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悪役令嬢を降りますので、後は好きにやってください  作者: 雲乃琳雨


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16/20

16、恋人たちの日イベント

 この国にもバレンタインと同じ、恋人たちのイベントがある。


(バレンタインから取ったイベントだろうけど)


 その日は、国の休日で各地で祭りが開かれる。その3日前に学園では午後の時間から、学園主催の私服OKのダンスパーティと祭りのプレイベントがある。3年生にとっては、卒業前の最後のイベントになり、相手がいない人のための粋な計らいでもあった。

 参加は自由。ケータリングや屋台も用意され、ダンスをせずに歓談も楽しめる。用意されたものは保護者からの寄付で賄っていて、全て無料だ。祭り3日前なので、店にとっても祭り用の商品の試し販売ができて好評なイベントだ。


 ダンスは女性は断れるが、女性から誘われた男性は必ず踊らなければならないルール。そして男性からは、現時点でのイエス・ノーがはっきり言い渡されるのだ。

 ラストダンスは、恋人たちもしくはその時のパートナーだけが踊ることになる。当然私は、生徒会長のパートナーとして参加しなければならないし、なぜかイベントボランティアとして駆り出されていた。


 当日になって事件が起きる。学年ごとに着替え用の更衣室が用意されているのだが、1年生の女生徒の衣装が、破られてしまう被害にあった。無残な姿になった美しいドレスを見て、カロリーナは顔をこわばらせた。


「なんてこと!」(ライバルに対する嫌がらせ? それともいじめ?)


 被害にあった女生徒は泣いていた。それを、友人二人が慰めている。カロリーナは、泣いている生徒に声をかけた。


「制服で参加しなさい。私も制服で参加するわ」


 ダンスパーティに参加する人で、制服参加はほぼいない。いわゆる勝負服だからだ。


「私も制服で参加します」

「私も」


 アリスとユフィアも同調した。カロリーナは、他の1年生たちを促した。


「他の人は、着替えなさい」


 被害にあったドレスをユフィアが回収し、3人は報告のために生徒会室に戻った。ドレスを見て生徒会室にいた生徒たちは言葉を失う。カロリーナは王子に制服で参加すると伝えた。


「分かった。私も制服で参加しよう」

「用意した衣装は、祭りの日に着てデートしましょ」

「楽しみだ」


 カロリーナの提案に王子のこわばった表情が和らぎ、二人は微笑んだ。

 私服については、「混雑を避けるため部外者を入れず、自分で着られるもの」という決まりがあった。フォーマルの人もいるが、多いのは普段着やカジュアルドレスだ。特別に用意した場合は、それをまた着て祭りに行くのがお決まりのパターンだ。

 カロリーナの衣装は王子が用意したもので、色はエメラルドグリーンが基調で丈の短いカジュアルドレスだった。超かわいい! またおそろいに決まっているが……。



 時間になり、イベントが開始された。

 カロリーナは、王子からもらったブローチだけ着けて会場に入ると、王子もカロリーナが贈ったユニコーンのブローチを着けていた。二人とも顔を見合わせて同じ考えだったことが分かると、嬉しそうに微笑み合った。カロリーナは王子に小さく手を振った。王子はそれを見てふっと笑うと、少し手を上げて合図した。

 この後カロリーナは、各会場のチェックに回る。王子は令嬢たちとダンスを踊りまくるだろう。

 被害にあった女生徒と、友人2人は制服で参加していた。王子とカロリーナも制服参加なので、異例なことに会場は少しざわめいていた。それを見て、カロリーナは思った。


(王子と踊る相手は浮いてしまうだろうな。でも、王子なら何を着てもカッコいいか)


 王子は、セレナとファーストダンスを踊った。踊りながら王子は返事を先に言う。


「君もそろそろ別の相手を探せ」

「なぜです。私が候補だったはずです」

「私の婚約は、政略的な意味合いが強い」

「どういうことです? それなら皆同じでは?」

「次の曲になる。失礼する」


 王子は取り付く島もなかった。セレナは、ぽつんと一人取り残された。



 その後、外廊下を歩いていたカロリーナを、待ち伏せしたセレナは呼び止めた。


「ちょっといいかしら」


 セレナは、薄いピンクのふわっとしたシフォン生地のタイトなフォーマルドレスを着ていた。その姿は、妖精のように美しかったが、顔は怒りに満ちあふれていた。恐らくダンスで、王子にフラれたのだろうとカロリーナは思った。心の中で、つい文句が出てしまう。


(それは私のせいじゃないのに、なぜか女は女に怒りをぶつけるのよね。王子、守ってくれるんじゃないのかよ)

(普段清楚なセレナが怒ったら、迫力あるわね。鬼嫁に鬼上司。ヤバい、ここで笑ってはダメだ、わし)


 カロリーナは、なんとか一人笑いをこらえた。セレナは腕を組んで、先ほどフラれた不満を隠さずにぶつけてきた。


「あなたが変わってから、王子はあなたに夢中になった!」

「ギク」

「でも、政略的な婚約だと言ったわ。いったいどんな手を使ったのかしら」


 セレナは意地悪い顔をして様子を伺ってきた。もともとカロリーナは、相手が年上でも物怖じする性格ではなかった。


「ここだけの話だけど、それは、始めから爵位返上が条件だったからよ」

「!」


 それだと、資産全部が持参金になる。王族との婚姻は家の繁栄のためにするものだ。それを手放すとは……。


(考えられないでしょうね)


 無言のセレナを、カロリーナは静かに見守っていた。セレナは視線を落とす。


「あなたのお父様に、うちの父は一生敵わないわね」


 静かに苦笑してつぶやいた。それを聞いて、カロリーナは満足気な顔をすると、その場から素早く立ち去った。


(お父様の勝ちってところかしらね)


 1人になったセレナは床に膝をついた。

 父の言葉を思い出す。背中から両肩に手を置き、囁いた。


『おまえほどの令嬢は他にいない』


「そうね。私もそう思うわ」


 セレナはそうつぶやくと、立ち上がって会場に戻っていった。ダンスが終わったので、生徒会の持ち場に戻る。



 王子は、ヒロインと踊っていた。


「君は他の人と違い、人を惹きつける魅力的な人間だ」

(当然ね。私はヒロインだもの。でも、王子に効かないのはなぜかしら? 抗っているなら、まだチャンスはあるってこと?)


 曲が終わると、ヒロインはお辞儀をしてその場から逃げようとした。それを王子は腕を掴んで捕まえる。


「逃がさないよ。はっきり言う。君は人を陥れた。私は君のような野心的な者を好まない。君も他の相手を探すんだ」


 ヒロインは目を見開いて、沈黙した。王子は腕を離すとその場から立ち去った。ヒロインは下を向いた。激しい後悔が顔に浮かんでいた。


(そう、狡猾な女はお嫌いなのね。何も起きないことに焦らずに、ヒロインらしく振る舞うべきだった! そうすれば、あの女が言った通り、私で決まりだった。──私は、攻略に失敗したんだわ! もう王子ルートはない……)



 進行のアナウンスで、ラストダンスが始まった。ようやく、役員とボランティアも踊ることができた。カロリーナと王子も手を取り合った。


「ブローチを着けてきたのだな」

「はい」


 カロリーナは笑顔で答える。王子もそれを見て微笑んだ。


「制服で踊るのも悪くない」


 アリスとシュタイン、レオンとユフィアも制服で踊った。ダンスが終わると、みんなで拍手をしてダンスパーティは終了した。この後、被害にあった1年生がお礼を言いに来る。


 ダンスが終わってからもしばらくは食べる時間があるので、ケータリング会場を回ったり、屋外の屋台を楽しんだ。

 カロリーナも王子と一緒に回り、やっと食べ物にありつけた。フルーツの入ったチーズクリームを、平たく焼いた固めのケーキ生地でサンドしたスイーツにかぶりつく。


「これ、とってもおいしい。祭りの日もまた食べようっと」

「そなたは、食べることが好きだな」

「だって、タダだもの!」

「! ははは」


 王子が大笑いする。それを見て、ベンや他のみんなも驚いた。


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