79.理解不能な男
玩具箱の中身を確認しながら、そういえばハロルドから渡された物があったな。と思い出して一つのメモ、というか資料を取り出す。
それに書かれているのは盗賊団が行っていることのリストであり、略奪や誘拐、殺人に強盗、などなど言ってしまえば盗賊団というからにはそれくらいはしていただろうな。という内容だった。
そしてその中で俺の目に付いたのは拉致、誘拐した相手を奴隷商に売りつけている。というものだった。
シャロを誘拐した誘拐犯がこの盗賊団の人間だったのか、俺は聞いていないがそうである可能性もあるのか。そう思うと自分でもどうかと思うが少し剣呑な雰囲気になってしまった。今の時間帯であれば周囲に人がほとんどいないので問題はなかったが、これが昼間の人通りが多い時間だったら面倒なことになっていたかもしれない。
今回は運が良かったとして、次からはもう少し気をつけよう。
そんなことを考えながら北門へと辿り着くとそこにはやはりというか、いくつかの冒険者パーティーが点在していて、ざっと見た限りでは五つのパーティーがそこにはいた。三人から五人のパーティーを組んでいるその冒険者たちは特に気負った様子もなく、非常に平然とそこに立っている。
それなりに場数を踏んでいるようで、同じ依頼につく身としては心強いような気がする。まぁ、他人任せというのは後々面倒事が降りかかってくるというのが俺の経験則なので心強いとは思っても全て丸投げ、というわけにはいかない。
とはいえ、盗賊団の討伐依頼は俺もある程度は参加する。ただそれ以上にフランチェスカ家からの依頼の方が力を入れる比重は重くなってしまう。だがもし他の冒険者たちではどうにもならないようであればアルやアナスタシアの力を借りてどうにか達成しなければならないだろう。
相手方にクレイマンがいるという時点でどうにも楽にはいかないという確信のような予感があるのだが。
「おい、そこのお前!」
そうしてクレイマンの存在に対してため息の一つでも零しそうになっていると近くにいた冒険者に声をかけられた。
何かあったのかと顔を向ければ見たことがあるような、ないような。そんな冒険者がそこに立っていた。
年齢は十四か、十五か。とにかく何処か少年のようであり、青年のようでもある微妙な年齢。といったところか。そんな冒険者が俺に何の用だろうか。
「どうかしたのか」
「…………やっぱりだ!お前、最近いつもフィオナさんやシャーリーさんと話をしてるやつだな!!」
俺の顔をまじまじと見つめていたかと思えば、そんなことを大きな声で言った。
そこで俺もこの冒険者について思い出した。最近よく俺のことを妬ましそうな目で睨みつけてくる冒険者だ。名前は当然のように知らないのだが、このオレンジ頭には見覚えがある。
「あぁ、そういうお前はフィオナやシャーリーに直接話しかける勇気のないへたれか」
「へ、へたれって言うんじゃねぇよ!!」
「事実だろうが。それで、そのクソへたれ野郎が何の用だ?」
「お、お前……!そこはもう少しオブラートに包みやがれ!!」
「……それは、へたれってことは認めてるようなものじゃないか?」
「…………あ」
どうやら頭はあまり良くないようだ。それと、メンタルもあまり強くないように思える。
クソへたれ野郎、と呼んだ瞬間に怯んだというか、傷ついたような表情を浮かべていたので間違いないだろう。ただそうしてメンタルが弱いというのは冒険者をやっていくのにあまり向いていないような気がする。
それをわざわざ口にするのは面倒くさいので絶対に口にはしない。
「で、何か用があるんじゃないのか?」
「そ、そうだった……おい、お前!」
「そこからか……」
「フィオナさんとシャーリーさんの二人と楽しそうに会話が出来るからって良い気になるなよ!あの二人は誰にだってああやって優しいんだからな!!」
「あぁ、知ってる。いつも助けてもらってばかりだ」
この冒険者が言うように、フィオナは普段の様子からわかるように優しく、シャーリーは一見冷たいような印象を受けるがそれでいて人のフォローや意図を汲み取ることが得意でそれのおかげで助かったという人も多いのではないだろうか。特にフィオナとか、フィオナとか。
それを知っているので、冒険者の言葉にそう返した。すると、どうしてか非常に怯んだ様子を見せた。
「い、いつも……?」
「そうだ。そのうち、ちゃんとした礼くらいしておきたいんだけど……まぁ、それは追々だな」
「え、何でそんなにフィオナさんとシャーリーさんと仲良いんだ……?」
「何でって……普通だろ、これくらいは」
普通に話をして、思いのほか世話になって。その結果として仲が良くなった、という程度のものでこの冒険者が不思議そうというか、何処となくショックを受けたようにする理由がわからない。
「普通にしてるだけで、あの二人と仲良くなれるなんて……」
何が言いたいのだろうか。そう思いながら後ろの方に立っているパーティーの仲間らしき冒険者を見ると苦笑いを浮かべていたり、爆笑していたり、あれを見ているだけでは何もわからない。
だからといって本人にどういう意図なのか、聞いたとしても時間の無駄なような気がする。放置してしまうのが良いのだろうか。
そう考えて離れようかと思っていると突然、その冒険者に腕を掴まれた。瞬間、条件反射で掴まれていない腕を使ってその冒険者の手を掴んで思いっきり手首を捻り上げた。そして、すぐさま足払いをかけてその場に組み伏せてから、解放されて自由になった手にナイフを握り首元に押し付ける。
「おい、いきなりあんなことをされたら驚くだろ?」
「お、俺の方が驚いてるっていうか、えっと、放してもらえたら嬉しいんだけど……」
「それはお前の行動の理由次第だな。おい、お前らは動くなよ。ついうっかりナイフが深く入ったら大変だからな」
流石に仲間が突然組み敷かれるようなことがあり、更に首元にナイフを突きつけられている。となれば当然のように助けようとする。
だからこそ、動かないようにと言ったのだが流石にBランクの依頼に参加するだけあって武器を抜いていつでも俺に斬りかかることが出来る構えを取っていた。
「それで、理由を聞かせてもらおうか」
「……俺を弟子にしてくれ!!」
「…………悪い、良く聞こえなかった。もう一回言ってくれるか?」
「俺を弟子にしてくれ!引き留めようと持って腕を掴んだのは悪かった!でもどうしても弟子にしてもらいたいんだ!!」
「……悪い。倒した拍子に頭でもぶつけたみたいだな」
いきなり妙なことを言われて、きっと頭をぶつけたせいだろうと思い、この冒険者の仲間にそう言ったのだが何故か黙って首を横に振られた。どうやら頭をぶつけたとかは関係がないようだ。
というか先ほどの行動によって周囲を含めて緊張した空気が流れていたのにこいつの言葉でそれが霧散していた。まぁ、あんなことを叫ばれればそれも当然のことか。
ではこれが平常運転ということになるのか。それはそれで非常に恐ろしいと思うのだがこいつの仲間は良くパーティーを組んでいられるな、と思ってしまった。
とりあえず、弟子にして欲しいなどとトチ狂ったことを考えた理由の方を聞いてみようか。
「あー……とりあえず放すけど、どうして弟子にして欲しいなんて思ったのか教えてくれるよな?」
言いながら解放してナイフを仕舞う。そして、そいつが立ち上がるのを待ってから早く話せと目で促すと一瞬、怯んだ様子を見せたがすぐにぐっと俺の目を見てから口を開いた。
「俺、ちゃんと女の人と話せるようになりたいんだ!だからフィオナさんとシャーリーさんの二人と仲良く話せるお前の弟子にして欲しい!良いだろ!?」
「おい、リーダーは誰だ」
馬鹿な思考は平常運転なのかもしれない。そうだとしてもこの行動は明らかに暴走している。であればそれを止めるのがリーダーの仕事のはずだ。だからこそリーダーを見つけてこいつを押し付けたい。
そう思っていたのだが、この馬鹿以外の全員が曖昧な表情を浮かべて馬鹿を指差した。信じたくはないが、つまりこの馬鹿がリーダーということになる。
「嘘だろ……いや、嘘なんだよな?」
信じたくなくて、もう一度問いかけてみるがやはり同じように指差すだけだった。
「マジかよ……おい、お前の名前は?」
「ルーク!ルーク・ルクレツィア!!」
「お前がリーダーってのはマジなんだな?」
「あぁ!俺がリーダーで、みんな俺の頼れる仲間たちだ!」
何だろうか。このリーダーだと堂々と胸を張って宣言しているのはなかなか様になっている。頼れる仲間だと言って手で仲間の三人を示すのも良いだろう。だがどうにも先ほどまでのせいで非常に残念な人間にしか思えない。
「それで、弟子にしてくれるんだよな?」
「弟子なんざ取るかよ……それにフィオナもシャーリーも話しかければ普通に返してくれるだろ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「だいたい、これから依頼だってのにそんな浮ついた考えが持てるよな」
「う、ぐぅ……正論だよな……」
唸っているルークの背後では、仲間の三人がうんうんと頷いていて三人としてもおかしいと思っていたようだ。
ここはとりあえず誤魔化して、その後あまり接触しないようにしようと考えて、言葉を続ける。
「それに弟子入りどうこう以前に自分で話しかける努力くらいしろよ。まずは受付カウンターにいるフィオナかシャーリーに話しかけてからだろ」
「……それが出来れば、苦労はしないんだよなぁ……」
「とりあえず、それくらいから始めろ。努力もなしに他人に弟子入りとか、あり得ないからな」
「そう、だよな……わかった。この依頼が終わったら、頑張って話しかけてみる!」
「あぁ、そうしろ。それじゃ、俺はそろそろ仲間が来るはずだから離れさせてもらうぞ」
「わかった!それじゃ、またな!アッシュ!」
「……また、はない方が良いんだけどな……」
適当に離れる口実にアルとアナスタシアを使って離れて行くと、背後からそんな言葉が聞こえた。
本当に、また、というのはない方が俺としては嬉しいのだが。とりあえずは面倒なのに絡まれたことを忘れてそろそろ来るはずの二人を探そう。
何にしても、ルークとこれから関わるようなことはたぶんないので、綺麗さっぱり忘れて依頼に集中しなければならない。
一応、最後に少しだけ振り返って見えた物は何故かやる気に満ち溢れているルークと、そんなルークの下に集まってきた仲間が苦笑いを浮かべながら俺に頭を下げている姿だttあ。




