宝女王、大日本帝国の樹立を目指すことを誓う
いつも読んでいただきありがとうございます!
有間皇子が播磨王になったぐらいから登場人物のみなさんが作者の想定を離れて
好き勝手するようになってきてしまいました。作者にも着地点がわからないですが、
登場人物のみんなの勢いに任せて突き進みます!
時は少し前に戻る。新羅から唐を旅してここ、筑紫の鴻臚館に帰り着いた俺の胸に上皇陛下宝女王が飛び込んできた。
「林太郎!長いこと会えなかったから寂しかったぞ!」
鞍作ではなく林太郎の名で呼ばれたのは久しぶりだ。それだけ寂しかったのかもしれない。
しかしこの女60代も後半なのだがどう見ても40そこそこにしか見えない…今風に言うと美魔女?でもうっかり
「40代に見える。」
とか本人に言うとこの時代だと40代は老婆の類になりかねないからぶっ殺されると思う。くわばらくわばら。
胸に顔を埋めていた宝女王だが、なんかいきなり、クンクン、と鼻を鳴らしはじめる。
上皇様は犬か。
「…鞍作…そち海北で浮気してきたじゃろ。」
呼び名が鞍作に戻っている。え?武則天のところでしっぽりしてきてから優に二月近くはたっているのだが。思わず俺は臭うのか?という感じで袖を嗅ぐと
「やはり図星だったか!しかもその様子、暇を紛らわすためにそのへんの遊び女を買ったのではないと見た!」
…ヤバい。女の勘は尖すぎる。
「ふん。やはりそうか。とりあえず話はこの滾るものを沈めてから聞かせてもらおう!!!」
「あら、そんなご無体な!おやめになって冷静に!ああ!」
と俺は冗談にしてごまかそうとしたが、そんな小細工が効くはずもなく、俺は寝台に押し倒されてしまったのであった。
…窓からさす太陽が黄色い。…真っ白だ…俺は真っ白になったぜ…
と特大の賢者タイムに浸っている俺に宝女王は手を緩めずに尋問してきた。
「…ふむ。そうか。てっきり新羅の女官でも懇ろになってきたのかと思えば、相手は唐の皇后とは。お主何か。お主の食指が動くのはどこかの皇后限定なのか?」
そんな事を言われても。ねぇ。
「でもってその皇后も今の皇帝が倒れれば皇帝にでもなりそうだと?ん?どっかで聞いた話だな。」
はい。宝女王さまそのまんまであります。
「ふふん。ということは『皇后喰い』ではなく『将来の女帝喰い』か。なんとも恐ろしいやつだな、お主は。」
ですから俺の自由意志ではありませんってば。
「ふーむ古の神功皇后もお前の前に出現したら抱かれてしまいそうだな。」
「そんな事を言われても困りますってば。」
「ははは。この女帝収集家めが。」
と突いてくる。
「お前の目に叶うほどの女ならば私に匹敵する程の大した女傑なのだろう…」
「では許していただけるので?」
「それとこれとは話が別じゃ!」
と外には『太閤鞍作は唐から帰った疲れと船酔いが治らず静養する。面会謝絶見舞いも不要』と通告を出され、俺は
「あちらが三日三晩なら一週間は離さぬ。」
と鴻臚館から出られずにお相手を勤め続けることになったのであった。
こうして俺は太陽が黄色すぎて目も向けることも出来ないほど出しガラになり、隣で寝息を立てている上皇さまはツヤッツヤのツルッツルになっていた。
しかし今回ばかりは中大兄皇子に譲位がすんでいてよかったぜ。まさか天皇陛下が一週間も引きこもっていることは出来なかっただろうからなぁ。
それから起き出してきた宝女王は毅然とした顔をして俺に言った。
「決めた。」
「上皇様なにを?」
「うむ。向こうが大唐の(まだ正式には即位してないけど)女帝と言うならこちらはそれに対抗するまで。」
「は?」
「鞍作よ、妾は決めたぞ。兵を率いて三韓を平らげ、高句麗を越えて靺鞨、契丹、突厥を平らげ、大唐帝国と並ぶ『大日本帝国』を作り上げるのじゃ!」
「上皇…いえ宝女王さまそんな無茶な。」
「鞍作よ!お主の作り上げた艦隊と侍たちならそれも成し遂げられよう!」
「いや侍は精強ですが、唐の軍勢は少なく見積もっても30万はおりますよ!こちらは5−6万も送れれば上々かと。埒が明きませぬ。」
「埒が明かないなら明けよ!馬を引け!目標、大唐帝国首都長安じゃ!」
盛り上がる宝女王。よし。こうなったらこの人のために覚悟を決めねばならないか。
「解りました。しかしそのためには準備をさせていただきたく。」
「艦隊ならそろっておろう?」
「溜め込んだ硝石があれば日本は10年は戦えましょう…しかし広い大陸で戦うためにはそれだけでは足りませぬ。」
と俺は山がちな日本ではない広大な大陸で戦う為の方策を宝女王に話し、彼女はその話を目をキラキラさせながら聞いていた。まったくどこのロリババアじゃこの方は。
こうしてイカ臭い部屋で密談を尽くした俺達は、場所を福岡城の本営に移して今上帝(中大兄皇子)、藤原鎌足(ようやく越攻略から帰った。)、シュウ…じゃなくて古人大兄皇子らと共に我が策を話し合った。
それから大陸での戦法に対応するため、急遽侍や部門の正規兵から騎乗に優れた者たちを選び出し、新しい戦術を学ばせた。
「…この振り返りざまに後方に矢を放つのは難しいですな!」
と侍大将を勤める朴市秦田来津が言ってくる。
「しかし広い草原で優位に戦うには皆がこれを自在に使いこなせなければならぬ!」
と俺は厳しく皆がマスターするまで月月火水木金金の精神で修練させた。
騎乗して馬を走らせながら後方に弓を放つ方式はパルティアンショットと呼ばれ、騎馬民族パルティアがよく用いてローマ兵を苦しめたことで知られる。
…そしてパルティアンショットを使いこなしたもう一つの民族がいた。蒙古、すなわちモンゴルである。中華平原の大軍を相手するにはモンゴル帝国の戦術こそが最も有効である、と考えた俺はこうしてパルティアンショットを始めとする技法を徹底的に叩き込んだ。
「…仕上がりましたな。目には見えずともこの矢の飛ぶ音で分かります。」
とシュウ…にしか見えない古人大兄皇子がうなずいた。侍たちは今や騎乗のまま自在に弓矢を操るようになった。艦隊も準備が整い、船倉には積めるだけの硝石などの物資も詰め込まれた。
「うむ。時は来た。今こそ海北に乗り出すぞ!」
俺の号令で遂に大陸軍は出航することとなったのである。




