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10 婚約は解消いたしましょう

カドコミにて、コミカライズ配信中です!

 名を呼ばれ反応した体が声の方へと視線を向けると、その者の姿が目に映る。


(スキア)


 滑らかでいて白磁のような肌に、プラチナブロンドの髪。海をガラス球に閉じ込めたような深い碧眼。一目見れば、誰もが心を奪われてしまう完璧な美丈夫。


 光の大精霊、スキア。


 風に舞う大量の花弁ごしに、スキアの驚いた瞳がミスティアを射抜いた。


 目がかち合い、ミスティアの心はひんやりと温度を失っていく。


(見ら、れた。スキアに。ノアからキスされそうになっているところを)


 あまりのショックにミスティアは目の前が暗くなってしまう。すると彼女の耳元で、クスリと小さな笑い声が聞こえた。


「やぁ、大精霊様。ずいぶん遅いお帰りですね」


「……貴、様……」


 スキアがふらりとよろめく。今にも崩れ落ちそうな様子だが、その瞳には激しい怒りの炎が宿っていた。ノアは可笑しくて可笑しくてたまらないといったように笑うと、ミスティアを引き寄せ腕の中に閉じ込めた。


 スキアが再び、射殺さんばかりにノアを睨みつける。


「おぉ怖い怖い。ね、ミスティアもそう思うでしょ?」


 ノアがミスティアを抱きしめながら、彼女の髪を一房掬いそこへ唇を落とす。彼に促されたミスティアはゆるりと微笑むと、真っ直ぐにスキアを見つめこう言った。


「はい、とっても怖いです。ノア様……」


 ミスティアが怯えた表情でノアの胸元へぎゅっとしがみつく。スキアの瞳が驚愕に大きく見開かれた。

 ノアは自らにしがみつく彼女を慈しむように微笑むと、やがて唇の端を吊り上げた。


「大丈夫、ミスティアは僕が守ってあげるからね。……さて大精霊様。彼女が怯えているので、ご退場願えますか?」


「っ」


 スキアの表情が、嫉妬と、怒りと、悲しみを織り交ぜた絶望の色に染まる。そんなスキアにノアが勝ち誇ったように笑みを深めた。


 スキアが剣の柄に手をかける。その指先はカタカタと小さく震えていた。


「ミスティアに何をした……っ!」


「一体何のことだか。ミスティアは大精霊様としばらく距離ができて、ようやく目が覚めただけですよ。精霊と人とではあまりに生きる世界が違いすぎるって。ね、ミスティアからも言ってやって?」


 ノアに促されたミスティアはこくりと頷くと、スキアに視線を向けた。二人の視線が絡み合い、辺りがしんと静まり返る。


 そしてミスティアは何の感情も籠っていないような目で、唇を開いた。


「すべて、ノア様の言う通りです。スキア、私と貴方では寿命が違いすぎる。初めから私たちは惹かれるべきではありませんでした。……だからもう、婚約は解消いたしましょう。私は同じ人間であるノア様と結婚します」


 自分・・の口から発せられた許されざる言葉に、心の中のミスティアは凍り付く。


(嘘! 婚約解消だなんてあり得ない! 私はそんなこと絶対に望んでないのに! スキア……っ)


 ――すると。


「………………………………は?」


 辺り一帯の空気がぶわりと強い殺気に張り詰めた。


 スキアの体から黒い靄が噴き出し、靄が藤の花に触れた傍から黒く腐り果てていく。

 彼の発するあまりに強い殺気に、ミスティアは身動きできず立ちすくんだ。


 晴れていた空には暗雲が立ち込め、うららかな中庭は死神が通った後かのように花々が萎れていってしまう。鮮やかだった緑はすべてが灰となり――。一瞬にしてこのおどろおどろしい景色を作り出した元凶であるスキアが、ゆらりと伏せていた顔を持ち上げた。


 その瞳は、普段の碧眼ではなく妖しい深紅色に染まっている。瞳孔は完全に開ききっており理性を感じられない。


「今、何と、言った?」


 ミスティアは何も答えない。


 スキアがミスティアへ手をかざす。すると彼女の姿は黒い靄に掻き消え、スキアのすぐ傍へと転移した。スキアはミスティアを強く引き寄せ、彼女の瞳をしかとのぞき込む。


「ミスティアが俺を裏切るわけがない。さぁ嘘だと言ってくれ」


 爛々と光る瞳がミスティアを脅すが、彼女は静かに首を振った。


「いいえ嘘ではありません。スキアとは婚約解消し、ノア様と結婚します」


「ハ…………」


 スキアの唇から小さく乾いた声が漏れ出る。


 後ろで二人のやり取りを見守っていたノアが密かに口の端を吊り上げた。しばしの沈黙が流れる。するとスキアは突然ふっと瞳から怒りの色をひそめた。


「いや、あり得ない。そうだ、よく考えればすぐにわかることだった。ミスティアが俺を捨てるなんてあろうはずがない。その男に悪い魔法をかけられたんだな。今すぐ魔法を解くから少し待っていてくれ」


 スキアがミスティアの頭に手をかざす。そして呪文を呟いた。


解除ディススペル


 解除ディススペルは光の上級魔法である。キラキラと光が舞い、ミスティアを包み込む。光の大精霊である彼の光魔法による呪文解除魔法。心の中のミスティアは『やっとこれで解放される』と胸を撫でおろした。


 ――しかし。


 ドン! と音が鳴り、突如としてミスティアがスキアの胸を強く押しのけた。スキアが小さく息を呑む。

不定期更新ですみません!

ヤンデレスキアをお楽しみいただければ嬉しいです。

(娘を溺愛する人外継母の新作長編をアップしたので、よければそちらもどうぞ!)

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