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大陸軍、出陣する

 新羅や百済再興軍との交渉に失敗した俺は筑紫に帰ると大陸軍の編成を下知した。扶余豊璋の蜂起に対して劉仁軌は兵を集めて熊津を包囲し、白村江に軍船を並べて封鎖していると言う…まるっきり白村江の戦いだな。


 唐の総大将の蘇定方も高句麗に差し向けていた軍勢を返して熊津攻略に向かい、新羅の文武王に軍を出すように命じた(新羅はこの時点では唐の冊封を受けている。)


 新羅は名将金庾信を出陣させ、東方から周留城に立て籠もる百済の名将黒歯常之を包囲する構えを命じた。その兵力は推定で唐15万、新羅5万。


ここに日本の援軍が向かうのである。

そもそも史実の白村江で負けたのは日本側の総大将が武人としては優秀だが家格の上では低い安曇比羅夫となっており、各自がきちんと命令を聞かなかったためにてんでバラバラに戦ったことにあった。よってちゃんとした、すわなち皇族の総大将を立てる事が必要なのである。


 そのため今回の遠征で日本はその大陸軍の総大将にシュウ…じゃなかった古人大兄皇子が立てられたのである。


 当然ながら天皇陛下(中大兄皇子)が自ら親征する必要はないので、陛下は福岡城の本営に留まることとなった。そして征夷大将軍藤原鎌足はその名称的には出撃してもおかしくなさそうではあるが、万が一別の経路から唐などが攻め寄ってくる可能性も考えられる、ということでこちらも国内に残り、守備を固めることになったのである。


 そして大海人皇子は大陸軍でも多くを占める九州の兵を率いるのに妥当、と見做されたがこちらも国内に残ることになった。一つは母である上皇(宝女王)が異国の戦いに出すことを反対したこと(大海人皇子は宝女王の秘蔵っ子である)、もう一つは天智天皇が大海人皇子が多大な戦果を挙げた場合の名声を恐れた、とも言われる。


 大海人皇子は九州からも引き離され、九州の諸族に対応する皇族としては栗隈王が大宰府に残って行うことになった。そして大海人皇子は飛鳥京にかえってそこで備える事になったのであった。


 遠征する大陸軍は先に書いたように総大将は古人大兄皇子が勤め、実際に軍を動かす軍監として史実で遠征軍の大将だった阿倍比羅夫、そして白村江の戦いで指揮をとった安曇比羅夫。それから九州の豪族を代表する筑紫薩夜麻や武門の家大伴家からは大伴部博麻などが出た。このあたりの史実でも出陣した面々に加えて大伴家からは先日亡くなった氏上大伴長徳に代わって大伴吹負が出陣し、東漢氏から坂上弓束、と数多くの部門の家から軍を出し、まさに総動員の様相を呈していた。


その軍勢を送る艦隊は超大型ジャンク船…その上層が3層に積み重なった姿はどちらかというと安宅船っぽい雰囲気にすらなっていた…『神武』級8隻がそれぞれの艦隊の中核となり、付随して中小の軍船が取り巻いていた。神武級は大砲を片舷8門ずつ、計16門を搭載しており、また主砲より径の小さい小型の砲も上層に8門ずつ搭載していた。


それとは別に孝徳丸級高速艦も4隻投入され、こちらは付いてこれる船がいないためにこの級のみで一隊とされた。


 そして原始的な戦列艦といってもよさそうな神武級の艦隊とは別に神武級よりも巨大な船体を晒している一隊があった。上皇陛下をお迎えするために建造した斉明丸を兵員・物資輸送用に改装した設計を持つ仁徳級である。数百の人員と大量の物資を輸送でき、荒天にも強い仁徳級であるが、速度は出ない。故に孝徳丸級や神武級の艦隊を先行させ、その後に輸送隊として続くことになっているのである。


「しかし壮観な艦隊ですなぁ。」


 と港から眺めて感嘆しているのは安曇比羅夫である。


「この艦隊の指揮、貴殿にかかっている。」

「太閤殿下には色々方策を教えていただきましたから、後はそのとおりやるだけです!」


 と胸を叩く。


「ところで殿下、あの仁徳級の艦隊に付き従う異形の小舟はどうようもので。」


 と指差す。


「うむ。あれらの船こそが今回の遠征での肝にあたるのだ。」

「あれらの船は帆の張り方などは太閤殿下の言う『洋船』の様式ですな。甲板に砲も積んでいますが、神武級などと違って甲板の上に乗ってますな。そもそも船体がえらく薄い。」

「そう。あの船は上半分は孝徳丸などのような洋船の用に見えるが、下は箱型をした和船の作りになっているのだ。喫水が偉く浅い。」

「おかげで脆そうで持っていくまでは一苦労しそうなのですが…あれが今後必要なのですな。」

「むしろあれこそが我らの勝ち筋。」

「となれば大切に届けましょう。」


 それらの喫水の浅い船はいくつかの様式で作られ、その最も多いものは双胴船であった。この時代本来の船は丸木舟の上に木組みで構造を作った純構造船である。このカタマラン(双胴船)はその様な大きな丸木舟2艘の間にデッキを作り、そこに帆と大砲を設置していた。


「あれだと小回りはききにくいが安定性と積載は優れているのだ。」

「何に使うかは着いてから伺いましょう。」


 こうして俺たちは朝鮮半島、白村江に向けて出港した。俺は神武級の一隻崇神に乗り込んだ。…そこには宝女王の姿が。


「へ、へいか!なぜここに?これから向かうは戦いの地でありますぞ。」

「ふん。また鞍作を行かせて浮気でもされたら癪に障るからな。それとお前を口説いた女の顔も見てみたい。」

「長安まで攻め入る気はありませんぞ!」

「ふふふふふふ。」


 …こりゃ少なくとも白村江で負けるわけには行かなくなったわ。



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