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白村江の戦い

神武級やカタマランを中心とした輸送本体は後続として、神武級を中核とした日本艦隊主力は朝鮮半島西岸を北上して白村江へ向かった。日本艦隊の船は以前書いたようにジャンク船ばりの水密構造と風上への航行能力に加え(そのせいで積載量は減少したために補う意味で仁徳級を建造した)俺が作らせた方位磁針と六分儀(うろ覚えで再現したのでもどきぐらいの代物だが)の力もあってこの時代の常識を超える速度で白村江に到達した。


 白村江では唐の名将、劉仁軌が日本の援軍の襲来を予期して河口を塞ぐように軍船を並べている。史実ではここに無計画に突撃し、火計も使われ包囲殲滅されてしまったのである。


 今回我々は最大の戦艦である神武級を縦列に並べて進行した。それをこちらの突入と見た唐の艦隊が前進してくる。


 艦隊が接触するより少し前に日本艦隊は急激に転進して左右に広がり、唐の艦隊にむけて側面を並べるようにした。


 横っ腹を並べたその船の大きさに驚きつつも、唐の艦隊は隊列を乱さずに前進してくる。そして距離を詰めたその瞬間、日本艦隊から轟音が鳴り響いた。一斉射撃である。


 突然の轟音と火柱、そして飛んでくる砲弾(さすがに未だに石弾主体だが)。直撃して轟沈、とはなかなか行かないまでも船体を傷つけ、帆柱を折り、兵や漕手を次々に負傷させていく。


「おお、それでも前進してくるようですな。さすがは劉仁軌。闘志は衰えませんな。ふむ?敵側面から突出する部隊が有るようですが。」


 と安曇比羅夫。


「側面を突破して包囲に回るつもりだろうな。ならば。」


 唐の軍船は足の遅い神武級から逃れるように大回りして艦隊の後面に回ろうとする。そこに日本艦隊の後方に待機していた孝徳丸級が更に側面から回り込んで攻撃する。


「大砲ばかりで弓隊の出番がありませんなぁ。」


 と坂上弓束。この船沈められたら日本は首脳陣全滅だな。


「それは上陸したらいくらでも…お、どうやら出番が来てしまったようだ。」


 と挟撃を狙った艦隊も孝徳丸に蹴散らされた唐軍であったが、どうにか軍船を神武に横付けして白兵戦に持ち込もうとする一隊があった。


「勇気は認めるが…まぁそうなるな。」


 見る見るうちに背の高い神武級の上段から弓を次々と打ち込まれ、火矢を射掛けられて突入した軍船が炎上する。


「さて、ここで本来なら回り込むことに成功した相手が火計を用いて後方を遮断するところですが…こちらも締めに入りますか。」


 と神武級の間を割って一隻の船が敵方に向かってしずしずと進み出す。その作りはどちらというと仁徳級に近いがもう少し細身の、仁徳級を作る際に作った試作の一隻であった。安定性と速度のどちらを取るか試したのだ。


 唐の艦隊に向かってその船は進んでいく。何本もの矢が打ち込まれ、ハリネズミのようになるが船は止まらなかった。唐は矢を火矢に替えて次々と打ち込んでくる。


「そろそろ頃合いだな…狼煙をあげよ、乗員を脱出させるのだ。」


 俺の合図と同時に狼煙が上がり、それを見た件の船から次々と小舟が降ろされて乗員が逃げ出していく。


「この潮ならそのまま向こうに突入するな。」


 と船はそのまま唐の艦隊の真っ只中に突っ込んでいく。当然唐は猛烈に攻撃を加えるが…


「わが策はなった。中華の大軍を倒すにはやはりこの赤壁の戦いのやりくちよ。」


 と言った眼の前で船は大爆発を起こした。


 船には製造がちょっと上手く行かなくて質があまり良くない火薬や金属製品、陶器などをバラバラに積み込んでいたのだ。


「赤壁って…火攻めですが孔明でもあんなに派手には燃やさなかったでしょうよ。」


 と船は繰り返し爆発を起こし、飛び散った出来損ないの青銅器や陶器が飛び散って周りの唐の兵や船を傷つけていく。


「お、火が唐の艦隊に燃え移りましたな…なんですかあれは…あんなに燃えるはずがない…」


 と安曇比羅夫。


「あれこそが我が秘策。藤原鎌足に手に入れてもらった燃える水…石油だよ。」


 そう、例の船には爆薬とともに石油が積んであったのだ。


 藤原鎌足に無理やり泣きついて越(新潟)を制圧してもらった俺は、そこの特産の燃える水、すなわち石油を持てる限り大量に持ち帰ってもらったのだ。(おかげでひどい目にあった、と油まみれの鎌足に後で泣きつかれたが)


 その石油を例の有間皇子が山城に建てた方広寺の廃寺の大鐘を溶かして作った蒸留器とを用いて、軽量な油、ナフサやガソリンの類を製造したのだ。もちろん厳密に圧力や温度調整していないからほんとうにナフサになっているかは分からぬ。けど重油と軽めの油に分離できたからまぁ十分。それを有間皇子が大仏建立用にかき集めていた資材で作ったドラム缶に詰め、例の船に搭載していたのだ。ちょうど船が爆発したらふっとばされやすいように上に並べて。(唐の火矢で燃える危険はあったがまあそれはその時で派手に炎上すれば威嚇効果はあるかな、と。)


 俺が悪い顔をしてどっかの月っぽい英雄を気取って


「計画通り」


 とニヤリとしてみせた背後で、吹っ飛んだドラム缶やその破片は船に群がっていた唐の艦隊に次々に燃え広がった。


 前進して活路を見出そうとした残る船は神武級の砲の餌食となり、いよいよ唐軍の逃げ口は陸の方に交代する他ない、と思われた。


 その時である。白村江の脇に設置された、つまり砦から火が上がったのは。


「おお、先に南方で上陸させておいた大伴吹負が率いる武士隊が予定通り落としましたな。」


 とまた


「計算通り」


 とポーズを付ける俺。


 こうして陸に上がろうとした兵は川岸の砦から弓を雨あられと降らせれて斃れ、海は火の海となった。


「鞍作よ…この炎は我々の先行きを照らす光となろう!」


 と甲板に出てきた宝女王様。おいおい、ちょっと調子に乗りすぎですよ。


 しかしこうして劉仁軌率いる唐の艦隊は壊滅し、大陸軍は白村江から上陸した。

 そのまま熊津に進み、包囲していた唐軍を撤退させた。俺たちは百済救援作戦を成功させたのだ…と思ったらそこには扶余豊璋の姿はなかった。


「唐に包囲されてすぐ豊璋様は脱出されました。高句麗に向かうと。」


 ぽかん。とする俺たちだったが、


「ま、いいか。いずれにせよ豊璋に任せる気はなかったし。」


 と気分転換をしたのであった。


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