【59話】ウエストコートVSサウスコート
試合での攻撃魔法の威力は、一定の値になっている。
理由はそれぞれの選手に、付けられた腕輪にある。
ウエストコートには『黒』サウスコートには『赤』の腕輪で、観戦者がチームを区別するために便利なんだと、防具に色を付けたらもっと楽なのにと思ったら『攻撃魔法制御器』ってアイテムだった。
よく解らないが、即死防止だと思ってくれれば良いと思う。
サウスコートチームの戦法は、序盤は毎回決まっている。
ラディス、ダナム、モンテラード先輩にも確認したから間違いない。
サウスコートチームは開始直後、二人の攻撃魔法使いが、両手魔法を使って四つのファイヤーボールを放つ。
通常、それをキャンセルするには、四人の攻撃魔法使いが要る。
すると回復魔法使いを除外しても、近接戦闘要員は少なくなってしまい、団体戦で不利になってしまう。
しかも、サウスコートチームは毎年安定した連携と個々の強さを誇ってるから、常勝チームなのだと聞いた。
しかも、僕の見立てでは両手魔法使いは半数近くいると見ている。
去年見たかぎりだと、半数の生徒が両利きだったからだ。
普通に考えれば勝てる要素がない。
が、様子見の攻撃魔法であるなら、今のチーム……ソイフォンとジエ君ならキャンセル出来る。
さあ、見てろよ。
メガホンを持った審判が叫ぶ。
「サウスコート高等学院VSウエストコート高等学院、試合開始!!」
「「ファイヤーボール!」」
予想通り、両手魔法でファイヤーボールを撃ってきた。
ソイフォン、ジエ君、頼むぞ。
「キャンセル!」
「キャンソル!」
二人は期待通り、飛んできたファイヤーボールを上手く消滅させてくれた。
熟練者は別に『キャンセル』とか叫ばなくていいのだが、この方が覚えが早いらしい、ソイフォンが訛っていたのは、聞こえなかった事にしよう。
両手魔法でキャンセルしたのを、いち早く気づいたサウスコートの教官がビックリして立ち上がった。
だけど、ビックリすんの、まだ早いよ。
僕は前衛で一番隙ができた一人に、小型の盾を思いきりぶん投げた。
それが合図になって、モンテラード先輩筆頭に四人の仲間が、小型の盾をまともに喰らって、ピヨってる相手選手に一斉攻撃を仕掛けた。
「「「「肉体強化!」」」」
僕とラディスも同時に走って、モンテラード先輩達の攻撃を妨げられない様に動く。
集中攻撃に気づいた、相手の教官……もう監督でいっか。
監督は生徒に対処するように叫ぶが、もう手遅れだ。
相手が冷静に対処できてないうちに、ジエ君が両手で攻撃魔法を放つ。
「ファイヤーボール!」
さすがに観衆も両手魔法に気づいたのか、驚きの声が聞こえる。
だが、騒ぐのはまだ早い。
バシュッ!!
ピヨった相手の選手が集中攻撃を浴びて、殻に被われた。
「狼狽えるな! パターンC!!」
浮き足立つ相手チームに謎の檄を飛ばす監督。
すると、後衛にいた三人が、三人とも両手魔法で攻撃を仕掛けてきた。
「「「ファイヤーボール!」」」
ファイヤーボールは一応範囲魔法だから、混戦状態の僕らには攻撃出来ない。
狙いは、ソイフォンとジエ君だ。
六発のファイヤーボールでは、どうしても二発食らってしまう。
二人の回復に戻るか、六対三の有利な混戦状態を維持するか、こちらが六人って言ってもリーダーのモンテラード先輩は不得手な武器を使っている。
悩む。
「二人を囮に押し込むぞ! 」
モンテラード先輩が勝負に出た。
僕は、エクスヒーリングで味方をチマチマ回復させる。
ソイフォンとジエ君が押し負けて殻に被われる頃には、こちらはかなり優勢になっていった。
「パターンG!」
監督の言葉に相手チームは、一人と三人に左右に分かれて移動した。
この移動の意図はなんだ?
こちらは自然に四人と、二人に分かれて追いかける。
今の状況だと大きく離されると、ファイヤーボールの的になる可能性がある。
すると、一人になった相手チームがとんでもない事しやがった。
「ファイヤーボール!」
こいつ、肉体強化魔法と攻撃魔法のハイブリットだったか、しかも自爆しやがった。
モンテラード先輩含む、五年生二人組が自爆に巻き込まれ、相手チームの選手は殻に被われた。
そして、それを計算したかのように、後方から四発の、ファイヤーボールが飛んできた。
「モンテ先輩、まりな先輩」
爆発の跡地には、三つの殻が転がっていた。
これで、数の上では四対六になった。
自分の体力を考慮して自爆し、殻に被われて攻撃を受け付けなくなったら四発のファイヤーボール……さすが常勝チーム。
だけど『パターンG』覚えたぞ。
「エクスヒーリング」
自爆攻撃に気を取られている間に、相手のチームの後衛が一人、回復魔法を掛ける。
ちっ、こっちは攻撃魔法と回復魔法のハイブリットか、まったくどれだけ引き出しがあるんだ? この学院は。
そして、ファイヤーボールが、ギリギリダメージを受ける範囲外に、いくつも着弾する。
しかし、油断すると爆発の余波で僅かなダメージを受けてしまう。
ファイヤーボールに意識を向けると、若干優勢だった戦いが、不利になってしまう。
大盾しか持ってない僕は、嫌がらせのように邪魔をして、形勢を五分五分に戻す。
しばらく互角の攻防が続いたけど、相手のチームが一人殻に被われた頃には、味方チームは僕とラディスしかいなかった。
ふう、負けたか……呪文を使えば、戦況は引っくり返せるけど、リッツ教官の意図だと、今回は本気を出すなって指示で僕に盾を持たせたはず。
「ラディス、今回は敗けだ、場外に移動しよう」
「!? ランディ? ……解った……が、追い撃ちはどうする?」
「僕が妨害するから、僕と反対方向に逃げて」
さて、負けるにしても少し嫌がらせをしてからにしよう。
「はい」
僕は大盾を受けとりやすいように、すっと差し出す。
「えっ? あっ!」
反射的に盾を受けとる相手のチームの一人。
プクク、引っ掛かった。
大盾でやったのは初めてだけど、ボールで不意をついてそれをやると、二人に一人は反射的に受けとるんだよな。
ただ、シロートがやっても確率は低いぞ?
僕は、後衛に控えていた攻撃魔法使いに向かって、ラディスは僕と反対方向に向かって走る。
「「はっ! 肉体強化4!!」」
慌てて僕を追いかけるけど、追い付けるかな?
「ファイヤーボール」
僕の移動を遮ろうと、火球が飛んできて爆発する。
普通なら立ち止まるところなんだが、そのまま突き進む。
ふっ、緩いよ。
マーニャの火炎弾の方がずっときついな。
一人の選手が僕に追い付いた。
速いな、人神のギフト持ちか。
僕は急ブレーキをかけて、その選手を転ばせて、再ダッシュをする。
もう、距離が近いから、ファイヤーボールは使えないぞ?
それでも、怯むことなく武器を振りかぶった後衛の選手だが、ドロップキックで吹き飛ばす。
まあ、相手もみっちり訓練された選手だろうから、ダメージは殆どないと思う。
精神的ダメージまでは分からんけどね。
場外に向かって走る僕に、ファイヤーボールの雨が降り注ぐ。
だから、大したことないって……でも回復はしよう。
「エクスヒーリング」
「ファイヤーボール、ファイヤーボール」
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!! ファイヤーボール! ファイヤーボール!! ファイヤーボールッ!!」
一人、異常なほど攻撃してる奴がいるね。
もちろん、ドロップキックで盛大に転がした奴だけど。
爆発の隙間からチラリと見えたからね。
だけど、僕はもう場外なんですが?
「もう一回、エクスヒーリング」
爆発が収まった時には、あのキレた奴倒れていた。
もしかしたら、魔力の枯渇でもしちゃった?
「しょ、勝者サウスコート高等学院……」
僕の無事を、呆れながら確認した審判が、勝者を告げる。
だけど、場内は静まり返ってる。
どうしたのかな?
試合が終わり、八武祭の関係者が選手の入った殻を運んでいるなか、テクテクとリッツ教官達が居るところまで歩いていく。
「あいつ、十回以上もファイヤーボールを受けて、何故無事なんだ?」
「常勝のサウスコート学院が、四人もやられた?」
「あの小僧もおかしいが、ウエストコート学院側の一人は両手魔法を使っただろ?」
「俺は、十年連続で八武祭を観戦してるが、去年までと練度がまるで違う……何人かは、上位チームに引けをとってない」
おお、スゴい会話が飛び交っているな。
明日は、ソイフォンの電撃魔法でビックリさせてやるか。
自分の場所に戻ると、リッツ教官がニヤニヤしながら、労ってくれた。
「よくもまあ、あそこまで善戦したな。 まったく盾は投げるわ、両足揃えて飛び蹴りをかますわ、しまいにはあのファイヤーボールの雨を受けて、ケロリとしてやがる……足に鉄球でも付ければ良かったか?」
「僕に何をさせたいんですか?」
僕とリッツ教官が不本意な漫才をしている間に、ウエストコート側の回復要員が『ヒーリング』をかけまくって、みんなを回復させた。
みんなは、顔を下に向けて、落ち込んでいるみたいだ。
「おいおい、何を落ち込んでるんだ? お前らは負け慣れてるじゃないか。 それにあっちを見ろ」
リッツ教官はサウスコート側を指差す。
サウスコートチームは、遠目からでも分かるくらいに、こっちを見て睨んでいた。
「お前らが頑張り過ぎたから、相当睨まれてんぞ? そして、明日はもっと驚かせてやれ。 ソイフォンはライトニングを、モンテラードは剣に装備を変更、ランディはハンマーを持って良いぞ。 ただし、回復以外はやり過ぎるな、因みに明日から味方の不戦者が出る度に、ランディの晩御飯のおかずを一品減らす」
「そんな横暴なっ!! 」
今の僕の呪文だと、カロリーメ○トしか出せないから、日々の食事のおかずは大事なんですよ?
まあ、いざとなったら、元気玉を使うからな。
元気玉とは『みんなっ、オラに晩御飯のおかずを少しずつ分けてくれっ!』と言って、おかずを集る、至高の技だ。
こうして、どよめきとざわめきの中、僕らは控え室に戻って行った。




