戦闘後
自分の乗ってる船に思い入れがある訳ではないが、自分の乗ってる船が命綱である事は確かだ。
私は冷静に
(どこまで効果があるか分からないけど…)
と思いながらも船全体に
「回避」
を掛けた。
どういう原理で敵の攻撃が逸れてくれるのかは謎だが便利魔法だ。
使わない手はない。
銃撃が始まり矢の雨が降り出すと大砲の音が疎らになってきたのだが
「回避」
はちゃんと作用しているらしく弾や矢は逸れてくれている。
矢の軌道の不自然なズレは磁石の同極が反発し合う様子に似ている。
未だ敵は私の投擲距離の範囲外だが
「命中率上昇」
で
「後追い」
の的中補正も上がって無駄玉も減る事は盗賊との戦闘で分かった。
流石にどう足掻いても届かなさそうな長距離に投げようとは思わないが…
届くか届かないかのギリギリの地点なら当たる可能性は高い。
後追い数の増加は
分隊 10倍程度…魔力10使用
小隊30から60倍 …魔力30から60使用
中隊60から250倍…魔力60から250使用
大隊300から1,000倍…魔力300から1,000使用
連隊500から5,000倍…魔力500から5,000使用
といった形式で増える。
私の魔力はおよそ1,000。(魔力10使用で1%)
魔力量が増加しないなら連隊規模の増加を十全に使いこなす日は来ない。
魔力を100(10%)使用して石を3個投げれば303個に増えてくれるのだから…
国同士の戦争規模じゃない限り、それでも充分。
使用魔力量を指定して
「後追い」
を
「命中率上昇」
と共に使用。
右手に石を3個持って、思いっきり敵船の方へと投げた。
魔力使用量が多い程、自分の望んだ現象の達成確率も高くなる、という事なのか…。
一気に10%も減ったので、身体から力が抜ける感覚がしたが、お陰で303個の石は勢いにも補正が掛かって敵船の方へと向かってくれた。
盾の隙間を縫って、後ろの者達の身体を貫いたらしくて、バタバタ人が倒れる様子が見えた。
味方の銃撃が敵の盾の木製部分を貫通し、盾の持ち手を倒しているので、徐々に盾の数も減り、敵の姿が丸見えになってきた。
(盗賊の時も思ったけど、海賊も嬉々として殺し合いを楽しんでるような表情をしてる…。仲間と一緒に略奪を仕掛けるって悪行はそんなに楽しいのかな?…ウンザリだ…)
敵の表情が見えた事で心がスーッと冷えていく感覚を覚えた。
(…魔力を20%使って石を3個投げれば603個に増えるだろうし、道理的には威力も的中補正もさっきより2倍に上がる筈…)
虐殺に近い攻撃になるかも知れない、という予感は感じたが、心情的には
「生きてる限り悪を悪とも思わずに楽しみ続ける人種がいる」
という事実に対する嫌悪感が募った。
敵の表情を脳裏に刻もうとジックリ見てからーー
使用魔力量を200(20%)指定して
「後追い」
を稼働。
「命中率上昇」
も使って、思いきり殺意を込めて石3個をぶん投げた…。
********************
「…レアスキルってのは物騒なものだな…」
「きったねぇ死骸だな」
「穴ボコだらけじゃねぇか、海賊どもも甲板も」
「誰が修理するんだぁ?…」
などと【海鳥の尾羽号】の船員達がボヤいているのが聞こえる。
船長のプレスコットはチェスターと何か話している。
船員達の不平不満が自分に向いてない限りは知らんぷりといった所か。
襲撃されれば命の危険があるのに、命の危険が去れば、今度は
「敵船を損傷させずに敵を殺すなり人質にすれば良かったのに…」
と不満を感じるようになるのが船乗り気質らしい。
命あっての物種だろうに…
欲深いことだ。
海賊達の船は船底や船腹は無事なので
「甲板と帆の修理をすれば充分使える」
ものらしい。
修理して売れば儲けが出る。
船長も欲が出たからこそチェスターに
「お前んトコの小娘が甲板を穴だらけにしたんだ」
と苦情を言う事で
「修理費を幾らか出せ」
と交渉したいものらしい。
だが修理した後に売った金を分配してくれる気は無さそうなので、お人好しのチェスターも当然断る。
護衛というのは
「雇い主側に死人が出ないように戦う」
ものであり
「敵の資産をぶん取る事を前提に敵の資産を損傷しないよう気を使う」
義務はない。
船長が義務のない所に義務を押し付ける主張を押し通すようなら…
依頼終了後に冒険者ギルドに事の次第を報告するしかなくなる。
そうなると今後、この商船も帰属商会も冒険者ギルドに護衛依頼を出せなくなる可能性が高い。
チェスターに
「そんな無茶な要求をして通用させようと言うのなら、今後アンタの所の依頼は受けないし、そういう無茶な要求をされたと世間にもアンタの商売敵にも広く喧伝する事になるが、それで良いのか?」
とまで言わせたのだから…
船長のプレスコットは欲に目が眩んで相当しつこかったのだろうと判る。
私の
「回避」
のお陰で【海鳥の尾羽号】は奇跡的に無傷。
有り難い、と思って欲しいものだ。
ましてや欲を掻くべきじゃないのに
「今回の戦闘はチョロかった」
「護衛など雇う必要すら無かったかも知れない」
と錯覚しているのがヒソヒソ話から伝わってくる。
魔法のお陰だと明かす訳にはいかないので、いちいち彼らの認識を訂正して回ることもできないが…
(自分達の運や実力を勘違いすると、人間、どこまでも醜くなってしまうのかも知れない…)
「やっぱりマリーは連れて来ない方が良かったんじゃないのか?」
「そういう訳にもいかない状況だっただろ」
「だけど船長がらしくなく修理費を負担しろだのと言ってきたのは…落とし所として『マリーを船員達の吐け口に使わせろ』って要求をゴリ押しするためだってことが見え見えだね…」
「アイツら初っ端から『俺達にもやらせろ』って言ってきてたし、難癖つけてくる気満々だったんだろうさ」
「商船の護衛も…今後は受けない方が良いだろうな。どんなに泣き付かれても」
チェスターと船長の話に聞き耳を立ててたらしい他のメンバー達が物騒な話をし出したので、船乗り達がどういうつもりで文句を言ってたのか判ってしまい、ゾッとした…。
「じきにまた1ヶ月間の契約もきれる。マリーとの契約更新を本気で考え直した方が良いのかも知れないね。
だいたい俺らであの子をシェアしてるみたいな悪評を触れ回る連中がいるから、あの子がヤリマン扱いされて『俺達にもやらせろ』ってクズが湧くんだ。
住む場所も提供して身近に置いておいた方が安心ではあるけど、一応、人買い側には『死んだ』って情報がいってる筈だし、普通の新人冒険者同様に雑用や薬草採取で身を立てさせた方が良くないか?」
とクラークが言うのも尤もだ。
「おい…」
とランドンが肘でクラークを突いて、クラークに私が後ろに居る事を教えたこともあり
「あっ…」
とクラークがバツの悪そうな表情になったものの…
悪評を鵜呑みにする人達が難癖つけてる、という事実が事実としてあるのなら…
悪評の元となってる親切や庇護から独り立ちするべきなのかも知れない。
私が苦笑しながら
「この依頼が終わったら、私の方も拠点の屋根裏部屋から出ていくつもりでした。ちょっと良い宿屋の宿代くらい払えるお金は貯まってますし」
と言うと、クラークはホッと息を吐いた…。




