という王族と親しげでしたが、百済はどうなってもいいと。」
「そうは言わぬ。」
とグダグダになったが、なんとかごまかした。しかし石川麻呂が帰る前に
「…あの方は新羅と親しいほうがと言っていたからある意味好都合ではあるのだがな…」
とつぶやいているのが聞こえてしまった。誰だ?あの方って?
俺が新羅の王族と親しくしている(だって本当に英雄だよあの人)と聞いて今度は大王宝女王に呼び出された。夜のお勤めじゃなくて昼に。
「…鞍作よ、この間はご苦労。また頼む。」
といきなり夜のお勤めの謝意を告げられた。こんな真っ昼間の朝堂で伝えなくてもいいやん女王様。
「ところで鞍作、お主新羅の王族とえらく親しくしていると。妾が百済と親しくしていると知って喧嘩を売っているのか?」
「女王様、それは違います。」
「違うと申すと。」
「あの金春秋、私が見るに一代の英傑であります。ちょうど中大兄皇子が英傑であるように。」
「わが息子を英傑というか…これおだてるではない。」
といいつつちょっと嬉しそうな宝女王。確かに中大兄皇子は英傑だよ。実は弟の大海人皇子のほうがもっとすごい人だけど。
「金春秋はいまは一介の王族でありますが、今後新羅の王となるのは必定でありましょう。国際的に飛び回る金春秋が王となれば新羅と唐が同盟を結ぶのは世の流れかと。」
「なに。新羅と唐が結ぶというのか。」
「そうなれば高句麗は唐に抑えられ、新羅と挟み撃ちになります。逆に新羅は高句麗を討たずに百済を荒らし回ることもできます。」
「新羅が自在に戦えるようになると。」
「百済には確かに優れた将軍がおります。しかしややもすると百済は彼らをうまく活かすことができません。」
「文官が強い国だけにな。」
と同意してくれる。宝女王さすがだぜ。
「…そちの言いたいことは相わかった。新羅とも関係を強化することで我が国が動きやすいようにするということだな。」
「御意。」
うーんこの正しい意味での御意決まったぜ。
「しかしそのせいで百済がすねてな。」
あ。
「お主が新羅とともに関係を深めたい、と言っている唐へ人を送るには半島西岸の百済を通るのが良いのだがな」
あ。
「お主のせいで通れないのだよ。遣唐使も送れないのだ。」
うがー。
「鞍作、責任をとってどうにかせよ。」
ああああ。
「後この件でわらわを煩わせた詫びに『後で』来るように。」
…夜のご奉仕で埋め合わせをせよ、と。ああああ。
俺は『ゲームなんだからバイアグラぐらいアイテムで出してよ…』とか思いつつ宝女王の御前を下がったのであった。マジな話をすると船の改良と武力の強化は半島や唐と戦う羽目になった時考えてやっておきたいと思ったのであった。




