「こんな女」呼ばわり
「………」
(誰、このウザそうな少年は…)
返事をするのも忘れて呆気に取られて相手を見つめたら
「どうなさったのですか?」
と侍女長が来てくれた。
「…一体どういった基準で使用人を雇っている?品性下劣な冒険者に何故侍女用のお仕着せを着せてるんだ?」
「この子に関しましては大旦那様の指示です。わたしくしは人選に関与しておりませんので不可解に思われる点がおありであれば、直接大旦那様にお尋ねいただくようお願い致します」
侍女長がそう返答すると少年は
「…お祖父様は一体何を考えているんだ…」
と不満そうに顔をしかめた。
(…「お祖父様」?…先代公爵を「お祖父様」?…この子はハートフィールド公爵家の令息?シミオン・ハートフィールドの弟?)
嫌な推測が浮かぶやり取りを聞いたせいで
私は一気に気分が悪くなった。
「こんな所まで潜り込んで男漁りとは…。冒険者という職業は随分と自由なものなのだな…。あまりもの浅ましさに、そんな『自由』には『羨ましい』とさえ思わないが…」
と、シミオンの弟は随分な言いようである。
口汚なくウザ絡みする人達は絶対的に優位を確信してる事が多い。
当人の期待通りに本当に周りの全部がグルになっている場合もある。
その時は標的にされた者にとって
「全てが敵」
という状態にされている。
ーーが、そうではない事も勿論ある。
(何も言わずに様子を見ておこう…)
と私が思っていると
「おや。マリーさんではないですか?」
と新たに声がした。
声の主を見てみるとーー
声の主のほうではシミオンの弟に頭を下げて
「お招きありがとうございます。リオン様」
と挨拶をした。
(あ、確かこのオジサンは…)
と記憶を辿って、すぐに正体が分かった。
モーリス・ブラックウェル。
ブラックウェル商会の行商隊の商隊主。
以前【千本槍】が護衛を受けて随行した依頼の依頼主だった。
(私の事を身辺調査・身元調査して調べ回ってた人だ…)
モーリスに「リオン様」と呼ばれたシミオンの弟を見ると、背後に同じくらいの歳の少年が控えている。
(なんだろう。既視感を感じる…)
「モーリス。まさかとは思うが貴方の差し金でこんな女がこの場に潜り込んでる訳ではあるまいな?」
「いえ、なんの事やら。…それにしても『こんな女』呼ばわりですか?よく知りもしない相手に対して。リオン様らしくもない…」
「モーリス殿。幾ら人手が足りなくても公爵城で行われるイベントに低ランク冒険者を雇うのは品位にも欠けますし、お金の無駄遣いです。
貴方の手引きで『寄生』冒険者を引き入れて男漁りさせているのでしたら、責任を持って引き取ってください」
リオンの背後に控えていた少年もモーリスを責めるように宣うた。
侍女長が
「ですから大旦那様の指示です。不明な点は大旦那様にお伺いください」
とリオンと腰巾着を諭そうとするが
「私が全責任を取るから、私の合格祝いの場から、その女を下がらせろ。文句なら後でお祖父様から聞く」
とリオンは取り付く島もない。
「…かしこまりました」
と侍女長が無表情で私の腕を握って
「こちらへ」
と誘導した。
着替えをした部屋だ。
「…あの、帰って良いんですか?」
と私が尋ねると
「はい。今日の宴会の主役であるリオン様の意向を無視する事は大旦那様も本意ではないでしょう。
お集まりになられる方々の中にはマリーさんとの対面を楽しみにされていた方もいらっしゃったでしょうが、主役の機嫌を損なってまで当初の予定を強行するものでもありません。
後日、再びお呼び立てする事になるかも知れませんが、今日のところはお帰りいただいて結構です」
との事。
(「主役」ねぇ…。一体何様のつもりなんだろ、リオンってヤツ…)
帰れるのは嬉しいがムカつくものはムカつく。
(それにしても、あの腰巾着とのツーショット。どっかで見た事があるような…)
と思った途端にーー
(あっ!)
と思い出した。
(【微睡む一角獣】ってパーティー!サブメンバー!猫好き不審者少年!)
思えば最初から【微睡む一角獣】の面々は私に対して塩対応で、無視は当たり前だった…。
「…公爵家の坊ちゃんが冒険者やって社会勉強とか?そういう事だったのか?」
と首を傾げたくなる。
ロベリアと同じ精神構造。
真っ当な労働をして対価を得てる普通の低ランク冒険者に対して妙な濡れ衣を着せて、勝手に嫌悪。一方的に排除。
「…もしも『社会勉強』してるつもりでアレだったら、なんかもう色々ダメなんじゃないかな?」
(「ハートフィールド公爵派」…。ああいう糞ガキが権力の頂点にほど近い所にいるという事なら…そのうちコロンと転んで失くなる権力なのかも知れない。マトモな人材を育てていない派閥の次世代は暗いだろう…)
お仕着せを脱いで元の服に着替え、部屋を出ようとドアを開けると、侍女長も誰もおらず…
(お仕着せはどうするんだろう?脱いだのをこの部屋に置きっぱなしにしてて大丈夫なのかな?)
と疑問に思った。
(前見頃の上下が逆にコピーされるけど「アトラクション」魔法でコピー品のお仕着せを作っておくか…。後でそれを更にコピーしておこう…)
「アトラクション」で出した反転コピー品を原本にして再度「アトラクション」で反転コピー品を出すと、元々のオリジナルと同じになるのだという…。
(もしも後から「失くなった。弁償しろ」だのと言われたら、「探します」と言って、この部屋に来て、こっそり亜空間収納から出して「見つかりました」と言えば良いんだ)
と割り切る事にして、お仕着せを畳んで椅子の座面に置いて部屋を出た。
ちゃっかり見張ってたという事なのかーー
廊下を曲がった所でモーリス・ブラックウェルとまたも顔を合わせた。
「マリーさん。やっとお会いできて嬉しい限りです。カレーの件では大変お世話になりました。
香辛料の需要を増やすためにカレーを提供する食事処をここハートリーで立ち上げる予定でして、是非一度マリーさんに見てもらいたいと思っていた所です」
「…そうだったんですね」
「冒険者ギルドに依頼を出したかったのですが、サックウェル家とブラックウェル家とでは序列が向こうが上でして、一応気を使わなければならないという事もあり、マリーさんへはお声がけするのも遅くなり、申し訳ありませんでした」
「はぁ…」
「陽も暮れてきてますし、今からお帰りになられるのでしたらウチの専属護衛をマリーさんに付けたいと思います。
覚えていらっしゃいますか?ウチの専属護衛の者達を」
「いえ、よく覚えてないし、ほぼ初対面なので、送ってもらうとか悪いので遠慮させていただきます」
「そうですか?ウチの専属護衛の者達のほうではマリーさんの事を全員覚えてますし、また会えたら喜びますよ?是非に送らせて欲しいと言うでしょう」
「いえ、私のほうが覚えてないのでガッカリさせてしまうでしょうし、申し訳ないです」
「ご遠慮なさらずに。細かい事は気にしない大らかな者達ですから」
私とモーリスが話してる間にも人が近付いてきて
「モーリスさん。馬車の用意ができましたよ」
と護衛らしき男が声を掛けてきた。
見覚えがある顔なのでブラックウェル商会の専属護衛の1人なのだろう。
「おっ!マリーちゃん。久しぶり!」
と肩を叩かれたが案の定
(…この人、なんて名前だったっけ…)
と相手の名前を思い出せなかった。




