【141話】闇の公園(エスクリダオ・パルキ)浄化
思いの外、柩の数が多く、バハムアークの完全消滅に手こずっている。
しかし、吸血鬼の特性上、1度破壊した後は割りと無力だ。
棺から動けない吸血鬼の残された手段は、魔眼によるチャームだけど、僕くらいになると、ほとんど効かない。
今では毎回、真剣に命乞いする始末のバハムアーク。
気が変わらない内に、滅ぼしたいな。
「まて、本当に待ってくれ、我は食事をしていただけなんだ。人間だって生き物くらいは食べるだろ? 創造主の封印のせいで、飢えていたんだ」
そう言われると納得してしまう。
これは、融合前のランデイヤの深層意識のせいだろうか。
「そうだな……ランディとしては、そう言われると問題ないかな」
「ほんとか」
(た、助かった、これが最後の柩なのは、創造主の話で解っている。本当に助かった)
「だけどね、ユタの民をたくさん殺したのは、領主であるライトグラム伯爵としては、許せない。しかもやり方が卑怯だから、やっぱりランディとしても許さない」
「そんな屁理屈あるかぁ! それに毎回、魔眼のチャームパーソンを仕掛けているのになぜ効かない?」
「いや、チャームはちょっと効いてるぞ。ジックリと、ねぶるように殺そうと思ってるのに、楽に殺しちゃおっかなぁって、思ったりするし。あっ、そうだ。冥土の土産に、ためになる話をしてあげよう。お前の創造主の事は知らんが、僕を怒らせたリッチ『ディアブロス』は、もう存在していない。その意味は冥土で考えてみな。第6レベル呪文……レイズデッドLVⅡ」
「ま、まさか、我はとんでもない、化け物に喧嘩を売ったのかぁぁぁぁぁぁ…………」
いつもは塵となって消えていたバハムアークだけど、今回は違った。
塵の一つ一つが、輝きだして渦を巻く。
そして、渦が1つになった時、爆発するかの様に膨張して、消えていった。
その瞬間、いくつもの映像が頭の中を通りすぎて行った。
バハムアークの創造主ゾルディアークが、嫌がらせで、創作吸血鬼を置いて行った事。
地下城の誤動作で、アンデッドモンスターが溢れだし、バハムアークの意識が戻った事。
バハムアークの復活には、強者または若者の血液を大地に吸わせる必要があり、途中まで造られていたキメラ、カマドーマを血液採集に使った事。
当時、人口の多かったナパの町は、アンデッドモンスターが徘徊していたせいで、一足先に滅んだ事。
そのせいで、標的がユタの町になり、東西を仲違いさせ、それに納得のいかない若者を、時間をかけて殺して、バハムアークの復活をしようとしていた事。
そんな、記録的映像が頭の中をよぎった。
こんな消滅の仕方は初めて見たな。
念のため『人物捜索』をもう一度使ったが、バハムアークの反応は、なかった。
「終わったかな。とりあえず帰りますか。7日くらい費やしてしまったから、心配されるだろうな」
この場から直接外に出るため、出口を探した。
外に出ると、物凄い景色が僕の視界に入った。
「こ、これは!?」
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ユタの町は、全体が通夜のように静まり返っていた。
トウドウ、サイドウ、トウセン、サイセンの4人を逃がしたランディは、7日経過しても戻らなかったからだ。
最初は『あの化け物が死ぬはずがない。おおかた迷子になっているのだろう』と、待っていたのだが、日を追う毎に、楽観した考えが消え、負の感情は町中に伝染していった。
そんな時、ランディの両親率いる大部隊が、ユタの町に到着した。
それだけでなく、砦にいたナパの町の子孫が数名、混じっていた。
それは、ランディがたった2日で100年以上続いたユタの町を2分した、いざこざを解決したと聞いて、確認しに同行していたのだった。
トウドウ、サイドウたちは、事情を説明するのだったが、ほとんどの者がランディが死んだと信じておらず、閉じ込められたか、迷子になったかのどちらかだと、真剣に取り合ってくれなかった。
ただ、ランディを迎えに行くと、多くの人間たちが動きだし、100名近い捜索隊が編成された。
捜索隊が魔の森北側に入り、最初のグールと遭遇した時、事が起こった。
旧ナパの町がある北方から、巨大な光の柱が出現した。
その光の柱は、どんどん光度を上げ、遠くからでも直視出来ないくらい輝いた瞬間、柱は弾け消えていった。
その、衝撃は『魔の大森林』全体を包み込み、薄暗く瘴気すら漂っていた森の空気を一変させた。
先程まで居たはずのグールは、姿形さえなく、今まで北側で見ることがなかった、小鳥の姿を確認する事が出来た。
「お、お、おおおおお……」
「この情景は、じいさんの、それまたじいさんの、さらにじいさんから伝え聞いていた、ナパの平和な森じゃないのか!?」
「神だ、神様が降臨なさったのか!?」
ナパの町の子孫は、手を合わせ、膝を地に付け、涙を流しながら、感謝の意を表していた。
「こんなあり得ない現象の裏側にいる人物、俺様は1人しか思い浮かばない」
「ダナム殿、その考えは正しいと思う。ドリア殿から聞いたあの方の活躍は、人のそれを超えている」
ランディ捜索隊に、参加していたダナムとペンタゴンが、異変の犯人を断定していた。
「これは……まさか、使徒様がついに神となったか!」
「そうだ! ランディ様だ、ランディ神様の誕生かも知れない!」
「だとしたら、早くその御尊顔を拝まなくては!」
暴走したベルデタルの剣士たちは、後に本人からきついお仕置きを受ける事になった。
そして、北西部の洞窟から進路を変え、ナパの町があった場所に向かった。
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◇
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スゲー、スゲーよ。
この無人の町が、綺麗な状態のまま僕の視界に写っていた。
たぶん、たぶんだけど『ゾルディアーク』のスイッチングマジックだと思う。
状態復帰又は、状態回帰の高度な呪文を使ったと見た。
広々とした町に、聳え立つ中央の建物。
なんか、気合い入れて造った学校みたいだ。
その、周囲には2階建てや3階建ての建物が沢山、規則的に並んでいる。
方向感覚から判断するに、ここが150年前に滅んだ町『ナパ』だろう。
じっくり見学するのは、後回しにして先ずは、ユタに帰らなければ。
ナパを真っ直ぐ南下すればユタの町に着くなら、ここは北側のアンデッドモンスターが、徘徊する森のはずなんだが、なんだこの心地よさは。
まるで、新築の森林公園を思わせる、爽やかな雰囲気だ。
ゾルディアークの奴、廃棄物を浄化することで、大森林全体を浄化する呪文を組み上げていたようだ。
しばらく歩いていると、前方から物凄い人数の気配がしてきた。
ユタの町にも、異変が判ったのかも知れない。
前方の集団は、ダナムやベルデタルの剣士、ナパの人々と100人近い、大人数だった。
「領主様!? 領主様だ!!」
「じゃあ、この森の異変はやはり」
「なっ、言ったろ? ペンタゴン」
「衣服が汚れているだけで、疲れた様子が感じ取れない。さすがはランディ殿」
「ライトグラム様の嘘つき……1年でナパを取り戻すって言ってたのに、10日と少ししか経ってないじゃんか」
「きっと、わし等のために、不眠不休で頑張ってくれたに違いない。おぉランディ様」
「ベルデタルの神ランディ!」
「やはり、使徒から神へ!?」
「ゴッドランディ、ゴッドランディばんざぁい!!」
事情が飲み込めないけど、顔見知りのベルデタルの剣士は殴っておこう。
……
…………
何とか、騒がしい奴等を黙らせて、無事にユタの町に到着した。
色々ともみくちゃに、されたけど。
なんとか切り抜けて、今度はナパの町解放記念で、宴会を開く事にした。
いやがる、トウセンとサイセン、ダナム、ペンタゴン、ベルデタルの剣士、ロイエン、セナリースを引き連れ、肉を調達しに、南側の大森林に突入した。
5匹くらい倒した辺りで、確信した事がある。
ニクガクルガ、ミートスタンプ、リビドーモンキーまでもが、以前戦った個体より弱くなっていたのだ。
「猛獣が弱くなってる!?」
「これなら、俺やトウセンでも、単独で倒せそうだ」
「確かに、弱くなった」
「ダナム殿、クラッシャージョー以外なら、楽勝ですな」
「なんだ、聞いていた情報より弱かったなセナリース」
「旦那、俺と2人がかりでなら怪我をしなくてすみそうだな」
トウセン、サイセン、ダナム、ペンタゴン、ロイエン、セナリースの順に食材を捕らえた感想を述べている。
これなら、回復役がいれば、僕がわざわざ参加しなくても大丈夫そうだ。
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宴会も無事に終わって、数日が過ぎ、この地方を治める方針が決まった。
先ずは、僕の呼び方。
『伯爵』『領主』『ランディ』『ライトグラム』『使徒』と様々だから、解りやすく無理矢理統一させた。
ユタの民は『領主』に。
ナパの民は『伯爵』に。
ベルデタルの剣士は『使徒』に。
他の一部はライトグラムに、親しくなってきた人はランディと呼ばせる事にした。
ベルデタルの剣士にも、ライトグラムでごり押ししようとしたけど、僕が根負けして『使徒』のままになった。
そして僕の住居。
ナパとユタ、両方に僕の拠点を構える事にした。
今は、ユタよりに居座るとして、ある程度落ち着いたら、ナパの学校みたいな建物を拠点とするつもりだ。
続いて、生活面。
南側の砦に居たナパの子孫たちは、大半がナパに移住する事か決定した。
ごく1部は、ユタの町に住み込む事になりそうだが、ユタの町は狭くゆったりと暮らすには人口が2000人程度に収めなくてならない。
まあ、開拓すればもっと暮らせるんだけど。
ナパの町は、出来上がっている施設だけでも1万人の人間が暮らせそうだったから。
移民のほとんどは、ナパに住んでもらう予定だ。
あと、エスパル南端の砦には、物資の供給窓口として、改築しなければいけないな。
そこは、あの3人組に任せよう。
僕はこれから、ユタの民800人、ナパの民1000人、ベルデタルの剣士100人、その他100人。
計2000人で、エスパル発展計画を実行するのだった。
キンジ「結局バハムアークって、もの凄く強いのに、性格が小者だったんすね。おれとは違うなぁ。次回から数話ほど内政の話になります」




