【治癒】スキル
その後ーー
冒険者ギルドのギルマス、ラッセル・サックウェルが駆け付けて来て私の姿を探し出したので
(いつまでもインビジブルで隠れてる訳にもいかない…)
と思い、インビジブルを解いた。
「私は此処です」
と手を挙げて、ギルマスの注意を引くと
「重症者はどうなってる?」
と訊かれた。
「テントを張って運び込むという話でした。今も担架に乗せて重症者を運び入れてる最中のようなので邪魔にならないように隅で控えてました」
「行ってみるぞ」
そう言われて付いていく。
レヴィン副団長がギルマスに向かって
「生命の危機がある重症者は全員運び入れた所だ。丁度よかった」
と言いながら私へと視線を移した。
ギルマスが私へ
「こういう時は一番奥が一番重症で生命の危機がある。手前になるほど今すぐ死ぬ危険は少ない」
と言い、レヴィンも頷いているので
(ギルマスの言葉通りの配置なのだろう)
と私にも分かった。
早速、一番奥の一番の重症者の所へ行く。
まだ息はある。
自分自身に嘘をつけない私は
(死んだ人間は治せないので、いきなり失敗とかにならずに済んで良かった…)
と思った。
見ず知らずの赤の他人の命の心配よりも
自分の社会的立場のほうを心配してしまう。
それでも治す気はちゃんとあるので、早速
「傷治癒」
を掛けようと思ったが…
(…あ、…瀕死の怪我人の場合は「出力制御」で出力を上げてやらないと治しきれないかも知れない)
と思い至った。
(あと、血が流れ過ぎてる。「状態異常回復」で貧血を補うことも必要だろうな)
(「適正化」で体力回復させてやれれば完璧なんだろうけど、患者が1人じゃないから、そこまでサービスすると魔力が足りなくなるかも…)
そう思ったので
「出力制御」
「傷治癒」
「状態異常回復」
だけを掛けていった。
魔力がゴッソリ抜ける感覚がしたので
(こっそり食事を摂っておいて良かった…)
と自分の英断を自分で褒めたくなった。
レヴィンには
「傷を治すだけだと確実に血が足りないと思ったので、『貧血』という状態異常を治癒するアーツも重ねて掛けてますが。
あくまでも『生命維持に必要な最低限の措置』なので、その点は当人達の意識が戻ってから造血作用がある食べ物を摂らせるなり、そちらで対処してください」
と告げておく。
あまり依存的になられても困るからだ。
(そっちで出来る事はそっちでやってくれ)
という意図を汲み取ってくれれば良いのだが…
(「治せるのなら治してくれるのが当たり前」みたいな依存をされてコチラの都合無視でしがみつかれる側の苦痛を、こういう人達が理解してくれるものなのかな?)
と疑問に思う…。
「あと、重症者じゃない人達も痛みはあるでしょうから【治癒】スキルの効果を付与した鎮痛薬を渡しておきますね。
一瓶丸々一人に与えられたらすぐに治るんでしょうが、こちらも際限なくスキルを使える訳ではないので、一瓶を数人で分けて与えてください」
そう言って「治癒魔法効果の付与がついた鎮痛薬」をバックオーダーで1本出した後、アトラクションで5本コピーした。
ポケットに手を突っ込んで、ポケットから出すフリをしたので、魔法だとバレないだろうが…
それでも目敏い人間なら
「物が入ってる感じでポケットに膨らみがあったっけ?」
と気付く可能性はある。
だが幸いな事に【治癒】スキルという超レアスキルの作用を目前にして気が動転してるらしいレヴィンもラッセルも、それに気付く余裕は無かったようだ。
「欠損の治癒は可能かも知れませんがこちらも万全の状態じゃないとやるだけ無駄に終わると思います。
私も慣れないスキルを使い過ぎて疲れたので、明日、医院へ出向きたいと思いますので、医院の名称と所在地を教えてください」
と言って、くだんの答えを聞き出すと踵を返したが
(本当に疲れた…)
と気が抜けて不意にヨロめいた…。
浴場の所々に欠損箇所があり欠損補修で魔力をガッツリ消費していた。
掃除程度ではそこまで消費しないのに、やはり
「正常化」
による欠損補修は奇跡的な分、魔力消費が激しい。
魔力56%を消費して、残量44%になっていた。
食事と休憩で3%回復して魔力残量47%になった所で
棺桶に片足突っ込んだ重症者達を12人治癒し
バックオーダーとアトラクションで魔法付与した薬も出した。
お陰で流石に魔力を消費し過ぎた。
魔力残量は7%…。
(この状態で欠損補修とかやらされたら魔力が0になって倒れる…)
(というか、魔力が0になる犠牲を払っても欠損補修できない筈…)
と自覚できた。
(なんかフラフラするけど、信用ならない連中の前で倒れる訳にはいかない…)
頑張って宿屋まで自力で帰り着こうとしたのだがーー
テントを出るなり見も知らぬ騎士に
「おい!お前!インチキじゃないって言うんなら、勿体ぶらずにサッサと医院へ行け!」
と怒鳴られ、掴み掛かられそうになった。
眠気と共に、ストレスがMAXに達したのだろう…。
(報われない環境で頑張るなんて…私はもういいや。前世で懲りた。…私は頑張らない。善意を搾取しようとする他人のためには、絶対に、頑張らない…)
そう思うや否やーー
私はそのまま意識が遠のき、足元からグラリと崩れ落ちた…。
転倒の際に頭をぶつけなかったのは運が良かったが…
そもそもが本当ならこんなに魔力消費する予定では無かった。
「堅実な魔力運用」
をモットーとする私にとって、予定外の治癒行為に駆り出された事は災難以外の何ものでも無かった…。
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平衡感覚がおかしくなって無性に眠くなる。
それが魔力が不足してきてて、身体が
「休息を取れ!」
と要求してるサイン。
「報われない環境ではどんなに頑張っても報われないし、想いも何処にも届かない、悪意に囲い込まれた環境では全ては無駄だ」
と思い知らされた前世の人生での学習があるせいで
「踏ん張り」
が利かない。
それが自分でも自覚できた。
目が覚めて
「此処は何処だろう?」
と首を捻った。
白い壁に白い天井。白い寝具。
何もかもが白っぽい環境…。
ベッドに横たえられる時に脱がされたらしいブーツがベッドの下にあったので、それを履いて、部屋の外に出ようとドアへ向かった。
「そもそも今何時なんだろう?どれくらいの間寝てたんだろう?」
思わず【魔法】スキルの仮想ホームボタンを押して半透明タブレットに表示される時間を確認したところ
「06:32」
と出た。
朝方のようだ。
テント内の重症者達を治癒し終わったのが14時頃。
その後の記憶がないので、此処に運ばれてずっと寝ていた事になる。
流石に寝過ぎだと思うが、お陰で魔力の充電はバッチリ済んでいて、エネルギーゲージは100%になっている。
(「食べる」「寝る」はやっぱり自己回復に効くな…)
部屋のドアを開けて廊下を見ても誰もいないし、そもそも人の気配がない。
なので元通りにドアを閉めて、ベッドの側まで行って腰掛けた。
(何か食べておこう…)
と思い「ヘルスケア管理」を使って、栄養補助食品を出した。
お腹が減り過ぎているからなのか、サプリメントとカロリーメイ⚪︎風のクッキーバーのみならず、ビタミン入りのゼリーも出てきた。
飲み物はやたらと牛乳が飲みたかったので、「バックオーダー」で牛乳を出した。
飲み食いしながら、ふと
(…私の場合「魔法を使うのに魔力という対価を必要とする」し、他の人達も「スキルを使う際に魔力を消費している」筈だと思うんだけど…違うのかな…?)
と考え込んだ。
(…他の人達は魔力やそれに近いものを消費したりせずに、何も対価を支払わずにスキル使い放題だったりするのかな?)
(だから「万全の状態じゃないと大技は使えない」という当たり前の事を理解できないのかな?)
と、少し気になった。
(…考えてみたら、私は他の人達とスキルの事で情報交換し合った事がない。そもそもウィングフィールド公爵家の下級使用人のみんなは【一部能力向上(微)】だった。スキルの使い過ぎで倒れた人なんて見たこともない)
(大したスキルじゃないなら消費魔力も少なくて済むし、魔力切れ自体を体験しないから、皆が皆「スキルの使い過ぎで立っていられなくなる」ような状態が起こる可能性自体が思い至らないんじゃないかな…)
レアスキル持ちと、そうじゃない者達との間には認識の齟齬がある…。
そんな気がして、朝から早々に気が滅入るのだった…。




