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両親を殺した男の妾になる

十八の春。あの男の妾になった。


香を焚き染めた部屋に、白く透ける寝具が整えられている。


――両親を殺した男の妾となる夜。


ユウは鏡の前に座り、唇を噛みしめていた。


背後では乳母のヨシノが、深刻な顔をしながら黄金色の髪を梳いている。


あの男に抱かれるために、何もかも美しく整えられなくてはならない。


鏡に映る青い瞳は怒りと悔しさに燃え、なお強く輝いていた。


「・・・必ず、復讐してやる」


殺したいほど憎い男に抱かれる。


その屈辱を飲み込む代わりに、ユウは誓った。


この身を捧げても、最後には必ず報いを受けさせると。


「ユウ様、お支度を・・・」

ヨシノが控えめに声をかける。


ユウは黙ってガウンを脱ぎ、透ける白の寝間着に袖を通した。

紐を解けばすぐにほどける衣。

想像するだけで胸が締めつけられ、息が詰まる。


あの男――キヨ。


三十二歳年上の男。


痩せた身体に、不釣り合いなほど大きな目をしている。


その視線は、昔から執拗に私を追っていた。


両親を殺し、城を奪い、今度はその娘である自分を妾にしようとしている。


「ヨシノ」

ユウは目を閉じ、怒りを抑え込みながら言った。


「シュリを呼んで。少しでいいの」


ヨシノの顔に動揺が走る。


ーー乳母子であるシュリを、こんな姿のユウのもとへ。


だが、必死な眼差しに抗えず、彼女は頷いた。


しばらくして、十八歳になった青年シュリが部屋に現れる。


母と同じ優しい茶の瞳を持ち、幼いころからユウに寄り添ってきた。


「お呼びでしょうか」

深く頭を下げる彼に、ユウは「顔を上げて」と声をかける。


透ける衣の胸元を見て、シュリは思わず息を呑み、視線を逸らした。


それでもユウは一歩近づき、微笑む。


「シュリ・・・今までありがとう」

その声は悲しみに震えていた。


「・・・とんでもございません」

彼の瞳も切なく揺れる。


「あなたがそばにいてくれて、どれだけ助かったか・・・」

父を、兄を、母を奪われたときも、シュリはずっとそばにいた。


「もう私は姫ではない。あの男の妾になるの」

ユウは震える声で言い切ると、シュリの手を握った。


「幸せになってほしいわ」


「ユウ様・・・!」

シュリの顔は切なそうに歪む。


ーー行かないでほしい。


彼の顔には、そうハッキリと出ている。


その願いを断ち切るように、ユウは彼の唇に口づけを落とした。


名残の吐息が震え、シュリの瞳が大きく見開かれる。


唇に残る温もりが、彼女を縛る最後の糸だった。


「ヨシノ、終わりました」


ユウは彼を見ずに立ち上がり、静かに扉を開ける。


「それでは行ってくるわ」


少女として最後の言葉を残し、廊下を歩き出した。


これから先、シュリはもう自分のそばにはいられない――そう運命づけられているかのように。


向かう先は寝室。


あの男が待つ場所。


心臓が張り裂けそうに高鳴る。


――必ず報いを受けさせる。


言葉にしなくとも、その握りしめた指先が誓いを物語っていた。


――あの男の粘りつく眼差しを、またこの身に浴びねばならない。


ユウは扉の前で立ち止まり、冷たい取手に手をかけた。




雨日です。よろしくお願いします。


◇登場人物メモ(第1話時点)◇

※物語の進行に合わせて更新していきます。


・ユウ → 本作の主人公。十八歳。両親を殺した男・キヨの妾となる夜を迎える。

・シュリ → 乳母子の青年。幼い頃からユウに仕えてきた忠実な従者。

・ヨシノ →乳母。ユウと妹たちを支える母のような存在。シュリの母親

・キヨ →セン家を滅ぼした王。ユウの母にかつて執着していた。


※本日は初日につき、3話更新いたします。

(9:20/12:20/20:20)


次回――本日の12時20分

「妹たちを守って」と託した母の願いが、ユウの運命を動かし始める。




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