19、悪役令嬢エンド
それは突然訪れた。
その日も、生徒会が玄関までの道で風紀チェックをしていた。王子は相変わらず他の生徒に囲まれていたので、カロリーナは離れた所から笑顔で王子と挨拶を交わした。そのまま進むと、ヒロインが前から現れた。
(また、王子に用事かしら)
そのまま通り過ぎるかと思ったら、カロリーナの前で止まった。
「嘘つき。あんたはその気がないと言ったじゃない」
ヒロインは制服から、隠し持っていたナイフを取り出した。カロリーナは、驚いて固まった。
「!」(何をする気なの?)
「ヒロインは私なのよ!」
(え? やっぱり、ヒロインも転生者だったの⁉)
ヒロインはそう言うと、カロリーナに切りつけた。左腕を軽く切られ、肌からうっすらと血が出る。
「キャー!!」
それを見た、他の女生徒が叫び声を上げた。王子が素早く走ってきてカロリーナを抱き寄せ、ヒロインと距離を取り、命令する。
「取り押さえろ!」
シュタインがヒロインの腕を取り、ナイフを落とす。腕を後ろに回して地面に押さえつけた。レオンが落ちたナイフを拾う。ヘイゼンが、周りを落ち着かせて誘導する。ユフィアは教師を呼びに行った。
(なぜこんなことを──?)
カロリーナは一連の出来事を呆然と見ながら考えていた。
連絡を受けた、警備兵がヒロインを連れて行った。
その後の取り調べでヒロインは、カロリーナを殺すつもりだったと、はっきり証言した。カロリーナはそれを聞いて、腑に落ちなかった。
裁判の後、王室関係者の殺害未遂で、処刑されることになった。
カロリーナは最後に話が聞きたくて、ヒロインが収監されている牢屋を訪ねた。牢は地下にあるので、サラを上の階に待たせ一人で階段を下りた。カビと悪臭の匂いがする。階段下に監視の兵が一人いるので、面会証を見せた。この区画には、今はヒロインしかいない。手前の一室を空けて、次の牢にヒロインが入っていた。数人入れるように少し広めで、トイレと毛布が一枚だけある。ヒロインは、粗末な生成りの囚人服を着て石の床に座っていた。ヒロインは訪問者がカロリーナだと気が付く。
格子状の柵ごしに向かい合った。ヒロインは痩せていたが、思ったより元気そうだった。カロリーナは、ヒロインに告白した。
「私も転生者だったのよ」
「やっぱり。それでやる気がなかったのね」
ヒロインは立って、横を向いて手を広げた。
「どうしてこんなことを? そのまま他の攻略対象と上手くいくことも出来たのに」
「せっかくヒロインに転生したのよ、王子がいいに決まってるじゃない!」
柵ごしにカロリーナに近づいて言い放つ。
「断罪イベントで時間を巻き戻して、もう一度やり直すのよ!」
(はい?)「それって小説とかの話じゃない? ゲームにないと思うけど」(それで、軽い攻撃だけだったのね)
「この世界が、ゲームの世界ならリセットできるはずよ。でもその方法が今のところ、死ぬしか思いつかないのよ」
カロリーナは、ヒロインの言葉に唖然とする。
(もしかして── )
「あなた、このゲームの続編やったことある?」
「何それ。私は最初しか知らない。その後にすぐ死んだのよ。続編はどんな内容なの?」
「続編は、五人のライバルを主人公として選べて、それ以外がライバルで、ヒロインは悪役令嬢なの。恐らく、この世界は二つのミックスなのよ。逆に言うと設定が相殺されて、普通の世界ということだと思う。私はどちらもやる前に死んだから、話を聞いただけだけど」
ヒロインは驚いて、柵を掴んだ。
「うそ、私が悪役令嬢でもあったの⁉」
「そうよ。──私は、次はないと言ったから、もうあなたを助けることはできない」
ヒロインは下を向いて考える。
「最後だから言っておくわ。植木鉢を落としたのは、あなたと同じクラスのマリオン・デサ子爵令息よ」
「!」(学年首席の⁉)
カロリーナは驚いた。やはり植木鉢の件には、ヒロインが絡んでいたのだ。
学園の生徒会室に、マリオンは呼び出された。王子は会長席に座り、両脇にベンとカロリーナが立つ。ヒロインの証言を聞いた彼は喜んでいた。
「彼女は僕のことを忘れてなかったんだ!」
「罪を認めるのだな」
王子が、無表情で聞く。マリオンは冷静に答えた。
「はい。当てないように落とせばいいと言われました。それで計算して落としました。でも私は後悔していません。彼女と同じように身を落としめることが出来て光栄です」
(そこは、反省しようよ。推しに対するオタク魂を感じるわ。でも、これで解決してスッキリしたわ)
カロリーナは呆れてどん引きしたが、解決してホッとした。
王子が処分を言い渡す。
「貴族が法を守らなければ、民は税金を納めず、反乱が起き犯罪がはびこる。法を守ることで平和が訪れる。貴族は民のお手本でなくてはならない。お前は傷害未遂と器物損壊の迷惑行為により退学処分だ。首都の出入りを禁止する」
(さすが、真面目王子)
退学したマリオンは、地方にある平民の学校に編入する。その後は、アカデミーに進学した。アカデミーは首都以外にある。元々学者肌だったので、彼が困ることはなかった。
後日、ヒロインは処刑された。私は見に行かなかった。王子は見届けた。コルタス男爵家はヒロインを養女にした責任を取らされて、取り潰しになった。
時間は巻き戻らなかった。ヒロインはまた別の世界に転生したのだろうか……。
真っ暗な中、ヒロインは目を覚ます。
「ここはどこ?」
「ここは、さしずめ、ヒロイン墓場ね」
すぐに声がして、振り返ると自分と同じ顔をしたヒロインがいた。他にもたくさんいる。
「新人さん気が付いた?」
「どういうこと⁉」
「なんか、バッドエンドで死んだ、転生ヒロインたちがここに溜まっているのよね」
「ここから出られないのよ」
新人ヒロインは聞いてみる。
「このゲームに続編があるの知ってた?」
「うっそ、知らなーい」
「聞いたことない!」
ここにいるのは、続編を知らないヒロイン達だった。
「続編では、ヒロインが悪役令嬢らしい。私も処刑前に初めて聞いた」
「マジか!」
「やっと分かった」
「ヒロイン安牌じゃなかったんだ! 失敗した!」
「なんちゅーゲーム作ったのよ。製作者め」
朝ベッドの中で、カロリーナは目を覚ました。閉じ込められたヒロイン達の夢を見ていた。
「それよりも、普通に生活してたら死ななくて済んだと思うけど……」(むちゃする人が多すぎる)
悪夢で汗をかいた。カロリーナはため息をつく。
でも、元気そうだった。これは夢だし、もうヒロインのことは忘れよう。




