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22.「応援されてるお前は最強なんだろ?!」

「レアさん、そろそろ出番です」


 休憩していたレアに、スタッフが声を掛けた。控室にはレアしかいない。他の出場者はパフォーマンスを終え、控室から出て行っていた。残りの出場者は、今ステージに出ている子とレアだけだった。


 レアは椅子から立ち上がる。その拍子に体がふらつき、慌てて手を壁について持ちこたえた。急な魔力の使い過ぎで起こる症状で、新人魔法使いによくあることらしい。魔力量がかなり少なくなっている事を実感した。


「ちょときちぃかなー」


 久々に弱音を吐いた。前に吐いたのがいつだったか思い出せないほどだった。それほどまでに、体力と魔力を消費していた。


 レアは買い出しスタッフが戻ってくるまで、魔道具に魔力を注ぎ続けた。スヴェンが去った後も、他のスタッフに見守られながら続けた。思っていた以上の疲労に止めたくなったが、スタッフからの応援と補助があったおかげで、最後までやり通すことができた。途中でステージから聞こえる観客の声と、パフォーマンスを終えた出場者の笑顔を見れたのも、続けられた要因だった。

 レアを除いた出場者があと三人になったときに、替えの導線が来た。導線をつなぎ終えた後に控室に戻り、体を休めることにした。出場順が最後に回されると聞いたのはそのときだった。目立ちたがり屋のレアにとって、トリを務めることは嬉しい。だけどそれ以上に休めることが喜ばしくて、そのときから薄々と限界を感じていた。もしかしたら、最後までステージに立っていることができないかもしれない。そんな予感があった。


 だけど、やったことに後悔はなかった。

 最後までやり通したおかげで、出場者全員が挑戦できた。観客の皆も純粋に楽しむことができ、スタッフの人達も無事に終えたことで安心していた。その結果を得られたのは自分の頑張りのおかげだろうと自画自賛する。あとはレア自身が楽しめば、この祭りは大成功だ。


「いくかっ」


 レアは控室から出て、ステージの脇へと進む。そこではスタッフの人達が待機していて、笑顔でレアを待ち構えていた。


「頑張ってね」

「最後だぞ。ファイトっ」

「楽しんできてくれよ」


 スタッフたちに次々と声を掛けられる。みんな、レアがやったことを知っているのだろう。ほらししょー、こんな風に応援してくれる人が居るんだよ。だからまだ頑張れるよ。


 休んだおかげで、少しだけ魔力は回復している。しかし曲の最後までやろうとしたら、魔力は途中で切れる。そうなったらその場で倒れ、オーディションは中止になるだろう。そうなったら、皆の楽しかった思い出を台無しにしてしまう。


 魔力を節約しつつの演目。それがレアに残された手段だった。

 これならば最後まで踊り続けることができる。やや地味な踊りになるけど仕方がない。全力で楽しめなくなるけど仕方ない。これで満足しよう。


 レアはステージへの階段に足を掛ける。なぜかそのタイミングで、観客席から歓声が上がった。

 まだレアはステージに上がっていない。にもかかわらずに大音量の声が上がり、レアは戸惑った。何が起こってるんだろう?


「イェーイ! みんなー! ノってるかーい?」


 高い女性の声の後に、観客達の声が響く。その声には聞き覚えがある。祭りに招待された有名な音楽バンド『レイデス』のボーカル兼ギター、リューカだ。


「さぁみんな、さっき司会の人が言ってたけど、この後出場する子は、あたし達の演奏で歌ってもらうよ! いいね?!」


 また歓声が上がる。何が起こっているのか分からなかった。


「お、レアちゃん、もう来てたんだね」


 責任者の男性がレアに声を掛けた。事態が把握できなくて、「これってどういうことなの?」と尋ねた。


「あぁ。レアちゃんは彼女達と一緒にステージで歌ってもらうことになった。大丈夫。歌うのは君だけで、レイデスの皆は演奏に専念してくれるから」

「いやそれはめっちゃうれしいけど、なんで?」

「うむ。実はあの後また機材が壊れたんだよ。どうしようかと考えていたら、レイデスの人達が『あと一人だけなら、機材の代わりに演奏するよ』って申し出てくれたんだよ。レイデスは自分達専用の機材を持ってきてて、それなら使えるからって言われてさ」

「それだったら機材だけ借りて、レイデスには休んでもらった方が……」

「同じことを言ったよ。そしたらリューカちゃんが『他の出場者のために頑張った子のためにやりたい』って言ってさ。そうなったら止められないよ。ま、彼女達の機材は元々自分達の楽器用にチューニングした物だから、他人に使われたくないってのもあったんだろうけど」

「マジっすか……」


 予想外の展開に、流石のレアも戸惑いを隠せなかった。大ファンのレイデスがレアのために演奏してくれる。夢みたいな展開に、レアは気持ちの高揚を抑えられなかった。


「サンキューおっちゃん。レアちゃん、頑張って来るぜ」

「お、おう。レアちゃんには助けられたからな。悔いが無いように楽しんできてくれ」

「うんっ」


 レアは階段を上り、ステージのすぐ横に着く。リューカがレアに気づくと、「それじゃあお待たせしたね! 最後の出場者、レア・ディーンの登場だ!」と紹介した。


「ヤッホー! みんなー、おっまたせ! レアちゃんのご登場だー!」


 いつものテンションでステージに上がる。観客席が沸き、大きな声援がレアに向けられた。


「おー、すごいテンションだね。いつもこんな感じ?」

「そうだよ。基本これだから。なんたってレアちゃんは未来のスーパーアイドルだから。これくらいとーぜんとーぜん」

「大きく出たねぇ。じゃ、今日のオーディションも自信満々?」

「それは……」


 どう言おうか悩んだ。本当のこと言うか、誤魔化すか。今の体調では、全力には程遠いパフォーマンスしか披露できない。それが分かっているのに肯定するのは心が痛む。かといって否定するのは心証が悪い。本気じゃないと思われそうで嫌だった。


 どちらを言うべきか。考えている最中、観客席にいる一人の客の姿が目に入った。


 最前線で法被を着た応援団の中。その集団に、同じ格好をしたスヴェンがいた。思わず吹き出しそうになり、口元を押さえた。


「レアちゃん?」

「…………だいじょーぶでっす」


 何やってんのと、心の中で突っ込んだ。変な目で見ていた集団に入って、しかも同じ格好をしているなんて……。

 変な行為に疑問はあったけど、よくよく考えて答えが分かった。


 そっか。あたしのためなんだよね、師匠。


 さっきまで仕事に専念していたスヴェンが、あんな格好をして応援するのなんて、他に理由が無い。


 師匠はちょっとおっさん臭くて、だらしなくて、一見頼りなさそうな見た目だった。だけど一生懸命で、真面目で、責任感のある師匠だ。そんな師匠が、自分を変えてまでレアを応援しようとしている。


 だったら、レアの答えは一つだった。


「もっちろん……」


 レアはリューカから取った。


「今日は全力全開でいって、伝説のパフォーマンスをみせてやっぜー!」


 観客が沸く。レアの気合に当てられ、レアと一緒に気分を高揚させる。


 それを察したリューカが、バンドメンバーに合図を送る。ドラムの演奏が始まった。


「それじゃあー、テンションが上がったところでいっちゃいますか! レアちゃん、曲は何?」

「この場にちょーふさわしい曲だよ! レイデスのデビュー曲で、レアちゃんが大好きな曲! 『New Star!』」


 ギターとキーボードの演奏が加わる。歌が始まる前に、応援団からの声が聞こえた。


「がんばれレアちゃーん!」

「いつもの君を見せてくれ!」

「レア!」


 最後に、スヴェンの声が聞こえた。


「応援されてるお前は最強なんだろ?!」


 レアは満面の笑みで答えた。


「もっちろん! レアちゃんの歌と踊りに酔っちゃいな!」


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