サナの奇妙な体験 51 完結
サー、恵美、雅ありがとう。
3月13日、サーの誕生日当日の朝。
恵美はいつものように目覚ましの音が鳴る少し前、自然と目を開けた。時計の針はちょうど6時を指している。カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋の壁を柔らかく照らしていた。
「今日は特別な日ね。」
小さく呟きながら布団を出ると、冷たい床の感触に軽く身震いする。けれど、そのひんやりとした感覚さえも、どこか心地よく感じられた。
いつもなら朝食の準備に取り掛かるところだが、今日は違う。サーとふたりで誕生日のお祝いにランチへ行く予定だから、今朝は朝食は抜き。代わりに、目覚めのコーヒーをいれることにした。
台所でケトルに水を入れ、コンロに火をつけると、静かな部屋にお湯が沸く音が広がっていく。その音を聞きながら、恵美は棚からお気に入りのマグカップを取り出した。白地に小さな花柄が散りばめられたそのカップは、何年も使い続けている愛用品だ。
コーヒーの粉をドリッパーにセットし、お湯をゆっくりと注ぐ。ふわりと立ち上る香りが部屋中に広がり、目覚めたばかりの体をそっと包み込むようだった。
カップに注いだコーヒーを持ってリビングへ向かうと、ソファに腰を下ろす。その瞬間、体全体がふっと軽くなるような感覚がした。窓の外では、春らしい柔らかな陽射しが部屋を照らしている。鳥のさえずりも微かに聞こえてきて、穏やかな朝の空気が心地よい。
「今日はいい一日になりそうね。」
恵美はマグカップを両手で包み込むように持ち、コーヒーを一口すする。その温かさが喉を通り抜けると、自然と笑みがこぼれた。こんな静かな朝を迎えられること、それ自体がささやかな幸せのように感じられる。
サーがまだ眠っている寝室をふと見やりながら、今日の予定を頭の中で思い描く。特別な日を特別な時間にするための準備が、恵美の胸を少しだけ高鳴らせていた。
その時だった。
恵美がコーヒーを一口飲み、ほっと息をついたその瞬間。
突然、足元がぐらつくような感覚に襲われた。目の前の景色がゆっくりと歪み始め、まるで見慣れた部屋が波打つように揺らいでいる。
「……え?地震?…」
呟く声がやけに遠く感じる。頭の奥で何かがぐるぐると回るような感覚に引き込まれたかと思うと、目の端に映る時計の針が不自然な動きを始めていた。
カチッ、カチッ
時計の針が逆回転している。 秒針だけでなく、分針も、そして短針までもが逆戻りし、時間が巻き戻されているかのようだった。
「こんなこと……」
思わず目をこすったが、異変は収まるどころかさらに加速していく。窓の外に目をやると、ベランダを横切る鳥がふいに空中で止まり、そのまま後ろ向きに飛んでいくのが見えた。まるで映像を巻き戻しているかのようだ。
音もおかしい。キッチンのケトルから立ち上る蒸気が吸い込まれるように消えていき、その音さえ逆再生されているような奇妙な響きに変わっていく。
さらに、目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。色彩が滲み、部屋全体が渦を巻くように回転し始める。恵美はソファにしがみつくようにして必死に踏ん張ったが、周囲の異常な光景に気を取られ、動くこともままならなかった。
その渦の中で、自分の記憶が断片的に蘇ってはまた消えていく。サーが小さかった頃の笑顔、雅との何気ない日々、そして――かすみ草の花束を受け取った時の記憶までもが、逆巻きの流れの中でちらついていた。
「まるで……タイムスリップしてるみたい……」
声に出した途端、その言葉さえも吸い込まれるように消えていった。部屋中が音も色もすべて逆流していくような感覚に包まれ、恵美の意識は次第にぼんやりと遠のいていった。
――これは夢なのか、それとも現実なのか。どちらとも判別できないまま、恵美はただこの不思議な感覚に飲み込まれていった。
その瞬間、耳元に誰かの声が聞こえた。
「恵美、大丈夫!怖がらないで!全て済んだよ。」
その声は、まるで遠くから響いてくるような、しかし間違いなく恵美の耳に届いた。
その声が誰のものか、恵美は一瞬で分かった。雅………
あの人の声だ。だが、まわりを見ても彼の姿はどこにも見当たらない。周囲は相変わらず歪み、異様な感覚に包まれている。声だけが、無機質で無遠慮に響いてきて、恵美の心を強く揺さぶった。
その瞬間、雅の記憶が鮮明に蘇った。
あの時のこと。時間が逆転していった井の頭公園のあの瞬間、恵美は息を呑んだ。まるで、あの出来事が今目の前で再び起こっているかのようだった。
あの記憶が、まるで映像のように目の前に広がっていく。雅が言った言葉…
【大丈夫。必ず2人の前に戻ってくる】
そして彼の優しい眼差し。あの時あの雷の後に時間を戻されたこと。その記憶が、ひとつひとつ鮮明に浮かび上がっては、今の奇妙な感覚と重なり合っている。
「全て済んだよ」という言葉が、何かを終わらせる合図のように響いて、恵美はその声を何度も反芻する。
ハッとした。
雅が帰ってくる。
雅がやり遂げたと確証した
恵美の胸に、雅の声が深く染み込んでいく。
「全て済んだよ。」
その言葉が、何か大きな節目を示しているようで、心の奥まで響いた。そして続く「今から戻るからね」という言葉が、胸の中に温かい希望を灯した。雅が自分たちの元に帰ってくる。それを確信した瞬間、恵美の中に押し込められていた感情が一気に涙として溢れ出した。
「………雅………」
静かに呟いたその名前が、涙に滲んだ声となってこぼれ落ちた。思い出の中の雅の姿が、次々と鮮やかに甦ってくる。優しい笑顔、いつも穏やかに語りかけてくれた声、そして恵美を包み込むような眼差し――そのすべてが今、彼女の胸を温かく締めつけた。
あの時、時間が戻されたこと。その理由も、自分たちのために雅が何かを成し遂げてくれたことも、すべてが分かり始めていた。
「雅…… 本当に全てをやり遂げて
くれたんだね…」
恵美はその事実を噛みしめ、涙が止まらなくなった。
「雅……ありがとう……」
震える声で呟きながら、恵美はソファに崩れるように座り込んだ。彼の存在がどれほど大きなものだったのか、記憶を消された私達に彼が注いでくれた想いがどれほど深かったのか。それを今になって本当に思い知らされる恵美だった
雅の優しさ、温かさ、そのすべてが恵美にとってかけがえのないものであり、心の支えであった。彼が自分たちを大切に思ってくれた気持ちが、記憶を取り戻した今、痛いほど伝わってくる。
涙に濡れた顔をそっと手で拭いながら、恵美は静かに微笑んだ。
「ありがとう、雅…
あなたと知り合えて、あなたを愛し続ける事が出来て本当に良かった…
雅、待ってるね。」
その声は震えていたが、この言葉には、これからの希望が込められていた。彼が帰ってきてくれるという事実。それは恵美にとって、何よりも幸せなことだった。雅と再び会える事を思い描きながら、恵美の心は穏やかな光に包まれていた。
その時サーにも同じ現象がおきていた。
静かに眠りについていたサーの意識が、突然揺さぶられるような感覚に包まれた。
それは夢とも現実ともつかない、不思議な感覚だった。まぶたの奥でぼんやりとした光景が広がり、同時に耳元で誰かの声が優しく響いた。
「サーちゃん、終わったよ。戻るから待っててね。」
その声は間違いなくマーさんのものだった。温かく、優しさを含んだ声。サーの胸が一瞬で高鳴った。
マーさんだ
その瞬間、記憶が洪水のように押し寄せてきた。井の頭公園での別れ、涙ながらに交わした最後の言葉。そして、気づけば自宅のベッドに戻されていたあの日。すべての出来事が一本の線で繋がり、サーの頭の中で鮮明に再生されていった。
そうだった。あの日、時間が戻されたんだ。
サーは息を呑み、目を大きく見開いた。手足がわずかに震え、全身を不思議な電流が駆け巡る。マーさんが「終わった」と言った。その意味を理解した瞬間、サーの胸に込み上げるのは再会への切実な想いだった。
「マーさんが帰って来てくれる…!」
その事実に、サーは思わず手を口元に当てた。心臓がドキドキと高鳴り、呼吸すら忘れるほどの緊張が押し寄せる。マーさんが何を終えたのか、それがどれほど困難だったのかはわからない。それでも、彼が戻ってきてくれると言った言葉が、どれほど大きな希望を与えてくれるか。
胸がいっぱいになり、自然と涙が頬を伝った。その涙は、恐れや不安ではなく、純粋な喜びと安堵から流れるものだった。
「良かった…
マーさん待ってる…
サーはちゃんと待ってるからね…。」
サーはそっと自分に言い聞かせるように呟いた。涙が溢れて拭くことすら忘れている
マーとの再会を思い描きながら、全身に広がる温かな感情にサーは浸っていた。
マーの声の余韻が胸に響き続ける中、サーは高ぶる感情を抑えきれず、ベッドから飛び起きた。母にこの事を早く知らせないと思い泣きながらリビングへと駆け出した。
「お母さん!マーさんだよ!
マーさんが無事に帰ってくるって!」
興奮気味の声を上げながらリビングに飛び込むと、恵美はソファにもたれかかり、目を閉じたまま静かに息を整えていた。しかし、サーの声に反応してゆっくりと目を開け、微笑んだ。
「そうだってね…
帰ってくるってね…」
その穏やかな言葉に、サーは一瞬立ち止まり、母に話しかけた。
「お母さん、もしかして…もう知ってたの?」
サーの問いに、恵美は小さく頷きながら再び微笑んだ。しかしその微笑みには、深い安心感と胸に秘めた想いが見え隠れしていた。
「ええ。お母さんもさっき、雅の声を聞いたの。『全て済んだよ。今から戻るからね』って。」
そう言うと、恵美はふっと肩の力を抜き、目を閉じて息を吐いた。
「お母さんも同じ事が起きたんだね…!」
サーはその事実に胸がいっぱいになり、言葉がうまく出てこなかった。ただ、目の前の恵美の穏やかな表情に、自然と涙が滲む。
「マーさん、本当にすごいね…!全部終わらせて、ちゃんと帰ってきてくれるなんて…」
サーの言葉に、恵美はもう一度微笑む。そしてそのまま、ふとソファから体を起こし、サーの手をそっと握った。
「雅は、いつだって私たちのことを考えていてくれてた。私達の記憶が消えていても彼は私達を信じてやり遂げてくれてたんだね…
きっと雅も不安だったと思うの…
でもあの人は私達の為にやり遂げてくれた…
だから、きっともう少しで会えるよ…サー…」
その言葉にサーは頷き、2人の間には言葉では言い表せない暖かさが満ちていた。
恵美の言葉に、サーは思わず泣きながら笑みかえした。
サーは、言葉が次から次へと溢れ出していた。
「お母さん、本当に戻ってくるんだね!マーさんが、ちゃんと全部終わらせて…それで…!」
子供のように泣きじゃくるサーに、恵美は思わず微笑みながら手を少し強く握って
「ちょっと、サー、落ち着きなさい…
サー!ほら、コーヒーでも入れるから。」
恵美の穏やかな声が部屋に響き、サーの胸の高鳴りが少し和らいだ。恵美はゆっくりとソファから立ち上がり、キッチンへ向かった。その背中には、どこかホッとしたような安堵が漂っていた。
サーはソファーに腰を下ろしながら、なおも胸の中に湧き上がる喜びを押さえきれずにいた。
「お母さん…
マーさんが元気そうで良かったね…
それに約束しっかりまもってくれて…本当に、すごい人だよね。」
キッチンから聞こえるカップの音に、恵美の声が重なった。
「そうね。本当に良かった…。」
その言葉はどこか遠くを見るような優しい響きで、喜びと安堵、そして長い間抱えていた不安が溶けていくようだった。恵美はコーヒーを丁寧にいれながら、ふと立ち止まり、胸に手を当てる。マーの声が蘇り、自然と微笑みがこぼれた。
湯気の立つコーヒーカップを手にリビングへ戻ると、サーも少し落ち着きを取り戻していた。ソファーの肘掛けにに肘をつきながら目を輝かせて恵美を見ていた。
「ねえ、お母さん、マーさんが帰ってきたら、まず何て言うの?」
「そうね…『おかえり』かな。」
そう答えた。
サーもその言葉を聞いて満足そうに微笑む。
2人はコーヒーを手にゆっくりと向かい合い、言葉にせずとも心の中で「良かった」と繰り返していた。部屋に広がる穏やかな空気とコーヒーの香りが、これから訪れる再会の幸せを優しく予感させていた。
サーはソファーに座ったまま、ふと静かに考え込んだ。これまでの出来事が次々と思い出され、ひとつひとつをつなげていくと、頭の中で大きなピースがはまるように全体像が浮かび上がってきた。
新宿で感じた違和感、胸の奥がざわつくようなあの感覚、そして無意識に涙が溢れた瞬間…。すべてが、マーさんに関係していた。彼の存在が自分の中に深く刻み込まれていたのだと、はっきりと理解した瞬間だった。
記憶は確かに消されていた。彼との具体的なやり取りや、一緒に過ごした時間の映像は失われていた。けれど井の頭公園の事とか体は、忘れていなかった。マーさんの声や姿、彼の温もりを、自分の内側がずっと覚えていて、無意識のうちに反応していたのだ。あの胸が締め付けられるような感覚も、言葉にならない懐かしさも、そしてどこか引き寄せられるような気持ちも。
「そうだったんだ…」サーは小さく呟き、胸に手を当てた。心臓の鼓動がやけに速く感じる。その鼓動さえも、マーを思い出すたびに自然と反応しているようだった。
マーさんの存在が自分にとってどれほど大きなものだったのか、改めて気付かされる。彼がいない時間はまるで、自分の一部が欠けたような感覚だったのかもしれない。記憶の表層から消えても、体の深い部分、心の奥底に彼の痕跡はしっかりと残っていたのだ。
「ああ…やっぱり私たちにとってマーさんは本当に大切な人だったんだ。」
サーの目から、ぽろりとまた涙がこぼれた。自分の中にあった不思議な感覚の正体が分かった時、それがただの謎解きではなく、自分自身の心に隠された「真実」だったと気づいた。その真実は、マーさんへの揺るぎない想いだった。
「マーさん…」
名前を呼ぶと、胸の奥に熱い何かが広がる。どんな困難も彼がすべて引き受けて、そして自分たちのもとへ戻ってきてくれる――あの約束があの時どれだけ自分自身を支えていたのか。記憶を消される前の事をサーは目を閉じ、マーの事を思い出すように静かに耳を澄ませた。
心が、ずっとマーさんを待っていた。彼が全てを終えて帰ってくるその時を、身体はずっと信じていたのだと、ようやく理解した。
サーは、心からマーさんを大切に思う気持ちを改めて噛み締めながら、そっと涙を拭った。
サーは自分の胸の奥に湧き上がる思いとともに、ふと頭に浮かんだ事を思い出した。母の誕生日に届いた、あの大きな束のかすみ草――誰が送ったのか分からず、不思議なままにしていたあの贈り物。
「まさか…」
サーはその瞬間、全てがまた、もう一つに繋がった気がした。心臓がドキドキとし、まるで答えを見つけたときの興奮と感動が一気に押し寄せてきたかのようだった。
「あれは…マーさんだったんだ。」
声に出して言った瞬間、自分の中でその答えが完全に確信に変わった。あの花束に添えられていたメッセージカード、そこに書かれていた「ING」という短い言葉。それが何を意味していたのか、やっと今気づいたのだ。
「かえるための作業が現在進行形だよ、ってことだったんだ。」
サーはひとり呟きながら、心が熱くなるのを感じた。マーさんが、自分たちに知らせるために――いや、戻るための希望を私達に伝えるために、あのかすみ草を贈ったのだ。どんな思いであの花を選び、どんな気持ちでその短い言葉を綴ったのかを想像するだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。
サーは全てバラバラだったピースが綺麗に収まった事に理解した
頭の中で整理した事を母につたえます、
「お母さん、聞いて!
あのかすみ草を送ったの、マーさんだったんだよ!」
サーの言葉を聞いた時、すでに恵美の瞳は滲んでいた
「メッセージカードの『ING』って言葉、今戻るための作業中だって意味だったの!あれはきっと、マーさんが私たちに継続中を知らせるためのメッセージだったんだよ!」
恵美はその言葉を聞いて、ゆっくりとソファに身を沈めた。その顔には雅への感謝と雅に対する感動が入り混じり、そして次第に涙が頬を流れ始める。
「やっぱりそうだったのね…雅…あなたが…」
恵美は声を震わせながら涙が頬に流れた。
その涙は、長い間失われていた想いが、突然鮮明に蘇り、胸を満たしていくその感覚に、心が揺さぶられたのだ。
サーもまた、母の姿を見て涙が込み上げてきた。マーさんがどれほど深い想いで私たちと再開するため努力をしていたのか、その間私達に対しても気遣いを忘れないで…
それを考えるだけで、サーと恵美の嬉しさが涙となって頬を濡らしていた
母と娘、二人は言葉にならない感情を共有しながら、ただ涙を流し続けた。
かすみ草の花言葉――「感謝」「清らかな心」「永遠の愛」が、二人の心に静かに刻まれる。
少しして、二人は深呼吸をして気持ちを整えた。サーがふと母の方を見て、小さな声で呟いた。
「お母さん、マーさんが戻ってきたら、どうする?」
その問いに、恵美は目を閉じて少し考えた後、静かに答えた。
「まずは、ありがとうって伝えたいわ。ずっと私たちのことを思って頑張ってくれていたこと、それだけで十分すぎるくらい嬉しいから。」
その言葉に、サーの胸がじんと熱くなった。母の気持ちが自分の心に重なり合い、マーさんへの感謝がさらに強くなったのを感じた。
二人はその後も、マーのことを思いながら話を続けた。これからどんな言葉をかければいいのか、どんな思いを伝えればいいのか。まるで再会の準備をするように、慎重に、そして穏やかな気持ちで話し合った。
サーはコーヒーを一口飲んでから、ふと気がついたように口を開いた。
「まだ、8時だね。休みの日にこの時間に起きるの久しぶりかも…」
それを聞き恵美が
「いつもお寝坊さんだもんね,サーは」
と微笑んだ
「お母さん、こんなゆったりした時間も大切だね…なんか凄く休まる感じがいいね…」
すると
「でしょ〜ぉ!朝の時間を大切にする事で、今日一日の事をゆったりした気分で考える事が出来るんだよ。サーもこれからは早起きしたらどうですか〜?(笑)」
恵美にそう言われてサーは苦笑い…
「わかってま〜す。
あとね、お母さん、今思ったんだけど
今日の誕生日ランチ、どうしようか?」
自分の誕生日を祝うために予定していたランチだったが、今朝の雅からのメッセージが2人の気持ちを大きく動かしていた。
恵美は少し考えるように間を置いた後、やわらかく笑って答えた。
「サーが楽しみにしていたから行きたいけど…今は雅のことが気になって、落ち着かないかもね。」
サーも軽く頷きながら、どこか申し訳なさそうに恵美が言うと
「そうだよね。もしマーさんから連絡があって、その時ランチ中だったら困るし…落ち着いて食べられないかもしれないしね。」
恵美もその言葉にしっかりと頷いた。
「そうね。私も同じ気持ちよ。でも…今日はサーの誕生日だもの。何かはしないとね。」
サーはその言葉に微笑み返し、テーブルに置いたカップを見つめながら提案する。
「だったら、ランチはキャンセルしておこうか。その代わり、もしマーさんから今日中に連絡がなかったら、夜にディナーでも行こう?」
恵美はその提案に賛成するように笑顔で頷きながら言った。
「それがいいかもね。雅が帰ってきたら、きっと3人でゆっくり話す時間が必要だもの。それまで無理に予定を詰め込む必要もないわ。」
2人は穏やかに視線を交わし、ほっと一息ついた。サーの誕生日という特別な日が、雅との再会への期待と重なり合い、今までにない不思議な、そして大きな期待が膨らんでいた。
サーは窓から差し込む柔らかな日差しを見つめながら、心の奥底から湧き上がる期待に気づく。
「お母さん、今日、特別な誕生日になる気がするよ。」
恵美もその言葉に同意するように微笑みながら答えた。
「そうね。きっと忘れられない一日になるわ。」
その言葉が静かに響き、部屋の中に温かな空気を満たしていった。2人の心は次第に穏やかさを取り戻していった。
しばらくして、サーのスマートフォンが振動した。画面を確認すると、マーからのLINEが届いていた。サーは心臓が高鳴るのを感じながら、急いでメッセージを開き、その文面に目を走らせる
【サーちゃん、無事に中里さんのおかげで、この世界の力のある人、時の賢者に会うことができたよ。
その賢者はものすごい力を持っていて、すごい人みたいだ。
その方から聞いたんだけど、サーちゃんと恵美は記憶が消えていたとしても、ずっと心の奥底で、至る所で僕の存在を感じ取ってくれていたんだってね…
2人とも、本当に僕の事忘れずにいてくれたんだね。
心の底から僕の帰りを待ち望んでいるのがよく伝わったって、賢者が言ってたよ。
賢者は、それほどまでに強い絆と想いがあるなら、僕を現代に戻す価値があるって判断してくれた。
これは本当に異例のことなんだそうだ
その賢者の力を借りて、これから僕たち3人がどう生きていくのかを見てみたいと言っていた。少しだけ時の力を使って観察を続けるそうだよ。
だから、これでもう心配ない。僕は戻るから、そうしたら一緒に時間を過ごせるからね】
メッセージを読み終えたサーは、胸の奥が熱くなるのを感じた。マーの言葉から、彼がどれけ約束を守るために頑張っていたか…
サーはそのメッセージをすぐに恵美に見せながら、声を弾ませた。
「お母さん、見て!マーさんから!」
サーは勢いよく恵美にスマートフォンを差し出した。
恵美はその画面を読みながら、ひとつひとつマーの言葉を丁寧に読み進めた。そのうち、瞳が潤み、手が小さく震え始めた。
「お母さん、マーさんからだよ!すごいよ、時の賢者に会えたんだって!」
「雅……賢者に認められるなんて、どれだけ頑張ったのかしらね…。こんなに…、こんなにも私たちのことを想ってくれて…
雅……本当に帰ってくるために、全力を尽くしてくれたのね。」
その声は震えていて、恵美の瞳には涙が浮かんでいた。
声が詰まり、恵美はそっと目元を押さえた。溢れ出る涙を止めることができなかった。それは、深い感謝と安堵、そしてマーへの強い想いが混ざり合った涙だった。
「お母さん、マーさん、帰ってくるんだよね。夢じゃなくて、本当に戻ってくるんだね。」
サーの言葉に、恵美は涙の中で小さく頷いた。
「ええ、必ずね。」
サーはそんな恵美の横顔を見つめながら、小さく微笑んだ。そしてまた画面を見つめ、マーの言葉を心の中で何度も繰り返し読んだ。
「記憶が消えても、ずっと感じ取っていた」――その言葉が、これまでの全ての不思議な感覚に納得していた.
2人はしばらくその場で無言のまま互いの気持ちを噛みしめた。マーが戻ってくる――そして同時に、彼が現代に戻って来ても、賢者がしばらく見守ってくれているという事実が、2人に安心感を与えた。
サーはマーからのメッセージを何度も読み返していた。その内容の一言一言が胸に響き、心が高揚してしまう。思わず顔がほころんでしまった。
しかし、その高揚感に浸りすぎて、気づけば返信を書いていないことに気づく。ハッとしたサーはスマートフォンを手に取り、画面を見つめたが、どう言葉を紡いでいいのか迷ってしまった。
「お母さん…」と、サーは少し戸惑った表情で恵美に声をかけた。「マーさんに返信したいんだけど、なんて書けばいいのか分からなくて…」
恵美はソファから顔を上げ、サーの困った様子を見て優しく微笑んだ。
「いいのよ、サーちゃん。気持ちのまま、素直に書けば。それに、雅だってあなたの言葉を待っているはずよ。」
「でも…あの、こんな大事なメッセージに返事するのに、適当な感じじゃだめだよね。」
サーは真剣な表情でスマートフォンを握りしめた。その顔には、マーに自分の想いをしっかり伝えたいという強い意志が感じられた。
恵美は少し考えたあと、ふっと穏やかな声で言った。
「たとえば、こう書いてみたらどうかしら?『雅、本当にありがとう。無事に戻ってきてくれるなんて、夢みたいです。私もお母さんも、心から帰りを待っています』って。どうかしら?」
サーは恵美の提案に耳を傾けながら、小さく頷いた。「うん、それなら私の気持ちも伝わるかも…ありがとう、お母さん。」
彼女はスマートフォンの画面に目を戻し、恵美の言葉を慎重に指を動かしてメッセージを打ち始めた。その指先には、マーに対する感謝や喜び、そしてこれから再会できる期待感が込められていた。
打ち終わったメッセージを恵美に見せると、恵美は満足そうに頷きながら、「うん、きっと雅もこれを読んで安心するわね。」と優しく言った。
サーはメッセージを送信し、画面をじっと見つめた。心臓の鼓動が少し早まっているのを感じながらも、胸にはどこか穏やかな温もりが広がっていった。
「マーさんとよくLINEしてたよな〜ぁ
1年前の事なんだな〜ぁ
今思えばあっという間だったな〜ぁ」
前の事を思い出しながら
サーがメッセージを送ってしばらくすると、スマートフォンが振動し、マーからの返信が届いた。
「11時に吉祥寺、井の頭公園の音楽堂の前で会おう。サーちゃんも恵美も一緒にね。その後、3人でサーちゃんの誕生日パーティーもしたいんだけど、恵美はどう思うかな?」
メッセージを読んだ瞬間、サーの目が輝いた。「お母さん!マーさんから返信が返ってきた!」
恵美が振り返り、「なんて書いてあったの?」と尋ねる。
サーは急いで画面を見せながら答えた。「ほら、2人で来てって!それに誕生日パーティーもしたいって!お母さんはどう思うかなだって。」
恵美は画面を見つめながら、微笑みを浮かべた。「雅らしいわね。本当に…」
その言葉にサーは大きく頷き、興奮を隠せない様子で次の準備を始めた。恵美もまた、穏やかな微笑みを浮かべながら、心の中でマーとの再会に思いを馳せていた。
サーはすぐに返信をしました。
「わかりました。母も喜んでいますよ!
11時に音楽堂
マーさん本当にお疲れ様でした。
楽しみにしています。
ではまたあとで」
2人にとって特別な日になる予感
サーが母に
「お母さん、何を着て行こう?お母さんもちゃんと考えないと!」
「そうね。せっかくだから少しおしゃれをして行かないとねぇ。でも、張り切りすぎても、ひかれちゃうわね(笑)。サー慌てなくてもまだ時間あるから落ち着きなさいね」
恵美はサーを優しくなだめながら、自分も準備を始めることを決めた。
2人は、マーとの再会に胸を弾ませながら、それぞれの気持ちを整理しつつ、出発の時間まで支度を進めた。久しぶりに迎える特別な日
サーと恵美は、マーとの再会に向けて準備を終えた。2人とも普段より少しだけ気合を入れた服装を選んでいたが、鏡の前で並んで立つと、どちらともなく顔を見合わせて笑い出した。
「お母さん、ちょっと張り切りすぎじゃない?」サーが冗談めかして言うと、恵美は髪を直しながら照れたように
「そうかしら?サーだって、今日は特別なワンピースを選んでるじゃない。」
「それは…だって今日は誕生日だし、マーさんに会うから…」サーは恥ずかしそうに頬を赤くして視線を逸らした。
恵美はそんな娘の様子に微笑みながら、優しく言葉を添えた。「いいじゃない。たまにはこうして、特別な日に特別な気持ちで準備するのも素敵なことよ。」
「お母さんはどう?緊張してないの?」
「緊張してるに決まってるわよ。1年ぶりに雅に会うんだから…しっかり会うのは何十年ぶりなんだから…そう言いながら恵美の顔もほんのり赤くなり、サーはその様子を見てクスクス笑った。
「お母さんでも緊張するんだね。でも、私もすごくドキドキしてる。どんな感じで会えばいいんだろうって。」
「そんなの、雅はきっと笑って迎えてくれるわよ。だからサーだって自然体でいいの!」
「自然体って言われても…なんかそれが1番難しいし恥ずかしいよ。」
「それよりも、あの人の方が緊張してるかもよ(笑)ああ見えて、昔からすぐ緊張する人だったから(笑)」
「それって、お母さん、マーさんに悪くな〜い?(笑)」
2人の会話は止まらず、言葉にしなくても分かる嬉しさと照れくささが交互に込み上げてきて冗談ばかりを2人で言い合っていた.
支度が整い、少し時間には早いが揃って玄関に立った2人。サーが深呼吸をしてから笑顔を作り、「よし、行こう!」と言うと、恵美もそれに続いて「さて、会いに行こうか…」と扉を開けた。
柔らかい春の陽射しが差し込む玄関先で、2人は顔を見合わせ、ほんの少し笑い合った。その笑顔には、再会への期待と少しの照れが混じり合っていた。
「マーさん、どうしてるかな…」
「あの人はきっと元気よ。そして、あの時と変わらない笑顔で待ってるわ。」
2人は心を弾ませながら玄関を出て、井の頭公園へと向かった。再会の場面がどんなものになるのか想像するだけで、胸が高鳴り続けていた。
駅に着いたサーと恵美は、改札を抜けてホームへと向かった。少し肌寒い朝の空気の中で、2人は肩を並べながら電車を待つ。
サーがふと足を止め、空を見上げながらぽつりと言った。
「なんか、この一年いろいろあったよね。でも、こんな日が来て、本当に良かった。」
その声には、これまでの出来事が走馬灯のように頭に蘇って来た。
恵美はそんなサーの横顔を見て、柔らかく微笑む。
「本当にね…。私も今回の件で諦めないって大事なんだって、改めて思ったわ。」
「うん、私も。マーさんのお陰で、こうしてまた会えるんだもんね。」
サーは少し照れくさそうに笑い、手元のバッグをぎゅっと握りしめる。
「雅はずっと、私たちのことを忘れずに思い続けていてくれたんだもんね…私たちの記憶が消えても、雅だけは私達を信じて頑張っていてくれた。
私たちも体は覚えているって、こういうことだったのね…」
恵美は遠くから近づいてくる電車の音を聞きながら、その言葉には、感謝と喜びがにじみ出ていた。
「私、知り合ったのは、短い期間だったけど、きっとマーさんにたくさんのものをもらってきたんだよね。だからこうして、待っていることができたのかな…」
サーは自分の胸に手を当てるようにして言った。
ホームに電車が滑り込んできて、冷たい風が2人の足元をさらっていく。扉が開くと、2人は並んで中に乗り込み、静かに席に腰を下ろした。
サーがふと笑顔を浮かべて、「マーさん、どんな顔して待ってるかな。」とつぶやくと、恵美も「きっと、笑顔で迎えてくれるわよ。だから心配しないの!」と応えた。
電車が動き出すと、窓の外に広がる景色がゆっくりと流れ始める。心の中にあふれる思いをそれぞれ胸に抱きながら、再会への喜びと緊張が入り混じるその時間は、どこか夢のようで、けれど確かに現実として存在していた。
電車の中、サーと恵美は言葉少なに席に座り、それぞれの思いにひたっていた。車窓から流れる景色を眺めながら、サーはふと微笑む。
「本当に、奇妙な体験だったなぁ…」
この1年間、普通では到底考えられない出来事の数々。それらが鮮明に思い出されるたび、胸の奥が熱くなる。すべては、あの日、突然現れたあのギャル男!
今思えばあのきっかけが無かったら…
マーさんとの出会いが無かったんだな〜
もちろん、お母さんもずうっとマーさんを思い続けて来て、こんな小さな奇跡で出会えたんだもんな〜ぁ
ギャル男に感謝しないといけないかな〜と
サーはクスリと微笑んでいました…
窓の外に広がる空を見ながら、自然と笑みが浮かぶ。けれど、その笑顔にはどこか感謝と愛しさが滲んでいた。「でも、今ならわかる。全部、全部が必要なことだったんだって。」
一方、恵美もまた、自分の中に渦巻く感情に向き合っていた。思い出されるのは、あの不思議な日
記憶が消され日のこと
「何十年ぶりに雅俊を見た時、私忘れてない、はっきりわかるって自分でも感心するくらい、私も雅の事想っていたんだなぁ…
短い時間だったけどあの時の再会は一生忘れない、衝撃だったかもなぁ…
お互い歳もとってたしねぇ…」
「何もその時はわからなかったけれど、それでも不思議と安心感があったのよねぇ…今思えばサーがそばにいてくれたからなんだろうなぁ…」
時が過ぎて気がつけばサーと二人で生活を始めることになった日々のこと。あの日々を思い返すと、全てが今の再会へと繋がっていたのだと気づかされる。混乱も、悲しみも、不安も、すべて意味があったのだと。これから訪れる再会の瞬間が、まるでその全ての出来事がこの再会の為の演出だったのかなと恵美もまた感じていた。
電車が減速し、車内にアナウンスが響く。
「次は、吉祥寺。」
サーと恵美は、互いに顔を向ける。特に言葉は交わさなかった。ただ、深く頷き合うだけで十分だった。そこにあるのは、長い旅路の果てにたどり着いた安心感と、再会への静かな喜び。
電車の扉が開き、澄んだ冬の空気が車内に流れ込む。2人は揃って席を立ち、静かな足取りでホームに降り立った。心の奥深くまで染み込むような思いを胸いっぱいに感じながら。
2人は改札を出て音楽堂に向かい出します
サー
「お母さん、マーさんもう来てるかな?」
恵美
「どうだろうね?」
サー
「私たちのほうが早いかもね」
恵美
「あの人わざと遅れてくる時あるからね
サプライズたくらんでて(笑)」
2人は軽く微笑みます
サー
「もしマーさん待ってたら走って行く?
それとも歩いていく?」
恵美
「お母さんは冷静に歩いていくと思うよ…
だってもう会えるの確定してるんだもの」
サー
「私もきっとそうかな…
慌てる事ないもんね(笑)」
そんな会話をしている2人
冷静を装って余裕な2人に見えているが、実は心の中は本当に会えるんだとソワソワしています。
2人とももはや緊張MAXでいるせいか、言葉は少なげです。
そんな中、サーはふとミユが頭に浮かびました。
「あの時ミユがいなかったらきっとこの再会は来なかったんだなー…
なんの当てもなくただ私の事を考えて1人で来てくれて、中里さんを説得してくれて…
ミユがそばに居てくらなかったらきっと私諦めてたんだろうなぁ〜。井の頭公園は、私にとって絶対忘れられない大切な場所になったなぁ…
今度、ミユと2人でここに来よう…
そしていろんな話をしに来よう…」
サー
【改めてここは私の大切な思い出の場所】
ここをこんな気持ちで歩いていられるのはいろんな人と出逢えて、みんなが助けてくれたおかげなんだなと心から思いそんな感謝の気持ちが改めてうまれていました.
一方恵美は
「25年前の今日、サーが生まれたあの日は寒かったぁ…
夜、雅に電話をして一方的に電話を切って泣き明かしたあの日からもう25年、その時はこんな日が来るとは思いもしなかった…
今なら雅の前でも本当に素直な自分でいられる。ここまで来れたのは、サーがいてくれたから…
そういえば、お父さん、お母さん今どうしてるかなぁ…
あれ以来だから25年だもんなぁ…
お母さんとはたまに連絡はしてるけど、顔は全然だもんな~ぁ
今度、3人で山形に会いに行ってみょうかなぁ…
やっぱりこんな気持ちになれたのも、きっとこの子が近くにいてくれるからだろうなぁ…」
2人はそれぞれここまでの道のりを思い出していた
恵美
「サー、ここ歩くのお正月以来だね。
あの時よりだいぶ暖かくなって、今年は桜も満開ではないけど早咲きでなんかいい感じだね」
サー
「本当だ、いろいろ考えちゃって私、桜全く目に入っていなかった…」
恵美
「サー!お母さんこの桜、絶対忘れない
サーと2人で歩いて来たこの25年
サーの誕生日に桜が咲いていることを
サーのお陰でこの日を迎えられて
本当にありがとね」
サー
「お母さん、あらたまってそんなこと言うとなんか恥ずかしくて、涙が出て来そうだよ
でも、私もお母さんが私のお母さんで最高に良かったよ…
私決めたよ!誕生日を期に私何事にも諦めない。
親友のミユみたいに、なんでも最後まで頑張り抜く事
これを人生の目標にする。」
恵美
「あら、すごい立派な宣言!
そうしたら、お母さんは
辛い事も楽しい事も先送りにせず、すぐ行動
これで頑張ってみようかしらね」
サー
「でもお母さん、もう歳なんだから無理しないでよぉ〜」
そう言って笑いながら歩いていると気がつけば井の頭公園な階段を降りていた。
目の前に広がる池の手前に立っている男の人
2人はすぐにそれがマーだと気がつきました.
恵美がサーに
「夢ではなく現実だよね」
と聞くと
「間違いなく、今、現在、現実だよ」
2人は涙が溢れてきます、
サー
「お母さん、私ダメだ!ごめん、先に行くね」
と言って、
サーは目の前に立つマーの姿を見てもう我慢ができなかった…
感情の波が一気に押し寄せ、サーは泣きながら駆け出した。
雅は2人に気がついてこっちに手をふりました。
サーはそのまま雅の胸に飛び込んで行きました
「マーさんおかえり〜」
その後ろからゆっくり恵美は歩いて来ます。
雅も恵美の方を笑顔で見ながら恵美に大きく手を振っています
【これから本当に私たちの、新しいスタートなんだよね……雅……】
雅が恵美を見て今度は大きく目招きをしている姿を見たら、もう我慢ができなくなり
恵美も笑顔で雅に向かって走り出して行きました…………。
頬をなでる風が心地よく、散り始めた桜の花びらが舞い踊る。
その一瞬一瞬が、どこか夢の中のように感じられた。
「こんな日が来るなんて、ずっと夢みたいに思ってたけど……現実なんだよね。3人なら、この先どんな困難だってきっと大丈夫。」
サーはそっと呟いた………
春風が再び吹き抜け、桜の花びらが青空に溶けるように舞い上がる。
新しい一歩を踏み出した3人
これからどんな困難が待っていようとも、
きっと大丈夫…
桜並木の先に広がる未来へと、
一歩ずつ進んでいく…
穏やかな春の日差しの中で……………。
おわり
あとがき
約1年間、この物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
最初は、果たして最後まで書ききることができるのだろうかと、不安を抱えながらのスタートでした。しかし、物語を書いていくうちに、書くことの楽しさを知り、それを読んでくださる方がいることの喜びを感じ、そして多くのことを学ばせていただきました。皆さまの存在が、ここまで物語を続ける大きな支えになりました。心から感謝しています。
この物語の中で、私が一貫して大切にしていたテーマは、「人とのつながり」でした。縁、相手への思いやり――それだけを意識して書き続けていたように思います。
現代では、人との関わりを避ける傾向が強まっていると感じることが少なくありません。確かに、一人でいることが楽な場面もあるかもしれませんが、それでも誰かと心を通わせることは、きっと人生をより豊かにしてくれるのではないでしょうか。そんな想いを、この物語を通して少しでも伝えられたらいいなと願いながら、創作してきました。
初めて物語を書き始めてから、サーという一人の女性を描き続けてきました。彼女ならどう考え、どう感じ、どう行動するのか――そのたびに考えを巡らせ、悩みながらも彼女の人生を描いていくうちに、気がつけばまるで本当にサーと一緒に歩んできたような感覚になっていました。
そんな彼女との物語が今回で一区切りとなることに、正直なところ寂しさを感じています。自分が生み出したキャラクターなのに…
こうして別れの時を迎えると、まるで大切な友人とお別れするような気持ちになるものなのですね。
けれど、サーの物語が終わっても、彼女が歩んできた時間や想いは、ずっと私の心の中に残り続けるのだと思います。
また、新たなキャラクターを考えて、皆様とまたお会いできればと考えております。
最後まで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。この物語が、少しでも皆さまの心に何かを残せたなら、それほど嬉しいことはありません。
これからも物語を書き続けていきますので、
またどこかでお会いできる日を願って……
マーを改め、【茅ヶ崎なぎさ】に名前を変更させて頂きます。




