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鞍作、武則天に逢う


 それからしばらくして、唐の皇帝にお目通りが叶うことになった。この時の皇帝は布施での英雄太宗李世民の次の高宗のはずだ。朝堂に着くと、俺は御簾の前に平伏した。


「数多くの絹や金、あの日本刀とやらいう刀など多くの貢物を持ってきた倭の使者とはそなたか。」


 (※古代中国語です。主人公のチート能力で言葉大丈夫と本人思い込んでいるので普通にやり取りしてます。)御簾の中から高い声がする。女性だ。


 皇帝が自ら答えるのは恐れ多い、ということでお付きの女官か宦官に答えさせているのだろう。


「は。日本国の天皇から大唐の皇帝陛下に恐れながら貢物を捧げます。」

「にほん?のてんのう?そなたらは倭のものではないのか。」

「先の女帝が国号を日本にあらためまして。」

「まあよい。」


 即刻返事が来る。この女官、よほど皇帝の意を汲むのが速いのか。


「それよりも『天皇』の方だ。これは日本とやらが我が大唐と同等ということを言いたいのか。」

「いえ、陛下。恐れながらそれは違います。」


 と俺は続けた。


「あくまでも日本が名乗っているのは『天皇』であります。釈迦に説法ではありましょうが、中原には古く三皇五帝がおりました。」

「ふむ。よく勉強しているようだの。」

「そして秦の始皇帝が皇と帝をあわせて『皇帝』となり中華の帝王は代々皇帝を名乗っていらっしゃるわけですが、『天皇』には皇、しかありません。」

「それで?」

「すわなち天皇、には他の諸王よりは優位である、ということを示すと同時に皇帝よりは一歩下がる立場だ、ということを表明しているのであります。」

「うーむ。なかなか面白いことをいう。ところで本題は?」


 …とりあえず天皇称号問題はお許しをいただけたようだ。


「韓半島についてですが、陛下は先年、百済を滅ぼしました。これは百済王の不徳と皇帝陛下の聖意によるものです。」

「同盟国の百済をそこまで悪しく言ってよいのか。まぁそなたは新羅の先王の友人だと聴くが。」

「御意。しかし僭越ながら申し上げますと唐の軍勢は百済の故地で略奪や強姦を行い、そのため百済再興軍が起こってしまいました。」

「まったくもって下々の者のなすことには頭がいたい。それでそなたはどうせよ?と。百済から引けと?」

「それは無理でございましょう。再興軍…唐から見れば叛乱軍でしょうが、は日本に新しく百済王につける王子を送ってほしいと言ってきました。」

「それでその王子を旗頭に我等と戦になるのであろう。」

「それは私は下策だと思います。どうして日本が大唐に歯向かえましょう。

故に百済の都督に百済の先王の長子、扶余隆殿を送っていただき、軍の狼藉を取締って民衆を慰撫してはいかがでしょうか?」

「ふむ…それは興味深いな。」


 と言った後、御簾の中の人物はしばらく考え込んでいるようであった。それから


「そなたの言うことは面白い。この場はここで一旦終わりとしよう。使いの者を送るから夜再び宮殿に来るがよい。」


 ひとまずこの場で首が飛ばずにすんで安堵するとともに夜もう一回相談かぁ。宴でも開いてくれるのかなぁ、と思って宿所へ戻ったら、夕方『皇帝陛下から下賜されました。』と普通にゴージャスな夕食が出た。こりゃ行くのは明日に延期かな?と寝台で足を伸ばそうと思っていたら


「皇宮からの使者でございます。」


 と昼より幾分地味な感じの官吏が来て、


「此度は鞍作様お一人でいらしてください。」


 と呼び出されて馬車に乗せられた。最悪密かに誅殺かも、とガクブルだったが、

馬車は無事に宮殿に入り、武器を取り上げられ、宮殿の深く、深くに連れて行かれた。


 そして通された部屋にはさすがは唐の皇居らしい豪奢な寝台があり、その前に椅子と机が置かれていた。向こう側の椅子には歳20代ぐらいに見える美女が座っている。スラッとしていて本当に絶世の美女だ。


「鞍作か、そこに座れ。」


 と命じられて俺は机の手前の椅子に座る。いつの間にやら連れてきた者もいなくなっていて人払いされていた。


「これは先程御簾の中からのお声の方でしたか。これほどまでに美しいとは。しかしここは唐の後宮でありましょう。女官の方が私のようなものを入れても良いので?」

「女官とな!」


 と言って美女は激しく笑い出した。笑いすぎて転げ回ってこっちが心配になったほどである。


「にょ、にょかんか。まぁ知らなければ無理もない。わらわは皇后の武照じゃ。」

「武皇后様とは!」


 といって俺は慌てて椅子から飛び降りて平伏する。


「良い、頭をあげよ。先程言っていた百済に都督として王太子を送る案、使わしてもらおう。」

「はっ!」

「しかしどのようにしてその案を思いついたのだ。」

「これは『三方一両損』という仕組みなのです。唐は百済を完全に消滅させることを諦めるので一つの損、しかし百済は手にはいりますから得、百済は唐に支配されますから損、しかし旧王家の元に平和に支配されますから得、新羅は百済を手に入れそこねて損、しかし百済の叛乱軍を抑え、唐とも関係をうまく保てて得、と。」


 …ふふふ。これでうまくすれば白村江の戦いは避けられるやもしれん。これが今回の旅の目的だったのだ。後は百済に残っている再興軍の内有能な人とかどうしても唐に従いたくない人とかを日本に回収すれば皆ウィン➖ウィンだぜ。


「そのウィンウィンというのはなんだ?」


 しまった口から出ていたか。


「鞍作よ、先年広州に巨大な船が現れ、何やら荷物を積み込むと煙を吹き上げて風のように消えていったという話があった。」


 う。有間皇子にパンダを届けてもらったときかもしれない。


「その後安南の南方の島々で播磨王なるものが島を平定してまわっているという。」


 おお、播磨王=有間皇子かつやくしているのか。俺は思わず嬉しくなって口角が緩んだ。


「やはりお主の仕業か。」


 げ、お見通しだ。武皇后といえば後に武則天、則天武后と言われ、謀略を尽くして敵を排除した後自ら皇帝に就いた女傑である。これは命のピンチかも。


「さらに達磨大師を招いて寺を建て、三蔵の所に行って経を求めたというのもそちか。」

「ははっ!陛下のお見通しのとおりでございます!」


 と俺は土下座した。


「…ふふふ。わらわは仏法を大切にしておる。皇帝陛下は道先仏後(道教を仏教より優先する)と言っているがわらわは仏先道後こそが世を救うと信じておる。鞍作、そちの仏法に対する思い、わらわは愛おしく思うぞ。さらにこれまでの様々な所業、妾はその様な強く優秀な男を愛おしく思うのだ。」


 というと武皇后陛下はいきなり服を脱ぎだした。


「へ、陛下。皇帝陛下は。」

「おお、皇帝ならばしばらく前から行脚に出ておるぞ。今頃荊州のはずだ。だからそちの相手をわらわがしていたのではないか。」


 と言ってすがりついてきた。


「わらわを満足させればよし、させなければ…わかっておるな。」


 と俺達は豪奢な寝台の方に倒れ込んだのであった。


 ええ。頑張りましたよ。だって頑張らないと間違いなく処刑されますもの。

 そりゃもう『おお、ゴルゴ。』とよく出てくるシーンを目指すレベルで。


 こうして俺は三日間宮殿に留め置かれた。これ誰かが密告していたりしたら凌遅刑ものだぜまじで。


 しかし武皇后の権勢はこの時点で最大のライバル宰相にて名将軍長孫無忌を排除した後であり、誰もがこの秘め事には目を背けてなかったことになった。


 そうしてげっそりとした俺とプルンプルンに肌を輝かせた武皇后(後で確認したら20代じゃなくて30代だった。)は名残惜しくも別れたのであった。


 公的には唐との外交ラインを確保した上で『日本』と『天皇』の称号を認めさせたので俺的には成功だったぜ。太陽が黄色いけど。


 こうして唐での役割を終えた俺は玄奘三蔵法師に頂いた経典をお土産にして一旦懐かしい日本の筑紫博多港に帰り着いたのであった。


 …後で聞いた話だが、武皇后、キッチリ十月十日後に珠のような皇子様をお産みになられたそうだ。…俺の覚えている範囲だとそれって後の皇帝睿宗えいそうになりそう…。

ちなみに睿宗といえばあの有名な最初名君だけど後で楊貴妃に溺れて国を推戴させた大皇帝玄宗の父にあたる…。


 玄宗が俺の孫、なんて絶対ありえないからやっぱり今いるのはVRゲームなんだぜ、と俺はあらためて思い直したのであった。


というわけでタイトルが逢う、なのは誤字ではないのだよ。そういえばこの主人公初の子供だわ。

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