27.実は甘党?
俺とシャロの様子を見て笑ってしまったのだろうが、笑われた俺としてはあまり良い気がしない。というよりも若干気恥ずかしい。
シャロはシャロでそんなフィオナに気づいていないようで、次からは自分が世話役であることを忘れないと心に刻み込んでいるようだった。きっとシャロもフィオナの様子に気づいていれば何らかの反応をしたはずだ。
まぁ、そうした場合はまた違ったフォローを入れなければならない。ということになっていたかもしれないので気づかないなら気づかないで俺は一向に構わないのだが。
「お二人ともとても仲が良いようで何よりですね」
「フィオナにはそう見えるのか……俺としては今のやり取りは普通に戸惑うようなものだったんだけどな……」
「そういうやり取りが出来るのも仲良しな証だと思いますよ」
言ってから一人でうんうんと頷いているフィオナだったが、それもすぐにやめてメニュー表を手に取った。
「さて、仲良しなお二人も本来の目的は忘れていないと思いますが……」
その言葉と共にメニュー表を開き、パンケーキと書かれた部分を指差した。
「そう、パンケーキです!さっそく頼みましょう!あ、でも飲み物は何にしましょうか?」
「あぁ、はいはい。パンケーキな。俺は……紅茶にでもするか。お前はどうするんだ?」
「あ、私も紅茶でお願いします」
「なら私も紅茶にして……紅茶三つにパンケーキ三つですね」
さらっと俺もパンケーキを頼むことになっているが、今回はそれでも良いか。ただ、シャロとフィオナの二人はパンケーキだけで足りるのかもしれないが俺はそれだけでは流石に少ない。
パンケーキ以外にも何か頼むとしようか。そう思ってから断りを入れてフィオナからメニュー表を受け取って目を通す。
「あー……そうですね、アッシュさんにはパンケーキだけだと少ないですよね。他に何を注文されるんですか?」
「サンドイッチ、は昨日食べたから……何も考えずにデザートにでも手を伸ばすか」
「甘いパンケーキに、更に追加でデザートですか?」
「たまにはそういうのも良いかと思ってな」
ひとまず話がまとまったのであの赤い髪の店員を呼んで注文をすることにした。
「パンケーキを三つ。うち一つはアイスとチョコレートとメープルのソースを二倍で頼めるか?」
代表して俺が注文しているのだが、俺のその注文を聞いてシャロとフィオナの動きが止まったのが視界の端に映った。いきなりこんな注文をされればそうなるのも仕方がない。
「はぁい、別料金をいただくことになりますが可能ですよぉ」
「そうか、それなら頼む。それとショートケーキ、チョコレートケーキ、フルーツケーキ、それから……」
注文するデザートを次々に挙げていると動きが止まっていたシャロは驚いたような表情に、フィオナは引き攣った表情へと変化していった。
理由は注文しすぎだということだろうが、そんなことは知ったことではない。俺は食いたい物を選ぶだけだ。
「チーズケーキ、シュークリームのカスタードと生クリームをそれぞれ一つ、あとは……」
「甘い物がお好きならぁ……当店のお勧め、女神突き刺せパフェの塔、溢れんばかりの憎悪を込めて。などはいかがですかぁ?」
「悪くない名前だな。それも頼んだ。それと紅茶を三つ」
「かしこまりましたぁ。すぐに持ってきますので、少々お待ちくださいねぇ」
注文を聞き終えるとまたふらりふらりと店員は歩いて行った。
その姿を見送ってからメニューを置いて二人の様子を見ると、シャロは何とも言えない表情で俺を見ていて、フィオナは引き攣った表情が何かを恐れるような表情へと変わっていた。
「どうかしたか?」
「どうかしたか?じゃありませんよ!何であんなに頼んだんですか!?それにあのパフェを頼むとか正気じゃないですよ!!」
「そんなに言うほどなのか、あのイシュタリア突き殺せとかいうパフェは」
「主様、主様。名前が違いますよ。それとイシュタリア様にそんなことを言うのはダメだと思います」
フィオナの反応を見る限り、相当頭のおかしいパフェのようだが、そんなことは名前の時点で何となく察している。まぁ、もしかすると俺の想像以上の物なのかもしれないが。
それとシャロのツッコミというか、指摘は少しばかりずれているような気がするが、きっと気のせいだろう。
「ちょっとアッシュさんのその言葉は聞き捨てならないですけど……それよりも直近の危険というか、あのパフェはダメです。量がおかしいです」
「量、か……俺の場合はそれに注文したケーキとかもついて来るのか」
「はい、そうです。って、そうですよ!何ですかあの注文は!ケーキ沢山頼んでましたし、パンケーキのアイスとかチョコレートソースとかメープルソースとか倍にするって何ですか!あんなことが出来るなんて私初めて知りましたよ!?」
俺の注文について言ってくるが、あれは出来るかもしれないから頼んだだけで、そういうサービスがあるとは知らなかった。フィオナにしてもそれは同じで、驚いているというか、羨ましそうにしていた。
「出来るかどうか知らなかったけど、出来る物なんだな」
「くっ……!私も二倍とか三倍にしたかったです……!」
「あ、あの、主様……」
「どうした。フィオナみたいに自分も二倍にしたかったとかか?」
「いえ、そうではなくて……その……」
自分もアイスなどを二倍にしたかったと言っているフィオナは非常に悔しそうにしていた。
そして、そんなフィオナを見ているとおずおずとシャロが何か言いたいことがあるようで口を開いた。ただ歯切れが悪かったのでどうしたのかと思っていると、意を決したように俺を見てから言った。
「ショートケーキとか、少し分けてもらえたら嬉しいな、と思って……」
その意を決したように、というのも徐々に声が小さくなっていくので、自分の頼みが図々しい物だと理解はしているのだろう。それでも俺としては何もかも遠慮しているよりは子供らしくて良いように思えた。
というわけで、俺はシャロのそのお願いというか、願望を拒否することは選ばなかった。
「別に良いぞ。適当に目についたのを頼んだだけだからな」
「良いのですか!」
「あぁ、ただ自分の注文したパンケーキを残さないようにしろよ」
「はい!わかりました!あの、主様。ありがとうございます」
「どういたしまして」
子供は子供らしくしている方が良い。こうして嬉しそうに笑顔を浮かべているシャロを見るとやはりそういうものだと実感する。
元々スラム街で生き始めた頃はそうしたことを考える余裕もなかったが、今となっては心からそう思えるようになった。やはり生きる環境が変わったことによって、余裕が生まれたからだろう。もしくはとある人物の影響かもしれない。
そんなことを考えていたが、フィオナはふと何かを思い出したように悔しそうな表情を引っ込めてからあの店員が消えた方を見ながら言った。
「そういえば、フィフィさんはお仕事に戻ってたんですね……」
「フィフィ?」
「はい、先ほどのふらふらしてた店員さんの名前です。少し前に実家で問題が起こったとかで休暇を取ったって聞いていたんですけど……もうその問題は片付いたんでしょうか?」
「実家で問題が起きたとかどうこうってのは個人の話だろ?俺たちみたいな他人がわざわざ口を挟むようなことじゃないと思うんだけどな」
「それは、そうですけど……でも、普段から話し相手になっていただいているので、やっぱり心配というか、何というか……」
なるほど。確かにお人好しでお節介焼きらしいフィオナからすればそうした話をする間柄の人間が何か問題があったとなれば気になるというか、心配になるのも頷ける。
それにフィオナはきっとその問題が解決していないのであれば力になりたいとか、そんなことを考えているのではないだろうか。
「それだったら本人に直接聞いてみれば良いだろ。普段から話をしてるんだったら、そうしたことも聞けばちゃんと話してくれるんじゃないのか?」
「……そうでしょうか?」
「たぶん、って程度だけどな。それにどうしても話したくないならそう言うだろうし、それならそれでそっとしておくことも大切だと思うぞ」
「む……確かにそうですね……」
「とりあえず、食べ終わった後にでも本人と話をしてみろよ。少しくらいは時間を取るくらいは出来るだろ?」
「…………そうですね、そうしてみます」
色々と考えていたようだったが、食事の後にフィフィという名の店員と話をすることに決めたらしい。
これでひとまずはフィオナも落ち着くだろう。そう予想したのだが、残念ながらその予想は外れてしまった。
「それはそれとして、先ほどのアッシュさんが口にしていた言葉についてちょっとお話しましょうか。ほら、注文したパンケーキとか、まだ来ませんしね」
「俺が口にした言葉?」
はて、どれのことだろうか。というか何か問題になるようなことを言ったかどうか記憶を探っていると、シャロがきっとこれではないか、と教えてくれた。
「きっと、イシュタリア様をどうこう、と言っていたことではありませんか?」
「あぁ、パフェの名前な。この世界で女神って言えばイシュタリアだろうし、良い名前のパフェだよな」
「そこで良い名前と言ってしまう辺りが主様らしいと言えば良いのかもしれませんが、普通は口にしませんよ?」
「でもイシュタリアだからな……」
イシュタリアのようなろくでなしが相手ならそうした扱いが妥当ではないだろうか。そう思っているのだが、良く考えなくても俺以外の人間にとってイシュタリアは偉大なる女神だ。となれば俺のこうした言葉も聞き逃すことは出来ないのだろう。
「イシュタリア様のことをあんな風に言うのはダメですよ。私はそこまで信仰心が篤いというわけではないので注意だけで済ませておきますけど……聖都でそんなことを言うと大惨事になりますよ?」
「聖都は…………確かに酷いことになりそうだな……」
聖都はイシュタリアを信仰している人間ばかりで、その全てが敬虔な信徒である。と言えるほどだ。
そんな場所でイシュタリアのことを悪く言えばどうなるか、考えたくもない。とはいえ、聖都に行くようなつもりは微塵もないので考える必要もないのだが。
「主様はイシュタリア様に対して色々と言ってしまうことがあるようですが、そういうのは控えた方が良いと思います」
「まぁ……確かにそうかもな」
「お世話役として、そうした争いの火種になるようなことは見過ごせません!」
「お前、お世話役として。とか言いたいだけじゃないだろうな」
俺に対する注意もあるのだろうが、ただ単純にそれを言いたかっただけではないだろうか、と思ってしまうのはきっと仕方のないことなのだろう。何故なら、そう言い切ったシャロは何処か満足げにしていたのだから。
それに呆れてしまった俺がふと視線を感じるのでそちらに目を向けてみれば、俺とシャロの様子を微笑ましそうに見えているフィオナがいた。
これはまた仲が良いだとか何だと言われそうだな。そんなことを思いながら、色々と面倒になってしまったのでフィフィがさっさとパンケーキなどを持って来てくれることを願うことにした。




