【166話】電撃
ナパの町を取り囲む様に張り巡らされた有刺鉄線。
その後ろを、天然の樹木が目隠しをして、足りない部分は土手が形成されている。
よくぞここまでの短期間で完成出来た。
お陰で、未だに怪我人のみで戦の3日目を迎えている。
僕は指示を出す側になり、前線には出れない。
時折やって来る別動隊は、王宮騎士のジョウシン、ドリアさんの側近ドロワット、ゴーシュ、弟子のペンダゴン率いる精鋭部隊が、完封勝利を毎回、収めている。
今現在、有刺鉄線の前で魔法合戦が繰り広げられいる。
苛烈と言えるほどの火球の雨。
だが、うちの部隊はなんとか防いでいる。
飛ばす生活魔法使いたちの、キャンセル魔法だ。
魔法使いの兵力差を、生活魔法使いたちで補う。
それでも、圧倒的物量作戦には敵わない。
だけど地下遺跡のマミーからドロップする『布』で作られたローブは、火耐性がある。
お陰で致命傷にならずに、僕のところまで運ばれる。
「第2レベル呪文……ライトヒールサークル」
負傷兵が一瞬で全快する。
「魔力切れの者は、そのまま飯食って寝ろ。残ってる者は、おやつを食べた後、次に出陣する部隊に参加!」
「はい!」
「はい!」
よく動いている。
圧倒的多数を前に、気持ちが負けていない。
中には『ライトグラム様がいれば負けはしない!』と叫んでる奴もいる。
ベルデタルの剣士以外でだ。
1回の回復呪文で、40人をまとめて治したのが、不味かったのか?
魔法合戦も2日目で、開戦から4日目を迎えた。
敵がバカでなければ、そろそろ戦法を変えてくるはずだ。
……
…………
やはり、昼過ぎには攻撃魔法の雨は止み、大軍が一斉に押し寄せてきた。
指示通りファイヤーボールで迎撃するけど、今度は相手のキャンセル魔法で防がれた。
大軍の中には、金属製の階段を運んでいる兵もいる。
有刺鉄線の情報を与えただけあって、きっちり対応して来ている。
チラリと斜め後ろを見る。
ハンマーを持った1人の男と目が合い、頷く。
彼は、僕の合図で低く大きな音を鳴らす鐘の前にいる。
アカシア兵が有刺鉄線をよじ登り始めた。
「今だ!」
「はいっ、はぁぁっ!!」
『ゴーーン!』
鐘の音と共に、有刺鉄線が煌めくように光る。
その瞬間、有刺鉄線に触れていたアカシア兵は、倒れて動かなくなった。
有刺鉄線の端末には、大きな金属の的があり、電撃魔法使いがそこにいる。
攻撃が大成功だと、一報を貰った皆が歓声を上げて喜ぶ。
「未だだ、もう一度来るぞ。…………今だ」
「はいっ、どりゃぁ!!」
『ゴーーン!』
鐘の鳴る音の合図で、攻撃魔法が放たれる。
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
有刺鉄線に電撃が伝わり、アカシア軍がまとめて感電する。
攻撃魔法は威力を上げると、消費魔力が上がる仕組みになっているけど、射程距離を伸ばす方が魔力の消費が激しい。
だけど、この電撃魔法は近くにある的に当てるだけなので、敵がつかっているファイヤーボールの4分の1程度の魔力で、殺傷能力の高い攻撃魔法が放てる。
お陰で、まだまだ余力を残している。
この日、もう一度ファイヤーボールの攻撃魔法が襲って来たが、有刺鉄線だけはキャンセル魔法で守りきった。
そして、アカシア軍は少し下がったところで、動かなくなった。
「うおおおおお!!」
「敵が退いた!?」
「さすがランディ電撃隊だ!」
恥ずかしいから、その呼び方は止めて。
「ランディ電撃隊!」「ランディ電撃隊!」
「ランディ電撃隊!」「ランディ電撃隊!」
「ランディ電撃隊!」「ランディ電撃隊!」
「使徒様が神に……」「ランディ電撃隊!」
僕の思いは、叶えられなかった。
せめて『ランディ』だけは省いて欲しかった。
まだ敵兵力の半分も削ってないのに、勝ったような喜び方をしている。
やっぱりあの兵力を見て、心の中では勝つ事は諦めていたんだろうな。
だけど、命懸けで突撃されたら、有刺鉄線だけじゃ守りきれないんだよな。
援軍は未だかな。
◇
◆
◇
アカシア王国エスパル強襲軍の司令官は、頭を抱えていた。
抵抗はある程度予想出来ていたのだが、予想以上の抵抗どころか、考えてもいなかった被害を受けていた。
「我が軍の被害は?」
「はっ! あ、あの……い、1万を超えました」
司令官は、攻める不利な状況を踏まえても、被害は1000人を超えないと思っていたのに、結果は散々な物だった。
「敵の被害は?」
「わ、我々と同じく死体の回収をしている様子なので、戦闘不能者をあわせて800人くらいかと予想出来ます」
しかし、ランディ軍の被害は、死者は0人で、重傷者は全て、魔法または呪文の治療で戦えない者はダナムとテスターの2名だけだった。
「まて、敵の兵数は800人を満たないだろうと言ってなかったか?」
「はい……それが、どう少なく見積もっても、3千の兵力は無いと辻褄が合いません」
「それでは、エスパルの総人口ではないか! 先の密偵は間違った情報を掴まされたか……」
「はい。もしくはタカカッタ平原に向かうはずだった兵の一部がここに……」
「しかし、そのような動きがあったなどと聞いてはいない。いや、そんな事より明日からどう攻めるか……」
司令官が再び頭を抱えた時、配下の1人が、大きな声を出して飛び込んで来た。
「司令! あの方が、あの方が来られました!」
「なんと、もうか」
直後に入ってきたのは、軍服に飾りを多数散りばめた初老の男性だった。
彼の役職は『アカシア方面攻略軍司令官』で、この瞬間『エスパル強襲軍司令官』は『アカシア方面攻略軍副司令官』と役職が変わった。
これにより、1万3千を切ったエスパル強襲軍は、アカシア軍方面攻略軍に吸収されて、3万8千の大軍隊に変化した。
◇
◆
◇
翌朝、ずっと晴天だったのに、今日は厚い雲に覆われている。
普段は朝から戦争が始まるのに、今日はまだ攻めてこない。
このまま、大人しく撤退してくれれば良いな、と思っていたら、昼過ぎに大きな動きがあった。
大きな丸太を武器として、突っ込んで来た。
くっ、午前中は木を切って、丸太を作っていたのか。
いや、それよりも地響きが尋常じゃない。
何がどうなったんだ?
「第7レベル呪文……エアリアルサーバント」
見つかる覚悟で精霊を出現させたけど、敵の大侵攻のお陰で、気付かれなかった。
精霊を上空に飛ばして全体の様子を見る。
兵の数が多い、多すぎる。
樹木の影で見えない分を計算に入れても3万以上兵力が動員されている。
こちらも1万近い兵を倒しすぎた。
こちらの戦闘要員は、無惨に殺されるだろう。
「最後の命令だ、逃げるもよし! 戦うもよし! 全力をもって思い残す事のないように動け!!」
これを聞いたみんなも、死を覚悟した事だろう。
有刺鉄線で作った柵が、丸太によって破壊される。
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
柵は壊されても、有刺鉄線は切れてないため、敵がバタバタと倒れる。
しかし、一部は電撃を耐え抜いて、侵入してきた。
有刺鉄線が地面に大きく接触した事で、威力が減衰している。
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
「ライトニング!」「ライトニング!」
電撃隊も頑張っている。
でも、魔力切れが先か、押し寄せた兵に飲まれるのが先かだろう。
あと、2時間もあれば、こちらは全滅するだろう。
ならば、僕も一戦士として、アカシア軍にエスパルを攻めた事を苦い思い出として、刻み込んでやろう。
だけど、体が動かない。
何でだ?
気づくと、僕の足は力が抜けていて、膝で立っている状態だった。
いつの間に、僕の心は弱くなったのだろう。
気持ちが、戦うつもりでも、体が敗北を認めている。
こうしてる間にも、僕の仲間が敵に飲み込まれて行く。
足だけでなく、全身の力が抜けて、手に持っていた武器を落としたその時、一部が広範囲で光った。
光った部分は、アカシア兵の密集している場所。
そこは、電撃魔法のライトニングとは比べ物にならない威力があったのか、違いが容易に判るくらい、電熱で焦げていた。
「こ、これは、チェインライトニング!?」
マジックユーザーの第5レベル呪文のチェインライトニング。
しかし、威力が高すぎる。
お笑い吸血鬼バハムアークとは比べ物にならない程の高レベルの、マジックユーザーだ。
そして、10秒もしないうちにアカシア軍に、さらなる電撃が降り注いだ。
繋いだ鎖の様に広がる『チェインライトニング』と違い、落雷と昇雷が一画を襲った。
そこには、全滅せずに無事なアカシアの兵士が数名、キョロキョロと辺りを見回している。
これは、第8レベル呪文の『天地轟雷』
このオリジナル呪文を使えるマジックユーザーは僕の知り合いでも、3人しかいない。
いや『天地系』の攻撃呪文を使えるのは、僕が知る人だけなんだ
僕は術者を探すため。全身を研ぎ澄まし、上空を見つめた。
ついに、戦争編終結か?(マテ)




