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悪役令嬢を降りますので、後は好きにやってください  作者: 雲乃琳雨


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19/20

19、悪役令嬢エンド

 それは突然訪れた。


 その日も、生徒会が玄関までの道で風紀チェックをしていた。王子は相変わらず他の生徒に囲まれていたので、カロリーナは離れた所から笑顔で王子と挨拶を交わした。そのまま進むと、ヒロインが前から現れた。


(また、王子に用事かしら)


 そのまま通り過ぎるかと思ったら、カロリーナの前で止まった。


「嘘つき。あんたはその気がないと言ったじゃない」


 ヒロインは制服から、隠し持っていたナイフを取り出した。カロリーナは、驚いて固まった。


「!」(何をする気なの?)

「ヒロインは私なのよ!」

(え? やっぱり、ヒロインも転生者だったの⁉)


 ヒロインはそう言うと、カロリーナに切りつけた。左腕を軽く切られ、肌からうっすらと血が出る。


「キャー!!」


 それを見た、他の女生徒が叫び声を上げた。王子が素早く走ってきてカロリーナを抱き寄せ、ヒロインと距離を取り、命令する。


「取り押さえろ!」


 シュタインがヒロインの腕を取り、ナイフを落とす。腕を後ろに回して地面に押さえつけた。レオンが落ちたナイフを拾う。ヘイゼンが、周りを落ち着かせて誘導する。ユフィアは教師を呼びに行った。


(なぜこんなことを──?)


 カロリーナは一連の出来事を呆然と見ながら考えていた。

 連絡を受けた、警備兵がヒロインを連れて行った。



 その後の取り調べでヒロインは、カロリーナを殺すつもりだったと、はっきり証言した。カロリーナはそれを聞いて、腑に落ちなかった。

 裁判の後、王室関係者の殺害未遂で、処刑されることになった。


 カロリーナは最後に話が聞きたくて、ヒロインが収監されている牢屋を訪ねた。牢は地下にあるので、サラを上の階に待たせ一人で階段を下りた。カビと悪臭の匂いがする。階段下に監視の兵が一人いるので、面会証を見せた。この区画には、今はヒロインしかいない。手前の一室を空けて、次の牢にヒロインが入っていた。数人入れるように少し広めで、トイレと毛布が一枚だけある。ヒロインは、粗末な生成りの囚人服を着て石の床に座っていた。ヒロインは訪問者がカロリーナだと気が付く。

 格子状の柵ごしに向かい合った。ヒロインは痩せていたが、思ったより元気そうだった。カロリーナは、ヒロインに告白した。


「私も転生者だったのよ」

「やっぱり。それでやる気がなかったのね」


 ヒロインは立って、横を向いて手を広げた。


「どうしてこんなことを? そのまま他の攻略対象と上手くいくことも出来たのに」

「せっかくヒロインに転生したのよ、王子がいいに決まってるじゃない!」


 柵ごしにカロリーナに近づいて言い放つ。


「断罪イベントで時間を巻き戻して、もう一度やり直すのよ!」


(はい?)「それって小説とかの話じゃない? ゲームにないと思うけど」(それで、軽い攻撃だけだったのね)

「この世界が、ゲームの世界ならリセットできるはずよ。でもその方法が今のところ、死ぬしか思いつかないのよ」


 カロリーナは、ヒロインの言葉に唖然とする。


(もしかして── )


「あなた、このゲームの続編やったことある?」

「何それ。私は最初しか知らない。その後にすぐ死んだのよ。続編はどんな内容なの?」

「続編は、五人のライバルを主人公として選べて、それ以外がライバルで、ヒロインは悪役令嬢なの。恐らく、この世界は二つのミックスなのよ。逆に言うと設定が相殺されて、普通の世界ということだと思う。私はどちらもやる前に死んだから、話を聞いただけだけど」


 ヒロインは驚いて、柵を掴んだ。


「うそ、私が悪役令嬢でもあったの⁉」

「そうよ。──私は、次はないと言ったから、もうあなたを助けることはできない」


 ヒロインは下を向いて考える。


「最後だから言っておくわ。植木鉢を落としたのは、あなたと同じクラスのマリオン・デサ子爵令息よ」

「!」(学年首席の⁉)


 カロリーナは驚いた。やはり植木鉢の件には、ヒロインが絡んでいたのだ。



 学園の生徒会室に、マリオンは呼び出された。王子は会長席に座り、両脇にベンとカロリーナが立つ。ヒロインの証言を聞いた彼は喜んでいた。


「彼女は僕のことを忘れてなかったんだ!」

「罪を認めるのだな」


 王子が、無表情で聞く。マリオンは冷静に答えた。


「はい。当てないように落とせばいいと言われました。それで計算して落としました。でも私は後悔していません。彼女と同じように身を落としめることが出来て光栄です」


(そこは、反省しようよ。推しに対するオタク魂を感じるわ。でも、これで解決してスッキリしたわ)


 カロリーナは呆れてどん引きしたが、解決してホッとした。

 王子が処分を言い渡す。


「貴族が法を守らなければ、民は税金を納めず、反乱が起き犯罪がはびこる。法を守ることで平和が訪れる。貴族は民のお手本でなくてはならない。お前は傷害未遂と器物損壊の迷惑行為により退学処分だ。首都の出入りを禁止する」

(さすが、真面目王子)


 退学したマリオンは、地方にある平民の学校に編入する。その後は、アカデミーに進学した。アカデミーは首都以外にある。元々学者肌だったので、彼が困ることはなかった。



 後日、ヒロインは処刑された。私は見に行かなかった。王子は見届けた。コルタス男爵家はヒロインを養女にした責任を取らされて、取り潰しになった。


 時間は巻き戻らなかった。ヒロインはまた別の世界に転生したのだろうか……。



 真っ暗な中、ヒロインは目を覚ます。


「ここはどこ?」

「ここは、さしずめ、ヒロイン墓場ね」


 すぐに声がして、振り返ると自分と同じ顔をしたヒロインがいた。他にもたくさんいる。


「新人さん気が付いた?」

「どういうこと⁉」

「なんか、バッドエンドで死んだ、転生ヒロインたちがここに溜まっているのよね」

「ここから出られないのよ」


 新人ヒロインは聞いてみる。


「このゲームに続編があるの知ってた?」

「うっそ、知らなーい」

「聞いたことない!」


 ここにいるのは、続編を知らないヒロイン達だった。


「続編では、ヒロインが悪役令嬢らしい。私も処刑前に初めて聞いた」

「マジか!」

「やっと分かった」

「ヒロイン安牌じゃなかったんだ! 失敗した!」

「なんちゅーゲーム作ったのよ。製作者め」



 朝ベッドの中で、カロリーナは目を覚ました。閉じ込められたヒロイン達の夢を見ていた。


「それよりも、普通に生活してたら死ななくて済んだと思うけど……」(むちゃするヒロインが多すぎる)


 悪夢で汗をかいた。カロリーナはため息をつく。

 でも、元気そうだった。これは夢だし、もうヒロインのことは忘れよう。


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