サーの奇妙な体験 17
医師から伝えられたことは
母の病状は、今のところ心配する事がないと伝えられて、ホッとするサーでしたが
ただ、また同じ事があってはいけないので、今夜は入院してゆっくり休んで、明日しっかり検査をする事で話がまとまりました。
病室に入ると、母は静かに眠っていました。サーはそっとベッドの横に座り、母の顔を見つめながら、目から涙が溢れてきます。
「お母さん、大丈夫なんだよね」
とサーは呟きました。
【今は薬が効いてるから寝てるだけだよね。明日になれば、いつもの元気なお母さんに戻ってるよね】
と、自分に言い聞かせるように話しかけていました。
目の前で眠る母を見ながら、サーの心は様々な思いで溢れます。
【お母さん、やっぱり無理してたんだね…】
サーの声が震えます。
【ごめんね、私のためにそんなに無理して…】と、涙が止まらず、ポタポタと母の手に落ちました。
その時、看護師さんが静かに入ってきて、
【そろそろ面会の時間が終わりますので、よろしくお願いします」
と優しく声をかけました。サーは名残惜しそうに母の手を握りしめ、帰り支度を始めます。
【お母さん、明日も来るからね…】
サーは涙声で言いました。
【今夜はゆっくり休んで、看護師さんがついていてくれるから大丈夫だからね。早く元気になってね】
と伝えて、病室を後にしました。
ナースステーションに立ち寄り、
【どうか母のことをよろしくお願いします】
とお願いをしてから、病院を後にしました。病院を出た瞬間、サーは一層涙が溢れ、堪えきれずに顔を覆いました。母の姿が頭から離れず、心配と寂しさが交錯する中、サーは静かに家路につきました。
帰宅したサーは、母のために買ったかすみ草をかびんに刺しながら、涙が止まりませんでした。本当なら、母がこの花を見て驚いて喜んでくれるはずだったのに…。
「なんで今日に限って、こんなことになったの…」サーは声を震わせながら呟きました。心の中で何度も母の無事を祈りながら、目の前の花がぼやけて見えます。
かすみ草を飾り終えた後、サーはしばらく動けず、ソファーに座ってぼんやりとテーブルの上のかすみ草を見つめていました。花の白さが一層悲しみを引き立て、サーの心を締め付けます。
しばらくして、サーはハッと我に返りました。「このことを会社の上司に連絡しないと…」サーは携帯を取り出し、上司の田中さんに電話をかけました。涙をぬぐいながら、冷静を装おうと必死に努めましたが、心の中は不安と悲しみでいっぱいでした。
上司が電話に出て
上司
「サー、どうした?こんな時間に?」
サー
「今、母が上京していて、今日夕方倒れて…」
サーは涙をこらえていましたが、話し始めると感情が溢れ出し、喋ることもできないくらいに泣いてしまいます。
上司
「大丈夫か?お母さんがどうしたんだ?今、どうしてるんだ?」
サーは必死に状況を話そうとするものの、言葉になりません。
上司
「病院には行ったか?」
サー
「はい」
上司
「入院か?」
サー
「はい」
上司
「命に別状はないのか?」
サー
「はい…」
サーは返事をするのが精一杯でした。
上司
「なら、大丈夫だ。落ち着きなさい。不安なのはわかるから。でも大丈夫。絶対大丈夫だから。明日はお母さんの近くにいてあげなさい。会社には私が伝えておくから、何も心配しなくていい。今はお母さんだけのことを考えていいんだ。サー、大丈夫だからな!何かあったら、夜中でもいいから電話しろ。いいか?」
サー
「はい…ありがとうございます。」
上司
「気を落とすなよ!大丈夫だからね。」
サー
「はい、ありがとうございます。田中さん明日、よろしくお願いします。」
そこで電話を切った。サーは田中さんの優しい言葉に少しだけ心が軽くなり、母のためにできる限りのことをしようと決意を新たにしました。
あと、ミユに明日の事をメールで伝える事にしました。
サー
ミユ、ごめん。明日私、いけなくなりました。
母が今上京してるんだけど、今日倒れて入院したんだ。
明日、母についてようと思うので、迷惑かけるけど、明日、マーさんのこと頼んで良いかな?
名刺ケースは私のロッカーの上の段に入ってます。
お願いします。
ミユからすぐLINEが帰ってきた
ミユ
本当に!
サーさん大変だったね
お母さん大丈夫?
今、サーさん1人なの?
サー
1人だよ
さっきまで、動揺してたけど、田中さんに連絡したらすごく励まされてね、大分落ち着いたよ
だから、もう大丈夫…
ミユ
サーさんは強いね!
サー
そんなことないよ
さっきまで、何も手がつかなかったし、ずっと泣いてたよ
ミユ
そうだったんだね
今は大丈夫?
サー
大丈夫だよ
それでね、明日、マーさんと3人でお願いしたいんだけど、いいかな?
ミユ
え?それ本当ですか?
サーさん行かないのなら、訳を話して先に伸ばせば良いのでは?
サー
でも、マーさん奥さんいるでしょ
きっと、理由を作って明日私達に合わせてくれてると思うの
ここでキャンセルすると、マーさんに迷惑かけると思うんだよね
だから、ミユ!お願い!
わかなと2人でマーさんと、食事会お願いしたいんだよ
私が言い出しっぺなのに、こんなことお願いしてごめん
ミユ
サーさんが、1番マーさんに会いたいのにそれでいいの?
サー
今はお母さんについていたいんだよね
マーさんに会いたいのは本心だけど…
でも今はお母さんについていないと、あとで後悔しそうで…
ミユ、ごめん
わがまま聞いてくるるかな?
ミユ
わかりました
サーさんからの指示でしたら、私たちは絶対ですからね!
だから心配しないで大丈夫です…
いつもの私たちで、お礼を言ってきて、お酒が入ったらみんなで盛り上がるよう努力してきますので(笑)!
ミユの優しさに、サーは少しだけ心がまた、軽くなりました。
サー
明日、よろしくお願いします
ミユ
はい!
任せといて下さい
サーはそのまましばらく動けず、ソファーに座ってぼんやりとテーブルの上のかすみ草を見つめていました。白く小さな花が、静かに部屋の中に佇んでいます。その姿がどこか、母の優しさと重なって見えました。
サー
「お母さん、大丈夫なんだよね。明日はいつものお母さんになってるよね…。」
サーの心の中には、母の優しさがたくさん蘇ってきます。子供の頃からいつもそばにいてくれて、笑顔で支えてくれた母。学生の時も、忙しい仕事の合間を縫って毎朝お弁当を作ってくれた母。社会人になってからも、折に触れて励ましの言葉をかけてくれた母。その存在の大きさを、改めて痛感していました。
サー
「お母さん、やっぱり無理してたんだね。なんかごめんね。私のために、そんなに体を壊してまで…。」
涙が次々とあふれてきます。母に対する感謝の気持ち、そして一人ぼっちの寂しさが胸に押し寄せてくるのです。今までは当たり前のようにそばにいてくれた母の存在が、どれほど大切だったか。今この瞬間、サーは痛感していました。
サー
「お母さん、早く元気になってね。私、まだまだお母さんに頼りたいことがたくさんあるんだから。」
サーはかすみ草にそっと手を伸ばし、花の優しい香りを感じながら、母への思いを深く心に刻みました。明日も母のそばにいられるようにと、心から願いながら。
続く




