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【86話】アルテシアンナ王国へ

なんか、切れが悪くなって、長くなりました。



「すまない。ランディには、この国から出ていって貰う事になった。 本当にすまない」


 とんでもない言葉が、頭を下げている王様から発せられた。

 なに? なに!? どういうこと?


「オヤジィ『話は簡潔に』って言ったが、それじゃぁ、全く意味が伝わらないぞ」


「む?」


 サンジェルマン王子が呆れた顔で、王様に突っ込む。

 いくら親子とはいえ、国王相手にスゲェ言葉づかいで、好感が持てます。



「はぁ、ランディ、オヤジは今テンパってるから俺から言おう。なあ、俺たちは何人兄弟だか知ってるか?」


「特に、調べていないですが、兄と弟が1人ずついましたね」


「ああ、実はもう1人姉が居るんだ。アルテシアンナ王国、王位継承権五位のドルデルガー公爵家に嫁いだんだ。それでな、現在ドルデルガー卿の管轄地で飢饉が発生しそうなんだ」


 ほうほう、なるほど、そう言う事ですか。

 これで国外に行けって意味が解ったが、何故僕なのかが全く解らない。

 僕のクリエイトフードを期待しても、焼け石に水ですよ?


「当然、援助はするんだが、面倒な事があってな、向こうの国柄とこちらの事情があいまって、支援するにも複雑なんだよな」


 嫌な予感しかしませんけど? 僕に何を期待してるんでしょうか?


 だけど、その話も説明して貰った。


「アルテシアンナ王国は通常、武器を持っての入国が認められてない。大商隊ですら武装許可は10人までと決められているからな。となると名のある貴族達はアルテシアンナに行くのを渋ってしまう」


 なるほど、でも途中までは行けるんじゃないのかな?


「何か言いたそうにしてるから、言っておくが、アルカディア王国とアルテシアンナ王国は隣接していない。大部隊で行く事が可能なのは、我が国内までだ。現地で傭兵を雇うにも、不確定要素が多いから使いたくねぇ」


「なるほど、解りました。でも、人道的理由でアルテシアンナ王国に護衛の入国許可を貰えないのでしょうか?」

 僕の提案が使えるなら、とっくに実行しているだろうが、聞いてみる。


「その方法でなら申請は通る。だが、ドルデルガー卿の立場を悪くしてしまう。ドルデルガー公爵家の領内での事案を自己解決出来ないと『無能』『低脳』等の、いわれのない攻撃の的になる。結果、王位継承権下位に下がる事もあり得る。だから、支援物資を送るのに、商隊と同じ手続きで入国するんだ」


「事情は解りました。でもなんで僕が呼ばれたんでしょうか?」


 すると、サンジェルマン王子に喋らせて、黙りだった王様がやっと、話してきた。


「今回の支援隊編成で、大貴族は使えない。ならば、一石二鳥を狙い、ランディを使おうと決めたのだ。ランディは100人もの盗賊を倒した実積があると聞いたから、少数部隊でも、戦力はそれほど落ちないだろう」

 

「俺も聞いたぞ。たしか『百人殺しの悪魔』って異名だったぞ」


 えっ? 一石二鳥ですと? まだ何か?

 しかも、盗賊100人も殺してませんけど?


「まず、ランディが支援物資を無事に送り届け、娘のためにも、ドルデルガー殿の立場を落とさない様にする事。これは義務である。そして飢饉になるであろう原因は娘の書簡によると、食物が謎の不作によって引き起こされた事らしい。不思議な事に今回の不作は、ドルデルガー殿の管轄地を含む4つの領地でしか起きてない。ランディには、これの解決の糸口を探り、彼の心象を良くして貰い、ある物資を持ち帰って欲しいのだ。これは義務ではなく、私の希望だ。しかし、この任務を無事に達成すれば、子爵への道のりを、近づける事が出来るだろう」



 もう、一石三鳥狙いじゃん。

 だけど、期待しすぎだよね。


「ランディには、最大2年の期間を用意した。留守中の屋敷には、王宮騎士を2名常駐させるから心配ない」



 2年か、かなり長いな。


「最大で2年と言うと、もっと短く出来るのでしょうか?」


「もちろん、何かしらの成果を上げれば、直ぐに戻って来て欲しい。そしてドルデルガー卿の力を借りて『マイス』を少しでも良いから、貰って欲しいのだ」


「マイス……ですか? なんか冷たくてシャクシャクして、一気に食べると『キーン』ってなるやつですか?」



「なんだそれは?」


 サンジェルマン王子に冷たい目で見られた。

 どうやら、違うらしい。


「『マイス』とは食の国『ターベール王国』と共同開発した、至高の穀物だ。『マイス』は娘の結婚式に出席して、初めて食べたのだが、あの感動は一生忘れることはないだろう」


「そんなに、凄いのですか?」


 聞くと、サンジェルマン王子が代わりに答えてくれた。


「俺も出席したから食べたことあるが、あれは再現できねぇんだ。マイスは5等級あって、結婚式にでたマイスは『1等マイ』と言われて、流通はおろか公爵家ですらなかなか口に入らない代物だ。姉のコネを使っても『3等マイ』を年間10キロ手に入れるのが限界なほど貴重なんだ」


「サンジェルマンの言う通り、規制が厳しく国外に流通しているのは『4等マイ』『5等マイ』までなんだ。しかし、比較的安価で手に入る『5等マイ』は、色も悪ければ、味も悪いし、食感もよくないうえに臭みが残る。以前、決死の覚悟で『2等マイ』0,5キロを手に入れさせ、栽培したのだが、何故だか『4等マイ』が実ったのだ。余計な事を考えず食べておけば良かった」


 あのう、娘の旦那さんを救う話より、熱が入ってますよね?

 まさか、こっちがメインの遠征ですか?


 僕、怒ってもいいですか?


「しかもせっかくの『マイス』も調理法が難しく、未熟な料理人では、美味しく食べる事すら困難だ。なので、アルテシアンナ王国から調理人を高値で雇っているのが現状だ。出発前に『1膳』ランディに食べさせてやろう。それを報酬だと思ってくれ」


 2年の遠征報酬が、ワケわからないマイス1膳だとは、どれだけ自信あるのかな。

 大した事なかったら、本気で怒りますよ。


 暫く待っていると、4人分の食器と王妃様までやって来た。


 嫁様抜きで、食べられないほどの食材なのか?


「くくく、久しぶりだぜ。くくっ、ランディの驚く顔が見れる。ソードやナイフ、ダカーにも見せてやりてぇ」


 これだけ期待させて、外れだったら、暴れちゃってもバチは当たりませんよね?


 大きな入れ物と、他には小皿がたくさんある。

 しかも、しかも日本の世界で言う『丼』が4つもあった。

 ま、まさか……まさか。


「おっ? さすがのランディも、緊張してるのか?」


とりあえず、うるさい王子は無視しよう。

 小皿が先に出てきた。


 1つ目は、黒胡麻だった。

 この世界に黒胡麻があったのか?

 いや、驚くべきは『塩』が混在している事だ。

『ごま塩』がここで、出てくるとは。


 2つ目は、焼き魚を細かく刻んで乗っかっていた。

 恐らく、塩で濃いめに味付けをしてると思われる。


 3つ目は、野菜が切り刻まれて混入している、卵とじだった。

 似たようなのが学院の食堂にもあったが、此方の方がそそられる香りを出している。


 大きな入れ物の蓋が開いたとたん、懐かしい香りがした。

 間違いない! 米だ、ゴハンだ、銀シャリだ!!


 ガタッ!

 思わず立ち上がってしまった。


「こ、これは!?」


「ほう、香りを嗅いだだけで、マイスの良さに気付いたか? 流石だなランディ、だが真の良さは、皿の物と一緒に口に入れて初めて解る」


 知ってるよ、ランデイヤの記憶には無いが、日本人だった頃の記憶にはある。


 そう、ゲームやグッズを買いすぎて生活がギリギリだったあの頃、何度『ごま塩』に助けられたことか。


 しかし、手に職を持っていたから、そんな生活は2年も、なかったな。


 食器は、スプーンにフォーク、箸まである。


「使える食器で食べな。アルテシアンナはそれを『ハシ』と言う2本の棒で食べるんだ」


「頂きます」


 ああ、ちゃんとごま塩になってるじゃないか、たぶん少し食べたら、魚の切り身を乗せて食べるんだな。


 美味い、鮭フレークに似たような味だ。

 日本のビン詰めより若干味が落ちるが、それでも美味い。

 米の味や香りは、日本のブランド米と比べて数段落ちるが、それでも美味しい。

 興味本位で食べた数年物の備蓄米に似ている。


 脱穀もしてあり、炊き方も素晴らしい。


 最後に卵とじをぶっかけて食べる。

 調味料は大した事ないが、素材の良さがカバーしている。



 今の僕なら『クリエイトフードフリー』で、これ以上の米や、おかずを出すことが出来るが、50人前しか召喚出来ないから、まだ『チキンラーメン』『きなこパン』『コーンフレーク』と、日持ちする食材で我慢していたからな。


 僕は、十数年ぶりの懐かしい食事に涙した。



「ははっ、泣くほど美味しかったか」

「オヤジ、勝ったな」

「あらあら、サンジェルマン、勝負事ではありませんよ」



 ◇◆◇◆◇


 それから、たった10日で、遠征の準備を終わって、もうすぐ出発日だ。



 何人かが屋敷の内外を、警備するため僕のところに挨拶に来た。


 結果、屋敷の外は王宮騎士が、屋敷の中は特務隊が警備してくれる事になった。


 王宮騎士は有名すぎて、ロイエンとクラリスが『ムリムリムリ!!』ってハモりだしたからだ。

 特務隊は、一応『闇』の部隊だから『僕の友達のお兄さん』って形でやって来たら、すんなりと受け入れてくれたって背景もある。



 でもあれらって、王族のための騎士団や部隊だろ?

 ぽっと出の男爵なんかに、使っちゃ不味いだろ。



 ロイエンやクラリスに、出発前の挨拶を済ませる。


「父さん、母さん、1、2年留守にしますが、屋敷の事をよろしくお願いします」


「ああ、俺は問題ないが、クラリスのためにも早めに済ませてこいよ」


「まぁ、寂しいって言ったのは、あなたじゃなくて?」


「父さんも母さんも、甘えん坊なので本気を出して、帰って来ますね」


「いや、止めてくれ。 俺とセナリース2人がかりで戦っても、全く敵わない豪傑に本気を出されたら、周りが可哀想だ」


「そうよ、ここで頑張り過ぎたら、成人する頃には、子爵になってしまうかもしれないし、そうしたら私、色々大変になっちゃう」



 ロイヤルもクラリスも我が儘ですね。


 出世するだけでなく、成金も目指してるんですが。


 今回は、こっちからダナムを連れて、遠征に行くように手はずを整えた。


 武装可能人数は10人までと、決められているが、戦闘要員は、僕を含めて13人いるんだ。


 僕と、特務隊『ダークダガー』のマテラ・ラーンの弟子2人が武装しないで、戦闘要員に数えているからだ。


 武装部隊は、黒尾騎士団から8人来ると聞いているけど、残りの1人枠は未定らしい。



 僕は最後に、カツ丼に会いに行こうとしたら、向こうからやって来た。


「ランディ男爵様! カッティです」


「ああ、ちょうど良い。話があ」

「申し訳ありません! 急ぎなので来てください!!」


 血相を変えたカツ丼に、別の場所に連れて行かれた。


 そこには、死にかけた子供が数人寝かされていた


「すみません、違法の子供奴隷を見つけて、保護しようとしたのですが、証拠を消そうとした奴隷商が、暴挙に出まして、3人ほど手遅れかと判断しましたが、つい……」


 すると、命の心配までいかないが、大怪我をしている子供が、カツ丼にしがみついた。



「おじちゃん、僕のお兄ちゃん、助かるよね? さっき助けてくれるって言ったよね? おじちゃん嘘つかないよね?」


「ああ、大丈夫だよ……はっ、ランディ男爵様すいません。つい勝手な約束してしまい」


 頭を下げようとしたカツ丼を、手で押さえる。

よく見ると、カツ丼もかすり傷があった。


「カツ丼よ、よくやった。意地でも間に合わせる。 第2レベル呪文……ライトヒールサークル」


「なっ!?」


 カツ丼は、死にかけた子供を含めて、全員の怪我が治った事と、自分の疲労感が抜けた事に驚く。


 まあ仕方ないよな、治癒の余剰分はスタミナも回復するからな。


 子供や鍛えてない大人程度なら、初歩の回復呪文で全快するからな。


 だが、まだ1人顔色の悪い子供がいる。

 たぶん、瀕死になったショックで、体内で毒を精製したのかも知れない。


「第3レベル呪文……ライトキュア」



 子供の顔色に赤みが戻ってきた。


 大怪我があっさり治った事に、子供は理解が追い付かないようだ。


「あの、貴族のお兄ちゃん、アリガト。治してくれたんだよね?」


 一番年長だと思われる10歳程度の少女が、僕の近くまで来て、目をじっとみている。


しゃがんで視線を少女より下げて答えた。


「ああ、僕が治した。 だけどあそこにいる『おじちゃん』が頑張ったから間に合ったんだ。解るよね?」


 コクリと少女は頷く。


「今、食べ物を、カツ丼おじちゃんと用意してくるから、みんなを見守ってくれるかな?」


 少女は、力強く頷いた。


 僕はカツ丼を見ながら考えた。

 こいつ、保身じゃなくて子供に懇願されて動いた?


 どう、悪い方に考えても、今のカツ丼の動きは自発的に見える。


 あの、瞬殺しても僕の心が痛まないあの『非道奴隷商』がか?


 何がアイツをそうさせた?


 だが、今、カツ丼が子供を救った所で、前の子供奴隷にして、売れ残りを始末しようと行為を許すわけにはいかない。


 でも、今の事は評価しなくていいのか?


「あのぅ、ランディ男爵様?」


「ん? ああ、カツ丼よ、ちょっと付いてこい」


「ひぃ!? わかりました」


 僕は秘密の離れにカツ丼を連れてきた。


「あのう……ここは?」


「ん、拷問部屋」


「ひぃ! すいませんでした!!」


  ふふっ、ランディ名物『ムチとアメ』

 ならば、次はアメだな。


「嘘だ、カツ丼。また寿命を延ばしたな」


 そうとう焦ったのか、膝を落としてほっとしている。

「はぁ~~~」


「カツ丼、ここは秘密の倉庫だ」


 カツ丼に鍵を投げる。


「えっ?」


「この中には、僕の非常食がある。僕はしばらく留守にするから、この鍵をお前に預ける」


「男爵様、私にここの管理を?」


「少し違うな。カツ丼……カッティ・ドーンよ、命令だ。僕が帰ってくるまでに、この中の食料を消費しておけ。ただし、これを食べて良いのはお前と、お前が見つけてきた子供たちだけだ。勿体ないから、僕が帰ってくるまでに全て食べろよ」


「ラ、ンディ、様?」


 僕は1つ包装を解いて、ひとつまみカツ丼に与える。


「むっ! これは……」


「これはミルクをかけて食べるんだ。スプーンを使うといい」


 別のを食べさせる。

「つっ!! これはっ?」


「これはお湯を注いで食べるんだ。フォークを使うといい」



 僕は倉庫内の保存食を一通り説明した。


 説明したあと、カツ丼は話しかけてきた。


「あの、ランディ男爵様、私を、罪を犯した私を許して頂けるので」


「許すわけないじゃん。だから、カッティ・ドーンよ、僕の留守を頼むな」


 僕はカツ丼を、仲間の1人として見つめて答えた。


「はい……はい……はい」


 僕は、泣き崩れるカツ丼をそのままにして、遠征の準備に戻った。


 ふふっ、こんな馬鹿は、僕が一生監視してないと、直ぐに道を踏み外すから仕方ないよな。


 ん? 一生?


 ‐ズキリ‐


 突然、僕の胸が痛みだした。


 なんだ? この痛みは、かなり痛かった。


 しかし僕は、忙しさのあまり、痛みの原因を追及しなかった。

 


  ◇◆◇◆◇



「父さん、母さん、セナリース、シープレス、カツ丼、行ってきます」


「これ以上武勲を立てないでくれ、父さんの身が持たない」

「そうよ、ランディ。最近、お茶会の招待状が多くて困るの」

「大丈夫だ、俺はボンが何やっても驚かねぇ」

「行ってらっしゃいませ。旦那様」

「あのぅ、私はカッティ・ドーン……」


 見送りに来てるのは、それだけじゃなかった。


「えっと、貴方たちが来てると色々まずいんじゃないですか? 『王族を守る聖なる盾』王宮騎士団に、『王族を守る闇の武器』王族近衛特務隊の皆さん」


 ジョウシンやハーモニア、副長まで来ている。

 特務隊はアルテリオン、ガルサンダー、マテラ・ラーンの幹部が3人も顔を揃えている。

 さらに、仮面を被った怪しすぎる男は誰だ?


「ランディは超人級の強さを持っていても、まだまだ子供。保護者の私が出向くのは当然だ」

「私は、テスターを見送りに来たのだ、ランディは関係ないんだからっ!」

「私は偶然通りがかっただけだ」


 王宮騎士の言い訳は苦しい。

 でも、テスター・バスターがこの遠征部隊、最後の1人に無理矢理ねじ込まれたのは、本当だ。


「私は、非番ですから特務隊とは関係ありません。ただの観光です」

「闇の武器……カッコいい……そう……俺は……『王と主を守る闇の武器……雷撃のガル』」

「師匠、ご武運を。弟子の2人を頼みます」

 

「ナイ、ガルサンダーはすでに何かを間違えてる、守るのは『王族』で『(ランディ)』じゃねぇ」


 仮面被ったやつは、バカ王子でした。



 僕たち、黒尾騎士団、ダナム、テスター、ダークダガーの弟子、大量の食料と運搬要員を引き連れ、品種改良された『米』の産地、アルテシアンナ王国に出発した。



ランディの召喚できるお米特集!!


タイ米

カルフォルニア米

スリランカ(レッドライス)

オーストラリア米(中粒)

日本米……

ななつほし

つや姫

ほしのゆめ

つがるロマン

あきたこまち

ゆめひたち

ミルキークイーン

ササニシキ

コシヒカリ

キヌヒカリ

古代米(黒)


決して作者が食べた、米ではありません。


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