【34話】マキナスとハベンスキー
◇学院長室◇
ここには、神妙な表情のハベンスキー学院長と、高価な玩具を貰う直前の顔をした、マキナス・ルードマイヤがいた。
彼らは、ランディとダナムの決闘の後、ランディを呼び出して待っていたのだ。
「ハベンスキーよ、ランディが武器を投げる直前、反応がおかしかったな……どうした?」
マキナスが、学院長を『ハベンスキー』と呼ぶ時は極めて真面目な時である。
普段のマキナスは『ハゲスキー』と呼ぶのだから。
「黙っておこうかと思ったが、無理だったか……あの時、ランディのレベルがまた上がったんじゃ……」
「ほう……」
「レベルは35まで上がっていた……あり得ないレベルじゃ」
「なるほど……測定器が来た時に、一年の戦闘教官主任で計ったんじゃろ? 教えろ」
「分かった……主任教官トロン・ハインツのレベルは24だ、肉体強化で27・30・33・36・39までレベルが上昇する」
「それで、ランディよりレベルが高くなるではないか……何があり得ん?」
「色々じゃ! まずトロン・ハインツは戦闘教官で序列六位だぞ? ランディより勝っていて当たり前じゃないか……それにマキナスは判別器を知らないから解らぬかもしれないが、私が研修に行ったときは、例外なく肉体強化魔法の上昇するレベルの単位は『3』だった……」
そこで、やっとマキナスも気づいた。
「ランディは、レベル12から24に……そして35に上がったんだな? 肉体強化魔法では無い可能性があるの……しかし、その測定は間違いないのか? 不思議な事じゃ…………しかしなぁハベンスキーよ、あいつの親父から聞いた時は、ギフト無しで、回復魔法の魔力総量は12と聞いたんじゃがのう……」
「マキナスよ、それは間違いなく判別器の故障だ……あの実力で、それはあり得ん。だから呼んだのだろ? 」
「そうじゃったな……判別器の魔力充填は大丈夫なんじゃろうな? 」
マキナスは判別器の、使用方法も知らない。
いや、覚えようとしない。
「丸一日、太陽の魔力を充填したから、二人分はイケるぞ」
コンコン、
「ランディ・ダーナス入ります」
……
…………
ランディは、判別器の測定結果待ちだった。
『ハゲジィ』『マキナスジジィ』とつい言ってしまうランディを睨みながら、判別器の結果を首を長くしてまっている。
「ねぇ、ハ……学院長まだ? 僕にも結果を教えて下さいね。 魔力総量何処まで上がったか楽しみなんだ」
どうやらランディも測定結果を楽しみに待っているようだ。
……
…………
測定結果を、ハベンスキー学院長と、マキナスは見ている。
彼らの顔は心なしか青白く、目が見開いていた。
その測定結果はこうだった。
※ギフト 暗黒女神の愛
※魔法の種別 回復系
※魔力総量 3801
この、測定結果にハベンスキーとマキナスは、盛大に頭の中で突っ込みを入れていた。
(なんじゃぁぁぁぁ!? 『暗黒女神の愛』ってなんじゃぁぁぁぁ!!)
(回復系だけかいっ!? それで何でレベルが上昇する!!)
(ぶっ、魔力総量3800って、歴史上『魔神の愛』のギフト持ちでも、2000~3000だぞ!?)
「ねぇジジィ・ハゲジィまだぁ?」
ランディの暴言すら、耳に入らない二人。
(この世界に三神以外の神がいるのか? いや……噂では『冥王』『幽王』『幻王』ギフトがあると聞いたが、おとぎ話のはずじゃ……まさかそれの事か?)
(回復系であの戦闘力、鍛えて鍛えて鍛えて『八武祭』にぶち込む!!)
(魔力総量3800…………今すぐにでも、戦地にぶち込める……いや待て、もっともっと育ててから……)
「あのぅ……僕の話をぉ…………」
「「待て! 作戦会議中じゃ!」」
「一言もしゃべってないよね?」
ランディは、待っていることにした。
(暗黒女神……いったい何の力を、増加しているのか? 『竜神』は力……『魔神』は魔力総量……『人神』は反射速度……なら『暗黒女神』は口の悪さか? 辻褄は合うが、まさかまさか……ならワシの事をジジィと言うのも納得が……)
(二年後まで待てない……何故『八武祭』は三年からなんじゃ……即戦力がここにいるんだぞ!)
(魔力総量を上げる秘訣があるはずじゃ……聞き出すぞ? 聞き出すぞ!!)
「ねえ、妖精さん……僕とお話しない? 暇なんだ」
ランディは、壁に向かって話しかけている。
……
…………
ハベンスキーとマキナスは、ランディの魔力総量だけ正確に伝えて、帰ってもらった。
ランディは『よし! よしっ! 僕の時代到来!』と喜んで帰っていった。
「さて、ハベンスキーよ……お互い言いたい事は山ほどあるじゃろうが、ここで話す事ではないの……」
「解っている……それよりそこから見て、どうだ? 彼の……ランディ・ダーナスの素質は?」
すると、壁の一部がスライドして、隠し部屋が出現した。
この部屋には、護衛の傭兵や騎士を待機させられる隠し部屋が二ヶ所ほど設置されているのだ。
隠し部屋の中から、強者の雰囲気を纏った教官が一人出てきた。
「壁越しに覗いてるだけじゃ分かりませんよ? ハベンスキー学院長……ただ……」
「ただ、なんだ?」
「私の存在は気づかれていたみたいですよ……」
「ほう……『隠影のドルガンディ』でも、悟られたと」
「ハゲスキーよ、こやつは誰じゃ? 見た事はあるから、教官なのは判るが……」
「ああ、四年の主任教官で、ドルガンディだ……女子の着替えを覗かせたら、右に出るものはいないほどの隠蔽術の持ち主だ……」
ウエストコート高等学院では、戦闘を教える教官が各学年に三人いて、それをまとめる教官一人の合計十六人構成で、彼はその序列三位の教官だった。
彼は『人神の加護』を持つギフト持ちだが、少年時代に訓練をサボったため、あまり出世せず高等学院の教官におさまった。
「でね学院長、あれであの子供はどうだって言われても、なんにも分かりませんって……ただ……」
「ただ……なんじゃ?」
「私の方を見て『妖精さん』と言われた時は声を出すところでした」
「いくらなんでも……偶然じゃろ?」
「だったらいいんですけどねぇ……ただ珍しいのは間違いないですから、もしかしたら、リッツさんがやる気を出すとか……まあないか……」
「居眠り教官、スクット・リッツか……」
「なあ、ハゲスキーよ、やる気のないオーラだしてるこいつと言い『居眠り教官』とか、まともな人材はおらんのか? 」
「いたら、禿げてませんよ、マキナス先輩」
ハベンスキーは、わざと昔の呼び方をつかった。
禿げた原因の一つには先輩もあるんですからね、と言わんばかりだった。
「ところで、その男はどうして呼んだんじゃ?」
「いや、ランディの隠れた実力を、隠れて見たら分かるかな……と思っての」
「分かるわけないじゃないですか……学院長……」
「はぁ、バカばっかりだのう……『八武祭』が連続八位なのも解るわ……」
5月24日
八話『ランディ覚醒』の冒頭部分を大幅修正しました。




