住所不明
野良猫の内面を「解呪」で弄ってしまったせいで…
私は不意に
(地球世界のような洗脳世界も、洗脳溢れる社会が到来した初期の頃には「善意」があったのかも知れないなぁ…)
と、思った。
私が野良猫に対して思ったような
「可愛い気があれば誰かが餌をあげてくれるだろうから」
という善意有りきの誘導によるものだったかも知れないのだ。
だが当然ながら
「強迫観念という緊張の根源」
を喪失して生きるには
「存在するだけで愛される」
ような優遇をしてくれる人達の善意と奉仕が必要となる。
「猫を愛する愛猫家」
は社会の何処かに生み出され続ける。
だがそれが猫ではなく人間だったら…
庇護者は生み出され続けるのか?
その答えが「否」だからこそーー
あの国は、あの世界は、あそこまで堕ちた…。
(本当に嫌な世界だった。呪われるべき連中が正当化されたままの倒錯した世界だった…)
初めにあったかも知れない善意ーー。
嘘へと堕ちた善意。
醜い欺瞞。
それは
「無責任な偽善者が誤った決断を重大な場面でくだしてしまった」
事で起こる罪なのだろう…。
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「ああ…。そう言えば、今日は薬材商ギルドで仕事をする日だったなぁ…」
と、翌朝目覚めて早々に嫌な気分になった。
郊外での物置小屋生活は案外快適だ。
居所が把握されていなければ
「魔力が少ない状態で突然しょっ引かれて治癒魔法行使を強要される」
ような状況も極端に制限される事だろう。
物置小屋に「インビジブル」「アヴォイダンス」の効果が切れないように気をつける必要があるが…
直接私が物置小屋に魔法を掛けるのではなく、魔法効果を付与した魔石を使う事で持続効果が40時間に延びる。
魔力が尽きた魔石に魔力を注入すれば、また使える。
しかも魔力が完全に尽きる前に注入充電も可能。
寝る前に物置小屋の外に取り付けた表札に埋め込んだ魔石に魔力を充電して寝る日課を組み込めば、問題なく不可視状態と攻撃回避状態が維持され続ける。
問題があるとすればーー
自分自身にインビジブルを掛けてない状態で小屋から出ると、途端に
「小屋に触れてないと小屋が見えなくなる」
事くらいか。
自分自身にもインビジブルを掛けていると
「可視領域の周波数帯が同期化される」
という事なのか…
インビジブルを掛けている物体も見える。
こうした注意点があるにはあるが…
気をつけていれば良いだけの事ではある。
今日はそれよりーー
(行きたくないなぁ…)
と思いながらも薬材商ギルドのギルド会館へ出勤…。
何故か薬材商ギルドマスターのモンティス・ハーツホーンがホールまで出迎えに来ていた…。
ニコニコしながら
「おはようございます。今日は宜しくお願いします」
と挨拶してくるのが如何にも胡散臭い…。
「おはようございます」
と一応お辞儀してちゃんと挨拶を返すが
「ところで先日『輝く浅瀬亭』をチェックアウトなさって現在は住所不明となっておられるそうですが…早目に住所の申告を冒険者ギルドになさっておかれますようにお勧めします」
という言葉には
「検討しておきます」
(誰が従うかよ)
と答えるにとどめた。
護衛の依頼や魔物討伐の依頼などで死亡した場合ーー
冒険者ギルドに住所を届け出ていないと
財産を家族に遺してやる事もできない。
そういった事情から
「住所の申告」
「血縁者の申告」
をするように勧められるが
「申告しておかなければならない義務はない」
のである。
財産を遺してやりたい家族が居るという訳でもないのに
誰が住所をいちいち冒険者ギルドに教えてやるか
ボケ!
という話だ。
「…それで、話は変わりますが、騎士団の訓練で高ランクダンジョンに潜った身内の者がマリーさんのスキルで失明の危機を免れたと聞きました。
代わりにお礼申し上げておきます。有り難うございました。
それとその際に別の身内がマリーさんに失礼な対応をして騎士団を退団になった事も、申し訳なく思います。
今日はマリーさんがこちらにお越しになる事を当人達にも伝えておりますので、仕事の途中にでも当人達がやって来るかも知れません。
是非、当人達から感謝の言葉と謝罪の言葉を受け取って頂ければと思います」
そう言われて思わず
「不要です。仕事中に邪魔が入ると依頼達成の質が落ちる可能性も出てきますので、仕事に関係のない人達を招き入れられるのは困ります」
と答えた。
(アヴォイダンスがなかったら掴み掛かられたり殴られたりしてたんだけど…。「失礼な対応」でしかないのだな、この人にとって…)
「いえ、それでは不義理となりますのでわたくしどもの方の気が済みません。仕事が邪魔される事で上手くスキルが発動せずに仕事内容の質が落ちたとしてもマリーさんに落ち度が無い事はわたくしの方で納得するつもりですので、是非、会ってやってください」
と言われたので
「何故、そんなに会わせたいんですか?私は会う必要性を全く感じません。ハーツホーン支部長さんのほうで『仕事と無関係の対面に時間を割かせた場合には別途手当てを支給する』と一筆書いてくださるのであれば、当人達が本当に感謝と謝罪をしに来られた際に、ほんの二、三分は融通を利かせられるかも知れませんが…私の方でわざわざそのための時間を作る気はありません」
と言ってやったが
「それで結構です。早速、別途手当てが出せるようにしておきます」
とニンマリされた。
それでもやっと引っ込んで行ってくれたのでホッとした。
(にしてもウザい…)
私としては
(「ハーツホーンさん」が素直に感謝したり謝罪したりするとは全く思えないんだけど…)
と思ったのだった…。




