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中臣!蹴鞠やろうぜ。

 中大兄皇子主催の蹴鞠の会。蹴鞠は布でできたボール(鞠)を地面に落とさないようにポーンと蹴り上げてパスする典雅な遊びだ。


 俺は従者たちと一緒に気付かれないように蹴鞠の会場に入り、一同に近づいた。


「あ!」


 という中大兄皇子の声とともにボールではなく皇子の靴が高く空へ飛ぶ。…それを拾おうと動く中臣鎌子だったが…


「キャッチ!!」


 と俺は叫びつつ空中の中大兄皇子の靴をキャッチしてそのまま前転して着地した。


「皇子様!靴にございます!」

「げぇ!鞍作!なんでここに…それはともかくありがとう。」


 と突然現れた蘇我宗家嫡男に驚く皆の衆。靴を拾おうとしていた中臣鎌子なんて口をあんぐりさせている。


「中島!じゃなかった中臣の!皇子と一緒にサッカーしようぜ!」


 と俺は言い出す。


「サッカー?なんじゃそれ?」


 と頭に?が浮かんでいそうな中大兄皇子with中臣鎌子。


 俺は舎人に持ってこさせたサッカーゴール…木組みに漁網張った。とサッカーボールっぽいボールを用意した。


「サッカーというのは唐の西方、羅馬帝国ろーまていこくの更に西端にあるブリテン島という島発祥の世界的球技です。ブリテン島というのは聖王アーサー王が収める救世主の奇蹟が詰まった聖杯を崇める島で、強大な海軍でブリテン島から天竺までを支配するのです。」


 と俺は言い出した。サッカーもまだ発祥していなければアーサー王も生まれてないけどな!とにかくブリテンがすごそうというのは感じてもらったのか俺はそのまま押し切って、サッカーの基本的なルール(キーパー以外手を使うなとか)を説明した。さすがは我が国を代表する偉人の皆様、ルールは概ね理解していただけた。(オフサイドとかは面倒だから省略したけどな!)


 それから俺たちは日がとっぷりくれるまでサッカーに熱中した。


「…鞍作、サッカーというのはなかなかおもしろいものだな!」


 とちょっと表情明るく中大兄皇子。少しわだかまりが取れたら嬉しい。


「殿下、ここはこの中臣鎌子をサッカー奉行に命じて定期的に楽しむのはいかがでしょう?」


 と俺は提案する。


「サッカー奉行とな?」

「鎌子は私の説明でサッカーをまたたく間に理解しております。この球技を守り広める上では最適かと。」

「おお、そうであるな。」

「ありがたき幸せ、よろしくお願いします。」


 と中臣鎌子。これでちょっとこちらに好意的になってくれたら嬉しい。


 …それからも俺たちは度々サッカーをやるようになった。球は友達な訳で、サッカーが終わってから酒なども一緒に飲むほどの仲になった。


「…というわけで俺は特定の豪族が力を振るうよりもですね、大王おおきみを中心として法の秩序に基づくようにしたほうがいいと思うのですよ!」


 と管を巻く俺。ぐふふ。律令制は先進的だよね、この時代。それに涙を流して頷く中臣鎌子。


「ですです。血筋だけで君臨するのは大王だけでよいのです。それよりも能力あるものが適切に発揮できる方が大事なのです。そのためには…」

「大唐の仕組みを学んで近代化だな。」


 と中大兄皇子。これでこの二人とはだいぶ仲良くなれた気がするぜ。俺は積極的に鎌子に将来期待している、大王中心の国造りでぜひ実際に新しい政府の実働的中核となってもらいたい、と口説き続けた。とにかく中臣鎌子に『鞍作を排除しないと自分の活躍の目がない』という考えを改めてもらわないといけないから必死だ。


「ところで鞍作、最近こちらに入り浸っているが貴殿の父上や父上が押す古人大兄皇子、それと蘇我の一族はよいのか?」


 と皇子。


 ……。げ。この体の記憶フル回転させたらうちの一族は古人大兄皇子推しだった。


「それと山背大兄王はどうするので?」


「ではまた!」


 と俺はサラバっ!という感じで敬礼すると慌てて家に帰る。


 家に帰ったら父(毛人)がしぶーい顔で椅子に座って待ち受けていた。


「鞍作よ…当家では大王の後継に古人大兄皇子を推しておる。しかし最近中大兄皇子のところばかり入り浸っているではないか。」


 う。


「そうですそうです!一族の方針をないがしろにするとはあとを継ぐ気がないのでしょうか。」


 と言い出したのが…いとこの石川麻呂だ。


「えー。私がねんごろにさせていただいている宝女王のご嫡男ですので…まぁ…ぞんざいに扱うのも気の毒で…」


 とかわけのわからない言い訳をする俺。


「軽皇子さまからも最近鞍作があちこちくちばしを突っ込んできているが蘇我としてはそれでよいのか?蘇我の一族の方針がバラバラでは不安なのだが?と言われていますが。」


 石川麻呂、軽皇子とつながっているのだな。確かに乙巳の変で入鹿を討ち取った後、最高位の左大臣に就いたのは石川麻呂だ。


「これからは一族の方針も堅守します。しかし中大兄皇子様と親しくするのは当方にも考えのあってのこと。」

「お前が右往左往するようでは後も継がせられぬぞ。上に立つものはあちこちの利害を調整できるものでなければならないのだ。」


 うん。父上は調整派だものね。しかしそれで見直すとお祖父様の蘇我馬子の時代に比べると蘇我宗家、実はヤバいことに気がついた。


 ほぼ全権を握って独裁に近かったお祖父様と違い、蘇我家内部だけでも父毛人の権限は意外と弱い。専横ふるってやり放題に見えるけど経済的なところに詳しい秦氏は山城の本拠地に帰ってしまったのと山背大兄王に付けちゃったから大幅に目減りしているし、軍事力だって東漢氏や巨勢氏に結構アウトソーシングしちゃっていて実は手持ちの兵っているようでいて『一族の総意』でないと動員できなかったりする。


その一族の総意が石川麻呂はじめ従兄弟一族も入っちゃっているので…意外と父(や俺)が独断で決められることが少ないのだ。


 その不安はそれからすぐに具体化した。えー。なんかこのゲームイージーモード選んだつもりが結構ヘルモードなんですけど。


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