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ピクニック

「お兄ちゃん元気出てきたみたいで良かった〜」


 私、前原心愛はつい顔を(ほころ)ばせる。というのも、自慢のお兄ちゃんが少しだけ立ち直ってくれていたためだ。


 昨日の大会が終わった後、お兄ちゃんはそれこそ魂が抜けた抜け殻みたいになっていた。お兄ちゃんがあの大会にどれだけ思い入れをしていたのかは私達家族も良く知っている。だから、気軽に慰めの言葉なんてかけられなかったし、見守るしかなかったのだ。


 昨日の夜はろくに話せなかったし、とても心配してしまった。いつも笑いかけてくれて頭を撫でてくれるお兄ちゃんがすごく落ち込んでた。そのお兄ちゃんに対して、私がしてあげられることなんかほとんど無い。それがとても悔しくて。


 だから、朝お出かけする前に様子を見に行くことにした。


 すると、まだいつも通り、という訳には行かないみたいだったけど少しだけ元気を取り戻している様子だった。


 とっても安心した!

 これで気兼ねなくののちゃんと愛菜ちゃんと遊びに行けるのだ!


「よーし!いっくぞー!」


 夏の猛暑もなんのその。雄叫びを上げながら私は今日のピクニック予定場である駅近くの公園へと向かった。



* * *



「ののちゃん!愛菜ちゃん!」


 駅の時計塔のベンチに座っている2人を見つけた私は一気に駆け寄る。


「あ、心愛ちゃん。こんにちはっす」


「こんにちは心愛ちゃん!」


 あ〜今日も2人とも可愛いなあ。ちっちゃくてチョコチョコしてて……。って私もちっちゃかった……。まあ兎に角!この子達はとっても可愛らしいのだ!


 速水愛菜ちゃんはウェーブがかかった茶色っぽい黒髪を後ろで纏めている。面倒見が良い性格だ。あと、なんと言っても特徴的なのは、『〜っす』という語尾だと思う。本人は『癖っす』と言っていたけど。可愛いなぁ。


 早乙女ののちゃんは、黒髪のボブカットだ。アホ毛というらしいのだけど、髪の毛が1本頭のてっぺんよりちょっと下辺りからピョコっと立っているのだ。まるで生物みたい。1人称は『ボク』。男ウケはあまり良くないらしいのだけど、私はとっても可愛らしいと思う。


「待たせちゃってごめんね?じゃあ早速行こう!」


「「おーっ!!」」


 私たち3人は一斉に腕を天へと掲げる。

 ピクニックに、いざゆかん!!


* * *


「それでお兄ちゃんはどうっすか?」


「昨日は大分落ち込んでたみたいなんだけど、朝は思ったより大丈夫そうだったよ!」


「良かったあ。ボク昨日心愛ちゃんにお兄ちゃんのこと聞かされてからずっと心配してたんだよ〜」


 3人揃って歩きながら雑談する。

 駅から公園まではすぐ近くなので数分程で着いてしまうんだけど。


 ふふふ。今日は3人でいっぱい語り合うのだ?

 何をかって?それはもちろん、お兄ちゃんについて!マイビューティーブラザー!ふぉう!


 ……なんかテンションおかしくなっちゃった。こほん。とにかく、お兄ちゃんについていっぱいお話するのだ。すごく楽しみ!


「どの辺でやるー?」


 そんなこんなをしていると、いつも間にか公園に着いていたみたいだ。

 人がチラホラと見える。犬のお散歩をしてる人、キャッチボールをしている人、本を読む人。ただ数は少ない。この分だと、好きな場所でピクニックをすることが出来ると思う。


「ん〜やっぱり真ん中の噴水近くっすかね?」


「うんうん!暑いし、水の近くって涼しい感じがするからそれがいいよね!」


 とのことなので、噴水の近くの芝生にさっそくレジャーシートを敷いていく。日焼けは嫌なので勿論木陰で。黄色とピンク色でデザインされており、とても可愛くてお気に入りの逸品だ。縦横1.5メートル程の幅で、3人なら丁度いいくらいだと思う。


「さて、まずは何をするっすか?時間はたっぷりあるっすよ」


 全員が腰を落ち着けたところで、愛菜ちゃんが口を開く。


 ん〜何しよっかな。ご飯はもう少し経ってからがいいし、何かゲームとか?トランプ持ってきてるけど……。あ!いいこと思いついた!


「ねぇねえ」


 思案顔の2人に声を掛ける。今の私は傍から見れば凄く良い笑顔に違いない。


「どうしたの?心愛ちゃん。何か思いついた?」


「うん!いいこと思いついたよ!私トランプ持ってきてるんだけど、今からババ抜きしよう。それで、1抜けした人はお兄ちゃんに好きなことお願いできるの!何でもいいよ!お兄ちゃんがそれを叶えてくれるかは分からないけど、私からもお願いしてあげる!どう?」


「「やる(っす)」」


 返事はや!?

 どんだけお兄ちゃんのこと好きなの……。

 ふふん、でもこの勝負は私が勝たせてもらう。それで2人にも一緒にお願いしてもらうんだ〜。


「では……」


「「勝負!!」」


 戦いの火蓋は今、切って落とされた。

 私達は皆欲望に忠実に生きる者。他者を蹴落としたとしても、友人を(あざむ)くことになったとしても、私達はただ貪欲に勝利だけを求めて。


 さあ!!!行くぞ!!!


* * *



「勝ったー!!!」


「「ぐふっ……」」


 騙し、騙され、時には協力をする。そんな厳しい戦いは終わりを告げた。己の身命を賭して戦い抜いた先の勝者とは。


「私の勝ちっす!!」


 はい、負けました。

 うわああああああ!!こんな筈じゃなかったのに!!私ババ抜き得意なのに!!


「「……」」


 私とののちゃんはレジャーシートに倒れている。お兄ちゃんへの愛が……。私のお兄ちゃんへの想いがこんな所で終わるわけない……。


「ボク……悔しい……」


 ……言うな。私も悔しいよののちゃん。私が勝ったら、お兄ちゃんにこれから毎日一緒に寝てもらうつもりだったのに。夢のマイライフが(つい)えてしまった。


「ボク、お兄ちゃんにおっぱい大きくして欲しかったのに(ボソッ)」


 ののちゃんが小声で呟いた。

 

 !?

 ののちゃん!?なんて!?おっぱい!?どのように!?どのようにして大きくして欲しいの!?詳しく説明して!!!


 親友の衝撃の言葉に動揺が全く隠せない。この子は女の割にそっち系が苦手で、あまり卑猥な話はしないのだ。それなのに今の発言。はっきり言って超ビックリした。

 

「ふふふ。何をお願いしようっすかねぇ」


 愛菜ちゃんが極悪人の顔になっている。

 一体何をお願いするつもりなんだ。


「決めたっす。私はお兄ちゃんにチューしてもらうっす!!!」


「「チュー!?」」


 『ピシャァ!』と私とののちゃんに雷が落ちる。何と。そこまで踏み込んだお願いをするつもりなのかこの子は。


「ほ、ほっぺに」


「「ほっぺ!?」」


 ほっぺかい!上げて落とされたよ!


 いや確かにほっぺにチューでも破格のお願いだけども。どうせなら、と思ってしまうのは女の性だろうか。もしかしたら、さ、最後まで……とか……きゃーーー!!!

 ダメだよ心愛。お兄ちゃんでえっちなことなんて考えちゃ。……はわぁ。


 こうして私達は楽しくも騒がしい時間を過ごした。それはとても有意義でかけがえのないものだったが、この後あの事件に繋がるのだ。



* * *



「疲れた〜」

 

 その後私達は、ボール遊びや恋バナ。現代っ子らしくスマホゲーム対戦など様々なことを遊び尽くした。この猛暑の中だ、汗で服が肌に引っ付いてとても気持ちが悪い。


「あーー風が気持ちいいっす」


 そのため今は木陰で夏の心地よい風を堪能している。3人で川の字に寝転がり笑い合う姿は、『青春』って文字がぴったりなのかもしれない。私はまだ若いけど、いつかののちゃんと愛菜ちゃんとこんな風に遊べなくなっちゃうのかなあ。それはとても寂しい。


『クゥー』

 

 少ししんみりした私だったけど、体は正直で。お腹から珍妙な音が鳴ってしまった。


「心愛ちゃんは食いしん坊だなあ」


 ののちゃんが手で口を抑え、笑いを堪えながらそう言う。


「ち、違うよ!いっぱい動いたから!」


 う〜恥ずかしい。こんなみっともない所はお兄ちゃんには絶対見せられない!!聞かれたのがののちゃん達で良かった。今度からは気を付けよう。


「じゃあそろそろご飯にするっすか」


「う、うん!そうしよ!私のお弁当袋可愛い……あれ?」


 待ちに待ったお弁当タイムということで、リュックからお弁当を出そうと思ったのだがそれらしきものが見当たらない。


「あれ……あれれ?」


 ガサゴソと中を漁ってみるも、結果は変わらず。もしかして……家に忘れてきた?思い返して見ると朝慌ただしかったし、机の上に置きっ放しにしてきてしまったかもしれない。


「どうしたの?心愛ちゃん」


「うぅ……。お弁当忘れてきちゃった」


「ええー!私達のおかず分けてあげよっか?」


 ののちゃんの優しさが傷心に沁みる……。頷いてくれている愛菜ちゃんもありがとう……。でも……。


「いやでも2人のご飯減っちゃうし、大丈夫だよ!お母さんに電話してみる!」


 2人に迷惑をかけるわけには行かないからね。お母さんにどうすればいいか電話して聞いてみよう。


「そう?分かったよ」


「うん!ありがとね」


 このおっちょこちょいな性格を早く治したいものだ。お兄ちゃんと結婚するためには、お世話を何でもしてあげる完璧な女性にならなければいけない。よしっ!


 自らを奮起させた私は、取り敢えずお母さんに連絡をしようとスマホを取り出す。


 その時。



「あ〜?おいおい丁度よさそうなヤツらがいるじゃねえか。コイツらでいいか?」


「いいんじゃね?すぐ壊れそうだけど」


「どうでもいい。早くするぞ」



 男の人が3人私たちの目の前に現れた。見た所高校生くらいだろうか。   


 誰?何この人たち?疑問はあるけど、普通の女なら喜びに震えるところなのかもしれない。ましてや3人のうちの1人は、お兄ちゃんには全く及ばない程だけどとても顔が整っている様子。


 でも私はこの人達にとても嫌な予感を覚えた。絶対相容れない。一瞬でそう思った。


 隣に目を向けると、ののちゃんと愛菜ちゃんも何処か怯えている様子だ。やはり本能的にこの男の人たちは危険だと感じているのかもしれない。


 何か怖い。


 私達に何の用なんだろう。


 怖い。


 助けて。




 お兄ちゃん。

もうすぐ100話ですね。いつもありがとうございます。

100話記念に何か出来たらなーなんて思ってます。

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