四天王(笑)
「いってきまーす!!」
今日は寒威が厳しい。
『ガシャンガシャン』とシャーベット状の積雪が、俺の歩調に合わせて音を奏でる。太陽の光を反射し煌めく雪は情緒がある、気がする。
息が白い。
寒さのあまりに、鼻の奥がツーンとする。
学生服の上からコートを着込んでも尚寒く、思わず嫌気がさす程。
しかし俺はこの季節が大好きである。理由はー、んー。クリスマス、正月があるでしょ?花粉がないでしょ?雪が綺麗でしょ?
……そんな感じ。
「さみぃ〜。雪で電車止まってないといいけど」
季節は冬。
あの夏の中学校の同窓会から、半年がたった。
* * *
「莉央ちゃん、美沙おはよ!」
「仁君おはようございます」
「おはよー仁!」
いつもの3人組で今日も登校する。
夏までは部活の朝練があったりなかったりでこの3人で毎日登校するというのは厳しかったのだが、元部長の右京雫先輩に変わる、新部長片岡すみれ先輩の意向で朝練が自主的なものに変わった。俺の持論としては、努力は大切だが練習しすぎてもあまり良い方向には進まないというものがある。よって、朝練としては、弓道にふれることはせず、朝ごはん前にランニングを軽く行う程度で済ませている。
その為こうして莉央ちゃんと美沙といちゃいちゃらぶらぶしながら登校することが出来るのだ!
『ガタンガタン』
電車に揺られながら、同窓会のことを思い出す。
とは言っても記憶は殆どないんだけど。凛海のせいで血を流しすぎたため、あの時は意識が朦朧としていたのだ。
桜咲雛菊……雛菊にどんな言葉を投げかけたか全然覚えてないが、どうやら上手くはいったらしい。星宮真紀……マキさんからの印象も少しは緩和したといったところだろう。未だに睨まれることはあるけども。
あの同窓会の後気を失った俺は、いつもお世話になる御用達の病院にソフィによって担ぎ込まれた。怪我は大したこと無かったし、ただの貧血だったんけど、病院の先生と家族からはすごく怒られた。
まぁ俺が悪いので素直に謝っておいた。だけどあの状況がまた来たら、俺は同じ選択をまたすると思う。男には引いてはならぬ時があるのだ!
それから雛菊とは定期的に連絡を取るようになったし、会うようになった。2週間に1度は俺の家に来て共にゲームをする仲だ。以外にも格闘ゲームが得意らしく、前世でオタクをしていた俺と同等の強さだった。現在142勝138敗。気を抜けば即刻勝ち越されてしまうだろう。
そうそう、あれから凛海は行方不明になった。俺が監禁暴行されたので、母さんが鬼の形相で警察に通報したんだけど、半年たった今でも消息は掴めず。今頃何をしているのやら。
あ、ついでに、例のクズ……名前なんだっけ?同窓会のちょっと前に心愛を殴ったやつ。えーと、龍なんとか。りゅう……ざこ?竜雑魚みたいな。雑魚でいいや。雑魚もあれから音沙汰がない。警察も家に来てないから俺に殴られたこと通報はしてないみたい。ということは、あいつ自らなんか復讐に来るかと思ったんだけど、そんなことも無かった。案外反省して、更生したのかもな、うん。
俺があるはずもないことに感心して、頷いていると。
「主人、トマトジュース飲んでいいか?」
すぐ隣りから意味分からん許しを請われた
。
……先程3人組と言ったな。あれは嘘だ。実は莉央ちゃん、美沙の他に2人程少し離れた位置で俺を見守る人たちがいる。
この寝癖マシマシの黒髪長髪、スーツが張り裂けんばかりのダイナマイトボディの女性は、百鬼薙。あの天才変人集団の男性特別侍衛官、通称SBMである。3ヶ月ほど前から俺への担当に配属されている。
「……ん、百鬼。電車内での飲食はよした方がいい。その無駄にでかい異物を胸に垂れさせているから、脳内に栄養が行ってないと見える」
さらに隣から割り込むようにして入ってきたのは、同じくSBMのソフィア・マルティス。白銀の髪に小柄な体型。百鬼とは真反対と言えるだろう。
彼女は半年前から俺の担当に着いてくれている。一時は、凛海の監禁暴行騒動で責任問題になり、任を解かれる事態に陥りそうになったのだが、俺の家族と、俺の強い要望により継続して俺の侍衛を任されている。
しかし、その一件で新人1人だとやはり不安だということで、新たにやって来たのが、
「あれ?嫉妬?ソフィはおっぱいちっちゃいから……あ、いや、無か。おっぱい無かったな、すまんすまん」
……この、百鬼薙というわけだ。ソフィとは同期に当たるらしい。
「……良い度胸をしている。今すぐ抹殺しても文句は言わないで欲しい」
「やれるかなー?無乳ちゃんに」
「……ん、気持ち悪い垂れ乳くらい造作もない」
「「……」」
この2人は仲が悪い。性格が合わないらしい。尚且つおっぱいを巡る論争が激しい。事ある事に喧嘩している。まぁいざとなれば協力してくれるだろうし、さほど気にはしていない。喧嘩するほど仲がいいって言うじゃん。
でもここは公共の場所。
「はい、二人共そこまでね。一般の人もいるんだから迷惑行為はしない」
「……ん、申し訳ない。ご主人様のおかげで命拾いして嬉しい?垂れ乳」
「そうだな、主人、すまん。子供みたいな幼児体型女をボコらずに済んで安心したよ、無乳」
「「……」」
「はぁ……」
何故こんなにも煽り合うのか?
まぁ騒がしいのは嫌いじゃないし別にいいんだけど。本気では無いだろうことは伝わってくるし、じゃれ合ってるだけだとは思うんだけどね。
「相変わらず仲悪いね?この2人」
「なんだか可愛く見えてきます」
美沙と莉央ちゃんが、バチバチと目線で火花を散らす2人を眺めながら微笑ましそうにそう零す。
おい、それでいいのかお前ら。高校生に舐められてるぞ。
* * *
「さむ……」
一日の授業を終え、今日も部活が始まる。しかし体を激しく動かして暖まることも出来ない弓道は、冬場はまさに地獄。ゆったりと動きながら半分外みたいな道場でじっくりと寒さにいたぶられるのだ。
「ご無沙汰してます!足立だよー!」
冬の寒さに打ちひしがれながら部活に精を出していると、道場に月刊スポーツ男子のスポーツライター、足立蘭さんが元気に入ってきた。相変わらずの小動物感。
月刊スポーツ男子。何かしらの競技を熱く頑張る美少年、美青年を中心に掲載する女性達に大人気のスポーツ雑誌である。俺の知名度を爆上げするきっかけになったのはこの月刊スポーツ男子……略してスポ男だ。
この半年でこの雑誌に、俺は2回ほど追加で掲載された。何でも俺が載る月の売上は、他月と比べて格段に良いらしく、何度も掲載させてくれとお願いされたのだ。別に目立つのは嫌いではないし、快く了承した。
「こんにちは、足立さん」
「相変わらずかっこいいねぇ前原君!」
「あはは。ありがとうございます」
そういえばここ半年で身長も5センチほど伸びた。前が165?くらいだったかな?だから今は170センチくらいだ。前世だと男性の平均身長辺りだが、この世界では平均が低いので170という数字は少し高めということになる。丁度前世の俺と一緒くらいだな。
足立さんもこう言ってくれてるし、もしかしたら身長が伸びてさらに男前になっているのかもしれない。やったぜ!
「それで本日はどのようなご用向きで?」
「あ、それなんだけどね、練習中本当に申し訳ないんだけど、ちょっとだけお時間いいかな?」
「僕は構いませんが……すみれ先輩、いいですか?」
練習を一時抜けるということで、2年生の先輩であり部長の片岡すみれ先輩にお伺いを立ててみる。
「あ、いいよ〜!でもできるだけ早く帰ってきてね!」
「了解です!」
「じゃあ行こっか」
ということで、足立さんに連れられて道場の外に出る。いや、寒。学校の敷地内も見事に雪化粧されている。綺麗だし嫌いじゃないけど、寒いものは寒い。
「あ、寒いよねごめんね!私の車の中で話そっか」
「ありがとうございます」
俺が腕を擦りながら震えていたせいか、足立さんが気を使ってくれた。そうだね、車の中は暖かそうだし、いい感じだ。俺は男子高校生で足立さんは大人の女性。前世で考えれば、働き盛りのお兄さんが密室である車の中に女子高生を連れ込んでいるという図で、何だかイヤらしい気もしないではないが、ここはスルー安定で。だって寒いし。
「じゃあ、少しだけお話聞いてね」
「はい」
車の中に移動した俺達は早速本題に入る。お話か〜。また取材かな?でももう質問されすぎて答えることもないんだよね。
俺が人気っていっても、同じような内容ばかり載せてもマンネリ化すると思う。
足立さんが数秒の間を置いて、意を決した様に発言する。
「実は、イケメン四天王のファン達が小競り合いを引き起こしているらしいんだよね」
……。
……ほう、イケメン四天王とな。
そのファン達が小競り合いを。
ふむふむ。
「イケメン四天王ってなんですか?」
「えっ!?前原君、イケメン四天王知らない!?」
「全く知らないです」
何その恥ずかしい称号。イケメン四天王(笑)だろそれ。真面目な表情でいきなり変な単語出さないで欲しい。困惑するわ。
「イケシテだよ!?イケシテ!」
「ぶふっ」
いや、イケメン四天王をイケシテって略さないで。思わずちょっと吹いただろ。誰だよそいつら。そんな変な称号恥ずかしげも無く引っ提げてる奴いるの?
「本当に……ぶふっ。知らないので、教えて貰っても……ぷっ……いいですか?」
「え、う、うん」
ヤバい面白すぎて笑てまう。
「こほん」
足立さんが咳払いをひとつ。今から話すからちゃんと聞いてくださいって事かな。
「イケメン四天王って言うのはね、この国の高校生で最もイケメンな上位4人のことを言うんだよ。誰かが言い出したわけじゃなくて、その4人が余りにも圧倒的すぎて自然とそういう風潮が出来てたの」
「なるほど」
「まず、まるで貴族のような上品な振る舞いとその圧倒的なオーラで国中の女の子を瞬時に虜にしたと言われる、有栖川涼君。ファンクラブ会員数は約850万人」
「850……」
850万?多すぎない?国の人口が1億と仮定したら、10分の1に少し届かないくらいか。街ゆく人の10人に1人がその有栖川のファンクラブに入ってるかと思うとその凄さが分かる。バケモンだろ。イケメン四天王(笑)と馬鹿にしてたけど、もしかしたら馬鹿なのは俺の方だったかもしれない。
「次に、女性と紛うほどの華奢な体格にキュートな顔。国中の女の子がおねショタに目覚めたと言われる、結城雪君。ファンクラブ会員数は、780万人」
こいつも多い。いよいよ嘲笑出来なくなってきたかもしれない。
そういえば俺にもファンクラブがあった。最近確認してないけど、今何人くらいいるんだろうか。4ヶ月ほど前に見た時は10万人くらいだった気がする。……イケメン四天王に較べて随分と少ないな。なんかムカつく。
「そして、クールで何事にも興味を示さない、超冷酷王子様。国中の女の子が罵られたいと心からお願いしたと言われる、大和雅君。ファンクラブ会員数は825万人」
その国中の女の子が〜っていうの毎回何ですか?いらないよその情報は。
冷酷王子様か。何か、いかにもって感じだな。
次の人で最後か。
滑稽だと小馬鹿にしていたイケシテだが、少しだけ興味が出てきた。乙女ゲームの世界ならありそうな設定だけど、現実世界だからなここは。なんか楽しい。
「そして、最後が……」
一旦そこで区切り足立さんが俺の顔をチラリと見やる。
……なんだ?嫌な予感が。
「新顔にして、期待の星。超新星とはまさに彼のこと。超正統派イケメンとして人気バク上げ真っ最中!国中の女の子がガチ恋したと言われる……
君、前原仁君。
ファンクラブ会員数は430万人」
……は?
「……は?」




