34.冒険者ギルドでの話し合い
シャロに対する警戒心が消えるのはきっと些細なきっかけがあれば良い。そう思ってから二日経つがそのきっかけは未だにない。
まぁ、そういった物が早々あるものではないとわかっていたのでシャロを警戒しながら過ごしていた。当然、必要のない警戒心によってシャロに対して妙な壁があるような接し方をしていた。もしかするとシャロに違和感を覚えさせてしまったかもしれないが、それが原因で自己嫌悪に苛まれることとなった。
こんな状態が長く続くようならやってられないな。とも思うが、そうなれば世話役だと言っているシャロから少し距離を取れば良いだけの話だ。
今のように傍にいるのが当然。というわけではなく、最低限の世話だけをさせるようにすればそういうことも可能だろう。
そんなことを考えながら家を出て大通りを歩いているのだが、流石に人が多くなっていた。当然といえば当然だ。明日から第三王女が聖剣に選ばれ勇者になったことを祝うために祭りが行われるのだから。
数日前から少しずつ人は増えていたし、出店の準備も進んでいた。ただ、大通りは人が多いことから前日にならなければ出店を構えることは許されていなかった。
それが今日になってようやく出店を構え始めている。そのせいで少しばかり大通りの幅が狭くなり、出歩く人もあってか普段以上に歩きにくい状態になっている。
そしてこういう場合ではよくあるのだがスリを生業とする人間が絶好の機会だと獲物を狙っている。当然、それが分かっているので憲兵たちも目を光らせている。
そうした大通りを歩いて俺が向かっている先は冒険者ギルドだ。別に依頼を受けるのが目的ではなく、正規の冒険者となったシャロのことで話があるとフィオナに呼び出されているからだ。
シャロを交えずに。ということだったのでハロルドにシャロを預けてこうして冒険者ギルドに向かっているのだが、一体どういう話をするつもりなのだろうか。
というか、その話というのが必要なのか疑問に思いながら辿り着いた冒険者ギルドの中に入ると珍しくフィオナの姿がなかった。
奥にでも引っ込んでいるのかと思いながら少し見渡せば受付のカウンターの外に立っていたシャーリーと目が合った。
「お待ちしていました」
「フィオナに呼び出されたんだけど……どういうことだ?」
「フィオナは奥の個室にてアッシュさんを待っています」
「あぁ、そういうことか。わかった、案内は頼めるか?」
「ええ、そのために私がここにいますから」
どうやらフィオナは既に奥にある個室で待機しているらしい。
そして、シャーリーはその個室まで案内するために俺を待っていたということだった。
シャーリーは俺を先導して歩き始め、冒険者ギルドの奥へと進んでいく。それを追って歩けばそう時間をかけずに目的の個室に到着したらしくシャーリーが足を止めた。いや、同じ建物の中なのだから時間がかからないのは当然なのだが。
「フィオナ、アッシュさんを連れてきましたよ」
「ありがとうございます、シャーリー」
「さぁ、どうぞ中へ」
シャーリーに促されるままに個室に入ると、シャロに冒険者としての基礎を教えるために入った個室よりも少し広い部屋だった。
個室に入り、フィオナに座るように促されたので席に着くと、何故かシャーリーまでフィオナの隣の席に腰かけていた。
「…………シャロについて話をするのに、どうしてシャーリーまで座ってるんだ?」
「それはシャロさんの依頼達成の報告を受けていたのがほとんどシャーリーだからですよ。ちょっとずるいやり方だったのを、聞きましたよ」
「私としては否定するつもりはありませんでしたが、フィオナがどうしてもそのことで気になると言うことでしたので。今回の話し合いに私も参加することになりました」
「あぁ……まぁ、正攻法じゃないからな、あれは」
あんな薬草を大量に採取して、必要数だけ納品する。これを繰り返していただけなのだからどう考えても正攻法ではない。本来であれば様々な依頼をこなしながら経験を積み、正規の冒険者を目指していくべきだなのだから。
ただ、今回はシャロをさっさと正規の冒険者として登録したかったのと、思いのほか薬草の採取が順調すぎたことが理由でもあるのだが。
それがフィオナにとっては気になるというか、あまり良くは思えなかったのだろう。
「私としては冒険者の方のやり方にあれこれと口出しはしたくありません。でも今回はまだまだ子供のシャロさんが見習いとして活動しているのを、アッシュさんがやった方法でその期間を終わらせるのは良くない思います」
「そう言われても仕方がないってことはわかってる」
「わかった上でそれを実行する辺り、アッシュさんにも何か考えがありそうですが」
「シャーリーは黙っててください!」
「……一緒に話がしたいと呼ばれたのに黙れと言われましても」
「うぐっ……い、今はまだ黙ってて欲しいってことです!」
「ええ、わかっています」
「わかってるなら変に口を挟まないでくださいよ……」
「すいません。つい、フィオナの反応が面白かったので」
完全に俺を置いてけぼりにして二人で会話しているが、シャーリーは思っていたよりも愉快な性格をしているのかもしれない。
フィオナの反応が面白かったからと言って余計な口を挟んでからかうのだから。ただこれはきっと親しい友人が相手だからであり、俺のような冒険者たちにはいつもと変わらない様子で接しているのだと思う。
そんなシャーリーにぐぬぬ、と唸りながらも本来の目的を思い出したのか、その表情を引っ込めてから俺へと向き直るとまた口を開いた。
「こ、こほん!き、気を取り直して……」
「あぁ、いや……言いたいことはわかる。ただな……あいつの親は王都にはいない。そんな状況だとフィオナの言い方を考えれば、監督責任者の俺が傍にいて面倒を見てやらないといけないんだよな?」
「え、えぇ……そうなりますけど……」
「そうなると、あいつを放っておいて俺は別の依頼を受けるなんて出来るわけがない」
「そうですね。フィオナが何を言ったのか容易に想像がつきますから、フィオナの言った通りであればそうなるのでしょうね」
「その状態で地道に見習いから正規の冒険者になるための回数をこなそうとすると、俺が自分の仕事が出来なくなる」
詭弁でしかないのだが、それらしい理由を並べてしまえばフィオナも納得せざるを得ないはずだ。
事実としてシャロから目を離すようなことはあまり出来ないので完全には嘘ではない。仕事というのは冒険者ギルドの依頼ではなくハロルドから受ける仕事のことを言っているのだが、フィオナとシャーリーにはそれはわからないだろう。
「で、でも、アッシュさんは暫くはシャロさんの面倒を見るけど、一人でも問題ないって判断したらシャロさんは単独行動するんですよね?」
「あぁ、そのうちそうなるだろうな。でも、そうなるまで結構かかると思うんだ。流石に俺だって子供を一人で放っておくことはしたくないからな。まぁ……今回はあいつを抜きにして話をしたいってことで知り合いに預けてあるけど、それだって何度も預けられるわけじゃない」
「ぐぬぬ……!そう言われると私としては何も言えなくなるんですけど……!」
言えなくなるだろうことを予想して言っているのだから当然だ。
ただ自分で言った以上はあまりシャロを一人にしたり、ハロルドに預けて別行動をするというのはしない方が良いだろう。
「フィオナ。何を言ってもアッシュさんには躱されてしまうような気がしますよ」
「それは、その……そうかもしれないけど、何というか、とても悔しいような気がして……」
「…………フィオナが一人の冒険者の方に入れ込むとは珍しいこともあるのですね」
これは俺に入れ込んでいる。という意味ではなく、シャロに対して入れ込んでいる。という意味だろう。
「だって、シャロさんはまだ十歳ですよ?心配になるのは当然じゃないですか!」
「そう言われれば確かにそうですが、アッシュさんがちゃんと見ているようですからそこまで心配しなくても良いと思いますが」
「そうですけど……それでも、こう……年齢の離れた男性の方が小さな女の子の面倒を見るっていうのは、何処かで苦労しそうというか、大変そうというか……」
「あぁ、それは否定しないな。慣れないことだから大変なのは大変だ」
「ですよね!大変ですよね!」
フィオナの言っていることは事実なので肯定すれば、嬉しそうに食いついてきた。
「でも、そのうち慣れるだろ」
そう、慣れなければならないのだから、大変だの何だのとは言っていられない。
シャロを遠ざけるにしても一緒にいる時間がある以上は仕方のないことだろう。
「……むぅ……」
「…………アッシュさん」
「何だ?」
フィオナの様子がどうにもおかしいと疑問に思っていたのだが、シャーリーが話しかけてきたことでそれについて考えることが出来なかった。
「フィオナはお人好しのお節介焼きです」
「らしいな」
「だからこうしてシャロさんのことが気になってしまって、言わなくて良いことまで口にしてしまっています」
「…………それで?」
「不快に思うかもしれませんが、どうか許してあげてください。これもフィオナのどうしようもない性分なのです」
何だろうか。フィオナのどうしようもない性分を言って貶しているようにしか聞こえない。いや、たぶんシャーリーとしてはフォローをしているつもりなのだとは思うのだが。
その証拠というか、付き合いの長いはずのフィオナが何とも言えない微妙な表情でシャーリーを見ていた。
「シャーリー……それ、フォローのつもりだと思いますけど、アッシュさんには貶しているようにしか聞こえないと思いますよ……?」
「……私はフィオナのフォローをしています。ですが、その、言い方が悪かったのでしょうか……?」
「いや……俺はたぶんフォローしてるんだろうな、ってことはわかったけど……」
「そうですか……フィオナ、アッシュさんはわかってくださいましたよ」
「んー……わかる人の方が珍しいんですけどねぇ……」
フィオナの言いたいことはわかる。あれがフォローに聞こえる人間は少ないはずだ。だって完全に貶しているようにしか聞こえなかったのだから。
それにしても、二人とも随分と仲が良いというのは二人のやり取りから察することが出来る。そんな二人だからこそ、こうした話をしていてもフィオナが熱くなり過ぎないように茶々を入れるというか、ストッパーとして話を遮ることが出来るのだろう。
とりあえずは二人が落ち着くと言うか、もう一度話が出来るようになるまで待たなければならないが、出来ることならシャーリーに遮られることなく、滞りなく話が進めば良いのだが。




