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【83話】グランデール伯爵

久しぶりの連続とうこうです。


 私は、ボッシ・グランデール。


 人は私を、グランデール伯爵と呼ぶ。


 今回の盗賊討伐も、イレギュラーはあったが、無事に殲滅できるプランが整った。


 盗賊どもに気づかれないように、大部隊を動かすので、時間を掛けてしまうが、此方(こちら)の兵糧と士気は充分だ。


 討伐を3日後に控えた昼時に、ホルスラインが青い顔をしてやって来た。


 予想しない地点に少なくない盗賊がいたと言う、ホルスラインの話は、聞き逃すことが出来ない事案だった。


「ライトグラム准男爵に、増援を送りますか?」


「……………………」


 私は暫く考えた。


「いや、ランディ准男爵に、増援は出さない」


「え!? しかし」


「理由は2つ、ランディ准男爵は既に敗北している可能性がある。そして、敵の兵力が不明なまま、こちらの兵を分散させるのは愚手だ」


 そうだ、ランディ准男爵を救い、盗賊を殲滅するならば、最低でも50名以上の部隊を編成しなければならない。



「ならば、ライトグラム准男爵は?」


「あの准男爵が評判通りの強さなら、負けはしても、捕らわれずに、逃げ延びている可能性が高い。こちらは予定を1日半早めて、総攻撃を仕掛ける。もしかしたら我が部隊の動きが漏れているやも知れん。各隊長には、翌日の朝に知らせろ」


「はっ」



 ホルスラインの報せで、盗賊どもの動きが妙だと気づき、それは討伐軍の情報が漏れているのではないかと、仮説をたてた。


 私の仮説が正しいなら、予定通りの日程で軍を動かしたなら、奇襲を受けたり、盗賊が逃げていた可能性もあり得る。


 私は、これを逆に好機と見て、盗賊の討伐予定を早めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇


 今、盗賊の根城を急襲して、数時間が経過した。


 急襲したにもかかわらず、盗賊は統制が取れていた。

 やはり、情報が漏れているのだろう。


 だが、準備不足のようで、攻め落とすのも時間の問題と見た。



副官の1人が報告に来た。


「グランデール伯爵、賊軍の大規模な攻勢の後、全く気配が感じられなくなりました。如何いたしますか?」



 何だと!? し、しまった! 奴等、逃走ルートを何処かに用意していたのかも知れん。


「全軍突撃! 盗賊どもは、退路を確保している! 急いで追って、探せ!」


 ここの地形は、おおむね調べ終わっている。

 逃げ道はないと思っていたのだが……


 恐らく盗賊でないと、発見困難な隠し通路でもあるに違いない。


 間に合うか……間に合ってくれ。

 そうでないと、ランディ准男爵を見捨てた意味がない。


 私は珍しく三神に祈った。



 騎士の1人が、息を切らせて報告に来た。

 報告が早すぎる、まさか完全に逃げられたのか?



「報告します! 現在、盗賊の殆どを殲滅しました」


「なに? 詳しく話せ」


 早すぎる、いったい何があったのだ?


「み、味方が盗賊の退路を小数で塞いでいる様で、行き詰まった盗賊の背後から攻め、挟撃に成功。掃討戦を開始しています」


「味方だと!? いったい何処から来たと言うのだ」


 ホルスラインに、新たな状況報告を求めるよう伝えると、入れ違いで第2報が届いた。


「ほ、報告! 隠し通路を塞いでいた味方は、ランディ・ライトグラム准男爵と他2名! し、しかも、と、盗賊の約半数を、じゅ准男爵が倒していました」


「何だと!?」


 こんなに驚いたのは、初めてだ。


 何がいったいどうなっているのだ?


「誰か、私に解りやすく説明しろ!」



 ◇◆◇◆◇


 盗賊を殲滅し、兵糧や武具、捕らわれた者たちを救助した後、私はランディ准男爵と向かい合っている。


 ランディ准男爵は、別の場所にいた盗賊を撃退し、さらに秘密の通路を聞き出して、我が部隊との挟撃を成功させてしまったのだ。


「しかし、この地域に分布している盗賊どもは、口が堅いと有名だと言うのに、よくぞ口を割らせた。しかも、単独で82名もの盗賊を倒すとは、いったいどんな、技を用いたのだ?」


「はい、通路の狭い場所がありましたので、そこで戦いました。 2対1の戦いを数十回繰り返しただけなので、楽勝でした。盗賊たちもかなり慌てていたので、10回も攻撃を受けませんでしたよ。 尋問方法ですが、エサを使いました」


「エサとは、何なのだ?」


 下っ端以外の盗賊共は、尋問する前に自害する事すらあるんだぞ?


 ランディ准男爵は、大きめの袋から、見たことのない素材の袋をいくつか出してきた。


「エサの正体はこれです。グランデール伯爵、沸騰したお湯と(うつわ)を用意して下さい」


 言われた通りに、湯を用意してやった。


 袋の中身は、細い蔓を円形に固めたような物体だった。

 しかも、色まで珍しかった。


 スーマイ王国方面の肌の色に似ている、褐色系と言えばいいのだろうか?


 考えていると、どことなくよい香りが漂ってきた。


 あんな、見たことがない植物がこのような香りを発するとは。


 ホルスラインを含む周囲の者も、食い入るようにそれを見ている。


「出来ました」


 なにっ!? もう出来たのか? 湯を注いでから3分くらいしか経過していないぞ?


 いや、そんな事より早くそれを食したい。


「熱いので、気をつけてください」


「熱っ! ウマっ!?」

 なんと、ホルスラインが私より先に手をつけていた。

 毒味役を買って出た様には見えなかったが。


 私もそれを食べる。


 ……

 …………


 こんなに素晴らしい、携帯食料が存在していたとは。

 私は今日1日で、何回驚いたのだろう。


 ランディ准男爵が言うには、それを少しだけ与え、情報を提供すれば、これが定期的に食べられる様、計らうと言って情報を引き出したそうな。



「ランディ……いや、ライトグラム准男爵よ、その食材は何処でてに入れたのだ?」


 私は、この少年に伝説の家名で呼ぶ事に、抵抗を感じていたため『ランディ准男爵』と呼んでいたが、抵抗感はもうない。


「これは、私が商品化を目指して作成しました『チキンラ○メン』と言う商品です」


「チ○ンラーメンだと」


 初めて聞く名だか、それにピッタリと当てはまるような感覚はなんだろうか?

『チキンラーメ○』か……言われてみればもうそれ以外の名称ではしっくりこないと確信出来るほどだ。


 ライトグラム准男爵は、ネーミングセンスまで超一流なのか?


 まてよ?


「ライトグラム准男爵よ、今『商品化を目指して』と言ったな。では今は流通はしていないのか?」


「はい、私の力が未熟なばかりに、生産ラインがなく手持ちの物しかなく。製造法を他人に伝えて作るのも嫌なので、現在力をためている次第です」


「……では、『チキン○ーメン』が軌道に乗ったら、私まで伝えてくれ」



 私は、ライトグラム准男爵のこれからに、期待する事にした。



 ◇◆◇◆◇



「この、報告は事実なのか? グランデール伯爵よ」


 私は、中央にて、盗賊討伐の報告をしている。


「はい、間違いないです。今回の武勲は残念ながら、ランディ・ライトグラム准男爵独り占め、と言っても過言ではありません。それなりの報奨が必要になります」


「それならばライトグラム准男爵には『男爵』の位が適当だと思うが、彼はまだ13歳。その年で男爵とは、前例があったか?」


「前例とかは、関係ありません!! 彼に今、報奨を、与えないでしまうと、次に武勲を上げた者たちまで、被害を受けます」


 そうだ、ここで彼を『男爵』にしないと、次の成果を成した者たちが、『准男爵』や『騎士』になれぬではないか。

 別に『チ○ンラーメン』が、早く食べたい訳ではないぞ。


 私は、この日押せ押せで、ライトグラム准男爵の昇進を、推薦した。



 ◇◆◇◆◇



 そして、後日……


 ランディ・ライトグラムは『男爵』になった。


 彼は何処からか、私が強く推薦した事を聞いたらしく、例の『チキンラー○ン』試作品を50食も用意してくれ、卵を乗せるとさらに美味しくなると教えてもらった。


 私は、年端もいかない少年に心から感謝をした。


 だが、去り行くライトグラム男爵を、見送っていたら『ああっ!!』と、驚きの声とともに、2人の騎士がライトグラム男爵に駆け寄り、2人がかりで腕を組みつかれ、そのまま連れ去られた。


 しかし、2人の騎士に刻まれた柄の紋章は、まさか……彼はいったい何をしたんだ?



謎の2人は、好意をもってランディをつかまえたので、避けられませんでした。


ヒント、謎の2人は『ジョーシン』の部下です。

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