【53話】ランディの新装備
僕は、八武祭の標準武器の一つ、中型ハンマーを手にした。
「えっハンマー!?」
「確かにランディの腕力なら使えると思うけど……」
「「個人戦には向かないだろ!!」」
おおっ、ダナムとラディスの息が合ってる。
確かに僕の体格だと、武器がちょっと大きく見えるよね。
普通に振り回したら、減速間違いなしだもんね。
でも、僕は腕力あるし。
ハンマーを軽く担いで、みんなのところに戻る。
実は今、結構な人数で八武祭に向けて訓練していて、教官が三人、生徒が十五人もいる。
名前の覚えが悪い僕でも、何人か覚えた。
五年生の『モンテラード・トリアス』同じく五年生でダナムの兄貴『ディナハ・マツヤ』ディナーは待てや、と覚えると簡単だぞ。
四年生で『ダナム・マツヤ』『ラディス・ノートン』『ドラグス』
三年生はラディスの弟『カティス・ノートン』とダナムの弟『カイモン・マツヤ』買い物待てや、と覚えると簡単だぞ。
残りの八人の名前は忘れた。
この中で八人がレギュラー、二人が補欠の計十人で、八武祭に行くことになる。
僕がハンマーを持ってくると、驚きと落胆の視線をぶつけられた。
リッツ教官に至っては、肩の関節が外れてるんじゃないかと思うほど肩が下がっていた。
リッツ教官も気づかないのか……
「あ~、もう今日の訓練は終わりだ。次は二日後な……しばらくランディじゃ楽しめそうにないな。フラットで我慢するか……」
「ひいっ! ランディ君、明後日から私と訓練をしよう。 ランディ君を一日でも早く使い物にしないと私の命が……」
リッツ教官の方針で熱い訓練は三日間に一回のローテーションなんだ。
次の日は、座学で身体を休めて、翌日は身体を馴らす程度に動かして、その翌日はみんなの言う『地獄の訓練』が始まる。
でもね、みんな……一つ大事な所が抜けてるんだよな。
僕がハンマーが苦手なんて一言でも話したっけ?
ここで僕が扱える各武器の熟練度を教えておこう。
通常の人間での戦闘熟練度の最高峰を『A』としよう。
僕が使う棍ならば『A+』
多節棍ならば『S-』
双節棍やフレイルならば『S』
メイスならば『SS』
そしてハンマーならば『SS-』
今回貰ったハンマーは、柄が長く規格外だから、熟練度『S』くらいで武器は扱えると思う。
勿論久しぶりだから、使いこなすには一寸かかるかも知れないけど、棍より弱いって事はないんだ。
そう……僕はメイス、ハンマーを使うならば『神人アーサー』より上手く扱えるんだよ。
でも、リハビリにフラット教官は丁度良いかも知れない。
フラット教官、明後日は利用させて貰いますね。
◆◇◆◇◆◇
二日後。
昨日は商人コース、攻撃魔法コースで授業を受けた後、本職の回復魔法コースで先生をした。
特に新しい発見はなかったけど、定期的に参加している。
毎日の努力は大切です。
そして今は、ストレッチメインの運動をしている。
リッツ教官は訓練は、理にかなっていると思うけど、今日のやる気のなさはどうだろうか? 僕の武器選びひとつで、こんなに落ち込むとは。
「みんなには軽い運動をしてもらってるが、ランディ君なら大丈夫だろう……一日も早く強くなってもらうからな!」
フラット教官は気合いが入っている。
軽い運動をしていたせいか、半数以上が休憩して、僕とフラット教官の訓練を兼ねた模擬戦闘を見守る様だ。
なんか、てれちゃうな。
僕はハンマーの根本を持って構えた。
分かりやすく言うと、長い柄の部分で叩くから逆さまに持っていると思ってくれれば良い。
「はっ? ランディ君ふざけているのか?」
あっ、なんか怒ってるっぽいな。
そんな時は先手必勝!
「ランディ・ダーナス行きます!」
まずは、フラット教官が受け止めやすいように、柄の方でぶっ叩く。
「おっ」
そして、打撃の重さは軽くなるが、速力全開で弧を描くように反対側を叩く。
「いてっ、なっ!? あづっ! ぐっ、バカなっ、ぐふっ」
ハンマーの重りを支点として活用した六連撃は、フラット教官を怯ませ、大きなスキを見せた。
次は押し込むように、心臓を突く。
角度と手加減が肝なんだけど、今のフラット教官なら余裕だ。
「かはっ……」
これで、フラット教官の時間は約一秒止まる。
その瞬間、ハンマーの柄の支点を変更して腕ごと胴体を殴る。
クリティカルヒットをすると、死んじゃうかも知れないから、わざと腕ごと叩く様にした。
「ごぱぁぁ!」
「………………」×多数
フラット教官はビクンビクンしながら倒れてる。
「あっ、やり過ぎた? 今、回復魔法かけますね。 エク……」
「ランディィィィィ、今のをもう一度見せてみろ!」
リッツ教官が驚きと喜びの交じった顔で、僕の肩をがっしりと掴んでいた。
ひえぇぇぇ、リッツ教官の接近に気づかなかった!なんて人だ……あっ、もしかしてこれはリッツ教官の好意か?
僕はね、人の気配に敏感なんだけど、自分に好意を持っている気配には、注意をしていないと気づかないんだよね。
「ランディ、お前はハンマーの柄でも棍の様に扱えるのか?」
リッツ教官の反応が怖いけど、この人には正直に言いたい。
「実は、棍より得意です。 あと三戦もすれば慣れると思います」
「よっしゃぁぁぁぁ!! おい、フラットいつまでも死んでないで、ランディの相手をしろ。 そして出来上がったランディを俺が……グフフ」
「それではフラット教官、続きをお願いします。 グランヒーリング、グランヒーリング」
フラット教官は完全回復した。
「ランディ君、回復ありがとう、私の教官としてのプライドはぼろぼろだけどね。 初っぱなから肉体強化を使うよ。 んっ!」
フラット教官が僕の真似をして、左右からの高速連続攻撃をしてきた。
僕はハンマーの根本を持ったまま、柄の方で軽快に弾く。
しかし、フラット教官の六回目の攻撃は体重を乗せた重たい一撃だった。
真似をすると見せかけて、最後で変化させてきた。
良い戦法だけど、ハンマーの重り部分で受け止め、そのまま、重りを支点に回転させた柄は、フラット教官の股間に吸い込まれた。
「はうっ!?」
フラット教官は撃沈した。
ごめんねぇ、攻防一致での攻撃場所はそこしかなかったのよ。
三戦目は、華麗に逃げ回るフラット教官の軸足にハンマーを突き落として終了。
四戦目は、柄の部分、重りの部分を交互に使い分けフラット教官を追い詰めて終了。
五戦目は、持久戦に持ち込み、フラット教官の肉体強化魔法が切れた瞬間を狙い、たたみ込んで終了。
フラット教官は、ここで心が折れました。
「化け物だ、化け物は化け物同士でやってくれ……もうイヤ……」
こうして、僕も『化け物認定』されました。
「ランディ、明日が楽しみだなっ」
リッツ教官が少女漫画の瞳の様にキラキラしていました。
いや、そこまで楽しくないけど……。
どちらかって言ったら、地下迷宮で魔物倒して、報酬貰って、飲んだり食べたりするのが好きなんですが……一緒にしないで下さいね。
答えは『八武祭』公式の武器、中型ハンマーでした。
威力は有るけど、攻撃速度が遅くなるため、チームプレーで避けずらくしてから、攻撃を仕掛ける設定でした。
いろいろ意見があるかと思いますが、こんな結果です。
次回、リッツ教官のバトルはすっ飛ばして、八武祭に向けて動きます。




