サーの奇妙な体験 43
「久しぶりの再会」
マーの穏やかな声に、サーは静かにうなずいた。嬉しさのあまり泣きじゃくるサー
それを優しく受け止めるマー
その光景を恵美と高橋は遠くから優しく見守っています。
春の風が4人の間を通り抜ける。
何かが変わり始める。そんな予感が……
マー
「どうした?サーちゃん?いつもの笑顔はどこに行っちゃったのかな?」
マーさんは少しかがみながらサーの顔を覗き込みました。その声は穏やかで、まるで父親が幼い娘を優しく励ますかのような温かさがありました。
「ほら、泣いてたらせっかくの再会が台無しだよ。サーちゃんがこうやって僕に会いに来てくれたんだから、僕もちゃんと笑顔で迎えないといけないだろう?」
そう言って、マーさんはサーの肩にそっと手を置きました。その手のぬくもりは、サーの心に染み込むようで、次第に胸の中の緊張がほぐれていくのがわかりました。
サーは涙の中で絞り出すように答えます。
「だって…だって、本当に会えるなんて…信じられなくて…。今日までずっと、不安で…。でも今、マーさんがここにいるのが嬉しくて…それだけで涙が止まらないんです。」
マーはその言葉を静かに受け止め、少し考え込むような表情を見せた後、優しく微笑みました。
「サーちゃん、よく頑張ったね。いろいろなことがあったんだろう?
僕には全部わからないけど、こうして君が元気にここにいてくれること、それが何より嬉しいよ。」
その言葉にサーはまた涙が込み上げてきそうになりましたが、マーさんの微笑みを見てなんとか堪える事が出来ました。
マー
「さあ、これから何を話してくれるのかな?
長い1週間だったしね。サーちゃんの1つ1つの言葉しっかり聞きたいし、僕も話さないといけない事がたくさんあるしね。」
マーさんの優しさに包まれ、サーは胸の中にあった感情が少しずつ言葉になっていくのを感じました。そして、自分がここにいる理由を、マーさんに伝えたいという気持ちがさらに強くなりました。
恵美はベンチに腰掛けながら、音楽堂の向こうでサーが座る姿をじっと見守っていました。
穏やかに揺れる木々の影が、サーの肩越しにそよぎます。サーはどこか心細いような、でも何かを確信しているような表情で座っている様に映っています。
その瞬間、サーの背後に一人の男性が立つのが目に入りました。背筋の伸びたその姿、落ち着いた佇まい。時が経っても、記憶の中のその人と全く変わらない姿でした。
「間違いない………。」
恵美の心は一気に跳ね上がりました。手が震え、胸が詰まるような感覚が襲います。それでも、その感覚はどこか懐かしく、温かいものでした。
「雅……やっぱり、あなたなのね。」
恵美の目には涙が滲み、景色がぼやけます。それでも、雅の姿ははっきりと心に映りました。何十年も経ち、あの日の声も、笑顔も、思い出の中に埋もれてしまったと思っていたのに、今、こうして目の前にいる。それだけで、胸がいっぱいになりました。
「よかった……本当に、よかった……」
小さな声でそう呟いた瞬間、込み上げてくる涙が止まらなくなりました。恵美はそっとハンカチを取り出し、目元を拭います。その手の震えは、喜びと安堵が混じった感情の大きさを物語っていました。
本当に会えるかもしれないという期待を抱きながらも、心のどこかで不安があったことは否めませんでした。でも、今、その不安は完全に消え去り、ただひたすらに懐かしく、そして嬉しい気持ちで心が満たされていました。
遠くからでも雅の温かさが伝わるような気がしました。恵美は少しだけ深呼吸をし、そっと胸の中で感謝を捧げます。
「ありがとう……。雅……… また会えたよ私たち……」
その言葉が誰に向けられたのか、恵美でもはっきりとは分からないくらい、ただ、今この瞬間に心からあふれる想いが、自然に心からこぼれだしその1つ1つの言葉に全てが込められている様でした。
マー
「サーちゃん、隣に座ってもいいかな?」
涙を拭う手を止めて、サーは少し恥ずかしそうに微笑みました。
サー
「もちろんです。なんかすみません。取り乱しちゃって…」
マーはそんなサーの様子を優しく見つめながら、隣に腰を下ろします。その仕草ひとつひとつに、どこか包み込むような温かさがありました。
マー
「ちょっと待っててね。今お茶でも買ってくるよ。」
サー
「あ、ありがとうございます。でも…この前も、マーさんにここでお水を買ってもらったんですよね。」
マーは少し驚いたように笑顔を浮かべます。
マー
「そうだったね。サーちゃん、よく覚えてるね。あの夜はちょっと酔ってたから、正直あんまり記憶が無いのかなと思ってたよ(笑)。でも、ちゃんと覚えててくれてて嬉しいよ。じゃあ、ちょっと待っててね。」
そう言うと、マーは軽やかな足取りで売店の方へ向かいました。その方向には恵美の座るベンチがありました。
恵美はマーが立ち上がると同時に、息を呑みました。自分に向かってまっすぐ歩いてくる雅の姿――数十年ぶりに見るその背筋の伸びた歩き方に、懐かしさと緊張が入り混じります。
「まさか、こっちに来るなんて……!」
心の中で焦りの声を上げながら、恵美は池の方へ体を向け、できるだけ自然に振る舞おうとしています。
視界の端にちらつく雅の姿がどんどん近づいてきます。
「これは、まずい… 落ち着いて、落ち着いて……大丈夫、絶対に気づかれないから……」
そう自分に言い聞かせながら、恵美はベンチの端をぎゅっと掴みました。手のひらがじっとりと汗ばんでいるのが分かります。
雅は何も知らない様子で自販機に近づき、品定めを始めました。その距離、わずか2メートル。ほんの一瞬でも目が合ってしまえば、気づかれるのは避けられません。それだけは絶対に避けたい――恵美はそう強く願いました。
「お願い、お願い……早くお茶を買って戻って……!」
雅が恵美の方をちらりと見た気がして、思わず背筋が凍ります。しかし、雅の目は特に何かを感じ取った様子もなく、再び自販機に視線を戻しました。その仕草に、恵美はほっと胸を撫で下ろします。
「良かった……まだ気づかれてない……」
雅は無造作にお茶を2本取り出すと、手際よく自販機の扉を閉め、再びサーの待つ場所へと歩き出しました。
その後ろ姿を見送る恵美は、胸の高鳴りを抑えきれず、思わず心の中で呟きます。
「雅……やっぱり昔とまったく変わってないのね……(笑)」
その言葉には、懐かしさと切なさ、そして再会を目前に控えた複雑な感情が込められていました。
その光景を高橋さんは穏やかに見ています、
少し離れた木陰にあるベンチで高橋は、ベンチに座るサーと、売店の近くのベンチに座る恵美を観察していました。
高橋の表情は穏やかでありながら、その目には一瞬たりとも見逃すまいという鋭さが宿っています。
「サーさん、泣いてるみたいですね……やっぱり会えた喜びが溢れちゃったんだろうな。」
独り言のように呟きながら、高橋はサーの肩を震わせる様子に目を細めます。サーが袖で涙を拭う姿は、まるで何年も待ち続けた感情が一気に噴き出したようにも見えました。その隣には雅が腰を下ろし、そっと声をかけています。
「マーさん、優しいなぁ……。まるで父親みたい…まだきっと雅さんは事実を知らないんだろうけどね。」
そう思いながらも、高橋の意識はその先にあります。目を細め、周囲の動きにも注意を払いますが、陰の存在を思わせる人物はまだ見当たりません。それが焦りを生むわけではありませんが、慎重さを欠いてはいけない、と自分に言い聞かせます。
「まだ動くべきじゃない……。今はこの状況を観察することに集中しよう。」
その時、高橋の視界に、雅が売店の自販機でお茶を購入し、それを手際よく持ち上げる姿が映ります。そしてその背中越しに、少し距離を取って池の方へ視線を向けている恵美の姿も捉えられました。雅は何も気づかないまま再びサーの元へと歩き出し、その動きに反応する恵美は肩を小さくすくめて体勢を変えています。
「……恵美さん、やっぱり緊張してるんだな。」
雅の足音が近づくたび、恵美が僅かに動揺する様子を見ながら、高橋はさらに観察を続けます。
雅が恵美のすぐ近くまで来た瞬間、高橋はその一瞬の空気を逃さずに見届けました。雅は少し周囲を見渡すような仕草をしたものの、特に恵美には気づかない様子でそのまま歩みを進め、再びサーの待つベンチへ戻っていきます。
「……まだだな。大丈夫、焦らないでいこう。」
高橋は深呼吸を一つし、自分を落ち着かせます。視線の先では、サーと雅が何か話しながら笑顔を浮かべているように見えます。その温かな光景の裏に、どこかに潜むはずの陰の存在…
その人物が現れるのを待ちながら、高橋はじっとこの場を見守り続けました。
サーの元へ戻ってきたマーは、笑顔を浮かべながらお茶を差し出しました。その穏やかな表情に、サーは自然と緊張が和らぐのを感じます。
マー
「はい、サーちゃん。温かいお茶。これで少しは落ち着くよ。」
マーはそう言って、そっとお茶をサーの手に握らせます。その声には本当に父親のような包容力があり、サーを安心させる不思議な力がありました。サーは受け取ったお茶のペットボトルを両手で包み込み、ほんのり伝わる温かさにほっと息をつきます。
「ありがとうございます……」
サーは小さな声でそう言いながら、マーの気遣いが胸にじんわりと染み渡るのを感じていました。
マー
「無理しなくていいから、ゆっくり飲みなさい。」
マーはサーの隣に腰を下ろし、彼女の様子をそっと見守ります。サーの肩がわずかに震えているのを見て、マーは少し間をおいて優しく話しかけました。
マー
「こんなに泣けるのは、サーちゃんが一生懸命だからだよ。大変だったんだね。でも、もう大丈夫だよ。こうしてまた会えたんだから。」
その言葉に、サーの目元が再び潤みそうになりましたが、彼女は必死に涙を堪え、代わりにお茶をゆっくり開けました。
サー
「……いただきます。」
小さな声でそうつぶやくと、サーはお茶を口元に運び、一口含みます。温かな緑茶が喉を通り、心の中の緊張を少しずつほぐしていくのを感じました。
マー
「ほら、落ち着いたでしょ?」
マーは微笑みながら、サーの顔を覗き込みます。その柔らかな表情に、サーもつい笑顔を返しました。
サー
「はい……ありがとうございます、本当に。
もう、大丈夫です。」
2人の間には温かな空気が流れ、サーの心には、マーの優しさが静かに沁み込んでいくようでした。マーの隣にいるだけで、不思議と今までの不安が消えていくのを感じていました。
サー
「マーさん、実はこの前、吉祥寺から帰った日のことなんですが、ちょっと不思議なことが起きたんです。」
マー
「不思議なこと?何があったの?」
サー
「あの後、駅を出て家の前の信号で立ってた時、突然すごい雷が鳴ったんです。もう頭のすぐ上で、びっくりして動けなくなるくらい大きな音で。その瞬間、手に持ってた携帯が急に飛び出すように道路まで転がってしまって…そのまま車に轢かれて粉々になってしまったんです。」
マー
「そんなことが…
怪我はなかったのかい?」
サー
「怪我はなかったです。でも…マーさんとの出かけた時の写真とか、メールとか、全部携帯に入ってたんです。それが全部消えてしまったのがすごくショックで…。どうしていいか分からなくなりました。」
マーは少し眉をひそめながらも、優しい声で話しかけます。
マー
「写真はこれからいくらでも撮ればいいさ。思い出はこれからも作れるから、大丈夫だよ。」
その言葉にはユーモアが込められていたが、サーの表情は晴れません。
サー
「でも、それだけじゃないんです…。次の日、ミユに話したら、新しい携帯を買って復元すれば大丈夫って言われて、すぐにお店に行ったんです。復元をお願いしたら、すごく丁寧に対応してくれて、全部元通りにしてもらえたんです。」
マーは頷きながら、サーの言葉をじっくりと聞いています。
サー
「その時は本当に嬉しくて。マーさんと一緒に撮った写真を確認して、一番お気に入りの一枚を見つけたんです。私たちが一緒に笑ってる写真で、それを宝物にしようって思って、コピーまでして別の場所に保管してたんです。でも、その日の夕方、ミユに写真を見せようと思ったら…」
サーは少し言葉を詰まらせ、視線を落とした。
サー
「全部消えてたんです。写真も、メールも、何もかも…。唯一残ってたのは、コピーして別に保管していたあの一枚だけでした。他の写真とかメールは全て残ってるのに、マーさんとのだけが全て…」
マーは息を飲むようにして、しばらく黙った後、静かに口を開いた。
マー
「そんなことが起きてたのか…。
サーちゃん、それは不安だっただろう。僕が『連絡はしないで』って言ったばかりに、余計に心細くさせてしまったね。力になれなくて、本当にごめん。」
その言葉に、サーはハッとしたように顔を上げる。マーの謝罪の言葉には深い思いやりと後悔が滲んでいて、サーの心にそっと寄り添うようだった。
サー
「マーさんが謝ることじゃないです。でも…あの日から、何かおかしいことが起きてる気がして…。」
マーは穏やかに頷きながら、サーの話を待つように目を合わせた。その優しい眼差しに、サーはほんの少しだけ安心した気持ちを覚えた。
マー
「サーちゃん、さっき『君に伝えなきゃいけないことがたくさんある』って言ったよね。今から少しずつ話していくから、落ち着いて聞いてくれるかな?」
マーの真剣な口調に、サーは胸の奥が少しざわつくのを感じました。言葉のひとつひとつが、これまで彼女が抱えていた不安や疑問に触れいくようにな感じがしていたからなのか…
サー
「…はい、わかりました。」
サーは小さく頷き、マーの次の言葉を待ちます。
マー
「正直に言うとね、1週間前まで、自分でも全然分かってなかったんだ。何が起きているのか、自分が何者なのか、全てが整理できていなかった。しかもそんな疑問すら考えもしなかった。でも、サーちゃんと知り合えて、いろいろ考えはじめたんだよ。この1週間で、少しずつ気づき始めたんだ。自分に起きていることが、少しだけだけど分かってきた気がするんだ。」
マーはどこか遠くを見るように目を細めながら、言葉を慎重に選んでいるようだった。その表情に、サーはただ黙って耳を傾けていました。
サー
「マーさんそれって、どういうことですか?」
彼女の声には、困惑と同時に、真実を知りたいという強い気持ちが込められていました。
マーは一呼吸置き、サーの目をしっかりと見つめてから続けた。
マー
「これを言うとね、信じられないって思うかもしれない…
でも、たぶん今の僕は、サーちゃんとこうして一緒に過ごしている時間、違う世界から来てるんだと思うんだよね。」
サーは、マーの言葉の意味をマーを見つめたまま、現実なんだと真剣に受け止めていました。
サーの真剣な様子に気づいたマーは、少しおどけたように肩をすくめ、笑顔を浮かべます。
マー
「ほら、やっぱり『このおじさん、何言ってるの?』って顔してるでしょ?(笑) こんなこと言われたら、普通は理解不能だもんね〜(笑)」
その軽い冗談めいた言葉に、サーはハッとし、息をついた。そして、ゆっくりと口を開きました。
サー
「マーさん……
いいえ、私は理解できます。この1週間、いろんなことが起きて、正直、普通じゃないことが多すぎて…。
私なりに、できることを調べたり考えたりしてきましたから…そのお陰で、いろんな人と、繋がり、縁をすごく感じました。」
マーの目が驚いているのをサーは感じとりました。
サーの言葉には迷いはなかった。それは、彼女が自分自身の経験を通じて不思議な出来事を受け入れ、少しずつその真相に近づこうとしている証でもありました。
マーはそんなサーの姿に感心したように小さく頷き、次の話を始める準備を整えた。
マー
「サーちゃん、本当にありがとう。」
マーの声には、どこか申し訳なさと感謝の入り混じった温かさがあった。彼は少し間を置いてから、静かに話し始めた。
マー
「正直、自分でもどこでこうなったのか全く分からないんだ。でもね、ここに来てから、向こうの世界で昔の知り合いと再会したんだよ。以前からよく会っていたお客さんでね。酒を飲んだり、ゴルフに行ったりしてた、割と親しい相手だった。」
サーはマーの言葉に耳を傾けながら、小さく頷きながら、その彼がマーさんの陰の存在と感じながらも…
「実は、サーちゃんと吉祥寺で約束した日の前の日、その人と会ったんだ。そのとき彼から突然、『彼女と会って、それからの1週間、彼女と連絡を取ってはいけない』って言われたんだよ。僕も訳が分からなくてね。『どういうこと?』って尋ねたんだけど…。」
マーは少し苦笑しながら言葉を続ける。
「そしたら彼がこう言ったんだ。『これはテストみたいなものだよ』ってね。そしてその後に、『マーさんは時空を超えているんだよ』って言われたんだ。過去でも未来でもない、全く違う世界だって。でも、それが具体的にどんな場所なのか、どういう意味なのか、彼は何も説明してくれなかったんだよね。ただ、その言葉がずっと頭に残っていてね…」
マーは話を終え、そっとサーの方を見つめた。彼の瞳には、サーの反応を気にする優しさが滲んでいる。
「サーちゃんここまでの話ついてこれてるかな?」
「マーさん…。」
サーは少し考えるように視線を落としながら、小さく息を吸い込んだ。そして、顔を上げてしっかりとマーを見つめる。
サー
「大丈夫です。ついていけてます。何となく…不思議ですけど、マーさんが言ってること、分かる気がします。」
サーの言葉には、分かってますよ、という気持ちがしっかりと込められていた。その表情には戸惑いよりも、マーの言葉を受け止めようとする真剣さが浮かんでいる。
マーはその姿に、少しほっとしたように微笑む。
マー
「ありがとう、サーちゃん。君ならきっと、信じてくれると思ってた。」
マーは苦笑しながら続ける。
マー
「実はね、雷の事なんて僕は知らなかった。ただ、サーちゃんに『1週間連絡しない』それだけだと思ってたんだ。でも、それ以上の試練がサーちゃんにあったみたいだね。あのとき、しつこいくらいに言ったの覚えてる?
『必んず来てね。絶対に忘れないでね』って。」
サー
「覚えてますよ。私、確かあのとき『忘れるわけないです』って笑いながら答えたんです。」
サーの目がどこか遠くを見つめるように、その瞳には、あの日のことが鮮明に蘇っているようだった。
サー
「でも、本当のところ、忘れるどころか、毎日必死でした。マーさんのことが気になって、どうしたらまた会えるのかばかり考えて。携帯が壊れて、写真も全部消えてしまって…本当にショックで。唯一1枚残った写真が心のささえでした…
彼女は少し苦笑しながら、言葉を続けた。
サー
「それで、ミユにも相談したんです。そうそう、そしたら、ミユの携帯まで壊れてしまって、マーさんの痕跡が私たちから全部消えちゃったんですよ。そのときは正直、絶望しかけました。でも、ミユがすごく協力してくれて、2人でマーさんについていろいろ考えたり、携帯が壊れた時の雷事件を推理したりしました。」
サーの声には、マーへの思いとミユへの感謝がしっかりと込められていた。その姿を見つめながら、マーは小さく頷き、静かに微笑む。
マー
「そうだったんだ…。僕はただサーちゃんに『1週間待っててね』って言うだけで、まさかそんなことが起きてたなんて。本当にごめんね。でも…ありがとう。僕のことを忘れずに信じていてくれて。」
マーの言葉に、サーは少し気が張っていたものが取れたように感じていた。
マー
「それでね、今日、サーちゃんがどこまで、自分の事を信じてくれるのか、サーちゃんは自分に会いに吉祥寺に来てくれるか?すごく不安だったよ。
異世界から来ているなんて信じられない事だし、今の自分でもまだ、細かい事分かってないしね。どうやって説明すれば良いか、ここに来るまでずうーと悩んでたし、今も悩んでる。
知り合いが言っていたテスト
このテストは多分サーちゃんを試したんだと今は思うんだよね。
でも、雷とかは思いもしなかった。
怖かったでしょ?」
サー
「あの時は怖くて体が震えて動けなくなっちゃって…
今思い出してもまだあの時の怖さが蘇ります…」
マー
「わかった!奴にサーちゃんを
怖がらせた事、怒ってあげるからね(笑)」
マーは少し笑いながら話を続けます。
マー
「自分も最近、このままサーちゃんと会えないんじゃないかとか、いろいろ考えちゃってたんだ。
あの時、サーちゃんに『お父さん』って言われたことが頭に残ってね…
また、会いたいが先行しちゃって
サーちゃんに必ず来てね。忘れないでね。としつこく言ったのはその不安の塊だったと今は思うよ。
でも、こうしてサーちゃんとまた会えたって事は、多分サーちゃんは合格なんだと思う。」
サー
「もし合格していなかったらどうなっていたんですか?」
マー
「よくは分からないけど、多分あの新宿事件まで時間を戻してサーちゃんとは知り合わない事になっていたんだと思う。」
サー
「そんなの絶対いやです…」
マー
「僕もだよ。でも今は、こうして会えたから心配しないで、大丈夫だと思うから。」
サー
「でも、良かった〜
マーさんとこうして会えた事が本当に嬉しい。
マーさんに、他にもいろんな話があるんです。
この1週間でいろんなことがありすぎて…
普通の1週間じゃ無かったんですよ〜!
きっと、びっくりすると思います。
覚悟して下さいね。」
サーにも笑顔が戻ってきました。
売店の近くでベンチに腰掛けた恵美は、少し離れた場所からサーと雅の様子を静かに見守っていた。二人は最初に比べてずいぶんリラックスしているように恵美の目にはうつっています。
先程までのような硬さや緊張は感じられず、どこか自然に笑い合いながら会話している。その姿を見て、恵美の胸はほんの少し温かくなるのを感じていました。
「こんな風に、二人が笑っているのを見られる事、考えもしなかった。こんな奇跡が起こるなんて…
でもやっぱり嬉しい。」
恵美は小さく呟く。二人の関係が少しずつ変わり始めていることに、心から安心していた。
初めて二人を見た時、サーは泣き出してどうなるのか心配だったけど今はその不安感が確実におさまったように思える。
恵美はふと、過去の出来事を思い出しました。遠い昔、雅と一緒に過ごした日々、どれも大切な記憶だったんだろう。それからずっと、彼のことを思い続けてきた自分…
恵美の胸には、雅への想いがじんわりと広がってきました。
それはただの恋心ではなく、もっと深い感情であり、どこか懐かしく、安心できるような心地よさを感じさせる様でした。
「もし、雅が私をもっと近くで感じてくれる日が来たら…」恵美はふとその考えに囚われています。
彼と再会し、少しずつ昔のような日が来るのではないかと、思わず想像してしまう。そんな未来のシーンが、恵美の頭の中で静かに描かれていました。
雅が彼女に向かって、静かに微笑みながらこんな感じで言うのかな〜
「恵美、元気だったか?」
その言葉を聞けたら、恵美の心は温かさに包まれ、彼の視線が自分に向けられていることに胸の奥が少し高鳴る。彼と会話を交わす時間がどんなに大切なものか、恵美は心の中で確信していました。
そして、ふとその先の妄想が広がりだしました。
雅が私に少しだけ近づいて、優しく肩に手を置く。
「長い間、会えなかったね。恵美…」
その言葉、優しさに、私は少し驚き、そして静かに微笑む。二人だけの世界が広がり、その中で私はその時、自然に彼に寄り添うことができるのだろうか。
その瞬間、恵美は急に胸がドキドキし始めるのを感じた。
私がどれだけ雅のことを大切に思っているのか、改めてその気持ちを実感しだしました。彼がどんな風に今の私を…
どう見てくれるのか、気になるけれど、それよりも今は、この穏やかな時間が続いてほしいと願う。
雅の存在が、私にとってどれほど重要で、特別なものになったのか、静かに思い返していました。
彼との再会を前に、心の中で何度も彼の名前を呼んでいた。そして、少しずつ感じる緊張感。会うことができる喜びと同時に、過去の自分との向き合い方や、今後の関係がどうなるのか不安になる部分もあった。それでも、恵美は心から思っている。どんな未来が待っているのか分からないけれど、今、この瞬間を大切にしたいと。
「きっと大丈夫。」恵美は深呼吸をして、再び雅に視線を送る。彼が自分に何を感じてくれるのかは分からないけれど、この瞬間を大切にし、しっかりと自分を持ち続けよう。再会の時が近づくにつれて、恵美の心は温かく、また少し緊張しながらも、その期待で満たされていくのだった。
続く
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