孤児への無理解
コボルトの討伐証明部位と魔石を回収した後は、コボルトを街道から離れた場所まで運んだ。
襲われてた人達のうち中年男性3人もコボルトの死骸を運んでくれたので比較的時間を取られずに済んだ。
「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」
という声は、やはり男性陣のものはチェスターとランドンへ、女性陣のものはテレンスとクラークへ向けられていた。
女性は感謝の念を向ける先を顔で選び
男性は感謝の念を向ける先を共感度で選ぶのかも知れない…。
子供達が私の方をチラチラ見て気にしている。
12、3歳くらいの子が一番年長で、一番小さい子は5歳くらいか。
「女なのに冒険者なの?」
と思い切って話しかけてきた子がいるので
「こう見えて強いから冒険者になったんだよ」
と答えてやった。
「えぇ〜!全然戦ってなかったじゃないか、本当は弱いんだろ?」
「冒険者にはランクがあって、私はランクが低いから荷物持ちをしてるの。戦闘に参加するには距離が離れてたし、荷物持ちが荷物放り出して駆けつけたり出来ないから、戦ってるメンバーの荷物を見守ってたんだよ」
「ええぇぇ…。なんか、つまらなそうな仕事だな。楽しいのか?荷物運びと荷物の番でお金もらって…」
「冒険者になりたてだとランクが低いし、仕事を選ぶ選択肢も少ないの。楽しい楽しくないは関係ない。お金が必要だから、自分に与えられた役割をこなすだけ」
「お姉さん、冒険者とかじゃなくて、お嫁さんになるとか、別の仕事無かったの?」
「無かったよ。親のいない孤児だったから朝から晩まで働いてもお金ももらえなくて、それでも我慢してたけど、いよいよそれじゃ生きていけなくなったから冒険者になることにしたの。
ちゃんと親がいて仕事した分、お金がもらえてたら、普通にお嫁さんとかになってたかも知れないけど、親がいないと、仕方ないの」
「僕達、ちゃんとお父さんとお母さんがいるよ?」
「うん。だからあなた達には関係ない話だね。でも世の中にはあなた達とは違う環境で育って、あなた達の分からない事情があって、お金のために楽しい楽しくないとか関係なく仕事してる人達もいるんだってこと」
「親がいない子はお嫁さんになれないの?」
「さぁ?結婚自体はできるかも知れないけど、それは対等な夫婦って関係じゃなくて、奴隷と主人みたいな非対称な関係になるんじゃないかな?
何の対価も与えずに労働力だけじゃなく身体も人生そのものも弄んで搾取するような、そういう接し方で通用するような弱い立場の人間に対して対等に扱う人なんて、少ないんじゃない?」
「?非対称…?何それ?」
「対等じゃないってこと」
「夫婦なのに旦那さんが偉いってこと?それはみんなそうなんじゃないの?」
「限度があるんだよ。どこの家でも普通はお父さんが偉いけど、そういう普通の範囲を超えて、家族の中で誰かが異様に卑しめられて何の要求も聞いてもらえない状態にされる事もあるんだってこと。
自分のせいじゃない事でも自分のせいにされたり、キチンと話をしようにも『言い訳するな』『反省してないな』って怒られて、話をさせてももらえない。
自分の側の事情や主観を全く聞いてもらえなくて、話そうとするだけで怒られる。
そういう状態がずっと続いて、誰もそれがオカシイ事だって気づきもしない。
そのまま一生飼い殺しにされるなんて…全然平等じゃないでしょう?
そういう事をする家族は、家族じゃない。
そして奴隷のような扱いをしておいて、対等に扱ってやってるってフリをしようとする人達なんて、何処にでもいる。
親も庇護者も誰もいない後ろ盾のない人間は、そういう立場の弱い人間を喰い物にする人達に目を付けられやすいんだ。
だから親のいないまま育った人間は誰かと本当に家族になる事が難しいの」
「ごめん。よく分からない。…でも、お姉さんがお嫁さんにならなかったのは、お嫁さんになれなかったって事だよね?」
子供達は残酷な言葉をシレッと口にする…。
私は自分の口元がヒクヒクと痙攣しそうになるのを感じながら
「…そう、かもね…」
と辛うじて返事をした。
(…全くモテなかったとか、全く求められて無かった、という事ではなかったと思うんだけど…)
ノラもリックも私を大事にしてたとは言えないが、2人は私を求めてはいた…。
(ガキは嫌いだ…)
私の気分が萎えまくった時に
丁度ランドンが
「マリー、行くぞ」
と声を掛けて来たので、子供達はランドンの凶悪犯面を怖がった。
子供達が蜘蛛の子を散らすように去っていったので、イラついた話はようやく強制終了になった…。
(ランドンの凶悪犯面もたまには役に立つ…)
と思いながら
「ボア肉で今夜はご馳走作りましょうかね?」
と言ってやると
「その言葉を待ってた」
とランドンが嬉しそうに破顔した。
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コボルトに襲撃されてた人達はオークウッド一家。
どうやら木こり、大工、家具職人、木工細工師の一族のようだった。
ブルフォードからウォッシュボーンへ移住する途中で襲撃に遭った。
ブルフォードからウォッシュボーンまでは距離的には大した距離じゃない。
なので護衛も雇わずに移動していたらしい。
一応、ブルフォードは東部領、ウォッシュボーンは南部領なので、隣町ではあっても領界を越える形だ。
もっと警戒していた方が良いと思うのだが…
職人という人種の多くが世事には疎い。
彼らも世の中の物騒さに関して自分が当事者になるまで他人事のように聞き流して生きてきたもののようだった。
そんな人達から
「お礼に」
とカラクリ箱のような箱をチェスターが頂いた。
好事家に売ればそれなりの値になるらしいが、好事家以外は欲しがらない品らしい…。
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ボア肉はトンカツにした。
食べすぎると胃もたれするだろうに…
【風神の千本槍】メンバーはトンカツ大好きになってしまい、1人で何枚も食べるくらいに食が進んでいた。
(そのうちカレーを作ってカツカレーにでもしてあげたいな…)
と生温かい目をメンバー達に注いであげた。
夜になりーー
1人の時間では当然
「取り寄せ」
を使いまくって、魔法熟練度を上げた。
真っ先に下着類をお取り寄せ。
この世界にはブラジャーが無い。
胸の形の良さなどは皆それぞれの遺伝子に由来する要素が強い。
(発展途上の今の時点から寄せて上げるように頑張ってたら、数年で完璧なバストに育つだろうな…)
と思い、独りほくそ笑んだ。
次に大事なのは生理用品。
この世界ではT字帯で布を固定して、赤いペチコートを履くのが生理中の定番対処だ。
スカートを膨らませるのさえ「経血が付かないように」という生理対策だったりする。
それなら生理中にだけスカートを膨らませるので良さそうだが…
周りにも露骨に
「今、生理中です」
と知らせる事になるのも野暮だ。
常時スカートを膨らませるファッションが社会全体で絶賛適用中。
タンポンや吸水性に優れたナプキンやら、サニタリーショーツやら、生理用品の進化した地球とはまるで違う。
この世界の女性が冒険者として大成出来ない、騎士になれない、などの理由の最たるものが
「生理用品の未発達による経血漏れを警戒した活動萎縮」
である。
毎月、数日間は血が流れ続ける。
下着が汚れる、服が汚れる。
オムツのような布を当てて過ごす。
それだとズボンを履いて活動的に動き回るのは無理だ。
その間、役立たずになるので、いつ何時敵と戦闘になるか分からない職業に女性を雇いたくない気持ちも判るというものだ。
(そろそろ生理が来るし、ちゃんと仕入れられて良かった…)
とホッとした。
ただ使用済みのタンポンやナプキンの処分に関しては悩ましい…。
焼却炉があれば焼却炉で燃やせるが…
焼却炉がないので処分に困る。
暖炉の火で焼くのも匂いが気になるし、水分で火が爆ぜそうだ。
(パーティーでの仕事がお休みの日にでも独りで郊外に出て燃やすか…?)
普段は他人には見せられないゴミは亜空間収納しておくしか無さそうだ…。




