勝手に雇った冒険者
サックウェル伯爵邸での依頼を達成して冒険者ギルドで報酬を受け取ると、他の指名依頼の依頼主側から日にちの指定がされていた。
依頼主である
レヴィン・サックウェル
サトクリフ・サックウェル
ヤーノルド・サックウェル
の全員が違う日にちを指定しているので
「依頼主3人で依頼日が被らないように話し合った?」
のだろうと予想がついた。
事前の打ち合わせは必要なく、当日の朝に来てくれるので良いという事なので、ギルマスの屋敷に行った時の感覚で済ませる事にしたのだが…。
何故かレヴィン・サックウェルの屋敷でも、サトクリフ・サックウェルの屋敷でも、監視員は侍女ではなかった。
夫人が直々に出てきて
「ああ、あなたが…ウチの人が勝手に雇った冒険者さん…」
と睨めつけられた。
思わず呆気に取られたが、仕事は仕事なのでやるしかない。
監視の目が外れる事がないので仕方なく貴族家仕様の掃除方法で掃除。
拭くなり掃くなりした箇所だけを範囲指定したクリーンアップで綺麗にしていくので、多少時間は掛かったが、既に慣れたもの。
動く量は多いが重い物を持ったりすることもなく重労働ではない。
合間に昼食作りを挟んで午後3時頃には洗濯場以外の清掃は終わり、洗濯専門の女中が帰ったのを見計らって洗濯場も綺麗にした。
その後は夕食作り。
客人とかはなく、屋敷の当主一家と住み込み使用人の分と私自身が食べてみせる毒味の分のみ。
最初は喧嘩腰だった女主人も夜になる頃にはご機嫌だった。
因みに依頼主である屋敷の主人とは全く顔を合わせなかった。
「単に仕事しに屋敷に入るだけで何故敵意を向けられなければならないのか」
意味が分からない…。
(…何も盗んでないのに「貴重品を盗まれた」とか濡れ衣着せられるようなら、それこそ国外逃亡とかも考えなきゃならないだろうな…)
と思うし、面倒事は嫌いだ。
このまま二度と関わらずに済むように、別の町へ拠点を移す可能性も視野に入れておいた方が良いだろう。
エアリーマスのギルマスの話ではサックウェル伯爵家が後ろ盾になるつもりだという事だったが、とてもそうは思えない…。
(変な因縁をつけられたり、やってもいない罪で陥れられたりしませんように…)
不安ながらもサックウェル家の依頼はハートリーのギルマス宅を含めて4件こなした。
あと一件は騎士団寮の清掃と調理だ。
南部騎士団は南部領兵。
国軍の騎兵常備軍だ。
ハートフィールド公爵城の城内に司令部も訓練場も寮も備わっている。
寮は広いので各個室の清掃はせずに、廊下や階段や共有スペースのみの清掃となる。
依頼主のヤーノルド・サックウェルが寮の管理人の立場も兼ねている事による依頼だ。
「早朝から」の仕事となる。
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騎士は皆が皆「夜寝て朝起きる」ような生活リズムで暮らしている訳ではない。
時折「夜勤」の順番が回ってきて、夜の町を巡回パトロールしたり、城内警備をしてたりもする。
早朝は夜勤組と日勤組とか情報交換・申し送りをする時間帯。
比較的起きてる人が多い。
なので
「冒険者ギルドから指名依頼で清掃に来ました」
と城門の門衛に告げると、直ぐに依頼主のヤーノルドが呼ばれた。
いざ対面してみて
(…考えてみれば、依頼されて仕事場に行って、依頼主自身に会うのは初めてかも知れない)
と思った。
いつもは依頼主以外の人が出てきていた。
(依頼主自身が「自分で仕切る」場合に対面するとか、そういうルールなのかな…)
ヤーノルドを見遣ると
「初めまして、お噂はかねがねお聞きしてます」
と喜色満面。
「各個室には鍵が掛かってますし、清掃は鍵の掛かってない共有スペースと、私の立ち会いの元管理人室をお願いします。
清掃時間は皆が出払ってからです。今は朝食前の早朝訓練で建物内もバタバタしてますので厨房の手伝いをしててください」
そう指示されて厨房へ向かう。
正式に料理人を雇っている訳ではなく当番制で回しているらしく…
当番の人達の手際は悪い。
「そんなんじゃ、朝メシの時間に間に合わねぇぞ!」
とヤーノルドが急変して怒鳴るのが何気にコワイ…。
「メニューはありますか?何を作る予定なんですか?」
と私が尋ねると
「えっ?お湯を沸かして切った肉と野菜をブチ込むだけなんじゃ?」
と鍋に火を掛けてる人が返事をした。
「………」
(そういうものなのか?)
栄養管理とかどうなってるのか不安になるような話だ。
パンは水気のないカチカチに乾燥した黒パンを1日3回一つづつ。
スープは朝昼晩付く。
肉や魚などのタンパク質は昼と晩のみ。
週に一回、寄せ鍋のような具沢山の料理を作って色々な栄養を取り込む、という事らしい。
(「食べる事」を蔑ろにしてる環境だなぁ…)
思わず溜息が漏れた。
(ともかく少しでも美味しいものを作って「食べる事」の大切さが伝わるようにしたいよね…)
食材は決められた物を使うしかないものの、作る際の意識まで
「とりあえず飢えずに済む食べ物を」
という程度のレベルにまで落とすと人生そのものが味気なくなる。
ここの厨房では調味料や香辛料が揃ってるのに全く使われている様子がない。
「使い方が分からないので無いものと思う事にしている」
とか、そういう事なのだろうと推測した。
使える物を使えばちゃんとした料理を作れる筈なのだ。
(…頑張ろう…)
と思った。




