【閑話⑦】前哨戦
遅れてしまいました。
カーズ、ガル、アーサーの人外四人衆は、別人であると解っているが『ランディ』の名前で、かなり酷い悪口を言われたため、カチンと来て、喧嘩を売っているところだった。
「さあ、兄さんを貶した汚物を、綺麗さっぱりと浄化しましょうか」
カーズだけは、変なスイッチが入っている様だ。
「けっ、その言葉使いが気にくわねぇな。てめぇも女をたらしこむやつか?」
「そうだ、男は腕力が魅力なのよ!」
「そうウホ。 男の価値は、この厚い胸板で決まるウホ」
カーズとガラの悪い男達は、一触即発状態だ。
だが、少し後ろにいるガルとアーサーは冷静だった。
「なあ、アーサー。 手を抜いてカーズに怒られるのは嫌なんだが、雑魚未満の動物相手に本気を出すのも嫌なんだけど? 後さ、人違いなのは判るんだけど『ゴミランディ』とか連呼されると頭に来るよな?」
アーサーはガルの話を聞いて、装備を鉄棒からダガーに武器を切り換えた。
「なら 外科医 使う ガル 勝負 する 四肢 損傷 一点 おけ?」
ガルも、道具袋からダガーを取り出してニヤリとする。
「外科医のダガーね、名案だ。9人もいるから勝負に最適だな。 でもな、厚い胸板と暑苦しい胸毛板を勘違いしてる。ゴリさんは死んでもいいや」
「同感 カーズ 1歩 動く 開始 合図」
その時、カーズが丁度1歩を踏み出した。
「さあ、その口をこんがり生きたまま焼き上げてから、兄さんを侮辱したことを後悔し」
「神速!」「神速!」
「し? え?」
カーズの虚をついて、一般人では反応出来ないほどの速度で、ガルとアーサーが襲いかかった。
相手に到達するのはガルのほうが早かったが、四肢全て切り裂く頃は、2人同時になる。
アーサーの剣さばきは、ガルより無駄がないからだ。
2人が、3人ずつ倒した時、ようやくカーズが胸板の厚い男に襲いかかった。
そして、カーズがその男を倒す頃には、9人全てが倒れていた。
「コンマ5秒、俺様の方が早かったな」
「今回 点数 勝負 引き分け」
「アーサー、ガル、何をしてるんですか? 勢い余って後悔させる前に、やってしまったじゃないですか?」
「大丈夫 本気 出した」
「それよりもカーズ、こんな物より、ローズールって奴を探して、お仕置きしていこ うぜ。 カーズ、汚した死体は片付けろよ……あっ、まだ生きてんじゃん」
カーズが使った武器は『フレイムダガー』で、半生で焼かれていたが、ガルとアーサーはが倒した男達は、1滴の血も流れていない。
後ろで、キンジが香織達に、武器の説明をしている。
「ガルさんとアーサーさんの、あの武器は『外科医のダガー』って言って、切った場所の止血ができるんすよ。 だけど筋や腱とかは、切れたままなんでああなるんす。 今回は四肢切断とかしてないから回復呪文1発で完全に治りますね。 たぶん殺す価値も、汚す価値もないと判断したっす」
「キンジ、ありがと。でもそれじゃあ、カーズの気が収まるかしら?」
香織の懸念した通り、カーズの怒りは収まっていない。
「後悔すらさせていないのに、先を越されて、この怒りと不満は、どこにぶつけましょうか?」
カーズは律儀にも、生焼け男を大バケツに突き刺して、四肢の腱を切断されて芋虫のように動いていた1人をアーサーに渡す。
「こいつを使って、私達の気分を害した元凶を探しましょう」
カーズ達が店の外に出ると、町の衛兵が10人も店の前にいた。
◆◇◆◇◆◇
当たり前だが、この町の人間全てが『ランディ』を嫌っている訳ではない。
表には出さないが、ローズールの行いを嫌う人は多い。
酒場に集まっていた男達に対して、通報していた人がいたのだ。
ただ、通報しただけでは衛兵が4人程度で来るのだが、たまたま仕事の帰りで、近くに衛兵が10人もいたため、揃って様子を見に来たのだ。
そして衛兵達は、顔を腫らして泣き叫んで、大男に担がれている姿を見てしまった。
この10人の衛兵の中に、ローズールの息のかかった者が2人いたことで、事態は大きくなってしまう。
「おい、これをローズールさんに知らせろ。大袈裟でもいい、兵を集めてこい。 あの人の敵になったらどうなるか見せしめにしよう」
「わかりました! へへっ、うまく行けば小遣いが貰えるかもな」
衛兵の1人は走って消えていった。
この2人の衛兵は、ランディ処刑計画で集まっていると知っていたので、騒ぎを穏便にすませる予定だった。
だが逆に、顔見知りの1人が暴力を受けていたのを見て、行動に出た。
「おまえら! 何があったか知らんが、これは過度な暴力行為だ! 兵舎まで来て事情を説明しろ!」
衛兵の言葉に答えたのは、いち早く動いたカーズだった。
「残念ですが、それは出来ませんね。これが粗相をしたので、責任者のところまで案内させるんです。あなた達は早く家に帰って、家族と一緒に過ごしなさい。私はローズールにお仕置きをしないといけませんからね」
ローズールと繋がりのある衛兵の名前は『ポルジャー』彼は『しめた』と思った。
この町では、酒場の揉め事程度だと、仲裁して終わりになるからで、どう扱おうか困っていた。
だが、ローズールの話が出たおかげで、逮捕する口実が出来た。
「あの方に『お仕置き』とは、どうやら危険人物の様だ。手荒に扱っても構わん。捕まえて、連行しろ!」
カーズの前に、衛兵か2人やってきた。
カーズは今、手加減できる精神状態ではない。
なので思いきって肩を殴る事にした。
「ぐきゃあ!」
「ぐわあぁ!」
肩の骨が砕けた2人の衛兵が転げ回る。
ポルジャーはこの男が危険だと、漸く判った。
「全員帯剣しろ! 男、次に抵抗したら殺す。手を頭の後ろに回してしゃがめ!」
ポルジャー含む、7人の衛兵は腰に収めていた剣を持って構える。
「全員 膝立ち 手は 頭の 後」
アーサーの発した言葉に、衛兵のうち5人が従う。
2人は言葉の強制力に抵抗出来たようだ。
アーサーが使う言葉の強制力は彼らの世界で換算するとレベル5未満では、抵抗出来ない。
アーサーを含む3人は、実害がない限り5レベル
未満の弱者は、殺したりしないのだ。
そして、アーサーの言葉の戒めに抵抗出来た2人は、敵として認められた。
「フィンガースネークバインド」
ガルの指が、蛇に変形して2人の衛兵を拘束する。
そのまま自転して、振り回して遠心力が付いたら、拘束を解いた。
2人の衛兵は、アーサーに投げられたかのように、飛んでいった。
「私の怒りは、どこにぶつければいいんですか?」
カーズの八つ当たりに、ガルも反論する。
「いやいや、本気出せって言ったのはカーズじゃん。 だから本気で投げたぞ? それより、この騒動の原因は『ローズル』だっけか? そいつを探そう」
この時、キンジ達はまだ店の中で、外の様子を窺っていたが、ガルの話に突っ込みを入れていた。
「この、騒動の原因は間違いなく、カーズさん達っす。でも、未だに死人が0って奇跡っす。因みに、旦那と両親を殺された挙げ句、本人が娼婦になっちゃったパターンの復讐依頼だと、相手の生存者は1だったっす。 その最後の生き残りが一番悲惨だったっすけどね。『ホモコブリン』恐い」
キンジは『ホモコブリン』に犯されまくった、強姦魔を思い出して、青ざめていた。
ガルは忽然と姿を消したが、カーズとアーサーは、ローズールの居場所を吐くまで、丁寧なオハナシをしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
カーズとアーサーが、ローズール邸の場所を調べるのに時間を費やしたせいで、衛兵のタレコミにより、傭兵を集める時間が出来ていた。
「ギョボボ、ワタクシの『レティ』を寝取った、間男の味方をする外道どもめ、目にものを見せてやる……ギョボボボ」
『逆恨みVS憂さ晴らし』といった、理不尽同士の戦いは、激化の様相を見せていた。
次話で、閑話は終わるはずです。




