【61話】第2試合、ノースコート高等学院
八武祭2日目、朝
なんとジエ君は腹痛で、トイレの住人となってた。
あまりにも症状が重そうだったので『ニュートラライズポイズン』をかけてあげた。
とりあえず、ジエ君に尋問を開始した。
モチロン『悪い食べ物を食べたな』と、疑っての尋問だ。
僕に隠れて美味いもん食ったでしょ?
すると、ジエ君が朝早く起きると扉にファンレターと、二人分の差し入れが置いてあったそうな。
因みに、ジエ君はソイフォンと同室だ。
差し入れの正体は、スイーツであまりにも美味しかったので、ソイフォンの分も食べたらしい。
スイーツの量を聞くかぎりでは、食べ過ぎで腹を壊した感じじゃなさそうだ。
きな臭い物を感じるな。
回復魔法で癒したものの、失った体力までは元に戻らない。
回復呪文を使えば、そんな問題も解消出来るが、そこまではしないで、リッツ教官と相談しよう。
リッツ教官と相談した結果、何者かの暗躍でジエ君は食中毒になった可能性があると仮定した。
ここは、ジエ君に後衛で休んで貰って、実質七人で戦う事に決めた。
八武祭には、補欠と入れ替えるってルールがあるけど、一度抜けた選手は、復帰できない決まりになっている。
だから、貴重な両手魔法使いのジエ君と、補欠を交換させる事は出来ない。
さて、どう戦おうかなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
2日目午前は、連係攻撃が得意な、ノースコート高等学院。
彼らは、戦局を確認しながら後衛の攻撃魔法使いも、近接戦闘に参加する戦法を使うチームだ。
混戦してれば、ファイヤーボールも簡単に撃てないからね。
「それでは、ノースコート高等学院VSウエストコート高等学院、試合開始!」
相手は前衛五人、後衛三人の基本編成だが、他のチームより、やや前衛と後衛の距離が近い。
混戦が得意だからなのかな。
こちらも前衛五人、後衛三人の編成で僕は後衛側だ。
僕はみんなに、一つ指示を出していた。
試合開始と同時に、前衛が左右に分かれる。
「ソイフォン、今だ!」
「解っただ、ライトニング!」
「ギャッ!」
「グァッ!」
「ウギャ!」
「ギャン!」
相手はチームの、前衛二人と後衛二人が、二本の電撃の直線上にいた。
開始前から煩かった、観客席が静まり返る。
そして、相手チームとその後ろに控えている補欠や監督らも、時間が停止したように固まっている。
そんな、隙を見逃す僕じゃないよ?
「ソイフォン、次!」
「解っただ。 ライトニング!」
「ギャッ!」
「グァッ!」
「ウギャ!」
「ギャン!」
「もう1回やるだ、ライトニング!」
「グギャン!」
「ギャワン!」
「ギャヒン!」
「ホギャァ!」
「逃げろ!! ……あっ待て、下がれ! 下がってキャンセルだ!」
しかし、監督の『にげろ』の言葉に、過敏に反応した相手チームは、一目散に場外に逃げてしまった。
僕は、未だに固まっている審判に話しかける。
「ねぇ、相手チーム……みんな場外にいるけど」
「えっ? あっ……しょ、勝者、ウエストコート高等学院」
審判のコールから2秒後、大歓声が鳴り響いた。
もう、野次だか、奇声だか、賛辞の声だかワケわからない事になってる。
ふと気づいた、サウスコートの選手達が、ものすごい形相で睨んでいるのを。
おや、君たちとの試合が全力じゃないって気づいた? 正解だよ。
「あっかんべっ」
おおっ、サウスコートの選手の内、二人がヒートアップして、僕を襲おうとしたけど、仲間に止められていた。
ほほほ、楽しい。
……
…………
………………
昼食は、今までにないくらい豪華な品々が用意されていた。
みんな喜んでいる。
まりな先輩なんかは『ソイフォンのおかげで有名になったからかな』と誉めていた。
みんな、豪華な食事に喜んでいる。
味方ながら、危機感が微塵も感じられなくて情けない。
と、思っていたら、ラディスとカティスは食事に疑いの眼差しを向けていた。
ほっ、まともな人もいたよ。
だが、罠と予想してなおかつ、突き進むのが僕だ。
「じゃ、豪華な食事を用意してくれた方々に、感謝して食べましょう。 第1レベル呪文ピュリファイフード」
「ん? ランディ、なんか変な感謝の言葉だな」
「家に伝わる感謝のおまじないですよ」
もちろん嘘だけど、これで即死の毒物が入っていようが、普通に食べられますからね。
さらに、苦味、渋味も残っているならば除去していますから、美味しく食べよう。
『ピュリファイフード』は、元々腐った食料を清める呪文なのだが、毒物の除去や灰汁抜きが出来るまでに昇華させた。
しかし、食事の度に『灰汁抜きランディ、出番だぞ』と、言ってくれる仲間はここにいない。
ちょっとしんみりとした。
そして、久しぶりに学食より、数段美味しい食事を頂いた。
僕たちが『モシャモシャ』と普通に食べてるから、ラディスとカティスも恐る恐る食べて、少ししてから、ガツガツと食べていた。
ご飯の美味さに負けたようだ。
こういった姿を見ると、まだ十代半ばの幼さが見えるんだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午後の試合前にリッツ教官から、指示を貰った。
「あ~、今回ソイフォンとジエホウは、相手の攻撃魔法のキャンセルに専念しろ、ランディも目立った攻撃はするな」
またヘンテコな要求をするな、リッツ教官は。
「お前らは、魔力が有り余ってるだろう? 肉体強化を一気に全開にして挑め、目立って来い」
「はいだ!」
「はいっ!!」
「おっけー」
「ラディス、カティス」
「はい!」
「はい!」
「お前ら二人の連係はこの中で1番だ、二人一組で、防御を無視した戦いをみせてみろ、ランディ援護にまわれ」
「うん、解った」
「よし、行くぞ!」
「おお!!」
「おうっ!」
「おおっ!」
「おお!」
「ああ!」
「分かりましただ」
「了解」
モンテ先輩のかけ声で、試合場に向かっていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここに三人の厚い友情で結ばれた男達がいた。
彼らは数日前、ランディに裸で縛られた不幸な男達だ。
肌触りのよい縄とはいえ、全裸で数日間も空中で放置されたのだ。
体はともかく、精神が持つはずがない。
だが、彼らはお互いを励まし合う事で、縄が劣化するまで耐えきったのだ。
「た、助かった。 こんな短い時間でロープがちぎれるなんて……」
「おい、このロープ、材質が紙だぞ……なんてこった。 これならもっと暴れていれば、ロープはもっと早くち切れていたはず」
「おい、服と装備がたたんで置いてあるぞ! それに保存食と水もある。 あの小僧は何を考えていたんだ?」
こちらが、殺すつもりはないとはいえ、反射的に刃物を出したのだ。
もっと、酷い仕打ちを受けてもおかしくはない。
いや、かなり酷い仕打ちを受けたけど、殺すつもりはなかったらしい。
彼らは話し合ったが、ランディの考えなど解るはずもない。
「まずは、近くの町か村に行こう、そして馬を借りて、報告しなければ」
「そうだ、七味鳥で足止めは失敗したが、ランディの強さと新魔法の報告をしなければ」
「そうだな……うまくいけば、足止めの失敗を帳消し出来るかもしれない」
三人は手を取り合い、移動した。
……
…………
「で、大事な報告とは、なんだ?」
ある、男は不機嫌そうに問う。
「はっ、要注意人物はモンテラード・トリアスより、ランディ・ダーナスの方です」
「彼は、我々三人をたった一人で相手に出来る程、とんでもない猛者です」
「それに、あの陣営には謎の新魔法、雷を放つ魔法があります」
三人の説明に、男は青筋を浮かべた。
「遅いわっ! あと1日早ければ対処出来たものを」
そう、 今は八武祭2日目で、先程ウエストコート高等学院が、圧勝した後の事だった。
「あのう」
「俺達は」
「クビですか?」
男は、怯える三人に意外な言葉を投げ掛けた。
「ワシは怒っているが、それで有能な人間を手放すほど、愚かではない」
(不用意にクビを切れば、不正の秘密が露見してしまうじゃないか)
「しかも有能な者等を、たった一つの失敗で、減給にするのも忍びない」
(金を減らして、他の貴族に寝返りなんぞされたら、たまらんわい)
「ワシの怒りも加味して、少し遠くになるが、やりがいのある、仕事を頼むつもりだ」
(こやつらは、辺境に押し込めて、口封じをするにかぎるの)
「お館様」
「お館様……」
「お館様っ」
こうして、三人は感謝しながら『超』の文字が付く、辺境に旅立っていった。




