表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/78

15 決闘

 学園の舞踏会は、ミスティアが今まで経験したことのない華やかさであった。

 王都で流行のドレスが目に眩い。レッドフィールド領ではないがしろにされていた彼女だが、王都で彼女を変わり者だと囁く人は少ない様子だ。冷たい目線が少ないことに、ミスティアはホッとした。


 最初の曲が終わり、ミスティアはスキアの手を離す。

 周りの令嬢がギラギラした目で彼を見た。誰もが、運命の王子様に選ばれる姫になりたくて必死なのだ。


(綺麗な方ばかり……。もし、スキアがこの中の誰かを主にしたいと思ったとしたら)


 ズキリと心が痛む。スキアとミスティアが向かい合って一礼すると、あっという間にスキアは令嬢に囲まれてしまった。彼も、ミスティアを輪の中に入れてもらおうとそれに応える。それをミスティアは無表情で見つめた。


「ミスティア嬢。どうか私と踊って頂けませんか?」


 俯いた顔を上げれば、トビ色の髪の優しそうな令息。ミスティアは慣れない微笑を浮かべてその手を取った。次の曲が始まる。ぐっと彼との距離が縮まって、男性に慣れていないミスティアは緊張で身を硬くさせた。


「いやあ……何といいますか」


「はい?」


 踊っている途中、彼が突然口を開いた。


「貴女はとてもお綺麗だ。実のところ、お近づきになりたくてお声がけしたのですが。ジリジリと見つめられては……。視線だけで殺されそうですよ。気づかれましたか?」


「一体何のことでしょうか」


「マイ・レデイ。貴女の精霊殿ですよ。よほど慕われているのですね」


 ふふ、と優雅に笑われる。周りを見渡すと、近い距離にスキアが踊っているのが見えた。一瞬目が合うがすぐに人の波に遮られる。


「まさか、気のせいですよ」


 そんな話をしながら、曲が終わる。そして次の相手へ――。人々の熱気と煌びやかな世界に酔いながら、ミスティアは先ほどの言葉ばかりをぐるぐると反芻した。体はここにあるのに、心はどこかシャンデリアの辺りに飛んで、スキアを探し続けていた。


 カンカンカン、とスプーンでグラスを叩く音。ざわめきが魔法をかけたように静まり返った。

 

「皆さん! 舞踏会は楽しんでいただけているかしら? 今日のメインイベントはご存知よね。レッドフィールド家の才女たちが特待生をかけて決闘! とおーっても楽しそうでしょう。さあ! 舞台を整えるわよ!」


 不思議と良く通る声。メアリー・シンプソン学園長その人である。彼女が手に持つ杖を振ると、ホールの中心からカーテンを吊るすように、円形のドームが現れた。そしてまた一振り。次はドームに白くふわふわとしたものが降り始める。


 ――雪だ。


「まあ、まるでスノードームね。美しいわ」


 雅な決闘場にどこからともなく声がした。ミスティアは、学長室に置かれていたスノードームを思い出す。少女二人が雪玉を投げ合っていた光景だ。


 だがこれからすることは、そんな生易しいお遊びではない。


 かつてはそんな時もあった。だが、アリーシャと雪合戦していた無邪気な少女はもういない。


「決闘者は中へ」


 ミスティアはごくりと喉を鳴らした。いつの間にかスキアが隣に居て少し胸を撫で下ろす。真正面には、自信に満ちた笑顔を浮かべるアリーシャと精霊達。


 ミスティアを、ことごとく裏切った者達。


 ミスティアは息を吸い、ゆっくりと吐いた。――決闘が始まる。


「勿論だけど相手を殺しちゃだめよ。膝をつけば負け。戦えなくなっても負け。……始め!」


 物騒な発言である。メアリーが手を叩けば、シャイターンがミスティア達の前に躍り出た。相手は3体だが、騎士道精神なのか、1対1で挑むらしい。アリーシャが余裕の笑みでシャイターンに声をかける。


「シャイターン様。くれぐれもやりすぎないようになさってください。お姉様、覚悟はよろしくて?」


「わかっている! 少し火傷するぐらいだ……ファイア!」


 ファイアは初級魔法。ボールほどの大きさの火が、スキアへ向かって飛んでいく。だが彼は、微動だにせずその攻撃を眺めた。


(バカが。魔法が使えないことはわかってるんだ! これくらいで済んで感謝するといい)


 シャイターンは棒立ちのスキアを鼻で嗤う。そして、自分の勝利を確信した。無防備な相手を不憫にさえ思う。だがその時。


障壁ウォール


 スキアが呟いた。障壁ウォールとは、その名の通り攻撃を防ぐ光の中級魔法である。ファイアがスキアに着弾する寸前、彼の周りに透明な障壁が現れ魔法を防御した。煙が上がるが、火が焼いたのはスキアではなかった。


「なっ……! 無傷、だと?」


 シャイターンは目を見開く。彼の目論見では、スキアが膝をついているはずだった。


「なぜ1体だけなんだ? まとめてかかってくるといい」


 それは相手を馬鹿にするようなものではなく、純粋に疑問に思っている声色。まるで、強者が弱者を見下ろすような。シャイターンはスキアをギラリと睨みつけた。


「チッ、俺たちが抜けたから多少は魔法が使えるようになったのか。だが、これはどうだ!」


 シャイターンは舌打ちし、次々にファイアを放つ。すぐ着弾するが、やはり透明な壁に阻まれてスキアを傷つけることはできない。思いもよらないことにシャイターンはうろたえて、後ずさった。このような魔法を見たことがなかったのだ。


「まあいいか。俺の望みは、ミスティアの確かな実力を披露することだから」


 スキアがそこで初めて剣を抜く。アリーシャ一行は身構えた。――そんな、まさか。ミスティア(できそこない)のはずなのに、どうして。


「もう終わりなら、俺からゆくぞ」


 2本指で剣身をなぞると、刃に炎が付与エンチャントされていく。火の中級魔法である。スキアの瞳に炎が反射し、幽玄に揺らめいた。見物していた生徒たちがざわつく。1体の精霊が、光と炎の2種類の魔法を使ったためだ。それは通常ありえないことだった。


 スキアが床を蹴り、シャイターンへ間合いを詰めた。アーマーを纏っているというのに、一陣の風が吹くように彼は素早い。シャイターンはひゅっと喉を鳴らした。


(速……! こいつ、魔法だけじゃない)


 ドッ、という鈍い音と衝撃がシャイターンを襲った。数メートル吹き飛ばされた彼は尻餅をつき床に倒れ込む。体中が痺れて、指一本動かすことができない。


「カ、ハッ……」


 かろうじて息をして、近寄って来るすね当ての鎧(グリーブ)をぼんやりと眺める。


(くそ、死んだかと思った。確かに斬られたと思ったが、この剣はなまくらか?)


 地に臥せるシャイターンを見下ろしながら、スキアが剣を振る。すると付与されていた炎が消えた。シャイターンはそれを見て、ハッと目を見開く。


(こいつ!)


「良かった。斬りさばいてはいけないらしいからな」


(刃が届かないようわざと炎を付与したのかよ! 馬鹿にしやがって……!)


 炎の精霊を炎で守りつつ、シャイターン以上の魔法で制したスキアに、周囲は大きな歓声を上げた。それと同時に、さらさらとシャイターンが消えていく。気を失い魔力供給が断たれたのだ。


「さて――」


 何が起きたのか理解できないアリーシャは後ずさった。ぞっとするくらい美しい精霊が、彼女を見つめている。そこには一切の親愛や温かみが感じられない。むしろ、まるで虫けらを見るような視線。


「次は、まとめて来たらどうだ?」



読んでいただきありがとうございます。★やいいね、ブックマークなどいただけましたらモチベが上がり大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
••✼••┈┈書籍発売のお知らせ┈┈••✼••
風野フウ(筆者)のデビュー作が今月発売されます!
『精霊に「お前は主人にふさわしくない、契約破棄してくれ!」と言われたので、欲しがっている妹に譲ります』
KADOKAWA様より3月28日(金)書籍発売!
i932070
↑画像をクリックしたらAmazonの予約ページリンクに飛びます。
四半期総合ランキング1位をいただいた作品になっております。
扉絵挿絵イラストもとっても綺麗ですので、ぜひお手に取って応援していただけると嬉しいです(*^^*)
SS特典についての活動報告はこちら
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ