サーの奇妙な体験 47
投稿遅くなりましてすみません
次回完結と書いてしまいましたが、もう少し続きます
もう少しお付き合いください。
次回、水曜日に投稿しますのでそれまでお楽しみに
それぞれの想いがそれぞれにどう伝わっていくのか……
本当に終盤になってきました。
雅がサーと恵美の顔を見て少し微笑みます。
もう大丈夫だからね。
雅
「一緒に中里さんと話をして疑問を解いていこう」
サーと恵美は軽く頷きます。
雅
「中里さん、その…さっき言ってた“恩”って、具体的にはどんなことなんですか?」
雅は少し戸惑いながらも、中里の言葉を丁寧に掘り下げようとしていた。その質問に、中里はしばらく言葉を探すように沈黙したが、やがて静かな声で話し始めた。
中里
「正直に言うとね、その当時私はあと3か月の命だと宣告されていました。」
その発言にすぐに表情が引き締まった。
3人は中里の言葉を受け止めるように相槌を打った。
中里
「それで…自分が死んだその後のことが、何よりも気がかりだったんです。子どもたちがどう生きていくのか、私がいなくなった後に彼らが迷ったり、困ったりした時に、頼れる存在が誰もいなかったらどうしようって。それが一番の不安でした。」
雅
「…中里さん…」
雅は思わず中里を見つめた。中里の声には、当時抱えていた苦悩がありありと感じられた。
中里
「でも、あなたは、そんな私の心配を自然と引き受けてくれたんです。私が何もお願いしなくてもね。」
雅は少し困惑した表情を浮かべたが、中里はゆっくりと頷いた。
中里
「私が死んだ後、うちの子どもたちの話をあなたがよく聞いてくれていましたよね。あれは子どもたちにとっても大きな救いだったし、私にとっては本当にありがたいことだった。それだけじゃありません。雅さんは時々私の墓に足を運んでくれましたね。」
雅は小さく頷いた。
雅
「ええ、たまたま時間がある時に…特に大したことじゃないです。」
中里
「そんな風におっしゃるけれど、それがどれだけ私の心を救ってくれたかわかりません。あなたが私の墓に来て、子どもたちのことを報告しに来てくれたり、時には墓の前で泣いてくれることもあった…」
雅
「それは…僕が少し感傷的になってただけですよ。大したことじゃないです。」
雅は謙遜するように言ったが、中里はその言葉に首を振った。
中里
「いいえ、あなたにとっては些細なことだったかもしれません。でも、私にとってはそうじゃなかった。あの世に行ってあなたが子どもたちの相談相手になってくれていることがわかって、本当に安心したんです。それに、私がいなくなった後も、子どもたちの成長を墓前に報告してくれる人がいると思うと、心から安堵しました。」
中里の声には深い感情が込められており、それが雅の胸に強く響いていた。
中里
「雅さん、あなたが普通にやってくれたことが、私にはどれだけありがたかったか、言葉では言い表せないくらいです。本当にありがとう。」
雅はその言葉をしっかりと受け止め、静かに頷いた。
雅
「中里さん…そう思っていただけたなら、僕も嬉しいです。でも、僕にとっては本当に普通のことなんです。」
雅と中里の会話が少し落ち着いた頃、高橋が話に加わった。どこか遠慮がちな様子で、静かに口を開く。
高橋
「中里さん、亡くなる前に、あなたが私のところに相談に来てくれたことがありましたよね。」
その言葉に中里が少し驚いたような表情を見せた。
中里
「ええ、そうでしたね。高橋さんに相談したことがありました。私の余命が短いとわかった時、家族のことがどうしても気掛かりで…特に子どもたちのことが…。」
高橋はその時の記憶をたどるように話し始めた。
高橋
「あの時、中里さんはとても悩んでいましたね。でも、私、あなたにこう言いましたよ。『大丈夫、ちゃんとあなたの近くに助けてくれる人がいるから、安心しなさい』って。」
高橋の声は穏やかで、どこか優しい響きを持っていた。その言葉を聞いた中里は、当時の自分を思い出すように静かに頷いた。
中里
「ええ、その言葉に本当に救われました。自分がいなくなった後も、誰かが子どもたちのそばにいてくれる、そう思えただけでどれだけ心が軽くなったことか…。でも、その時は誰がその『助けてくれる人』なのかまでは、全くわからなかったんです。」
雅はその会話を静かに聞きながら、自分がその「助ける人」だったことに気づき始めた。そして高橋も、その事実に気づいたようだった。
高橋
「中里さん…それが雅さんだったんですね。」
高橋は少し目を見開いて雅の方を見た。その視線に、雅は少し戸惑いながらも静かに頷いた。
雅
「僕は本当に、ただ普通に…。」
高橋
「でも、その普通の行動が中里さんにとっては何よりも大きな支えだったんです。」高橋は微笑みながら続けた。「私も雅さんが相談に来てくれた時、あなたがこうして力になってくれる人だったなんて、全く想像していませんでした。でも、こうして聞いてみると…中里さんの想いがあなたを通して確かに生き続けているように思えます。」
高橋の言葉には、優しさと温かさが滲んでいた。彼女の柔らかな視線に、中里もまた穏やかな笑顔を浮かべる。
中里
「高橋さんがあの時、私に言葉をかけてくれなかったら、私は不安に押しつぶされていたかもしれません。その言葉があったからこそ、私は最後まで安心して過ごすことができました。そして雅さんが、そんな私の願いを叶えてくれた。本当に感謝しています。」
雅はその言葉を静かに受け止め、視線を落としたまま小さく頷いた。
雅
「僕はただ友達が亡くなって寂しかったんです…だから少しでもやれることをやっただけなんです。でも…中里さんが喜んでくれているなら、それだけでもう十分です。」
三人の会話の中に、穏やかな空気が流れていた。そこには、過去と現在が繋がり、命を超えた深い感謝と絆が静かに息づいていた。高橋の優しさ、中里の感謝、雅の誠実さ。それぞれの心が繋がり、言葉以上の思いがそこにあった。
雅がふと、自分の中にゆっくりと湧き上がる感覚に気づいた。
雅
「中里さん、今しっかり記憶が…全部戻りましたよ。」
静かに、しかし確かな声で雅が告げる。
雅
「自分が死んでいることも…今、はっきり思い出しました。」
その言葉が放たれた瞬間、空気が凍りついたようだった。恵美とサーは、まさかそんな言葉を雅から聞くとは思わず、驚きの表情を浮かべながら雅の顔をじっと見つめていました。
中里は目を閉じ、静かに息を吸い込んだ。目を開いた時、彼の瞳には深い悲しみが滲んでいた。
「でも、大丈夫です…雅さん。」
中里の声はどこか自分に言い聞かせるような響きを持っていた。
「辛いですが…これが、私の役目です。だから、皆さんの記憶をここで全て消します。それが最善の方法なんです。」
その言葉に、サーは思わず立ち上がりかけた。
サー
「ちょっと待ってください!そんなの、やめてください!」
サーの声は震えていた。目には涙が浮かび、必死に中里を見つめる。
中里
「…仕方ないんです。サーちゃん…ごめんね…」
中里は静かに頭を振りながら言葉を紡いだ。
中里
「私も、本当は今のままがいい。皆さんがここにいるのをずっと見ていたい。でも、これがこの世界のルールなんです。私たちは生と死の間にいる存在です。ここで再び繋がることが許されると、それは次の輪廻に進むべき他の存在の流れを乱すことになります。それは、この世界全体の調和を壊してしまうのです。」
その声には、揺るぎない決意と同時に、深い苦悩が滲んでいた。
中里
「だから恵美さん、サーちゃん強い意志を持ってください。私はこれ以上、どうすることもできないんです。」
サーが言葉を失い、ただ泣きそうな顔で中里を見つめる中、恵美が静かに口を開いた。
恵美
「中里さん…やっと会えたのに、これで終わりなんて辛すぎます…。」
恵美の声は絞り出すような弱々しさを帯びていた。
恵美
「何とかならないんですか?…せめて、もう少しだけ…時間をください。」
恵美の言葉に続くように、高橋も一歩前に出た。
高橋
「今、ここで雅さんに力を貸してあげてはいかがですか?
雅さんは、全く普通に中里さんの支えになっていたのですから…
この3人の為にも私からもお願いします。」
中里は無言のまま高橋の話を真剣に聞いています。
高橋の声はどこか温かく、それでいて力強さを持っていた。
高橋
「どうか、この三人にもう少しだけ時間を与えてください。すぐに結論を出さなくてもいいじゃないですか? 中里さんも、この三人があなたに逆らったり、ルールを壊そうとする人たちじゃないって、わかっているでしょう?」
中里は目を閉じたまましばらく動かず、ただその場の空気にじっと耐えているようだった。そして、長い沈黙の末、ゆっくりと目を開いた。
中里
「皆さんの気持ちは、本当に理解しているつもりです。」
その声はかすれ、震えていた。
中里
「でも、それでも…こういう役目を背負わされるのは、本当に辛いんです。」
中里は一瞬、言葉を詰まらせたが、それでも再び声を振り絞った。
中里
「…わかりました。30分でどうでしょうか。それが私にできる精一杯です。少ないのは分かっていますが、どうか、これで納得してください。」
中里の声は、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。その場の全員にとって、その「30分」という言葉の重みが痛いほど伝わってきた。
雅、サー、恵美、高橋、そして中里。それぞれの胸の中で、様々な感情が渦巻いていた。30分という限られた時間。その中で何を伝え、何を残すのか。静かな覚悟と悲しみが、場を包み込んでいた
雅は中里の提案を飲み込もうとしながら、ふと声を絞り出した。
雅
「中里さん…新しい生活はもう無理なんですよね…もし、それが叶わないなら…せめて、またちょくちょく会うくらいなら、できたりしないですか?」
その言葉には、雅の切実な思いが滲んでいた。彼は新しい生活ができなくても、少しでも今の状況を受け入れ、歩んでいきたいと考えていた。しかし、中里の表情は変わらないままだった。
中里
「雅さん…それは、もうできないんです。」
中里の声は静かだったが、どこか揺れているようでもあった。
雅
「どうしてですか?せめて少しだけでも…」
雅の声には諦めたくないという思いが込められていた。しかし、中里は首を横に振る。
中里
「それは、私が雅さんの記憶を戻してしまったからです。」
雅
「記憶を…?」
雅は息を飲み、その言葉を待つように中里を見つめた。
中里
「雅さんが亡くなったこと、その事実を思い出してしまったから。これが、この世界のルールなんです。一度思い出してしまった以上、もう以前のような関係には戻れない。」
その言葉に、雅は静かに顔を伏せた。そして、自分の胸の内に押し寄せる後悔と絶望に気づく。
「なんてことだ…」
雅は拳を握りしめ、震える声で呟いた。
「俺は…俺が望んでいたことを、自分の手で全部壊してしまったんだ。」
その言葉には、深い後悔が込められていた。雅の目には涙が浮かび、彼は恵美とサーに顔を向けた……
「恵美…サーちゃん…ごめん。俺のせいで…全部、俺のせいだ。」
雅の声は震え、涙が頬を伝って落ちる。彼の言葉には、自分の選択がもたらした結果に対する責任と、自分が大切な人たちに与えた苦しみに対する深い痛みが感じられた。
恵美とサーはその姿を見つめ、ただ静かに寄り添うように雅の肩に手を置いた。雅の後悔の中で、彼女らの温もりは唯一の救いのようだった。
中里もまた、静かに彼らを見つめながら、小さな声で呟いた。
「雅さん…あなたが悪いわけではありません。誰だって、大切な人たちと少しでも長く一緒にいたいと思う。それは自然なことです。
私のせいです。本当にすみません。私の力ではどうする事も出来なくて……」
中里の言葉には、雅に記憶を戻した後悔が込められてた
恵美
雅、こうなった以上仕方ないよ.……
でも会えたんだよ、私たち……
諦めていたことが、叶ったんだもん……
私たち、雅のお墓参りにもいって来たんだよ
雅に会える事半信半疑だった。
でも、その常識を超えて今会えてるんだよ……
恵美は涙が溢れて言葉にならなくなっていた。
サーも恵美の横で涙が溢れて言葉が出て来ません、
雅はゆっくりと席を立ち上がると、静かな足取りで恵美とサーの後ろに回り込みました。そして、迷いのない動きで二人を背中からそっと抱きしめます。
「恵美…サーちゃん…」
彼の声は震えていましたが、その抱擁にはどこか安らぎと力強さが混ざっていました。雅の頬を伝う涙が、光を受けてきらめいていました。
恵美は雅の腕の暖かさと優しさを感じながらも、雅の腕の中で震え、サーも雅の温もりを感じながら静かに涙を流しました。その場に漂う感情の深さに気づいた高橋は、そっとその場を離れ、見守るように立ち去ります。
中里もまた、その光景を見つめていました。言葉を飲み込むように一瞬目を閉じると、静かに口を開きます。
中里
「すみません…本当に申し訳ありません。でも、恵美さん、サーさん、雅さん、どうか…どうか、今の強い意志を持ち続けてください。記憶が消えても、この瞬間だけは…絶対に忘れないでください。」
その声には、中里自身がどれほど苦しみながらその言葉を選んだのかが滲んでいました。そして、彼もまた雅たちに背を向け、その場を離れていきました。
中里が去り、周囲が静寂に包まれると、そこには雅、恵美、サーの三人だけが残されました。その静けさの中で、雅は再び二人をぎゅっと抱きしめ直し、耳元でそっと囁きました。
雅
「恵美、サーちゃん、これは現実だよね。夢じゃない。本当に、こうして二人に会えて本当によかったよ。」
雅の声には、後悔と喜び、そして決意が入り混じっていました。
雅
「でも、今の僕にできることはまだ一つだけだあるからね。中里さんが言っていた“ある人”に認められること。それをやり遂げるよ。」
雅の声がわずかに震えます。それでも、その言葉には揺るぎない信念が込められていました。
雅
「だから、僕は諦めない。絶対に戻ってくるから。二人のところに、必ず戻ってくる。」
雅は一瞬言葉を区切り、深く息を吸い込みます。
雅
「約束だよ。恵美、サー…
だから、絶対に僕のことを忘れないでいてほしい。」
その言葉を聞いた瞬間、恵美とサーの涙が溢れ出しました。止めようとしても止まらない涙が頬を伝い、雅の腕にこぼれ落ちます。
恵美
「雅……絶対に帰ってきてね…信じてるよ…」
サー
「約束…絶対に守って…!私ずうっとずうっと待ってる…
絶対に忘れないからね……」
恵美とサーの声も震え、涙に濡れていました。雅は何も言わず、ただ優しく二人を抱きしめ続けます。その温もりは、二人の心に刻まれる最後の記憶になるかもしれないものでした。
静かに時が過ぎていく中、三人の間にある愛情と絆が、涙と共にその場を包み込みました。それは、失われることがあっても、永遠に消えることのない感情でした。
雅
「一年後、サーちゃんの誕生日は3人でお祝いしよう。必ずね。
恵美の誕生日は、2月22日だもんね。
ちゃんと覚えてるからね……
サーちゃんは3月13日
今度は25歳だからちょうど節目だしね」
サーと恵美はそれに応えて深く頷きます。
サー
「マーさん、忘れるわけないし、大丈夫!
どんな事があってもこの思いは消えないから……
だから、家族揃っての初めての誕生日絶対お祝いしてね……
楽しみに待ってるからね……」
恵美
「今まで、再会する事すら諦めていたんだよ…私…
それが会えたんだもん
また会えるに決まってるよ…
どんな困難でも雅なら頑張れるの私知ってるから……
それに雅は……私のためなら何でも叶えてくれたもんね……
だから私全然心配してないよ……
サーが私の隣にいるんだもん、サーの父親は雅なんだもん
私があなたの事忘れるわけないじゃない……」
2人は涙を拭いながらも、雅に必死に伝えようとしていました…
雅
「2人の気持ちはしっかり伝わったからね
安心して…
大丈夫だから
恵美、サーちゃん、こんな素敵な2人を置き去りには絶対しないから。
帰ってくるからね……」
その時、頭上でものすごい雷が鳴り出した……
ミユは立ち止まり、額の汗をぬぐいながら周囲を見渡した。息を切らしつつも、自分が道を間違えていたことに気づいた瞬間、冷や汗がさらに増す。
「やばい、逆方向に行っちゃってた…!」
思わず声に出してしまい、自分のミスを責めるように頭を抱える。井の頭公園は確かに近くなっているはずなのに、目の前に見える景色はまったく知らないものばかり。焦りが胸を締め付ける。
【ミユは典型的な方向音痴でした。】
「早く行かなきゃ…サーさん、待ってるよね? でも、もし帰っちゃったら…!」
その考えが脳裏をよぎるたびに、胸の奥から嫌な汗がにじむ。ミユは再び走り出した。スマホの地図を見ながら必死に道を確認するが、焦りで画面がよく見えず、さらに混乱してしまう。
「私って、なんでこうドジなんだろう…。こんな時に限って道を間違えるなんて…!」
唇を噛み締めながら走るミユの頭の中には、ただひたすらサーのことが浮かんでいた。サーの背中を思い出し、その心細そうな表情を想像するたびに、胸が締め付けられるような思いが込み上げてくる。
「私が行かないと、サーさん…また一人で抱え込んじゃうかもしれない。そんなの絶対にダメだよ!」
彼女の目には必死さが滲み、いつもの軽い口調もどこかに消えていた。心の中で「お願い、待ってて!」と何度も叫びながら、全力で公園に向かう。その足音が静かな通りに響き渡る。
少しずつ目的地が近づいている感覚がするたびに、ほんの少しだけ希望が湧く。しかし同時に、時間との競争に負けるのではないかという不安が、ミユを追い立てる。
「サーさん…絶対に見つけるから!そしてちゃんと後ろからサポートしますからね」
ミユの決意は揺るぎない。迷子になった自分を責める余裕すらなく、彼女はただサーのもとへと走り続けた。
続く
初心者ですが、読者が少しでもいてくれる事がこんなに嬉しいとは思いませんでした。皆様のおかげで何とかここまで書くことが出来ました。本当にありがとうございます。あと、もう少しお付き合いよろしくお願い致します。
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