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サーの奇妙な体験 44

毎週水曜日、新作投稿少しずれだらごめんなさい。

0時と共に投稿目指します


サーもやっと緊張感が取れてマーとの再会


サーを取り巻く人達がそれぞれの思いで動き出す。


この後に待ち受ける運命とは…………。





貸ボートの近く、静かなベンチに腰掛けた高橋は、遠くからサーとマーの様子をじっと見つめていた。

二人の姿は、どこか特別な空気を纏っているように感じられた。その空気感は、言葉にできない何かを高橋の胸の奥に呼び起こしていた。


高橋は小さく息を吐く。少し先のベンチに腰掛ける恵美の存在も視界の端に捉えながら、自分の考えを巡らせていた。恵美もまた、二人を静かに見守るようにしている。その表情は柔らかく、どこか遠くを見つめるようなまなざしをしていた。


「恵美さんも、きっと懐かしさにひたっているんだろうな。」


高橋は、恵美の横顔を見つめながら心の中でそう思った。


恵美とマーとの間にある特別な絆。それを知る自分が、今この場にいることの重大な責任


それに、立ち入ってはいけない領域に私達は足を踏み入れてしまったような感覚が、じわじわと高橋の胸に広がっていく。


ふと、彼女は恵美が少し前に話していた言葉を思い出した。


「雅に会えるのは、私にとって特別なことなんです。どれだけ時間が経っても、忘れられない人なんです。」


その時の恵美の表情は、愛おしい人への想い、懐かしさと切なさが入り混じったもので、今でも高橋の心に深く刻み込まれていました。


「恵美さんにとって、マーさんは今も大切な存在なんだもんね。」


その事実を知っているからこそ、高橋は胸の内に複雑な感情を抱えていた。自分がこの場で彼らを見守る役目、もし万が一見逃したら…

恵美さんのことを思うと…



高橋はネガティブな事を考えて答えの出ない問いが心の中を巡っています。


そんななか、視線を再びサーとマーに戻すと、二人は穏やかな表情で話し合い、笑い合っている。その光景に、ふと高橋の胸の中に小さな温かさが芽生えるのを感じた。


「こうして少しずつでも、距離を縮められているのなら、それでいい。」


自分にそう言い聞かせるように思う一方で、高橋の胸にはまだ微かな緊張感が残っていた。

恵美の視線の先に映るマーへの想い。サーとマーが紡ぐ新たな関係。そして、それを外側から見守る自分自身。この場で起きていることの全てが、高橋にとってまだ理解しきれない何かが起きるように感じていた。


しかし、彼女はそれでも静かに決心する。


「今はただ、この瞬間を見届けて、これから起こり得る何かに対してしっかり対応できる様、心の準備をいておこう。必ずうまく行く!」


遠くで楽しそうに笑う二人。そして、その二人を見守る恵美と高橋。それぞれの想いが交錯する中で、静かに時間が流れていく。高橋の胸に宿る緊張と不安はこれから訪れる新たな展開を予感させていた。




その頃、ミユは静かな職場のデスクに座り、目の前の書類を見つめていた。ペンを手に取るものの、その動きは途中で止まり、思考はどこか遠くへと漂っています。


「今頃、サー先輩…」


心の中でつぶやいた言葉に、ミユの表情がふっと柔らかくなる。


サーさんが久しぶりの再会を楽しんでいる姿を想像すると、自然と微笑みが浮かぶ。

彼女の少し照れくさそうな笑顔や、どこか落ち着かない様子まで思い浮かべては、小さく首を振り、思い直す。


「きっと何事もなく、いい時間を過ごしているはず。」


そう信じる気持ちと、どこか気にかけずにはいられないミユ


机の上にはやるべき仕事が残っている。それでもミユはほんの少しだけ、サーのことを想う時間を自分にゆるしていた。


ミユは一度サーのことを考え始めると、もう止まらない性格


「でも、本当に大丈夫かな…」


机に肘をつきながら、ペンをくるくると回す。その目は書類ではなく、頭の中のサーに向けられている。


「だいたい、サー先輩って、そういう大事な場面で妙に緊張しちゃうタイプだし…!」


ミユは机にぽんっと軽く拳を打ちつけ、小さく頷く。


「私が行ったほうがいいんじゃないかな?いや、絶対そうだ!サー先輩には私が必要なんだから!」


いつの間にか自分がいないとダメだ、という結論にたどり着いたミユ。頭の中で吉祥寺の地図を思い浮かべ、サーが言っていた井の頭公園を予測し始める。


「井の頭公園?音楽堂ひょっとしたら時間も少し過ぎたから公園から駅周辺かも…」

真剣な顔であれこれ考えていると、わかなが不思議そうに声をかけてきた。


わかな

「ミユさん、大丈夫ですか?何かあったんですか?」


ミユ

「あっ、いえ!全然!なんでもないよ」


慌てて姿勢を正すが、頬が赤く染まっているのを隠しきれない。


その後も


「いや、でも行ったほうがいいかも…」


と心の中で葛藤し続けるミユ。結局、サーのことを気にするあまり、仕事そっちのけで吉祥寺行きの計画を練り始めてしまったのだった。



ミユはデスクで吉祥寺に今行くべきかどうかを考え込んでいたが、やがて


「今行くしかない!」


という結論に達した。


「でも、どうやって抜け出そう…」


そうつぶやいた瞬間、ミユの頭の中ではいくつもの言い訳プランが浮かび始める。


「家庭の事情?いや、それだと理由が重すぎるかも。急用ってのも曖昧すぎるし…あ、体調不良!これだ!」


ミユは小さくガッツポーズを決めた。体調不良なら周りも納得してくれるはず。しかも、疲れた顔を作るのはそれほど難しくない。


彼女はトイレに駆け込み、鏡の前で

「体調不良の顔」を練習しています。


「ふう…これくらい弱々しい表情なら大丈夫かな?」


自分の顔を確認し、納得したところで上司のデスクに向かった。


ミユ

「すみません、少し体調が悪くて…今日は早めに帰らせていただけませんか?」


わざと声を弱々しくして訴えるミユ。上司は驚いた顔をしたが、彼女の普段の元気さとのギャップに特に疑問を抱くことなく、了承してくれた。


ミユ

「明日までにはちゃんと仕事を仕上げますので!」


そう念押しし、上司の許可を得たミユは

「作戦成功!」

と心の中で叫びながら、デスクに戻ります。


バッグをまとめて会社を出た瞬間、ミユは一気に元気を取り戻した。


「よし!吉祥寺、これから行きま〜す。サー先輩、待ってて下さいね(笑)」


声に出さないよう気をつけながらも、足取りは軽やかだ。サー先輩の役に立ちたい。その一心で胸がいっぱいになっているミユでした。


会社を出て、駅に向かう途中、ミユの頭の中は「サー先輩をどうサポートするか」でいっぱいだった。


「まずは様子を見て、何かあったらさりげなく声をかけて…いや、サー先輩なら緊張してるだろうし、背中を押すのがいいかな?」


妄想がどんどん膨らみ、駅に着く頃にはミユの心は決意で満ちていた。


「やっぱり私がいないとダメだよね!

サー先輩!」


そんな彼女の強い意志と明るさが、街の春の日差しに負けないくらい輝いていた。






ミユが職場を飛び出し、吉祥寺へと向かっている頃。井の頭公園では、

サーの笑顔が徐々に戻り始め、マーも柔らかな表情で彼女の話に耳を傾けています。


二人の間に流れる空気は、久しぶりの再会の温かさと、これから訪れる新しい何かを予感させるものでした。


春風が緩やかに公園の木々を揺らし、舞い散る花びらが二人の会話をそっと彩る。



サー

「それからですね、今日はマーさんのために、すごいサプライズを用意してるんです。」


サーは少し得意げに微笑みながらそう言った。その目には、いたずらっぽい輝きが宿っています。


マー

「サプライズ?それは楽しみだなね〜。」


マーは目を細めながら、興味を隠せない様子でサーを見つめて


マー

「でも、どんなサプライズなんだろう…ヒントくらい教えてくれないかな?」

と軽く首を傾げる。


サー

「ダメで〜す! 今は秘密ですから。でも…

きっと喜んでもらえると思います!」


そう言って、嬉しそうに小さく跳ねるサー。その姿に、マーは自然と笑みを浮かべた。


マー

「それじゃあ、楽しみにしてるよ。」


春の柔らかな陽射しの中で、二人の会話はまるで心を弾ませる風のように軽やかに続いていく。


 


サー

「マーさん、それでね、雷の事件があって、それから何日かして……とんでもないことがわかったんです。マーさん、何だと思いますか?」


マー

「うーん、全然見当つかないな〜。何だろう?」


サー

「ですよね〜。私も最初は全く信じられなくて。でも、雷事件の後、本当にいろんなことがあって、もう絶望感でいっぱいだった時、母にその話をしたんです。そしてね……マーさんの写真を初めて母に見せたんですよ…」


マー

「へえ、それで?お母さん、何か言ってたの?」


サー

「マーさんはどう思いますか?

母が写真を見た時、きっと『何、このおじさん?』って思うかなって、私も最初はそう思ったんです。」


マー

「だろうね(笑)。全然知らないおじさんだし、そう思うのが普通だよ。」


サー

「ですよね〜。でもね、母は違ったんです。写真をじっと見つめて、私にこう聞いたんです。『この人が最近会ってるマーさんなの?

名前は何ていうの?』って。それで私、答えました。『小野寺雅俊だよ』って。」


マー

「それで?」


サー

「何も言わないで、しばらくずーっと見てたんです。なんか変だな〜なんておもったんです。

そうしたらですね。突然こんな事言ったんです。

【白髪も良い感じに馴染んでて、素敵な大人になったんだね……】って。

最初何言ってるのかな〜と思ったら…。

その瞬間です。母、いきなり泣き出したんです。あんなに涙を流す母を見るのは初めてで、私も驚いて。

どうしたの?って聞いたんですが

母、声にならなくて……

マーさん……母の名前、高橋恵美って言うんです。」


その名前を聞いた瞬間、マーの顔から表情が消えた。笑顔はどこかへ消え去り、代わりに訪れたのは、何かを探るような真剣な目の色だった。


サーは続けようと口を開きかけたが、マーの固まった様子に思わず言葉を止めた。彼が何かを考え込んでいるのが、はっきりとわかったからだ。


春の風がそっと二人の間を吹き抜ける。


マーの心には、もしかすると……という期待と、胸の奥底で眠っていた何かが目を覚まし始めたような…

何かが繋がりかけているかのような予感が、マーの心にも静かに広がり始めていた。



サーは少し迷ったように視線を落とし、それからそっとマーを見つめた。その目には、どこか優しさと決意が入り混じった感情が宿っている。春風が静かに二人の間を通り抜ける中、サーは静かな声で口を開いた。


サー

初めてその時母の宝物を見せてくれたんです。

中を見たら、マーさんと母が楽しそうに写っていたんです。スキーや海の写真とかいろんな写真を見せてくれたんです。

いろんな昔話を母から聞きました。

それこそ、出会いから別れまで……

マーさんの優しさとかも母から聞きました。

母にもいろんなかくとうがあったみたいです。

母なりに悩んだ結果だと私はその時理解しました……

その時の母は私と話していて、すごく嬉しそうで、本当の母の心の声を聞いた気がしました。

そのあと2人で涙を流しながら、永遠語り合っちゃいました。」


マー

「お母さんは、今も元気にしているの?」


サー

「マーさん自身で確かめて下さい

実は……母が今、ここに来ています。」



その一言に、マーの表情が微かに揺れた。驚きと戸惑い、そして何の不安のような感情が一瞬だけ垣間見えたのを、サーは見逃さなかった。


サー

「大丈夫ですよ。」

 

サーの声は穏やかで、相手を安心させるような響きを持っていた。


サー

「マーさん、母の事、どうしてもお伝えしたいことがあるんです。それに、母は今でもマーさんのことをとても大切に思っているみたいです。私にも、その気持ちがよく伝わりました。」


言葉を選ぶように、慎重に一つひとつ紡いでいくサー。その瞳には、母を思う優しい気持ちが漂っていた。


「今、母を連れてきますので、少しだけ待っていてもらえますか?」


マーの心に、サーの真剣な思いがじんわりと染み込んでいくようだった。その場に立つ彼女の姿は、ただのメッセンジャーではなく、二人を繋ぐ懸け橋のように思えた。



サーは静かに息を整えると、母の方へゆっくりと歩き出した。その一歩一歩が、まるで空気を切り裂くような緊張感に包まれているのを、彼女自身も感じていた。背後ではマーがその様子をじっと見守り、少し離れた場所にいる恵美もまた、事態を察して心を固くしているようだった。


「お母さん、大丈夫?」

サーが母の隣に立ち、小声で問いかけた。母、高橋恵美は少し微笑みを浮かべようとしたが、明らかにその表情には緊張が滲んでいた。


「ええ、大丈夫よ。」

そう言いながらも、声がわずかに震えているのをサーは理解した。彼女はそっと母の手に触れ、その手が少し冷たいことに気づく。


「お母さん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。マーさんに話したら、マーさんも固まってたよ。だからきっとお互い同じなんだよ〜

だから、安心して!」


サーの声は優しく、そしてどこか励ますような言葉を母に伝えた。


サー

「マーさん、今、本当に驚いていたけど、きっとお母さんに会えて喜ぶと思う。」


恵美はそれを聞いて小さくうなずいたものの、その目にはまだ不安の色が浮かんでいる。そんな母をリラックスさせようと、サーは少し軽い調子で話を続けた。


サー

「そういえば、お母さん。この前、川越で買って食べたフルーツ大福おいしかったよね! 私、またたべたいなマーさんにも勧めてみようかな?」


恵美

「そうね。あの大福、甘さがちょうど良くてね……」


サー

「いつか3人で買いに行こうよ」


恵美

「そうね…行くしかないわよね……」


恵美は小さく笑いながら答えた。その笑顔を見て、サーは少しホッとした。会話が弾むうちに、母の緊張が和らいでいくのがサーにはわかった。


しばらくそんなやり取りをしてから、恵美は静かに息を吸い込み、サーの目をまっすぐに見つめた。


恵美

「もう大丈夫よ、サー。ありがとうね。」


その言葉にサーは力強くうなずいた。


サー

「うん。じゃあ、お母さん、会いに行こうか。」


恵美

「そうね〜、雅、待たしちゃ怒られちゃうしね。行ってみようか…

サーちゃん、ありがとう…でも、少し助けてね(笑)」


恵美の声には、少し前までの不安が消え、代わりにもう2度と昔の過ちを繰り返してはいけない事を感じていた。


恵美は席を立ちました。


二人はゆっくりとマーのいる方へ歩き出しました。これから何か大切な瞬間が訪れるのか…

2人にはまだわからないが、確かに何かが進んでいのをサーと恵美は感じていた…。



遠くのベンチで静かに二人の様子を見守っていた高橋は、ゆっくりと立ち上がった。「そろそろだね」と、心の中で自分に言い聞かせるように小さくつぶやく。その表情は冷静そのものだったが、その瞳には鋭い光が宿っていた。


これから起こる瞬間を、どんな小さな変化も見逃さないように…

高橋は自然と集中力を研ぎ澄ませていた。サーと恵美がマーの方へ向かって歩き出したのを確認すると、彼女はそれに合わせるように、自らも動き出した。


今まで恵美が座っていたベンチに向かう高橋の動きは、周囲から見れば実に自然なもので、誰も特別な意図があるとは思わないだろう。しかしその内心は、常に警戒心を怠らず、二人の動きだけでなく、周囲の状況にも目を配っていた。春の陽射しが柔らかく降り注ぐ井の頭公園で、彼女はあえて何事もない顔を装いながら、一歩一歩慎重に進んでいく。


「これが私の役目だ」と高橋は心の中で呟いた。サーと恵美、そしてマー

彼ら三人にとって、この出会いの場を安全かつスムーズに進めること。それが自分に課せられた使命だと確信していた。何か不自然な動きがないか、誰かが気付いてしまわないか。その全てを冷静に見極め、最善を尽くすことに、彼女は全神経を注いでいた。


ベンチへと近づくにつれ、風がふっと頬を撫でた。高橋はそれを気にすることもなく、自然な仕草でバッグを手に取り、立ち止まることなく再び動き出す。その背中には、冷静さの奥に秘めた強い責任感と覚悟が滲んでいた。


「ここまでは順調」と自分に言い聞かせながらも、目は二人の背中をしっかりと追い続ける。サーと恵美がマーへと近づく中で、高橋自身もまた、その場を慎重に見守る要としての役割を全うしていた。




サーの心は、次第に高鳴る鼓動に包まれていた。目の前の光景は穏やかそのものだが、その胸の内では、これから起こりうることを次々と思い描いてしまう。


マーさんはどんな顔をするだろう?驚くだろうか、それとも笑ってくれるだろうか。けれども、それがもし喜びの笑顔じゃなかったら……そんな不安がふと胸をよぎる。だが、それでも、サーは立ち止まらなかった。どんな反応であれ、この瞬間を迎えたいという気持ちが、自分を強く突き動かしていた。


一方で、隣を歩く恵美もまた、自分の想いと向き合っていた。長い年月を経て、ようやく手の届く場所にいる人。それなのに、なぜか足が少し重く感じる。


「会いたい気持ちはずっとあった。でも、今更とおもわれないか?……」


恵美の心の中で、葛藤が渦巻いていた。昔の記憶が断片的によみがえり、彼の笑顔、声、優しさがまるで昨日のことのように鮮明になる。けれども、その思い出の裏にある自分の弱さや未熟さもまた、彼女の胸を刺すように蘇る。


「私なんかが会いに行ってもいいのかしら。雅には雅の生活があるのに?」


そんな弱気な思いを抱えながらも、恵美の心の奥底には、彼と再び向き合いたいという切実な願いが確かにあった。それが、サーの言葉に背中を押される形で、ほんの少しずつ勇気に変わっていく。


サーはそんな母の様子を横目で感じ取りながら、心の中でそっと励ました。


サー

「お母さん、大丈夫だよ。私がついてるから。きっと、いい形になるよ。」


春の柔らかな風が二人の間を優しく通り抜ける。サーは自然と母の歩調に合わせ、彼女の不安を少しでも和らげようと、わざと明るく話しかける。


サー

「お母さん、緊張してる〜?。

大丈夫だよって!マーさん、きっと笑ってくれるよ。」


恵美はそんな娘の声にわずかに顔をほころばせながらも、まだ完全にはその気持ちを振り切れないようだった。それでも、一歩、また一歩と、マーに近づく足取りは確かだ。


サーの心にも、恵美の心にも、それぞれの想いが渦巻いている。その複雑な感情が、歩み寄るたびに少しずつ形を変え、二人を優しく包み込んでいくようだった。春の風がまたそっと吹き、二人をマーの元へと送り出しているかのように感じられた。





マーは静かに息を整えながら、二人の姿を見つめていた。サーの横に寄り添うように立つ女性。その穏やかな面影に、自分の記憶の中に鮮明に刻まれた顔が重なっていく。


「間違いない……恵美だ。」


心の中でその名前を呼ぶたびに、胸の奥が熱くなる。こんな奇跡が本当にあるのかと、マーは自分の感情を必死に抑えようとしていた。だが、抑えきれるものではなかった。


あれだけ探しても、どれだけ手を尽くしても、結局見つけることができなかった彼女。

時間が経つにつれて、その存在が現実なのか、それともただの夢だったのかさえ、わからなくなるほど遠くに感じていた。


それが今、こうして目の前にいる。何年もの時を越えて、彼女がここにいるという事実が信じられず、思わず目を閉じてしまう。けれど、再び目を開けてもその光景は変わらない。サーの横で、微かに笑顔を浮かべる恵美の姿がそこにあった。


マーの胸に広がるのは、懐かしさと喜び、そして一抹の切なさだった。過ぎ去った時間への悔いと、今こうして巡り合えた奇跡への感謝が入り混じり、言葉にできない感情が押し寄せる。


「どうして、こんな形で再会することが出来たのか……

だけど、今ここにいる彼女を、きっと神様がもう一度自分の元に導いてくれたとしか思えない。」


春の風が優しく吹き抜ける中、マーは静かに拳を握りしめた。この再会の意味を胸に刻みながら、全てを受け入れようと決意する。


恵美とサーが一歩ずつ自分に近づいてくるのを見つめながら、マーは心の中でそっと呟いた。


「恵美……もう一度話ができるなんて思わなかった。でも、ありがとう。多分これが答えなんだよな、きっと…」


マーの目には、二人の姿が眩しく映っていた。その姿は、まるで失われた時間を取り戻しに来たようにも見えた。




再会…



恵美とサーがマーの目の前に立ち止まった瞬間、ほんの一瞬だけ時間が止まったように感じられた。三人の間に流れる空気は、緊張と期待が入り混じった不思議なもので、マーも恵美も言葉を見つけられず、ただお互いを見つめ合っていた。


「……やぁ。」

マーが絞り出すように口を開く。その声は、静かで優しく、けれど少し震えていた。


「……久しぶり。」

恵美もまた、小さな声で答える。その言葉の裏には、長い時間を越えた再会の喜びと、今更私なんてと思う不安が見え隠れしていた。


二人の間に、再び短い沈黙が訪れる。その様子を横で見ていたサーは、ついに耐えきれなくなったように口を開いた。


「ちょっと! 二人とも、これじゃまるでドラマのワンシーンみたいじゃないですか!」


冗談めかした言葉に、マーと恵美がハッとしたように顔を見合わせる。そして、恵美が少し頬を赤らめながら目を伏せると、マーもつられるように苦笑を浮かべた。


サー

「ほら、こういう時こそもっと気軽に話しましょうよ! マーさん、母のこと『元気だった?』くらい聞くのが普通じゃないですか〜?」


サーは手をひらひらさせながら、二人を明るくはやしたてる。その仕草に、少しずつ場の緊張が解けていくのが感じられた。


マーは小さく頷き、口元にわずかな笑みを浮かべながら改めて言った。


マー

「元気だったかい、恵美?」


雅が『恵美』と言ったその言葉の響きを聞いた恵美は、すごく懐かしく会えている事を実感していた。

少し時間をおいて、雅に微笑みを返した恵美は…


恵美

「……ええ、いろいろあったけど、なんとかね…… 雅」


サーがにっこり笑いながら、「その調子だよ(笑)!」と声を上げる。その明るさに助けられるように、マーも恵美も少しずつ自然に話し始めた。


マー

「でも、信じられないけど良かった… 恵美にやっと会えた…」


その言葉を聞いて恵美は恥ずかしそうにこたえました。


恵美

「私も、昔からずぅーと、雅に会いたかったよ…本当だよ…」




春の風が優しく吹き抜ける中、三人の間には新たな空気が流れ始めていた。それは、これから新しい物語の始まりを感じさせるものだった。



しかしその時…


 高橋は公園の一角で一人、周囲の気配を鋭く探っていた。再会の瞬間を静かに見守るはずだった彼女の視線は、ふと売店の裏手にある奇妙な影に引き寄せられる。最初はただの錯覚だと思った。木々の間から差し込む光が作り出した影、あるいは通りがかった人のものだと。しかし、その影は動きが異様に緩慢で、まるでこちらを伺うかのようにゆっくりと揺れている。


高橋は瞬時に悟った。あれはただの影ではない。これまで感じていた微かな不安が、確信へと変わる。

「ついに動き出した……陰の存在。」

心の中でそう呟きながら、高橋は冷静さを保とうと深呼吸した。


恵美とマーが再会を果たし、サーがその場を和ませる中、影の動きには目的があるように思えた。高橋はその場を動かず、目立たないように観察を続けた。気づかれるわけにはいかない。この場で自分が見つかったら、せっかくの再会が台無しになるだけでなく、計画全体に影響を及ぼすかもしれない。


売店の裏手で揺れる影は、風に揺れる木々とも、通行人とも異なる存在感を放っていた。その気配は、まるで遠くから見つめる視線そのもののようだ。高橋は静かに、しかし確実に目を光らせ、影が次にどう動くのか見逃さないように全神経を集中させた。


「これが陰だとしたら、次に何をしようとしているのか……」

冷静さを装いながらも、彼女の心臓は小さく速く脈打つ。高橋はただ一つ、再会の場を守ることを心に決め、その奇妙な存在をじっと見つめ続けていた。


遠くで響く春の風の音さえ、どこか異様に感じられる。平穏な井の頭公園の一角で、静かな緊張感がじわじわと高橋を包み込んでいた。




続く


読んで頂きありがとうございます。

作品いかがでしょうか?

初心者ですが、読者が少しでもいてくれる事がこんなに嬉しいとは思いませんでした。皆様のおかげで何とかここまで書くことが出来ました。本当にありがとうございます。あと、もう少しお付き合いよろしくお願い致します。


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