【73話】帰路
遅くなりました。
セナリースの背中に抱き付き、馬で颯爽と駆け抜ける。
しばらくして馬を休憩させた時、セナリースが申し訳なさそうに謝ってきた。
「ボン、すまねぇ。 タイミングが悪すぎたみてぇだ」
「気にしないで良いよ、セナリース。 一刻をあらそうんでしょ?」
するとセナリースは、ばつが悪そうにした。
「医者の見立と日数計算で考えると、帰りの日程を考えても10日ほど猶予がある」
裏を返すと、順調に衰弱してるって事だよね?
今の医学で、死期の日数計算が分かる病気ってなんだ? それより、間違いなくロイエンと比べて計算能力は高いよね?
「それより、爵位が剥奪されちゃうのを謝らなくちゃ」
「いや、その心配はない」
セナリースは急に自信ありげに言う。
「えっ? なんで?」
「ロイエンはとっくに爵位を失っていたからさ」
早いなぁ、僕の最短予想より5年は早いよ。
「何となく分かるけど、聞いていい?」
「ああ、簡単に言うと税を納められなかった。色々あって、農民が夜逃げしたり、害獣がなぜかロイエンの区域にだけ、多くやってきてな……それで、おれとシープレスはまた、出稼ぎに行ったんだ」
うん、そこまでは何となく解るんだけど、夜逃げと害獣の集中って出来事が、何故かひっかかるね。
「出稼ぎしてから、1年くらいしてよ。 もう終わりだって言われたら、他の貴族の所に行けと言われて問い詰めたら、旦那は爵位を剥奪されていたんだ。理由は借金以外はわからねぇ」
「わかった、で、セナリースはどうしたの?」
「もちろん、国のお抱え傭兵は辞めてきたさ。それでロイエンの足取りを追うのに半年も掛かっちまった。で見つけた時はクラリスは、倒れていてな……無理もねぇ、あんな岩だらけの荒れ地を開墾しろだなんて、これを考えた奴は悪魔だ。 なけなしの金で治癒師を雇ったが、判ったのは余命だけだった」
「解ったよ、セナリースありがとう」
犯人は必ず見つけて、お仕置きしますからね。
そうして、セナリースとの旅は順調に進んだ。
不謹慎だけど、セナリースとの道中は楽しかった。
まあ、セナリースの反応がだけどね。
『ボン!? この、大金はいったい? なにしたんだボン?』
『はぁ!? 八武祭で優勝? 出場するだけですごいってやつだろ?』
『解毒魔法を全種類覚えた!? いくらボンでも無理だろ? 嘘だよな? なっ?」
『はっ? スクット・リッツだと? あの王宮騎士10傑の? そんな有名人がなんで教官に?』
とかね。
裏門の外にいたから、リッツ教官との戦いは見せてないんだよな。
勝った事は、言っても信じてくれそうもないから、言わないでおいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ボン、この森を抜けたら、あと3日くらいで着く……しかしボンの生活魔法は、化け物級だな」
はい、クリエイトウォーターを見せてしまいました。
お陰で、4日分の移動行程を、短縮出来たそうです。
ただ、その4日の短縮がちょっとした事件と遭遇することになったんだ。
「ボン、変なやつらが居やがる」
セナリースの背中越しに覗くと、馬車とその周りに傭兵っぽいのか数人見えた。
「この先にまで行くと、あのサイズの馬車は通れないぜ。道に迷ったにしても、一本道だしなぁ」
このまま近づけば、むこうも直に気づくだろう。
「第3レベル呪文……ディテクトイービルLVⅠ」
傭兵達が、こっちに気づいたとたん、敵対反応が出た。
僕達の素性も知らないのに、いきなり殺る気満々ですか、お陰で僕も躊躇なくやれますよ。
さあ、相手はどんな出方をするのかな?
「セナリース、あいつらの様子が変だから、警戒しといてね」
「ボン? ……ああ、確かにそうかもな。 さすがボンだな、学校で相当揉まれたか」
近づくと、1人だけ鍛えられていない体脂肪率の高いオヤジが変な微笑みで、話しかけてきた。
「おや? こんなところに親子で珍しい、 旅の姿にも見えませんが?」
傭兵は、いやもうゴロツキでいいや。
そのゴロツキどもは、ジリジリと周囲を取り囲むように動く。
「おじさんこそ、この先にどんな用があるの? それにその馬車おっきいね、誰が乗ってるの?」
脂肪オヤジがしかめっ面をした瞬間、5人のゴロツキが襲ってきた。
完全に包囲しきる前だったから、数の有利はちょっとしか働かないよ?
3人が僕に、2人がセナリースに向かってきた。
「セナリース! 手加減抜きっ!」
「ボン! 数が多い。 持ちこたえてくれ! 直ぐに助ける。 はぁぁぁ!」
セナリースが肉体強化魔法を使ったようだ。
ゴロツキも、セナリースの強さを感じ取ったのだろう、こんな台詞を吐いた。
「親の方は強い! 子供を人質にしろ!」
「まかせろ!」
「オヤジィ! てめえの子供がどうなってガファ!」
僕はゴロツキどもの強さを見誤った。
だって、最弱教官のモブやザコはおろか、八武祭に出場している普通の子供達より弱かったからだ。
2人も一撃で、殺しちゃうとは思わなかった。
「なっ、なっ、グボォ、ゴフェェェ、ボギャン!」
よし、最後の1人は手加減成功。
セナリースの応援をして、1分かからずに5人の傭兵を殲滅した。
「なっ? なっに!?」
「ボン!? そんなに強くなってんのか? もう、ダンナと2人がかりでも、勝てねぇかも……」
セナリースは脂肪オヤジより、ビックリしてるみたいです。
それより今は、こいつだ。
「おい! 脂肪オヤジ、馬車の中は何だ? 後、僕達を襲った仕返しは、何がいい?」
「ひぃ!? た、助けてくれっ。 中は、中は……そうだ、怪我をした子供達を助けたから、安全な所に運ぼうと思ってたんだ。なぁだから助けてくれ」
1人だけ生き残ったゴロツキを縛り上げていたセナリースが馬車のホロを開ける。
そこには、痩せ細った子供達が詰められていた。
指の本数が足りない子、片目を失ってる子、治らない怪我をしている子がほとんどで、真新しい傷や痣まであった。
「セナリース、解る?」
「ああ、たぶん非合法奴隷だ。うちの国は奴隷制度がしっかりしてるから、逆に水面下でひでぇ事をしやがる奴隷商もいてもおかしくない。たぶん、この森は深いから、棄てに来たんだ」
僕は、脂肪オヤジを睨む。
脂肪オヤジは、不味いって顔をした後に、首をブンブンと横に振っている。
ダメだ殺そう……
と、一瞬思ったけど思いとどまる。
ガン!
あっ、殴っちゃった。
でも、思いとどまったから、気絶で済んでるはず。
「セナリース、死体とアレの始末をお願いしていいかな?」
1人だけ生き残ったゴロツキに向かって指を差す。
「分かった、ボンは?」
「僕はこの子達の怪我を、出来るだけ治す」
「分かった、任せな」
暫くすると、セナリースは視界から消えていく。
僕は馬車のまで近づいてみた。
生きる事を諦めた子、怪我の痛みに声を圧し殺して泣いてる子、空腹と怪我でグッタリしてる子、死を目前にして怯えてる子、聞こえないような小さな声で『お母さんお母さん』と連呼してる子。
大声を出した子達は、暴力を振るわれていたのが、容易に想像できる。
「さて、君たち助けに来たよ」
僕の言葉に理解が追い付いてないようで、一様にきょとんとしている。
でも、気にしないで狭い馬車の中に入る。
「第2レベル呪文……ライトヒールサークル」
これで、子供達の古傷と欠損部位以外は完全に治った。
怪我が治ったのは理解したようだが、今の状況をまだ解ってない子供達。
「もう、痛くないだろ? 怪我も治って体力も回復したから、食事にしよう。 第2レベル呪文クリエイトフード」
100人前のカロリー○イトを出現させる。
子供の胃袋なら、軽く200食分はあるな。
僕は暫く考えた。
「よし、第2レベル呪文……クリエイトフード」
子供換算で、さらに200食分追加した。
これでゴロツキどもが持っていた、食料を合わせれば、暫く食べていける。
「君たち、これは簡単に食べれる、便利な食べ物なんだ。食べて見てくれ」
1人がカロ○ーメイトを手にして、 食べると目を見開いた。
「美味しい……凄く美味しいよ!」
その言葉で一斉に食いついて来た。
はじめは『美味しい』『美味い』とかだったが、次第に泣きながら食べるように成っていた。
この程度で、感極まり泣いてしまうとは、普段どんな酷い目にあっていたのやら。
さっき考えていた作戦を実行に移す。
脂肪オヤジの足首を持って、200℃の角度に捻りあげる。
ゴキリ……
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「起きた? ねえお前、助かりたいんだよな?」
涙と鼻水、よだれを滴ながら、首を縦に振り肯定している。
「僕はこれから行く所があるんだ。たぶん14、5日で戻れる。 その時まで子供達の面倒を見ろ。もし1人でも欠けたり、怪我をさせたり、泣かせてみろ……こうだ」
もう片方の足も捻る。
「ひぎゃぁぁぁ!」
「食料はある。無事に守りきれたら、その足を治して、お前の生き残るプランを考えてやる。いいな?」
「ひゃい!」
なんて返事をしてるんだ……
子供達の方を振り向くと、一気に殺気が収まる。
「君達、一応聞くけど、帰る所や帰りたい場所はあるかい?」
じっくり聞いたところ、子供達に帰る所はなかった。
『お母さんの所に行きたい』
って、言葉を聞いたけど、それは天国にいるお母さんって意味だったから、それは諦めてもらった。
子供達は12人もいるが、養う決心をした。
幸い、馬車の中は暖かく、水気のある実を持った木もある。
食料も用意した。
「僕らは10日くらい仕事があるから、君達を置いて行かなきゃいけないんだ。きっと迎えに行くから待てるかい? あの太ったおじさんを、死なさないように、逃げないように頑張れたら、お兄さんがプレゼントをするから、頑張って待っててくれ。 あと君と君は顔色が悪いね。気づくのが遅れてごめんね」
「ううん、お兄ちゃんはみんなを助けてくれたんだ。病気は頑張って治すよ」
やはり具合が悪かったか。
病気は見た感じ2人だけかな。
問題は、古傷や欠損のある子か……今回アレは1回しか覚えてないからな。
僕は、指の足りない子の前でしゃがむ。
「第2レベル呪文……ライトリジェネレイト」
「えっ? あっ……ゆ、指が、指が生えてきたよ、お兄ちゃん! スゴいや、もしかしてお兄ちゃんは神様ですか?」
いや、褒めすぎですよ。
まあ、故郷の下級神よりは、無茶出来ますがね。
「いや、回復じゅ……回復魔法が凄く得意なお兄さんです。次は君ね……第2レベル呪文……ライトキュア。 第2レベル呪文……ライトキュア」
「あっ、なんか軽くなった?」
「私も、体が怠くない!」
「これで、この魔法は打ち止めだから、続きはまた今度ね」
僕はこの子供達に、あっという間になつかれた。
丁度その時セナリースが、ゴロツキの処理をして戻ってきた。
セナリースに事情を話して、子供達を一旦置いて行く。
少々不安だけど、クラリスの事が心配だから仕方ない。
僕とセナリースは、足早に出発した。
次回、学園編最終回に、なるはずです。




