【69話】アスターテ・フォン・ウエストコート
別視点ですが、焦らしてるつもりは
ないです。
私は、アスターテ・フォン・ウエストコート。
アルカディア王国が誇る、由緒ある八公爵家の1つだ。
今回の八武祭見学は、私も期待していた。
養子のロベルトが、手紙でランディ個人だけでなく、他の選手達も、例年とは比べ物にならない猛特訓をしていると記してあったからだ。
だが、彼らは私の期待を、よい意味で大きく外してくれた。
ランディのトリッキーな動き、両手魔法、電撃魔法。
更には王宮騎士が目を見張るほどの戦いを、ランディ・ダーナスとテスター・バスターが見せてくれた。
あの時は、大人げなく心が躍るような感覚だった。
更には、両手魔法と電撃魔法はランディの発案だと学院長は言っていた。
聞いてないぞ? ロベルトよ。
八武祭最終日は準優勝の予定さえ覆して、優勝決定戦をやる事になった。
妻も、去年までは惨めな思いをするので、八武祭に参加するのは乗り気ではなかったのに。
2日おきに開かれる夜会や、特別観覧席では嬉しそうに他の公爵家と会話をしていた。
ただ、対テスターバスター戦から、席を立ってまでランディを応援していたのは、私が恥ずかしかったぞ。
そして、優勝決定戦が始まると同時に、あり得ない速度で走るランディ。
王の護衛たちが、仕事を放りだして、前に出る。
厳かな場所であるはずの、この場がとんでもないことになっている。
私だって公爵家当主の立場でなければ、一般貴族が座る、最前列に移動したい。
その後、ランディが新呪文を使った。
ここからでは解らないが、バケモノ達が教えてくれた。
「王よ、彼は『アルテミットヒーリング』と言いました。 しかも回復所要時間は、およそ1秒」
「なっ!?」
「今大会で、新呪文が2つだとぉ? 」
私は頭の中で、ランディに頼んだ。
これ以上見せるなよ? いやあるわけないよな。
このままでは、王宮特務隊まで動くぞ。
と思った矢先、耳が良いのか、唇を読むのか、化け物の人が余計な事を言い出した。
「あの異常な速度を出す瞬間『シンソク』と言いました。 まさか肉体強化魔法の新型では?」
やめろぉぉぉぉ! ランディ卒業後の獲得が困難になってしまう。
そして、ランディは自分の身を挺して、仲間を1人も離脱させずに、あのサウスコート高等学院を撃ち破った。
8人全て殻に覆われたサウスコートの選手、恐らく魔力の枯渇だろうが、気を失い倒れたランディに集まり行く我が領の学院生達。
バカな……形式的な集まりだったはずの、この祭りで何を感動しているんだ私は……
会場は、歓声が響き渡りすぎて、表彰式の声がここからは聞こえない。
「お父様、ランディを私達の部屋で休ませましょ」
「ん? ああ。 良いだろう、私も彼と話してみたいな。 手配しよう」
彼を、私達が使っている部屋の1つに、休ませるように働きかけた後、妻のマリスローゼが語りかけてきた。
「ねぇ、あなた? エリザも気に入ってるみたいだし、どうかしら?」
困ったな、ローゼも気に入ってしまったか。
正直私としては、エリザと結婚させるより、養子にした方が、まだましなのだが。
彼とは、色々話したかったが、その日に目覚める事はなかった。
……
…………
翌日、手が空いたので、彼の眠る部屋に出向いた。
部屋に入ると、彼は目覚めていて、エリザは何故か留守だった。
頭を下げるエリザの従者達に、畏まらなくていいと合図する。
「よい。 ランディ・ダーナス、此度の八武祭では素晴らしい活躍をしたな。 私も鼻が高い、礼を言う」
彼は少し首を傾げて、とんでもない事を口走った。
「おじさん、誰?」
「なっ!」
従者達が、あわてふためくが、私は驚いただけで怒りはない。
だが、怒ったふりをしてみるのも面白いか。
「キサマ、私に向かってそのような口を利くか!」
さあ、どうなる?
「えっ、ダメなの? ごめんなさい……で、ダンディなオジサンは誰?」
本気で驚いた。
この私は、公爵家の当主として、修羅場をいくつも経験したことから、それなりに『格』と言うものがある。
十代前半の小僧など、簡単に震え上がらせる程の格が。
だが、彼には『ただのオジサンじゃない。カッコいいオジサンだ』と、言われた程度にしか受け止めてない。
だが、嫌な感じがしない……何故だか好感が持てる。
ふっ、エリザが惚れる訳だ。
私も気に入った。
本気で養子に入れる事を、視野に入れるか。
……
…………
少し彼と話すと、エリザが帰ってきた。
もう少し話したいところだが、今年は公務がたくさんある。
なぜなら、我が領の高等学院が優勝したのだからな。
後は、エリザに任せよう。
……
…………
祝賀会の途中、八武祭優勝学院の選手達が紹介されて、場を盛り上げる。
例年だとサウスコート高等学院なので、形式的になっていたが、常勝学院を降した事で注目度が高い。
メッサー卿は、笑顔満面で忙しく他の貴族との繋がりをとっている。
私も他の貴族との対応で忙しい。
ふと、ランディの声が聞こえる。
周りの声も聞こえるが、はっきりとは聞き取れない。
何を話しているのだ?
「えっ、新魔法の秘密? 良いよ、教えてあげる」
バカヤロー!! お前の新魔法は国家機密級だぞ!
くっ、周りが邪魔してランディを止められない。
「エクスヒーリングをDNAの2重螺旋の形でイメージすると、それをさらに複合化して8重螺旋にしてから『アルテミットヒーリング』って唱えるんだ。 安全のために最低でも魔力総量400はないと危険な魔法だよ」
ああ、喋ってしまった。
だが、今の話ほとんど理解できなかったな。
それに、魔力総量400なんて人間は、魔神の加護持ちでないと不可能だ。
安心、していいのか?
「神速? それはね」
やめろぉぉぉぉ!!
「僕みたいに才能がない人は、訓練に訓練を重ねないとね。 例えば100mを8秒で走る瞬発力と、100㎞を3時間ちょいで走る持久力と、100㎏の荷物を持って自由に走り回れる力がいるよ」
そんな人間がどこにいるんだ!
はっまさか、お前は出来るのか?
出来るわけないよな。
そうか、わざと無理難題を言って、その場を凌いだのか。
この私を焦らすとは、なかなかやるじゃないか。
ますます気に入ったぞ。
お前を見もしないで、辺境やイーストコート辺りに送り込んで、存在を消したも同然にしようと思った事を私は恥じた。
それに、彼ならば辺境に送っても、きっとその名を国中に轟かすだろう。
来年も、この祭りを楽しみにしているぞ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
こうしてランディは、3人の王族、全ての公爵家、8つの侯爵家、1部の王宮騎士や観戦者の記憶に深く刻まれた。
しかし翌年以降、ランディ・ダーナスの姿を八武祭で見た者はいない。
はい、ランディは走る速度は大したことないのですが、耐久度、持久力、重量物を持っても速度がほとんど落ちないと言った、圧倒的性能があります。
アーサー「ウズウズ する ランディと 闘いたい い でも掟 我慢する」
ガル「だがよ、掟を破ったのは5回くらいあったよな」
カーズ「あれは、アーサーが切れたから仕方ない」
リッツ教官「アーサーと言う漢、俺と同じ匂いが……」




